東宝とチケットぴあの座席ごとのダイナミックプライシング実験
「ミス・サイゴン」のチケット売行きがどんなものか、下調べのつもりで覗いてみたのですが、キャストの出ている日はほとんど売切れていました。ミュージカルに疎い自分としては、人気の演目に人気者を呼んでいるのだなと感心していたところ、面白い発売を見つけました。ダイナミックプライシングです。結構気合が入っています。どのくらい気合が入っているかというとこのくらいです。
・2026年で11月7日(土)13時と11月13日(金)13時の2日分を充てている。これは期末期初および年末のノイズを避けて、近い日程で週末と平日の差を調べようとしている模様。ちなみにどちらも昼公演で揃えているところもその一環のはず。あとはキャストとスタッフが安定してきた公演半ばということもあるかもしれない。
・両公演ともぴあ貸切公演。協力しているチケットぴあに恩恵を渡しつつ、チケット販売経路が複数になることによるノイズを減らしている。
・何度も上演して定評ある演目を選んでいる。そもそも満席の見込めない公演では値下げはあっても値上げはできないし、初公演か再演かで客足も変わるので、それを避けている。
・メインキャストがまったく同じになっている。ここは主催側が調整した何よりの証拠で、一番気合の見えるところ。
で、これだけ揃えて何を実験しているのかと言えば、座席の人気です。以前ハリー・ポッター公演について「座席と上演時間帯によるチケット代の値段差の実例」というエントリーを書きましたが、この時で7区分でした。それが今回は3倍以上、驚きの25区分です。通常日程だとS席、A席、B席の3区分だけで、かつS席は1階と2階すべて、3階の正面後ろ2列がB席、3階の残りがサイド含めてA席という大雑把な分け方なので、それと比べたらものすごく細かいです。
ちなみに席種は、ブロックA、B、C、D、E、F上手、F下手、G上手、G下手、H上手、H下手、I上手、I下手、J、K、L上手、L下手、M上手、M下手、N、O、P上手、P下手、Q上手、Q下手です。ややこしい。
どのブロックがどの座席かというのが書かれたサイトが見つからないのですが、大雑把にAからIまでが1階、JからMまでが2階、N以降が3階みたいです。アルファベットの早い方が舞台寄りです。上手下手表記のないAからEとJ、K、N、Oが中央で、これがセンターブロックを含むのはたしかなのですが、両サイドの中央寄りの席も含んでいる模様です。あと、1階中央通路は無視されています。それで部隊最前列中央を中心に同心円とまでは言いませんが、上手下手境界はやや斜めに境目が設けられているらしく、同じアルファベットの上手下手ならおそらく左右対称です。
会場の東急シアターオーブで数回観劇経験のある観客として、わかる範囲でざっと確かめた印象では、1階後方や2、3階サイドの区分にやや雑なところが見受けられるものの、おおよそ納得のいく境界線が引かれている気配です。通路を挟んで安くなるならそっちがお得、みたいな席はなさそうです。お前らやっぱり主催者なだけあって詳しいよなと突っ込みたくなります。それでも実験するのは何故かというと、繰返しになりますが、価格ですね。
舞台との距離なり、見え方なりについて、どの席がどのくらい良席なのかは主催者側も把握している。人気の公演に人気者を起用した場合、熱烈なファンは非正規の経路で定価以上の大枚を払ってでも観ようとすることも、転売撲滅に力を入れる主催者として知っている。物価の値上がりの著しい昨今、それならいっそ初めから公式で値上げして販売したい。だけど全席をやみくもに値上げしてしまうと今現在のファンだけを相手にした商売になってしまい、将来の観客が育たない。だから座席を細かく区切って、座席ごとの「価値」を探り、今の大雑把な座席区分をもっと精緻に組めるようにしたい。固定価格にすると値段を外したときに売れないし、実際にはいくらなら売れたのかまでわからないからダイナミックプライシングで探りたい。言葉にすればこんな狙いではないかと推察します。
あとはチケットぴあ側も、おそらく今後増えていくであろうダイナミックプライシングの運用経験を積めるでしょう。それと、少なくとも今はチケットの値段に関わらず固定手数料なので、売れ残って戻すよりは値下げしてでも売れてくれる方がありがたいはずです。そういう運用ができれば、主催者側から販売先として選んでもらうための武器にもなるでしょうし。
なおどの座席がいくらかまでは面倒なので書きません。ただし、S席、A席、B席が、通常公演平日だと18000円、12000円、6000円、土日祝日千秋楽が1000円上乗せであるのに対し、2か月前の現在だとほとんどの座席がそれよりも高い、安くても数百円で設定されているとはメモしておきます。
他に若干のメモを残すと、残席で現在一番高い席が土曜昼のブロックBで58000円、通常日程の定価の3倍です。ブロックAがこれよりも安い31400円で売切れているので、出だしの値段設定を間違えて値上げする間もなく売切れて、慌てて残ったブロックBを値上げしたのかもしれません。金曜昼の公演はブロックAが32200円で売切れて、ブロックBは27700円で二重丸に対して、ブロックCが31200円で三角です。あと両日とも(他の日程もそうですが)3階席は売行き好調です。
ここまでの結果だけなら、高い金を払ってでもかぶり付きのブロックAで観たい観客は曜日を問わず一定数いる、その手の観客は土日祝日の方が多い、ただし若干引いて全景を見られるブロックCの方を好む客も確実にいてそれは平日の方が多い、あと安い料金を真っ先に選ぶ客も確実にいる、そんな感じでしょうか。
一観客である自分の立場を述べるならば、ダイナミックプライシングが導入されると、前売でチケットが買いづらくなります。定価スタートで値下がり限定で導入されるならまだしも、値上がりもあるのがダイナミックプライシングなので、迷いに迷うことは確実です。
ただし売る側の悩みもわからないわけではなく、つい最近、売行きの悪さにおまけ付きなのに大割引したチケットを売出した事例を見かけたばかりです。自分は買っていない公演だったので無傷で済みましたが、あそこまで初期前売購入客を馬鹿にするような値引きをばらまくくらいなら、ダイナミックプライシングで売られていたほうがまだ納得いったとも思います。
そういう悩みはダイナミックプライシングが主流になった時点でまた考えますが、この実験の結果は今後の公演でも参考にされるはずなので、商業芝居をよく観る人は将来影響あるかもしれませんね。
