2026年7月
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2026年7月12日 (日)

世田谷シルク「野火」サンモールスタジオ

<2026年7月11日(土)夜>

太平洋戦争末期のレイテ島、肺病が再発した主人公は野戦病院に送られる。食糧不足の折、なんとか病院に止まろうとするものの、アメリカ軍の空襲で病院がやられて辛くも逃れる。畑を見つけて一休みしたものの、現地の村に忍び込んだところで教会にやって来た住人を殺してしまい、また逃げる。山奥で日本兵と合流し、港に日本軍の船が迎えに来て別の場所で合流する指令を聞かされた主人公は皆と一緒に港を目指すが、アメリカ軍に阻まれて1人また山奥に逃げる。食糧のないまま彷徨う主人公が生延びるために残された手段は亡くなった日本兵の肉を喰らうことだが・・・。

大岡昇平の同名原作を1人芝居化も原作未見。脚本も演出も役者も真摯にやっていたことは疑いもないが、だからこそ原作が持つ深いところにまったく届いていないことが伝わる。固いものに跳ね返されるのではなく、霧の中で手足を動かしても何にも当たらないような掴めていないような印象。兵士として出かけた人もほぼ亡くなったであろう太平洋戦争、人肉食が最後の選択肢となるほどの飢え、そして日本人には馴染みの薄いキリスト教、いずれも今の日本では遠い。未見と言えど原作そのまますぎる印象だったので、観る側を巻き込んでいく工夫、ひいては創る側が原作を引き寄せる工夫がほしかった。

「人間らしい」の反対語が、現代だと「機械みたい」だが、一昔前は「動物みたい」だった、という文章を見かけたことがある。そういう「獣性」と、神の「神性」との対話を描くのは、野蛮な何かがないと届かないのだろうと考えさせてくれた1本。

松竹主催「御浜御殿綱豊卿」歌舞伎座(Aプロ)

<2026年7月11日(土)昼>

浅野内匠頭が吉良上野介に切りかかり切腹してから1年後。将軍の甥である徳川綱豊の屋敷では無礼講で奉公人たちが遊ぶ日である。奉公人の1人で綱豊の覚え目出度いお喜世に、兄の富森助右衛門が手紙を届けにやって来る。またそのついでに皆が遊ぶ様子を見て帰りたいと頼む。お喜世は上司にあたる江島に許しを得るが、そこに酔った綱豊がやって来て次第を聞く。今日の月見の客として吉良上野介がやって来ることになっており、助右衛門が赤穂浪人であることも知ってなお、見学を許し、なおかつ酒をふるまって自分の座敷に連れてくるよう江島に命ずる。立場として浅野内匠頭の切腹の沙汰を認めないわけにはいかないものの、浅野家再興はすでに幕府上層部の間でひそかに有力な意見となっていた。だが実は主君に対する忠義が見たいと密かに考える綱豊。恐れ多くも綱豊相手に酒はいただけないと隣の部屋から近寄らない助右衛門を相手に、ならばその敷居をまたがせてみせると、綱豊は赤穂の話を滔々と繰広げる。

通常チケットが手に入らず幕見で見物。酔って喜世に絡む仁左衛門、忠義が見たいと惜しむ仁左衛門、吉良の狸親父に浅野がかなうわけがないと笑う仁左衛門、大石蔵之助の茶屋遊びに欠けるところがあると諭す仁左衛門、激高した助右衛門相手に刀を握って構える仁左衛門、とにかく仁左衛門の芝居だった。中村莟玉お喜世と、孝太郎の江島が脇を固めて安定。助右衛門演じる幸四郎の軽さが恨めしいも、今回は仁左衛門の重厚さを引立てる形と言えなくもない。

元禄忠臣蔵の1幕とは後で調べてわかったこと。背景の説明からすべて台詞のため、仁左衛門だから保たせた芝居。他の役者がやったらどうなるかとは気になるも、Bプロを観に行く余裕が。

2026年7月 6日 (月)

KERA CROSS「シャープさんフラットさん」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA(2回目)

<2026年7月4日(土)夜>

おかわり

役者全員が1回目よりも圧倒的にこなれていて、どの場面も出るべき役者が前に出てバランスよく仕上がっている。細かいところも変えたのか、それともその日の役者に任されている範囲なのかはわからないものの、いくつか増えた手数も場面ごとの仕上がりに効いて、集中して観られる。だからなのか、今回は笑いを突詰めすぎて破局する主人公と、売れないしつまらないけれど才能を無条件に信じる妻がいるコメディアンと、どちらが幸福なのかの対比が観ていて響いた。あとは破局からの自分に責任があることを立続けに気付いていき、それでむしろ救われていく脚本の流れの素晴らしさも改めて味わえた。

柄本時生だけ出だしの回想場面が慣れてダレていたのか「あれっ」という出来だったものの、その分だけ小野晴子や高梨臨と喧嘩する場面や松永玲子と掛合う場面を激しくやって取返していた。周りの全員のチームワークがよいのであとは柄本時生の出来が芝居の仕上がり具合に比例するところまで来ている。あの「どうでもいい、って言ったんだ!」の場面は初演でも大好きだったけど、今回も大好きと呼べる仕上がりなので、大千秋楽まで柄本時生には頑張ってほしい。

2026年7月 1日 (水)

2026年7月8月のメモ

後で追加するかもしれませんが取急ぎ。

・松竹製作「七月大歌舞伎」2026/07/02-07/26@歌舞伎座:午前の部に仁左衛門の出る「御浜御殿綱豊卿」がありますけどダブルキャストのそこだけチケット発売初日に奇麗に売切れていました

・プリエールプロデュース「父よ!」2026/07/03-07/12@吉祥寺シアター:田村孝裕脚本演出にいい役者を集めた父親物その1

・劇団昴ザ・サード・ステージ「ロミオとジュリエット」2026/07/03-07/18@Pit昴:福田恆存の翻訳を田中壮太郎の演出で

・世田谷シルク「野火」2026/07/08-07/12@サンモールスタジオ:大岡昇平の原作を永井秀樹の1人芝居で

・ムシラセ「煙の汽水域」2026/07/11-07/19@小劇場B1:おじさん物を3人芝居で

・イエローヘルメッツ「ハムレット」2026/07/16-07/20@すみだパークシアター倉:前身から長らくシェイクスピアを上演している団体だけどここまで縁がなかったのでピックアップ

・新国立劇場主催「20の物語」2026/07/16-08/02@新国立劇場小劇場、一部劇場内別会場:期間中に短めの物語を20本集めた上演なので日程注意

・ラッパ屋「特別な情熱」2026/07/22-07/28@紀伊國屋ホール:今回はちょっと面白そうな気配が漂っている

・こまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」2026/07/29-08/30@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA:いい女優ばかり6人も集まっているのでピックアップ

・松竹製作「八月納涼歌舞伎」2026/08/02-08/26@歌舞伎座:通しの「牡丹燈籠」にいい役者を集めた第一部、勘九郎幸四郎の「らくだ」に七之助の女盗賊「百千鳥沖津白浪」の第二部、勘九郎七之助に玉三郎で踊りばかりを集めた第三部

・劇団だるめしあん「ラブイデオロギーは突然に〈劇場版〉」2026/08/07-08/11@座・高円寺1:なんとなくですが勘が働いたのでピックアップ

・PARCO PRODUCE「アメリカン・ドリーム」2026/08/15-09/13@PARCO劇場:ハリウッドの赤狩りを題材にした三谷幸喜の新作

・キョードー東京招聘「シカゴ」2026/08/19-08/30@東急シアターオーブ:割と歌って踊るミュージカルだと記憶しています

・東京にこにこちゃん「ピカソぶっ飛ばせなくて、ごめん」2026/08/26-08/30@ザ・スズナリ:父親物その2は脚本演出家の父親の人生の物語

・THE ROB CARLTON「VISITORS」2026/08/27-08/30@渋谷ユーロライブ:チラシの写真で遊ぶのはわかるけれど出演者欄も合せて遊ぶところが、いい

眺めてみると、全体におっさんおばさんを描くような芝居が期せずして集まってしまいました。そういう時期なんでしょうね、日本の人口分布的に。

2026年6月29日 (月)

2026年上半期決算

恒例の決算、上半期分です。

(1)ヨーロッパ企画「インターネ島エクスプローラー」本多劇場

(2)松竹主催「壽初春大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

(3)東宝製作「ピアフ」シアタークリエ

(4)Bunkamura主催企画製作「クワイエットルームにようこそ」THEATER MILANO-ZA

(5)インプレッション製作「チェーホフの奏でる物語」2026/01/23-02/02@東京芸術劇場シアターウエスト

(6)PARCOプロデュース「志の輔らくご in PARCO 2026」PARCO劇場

(7)アイオーン主催「ゴドーを待ちながらを待ちながら」赤坂RED/THEATER

(8)アイオーン主催「ゴドーを待ちながら」赤坂RED/THEATER

(9)トライストーン・エンタテイメント/ディライト・エンタテイメント企画制作「いのこりぐみ」IMM THEATER

(10)新国立劇場演劇研修所演劇研修所「社会の柱」新国立劇場小劇場

(11)新国立劇場オペラストゥディオ「ウィンザーの陽気な女房たち」新国立劇場中劇場

(12)劇団アンパサンド「歩かなくても棒に当たる」東京芸術劇場シアターイースト

(13)ACT.JT主催「第12回 立合狂言会」国立能楽堂

(14)Dialogue!「101分のペリクリーズ」シアター風姿花伝

(15)ホリプロ/東宝企画制作「メリー・ポピンズ」東急シアターオーブ

(16)ケムリ研究室「サボテンの微笑み」シアタートラム

(17)ゴーチ・ブラザーズ主催「ポルノ」本多劇場

(18)野田地図「華氏マイナス320°」東京芸術劇場プレイハウス

(19)KOKAMI@network「トランス」本多劇場

(20)松竹/梅田芸術劇場主催「ハムレット」日生劇場

(21)新国立劇場主催「エンドゲーム」新国立劇場小劇場

(22)エイジポップ/CEDAR主催企画製作「十二人の怒れる男」博品館劇場

(23)関西テレビ放送企画制作「曲がれ! スプーン」IMM THEATER

(24)青年劇場公演「Sの顛末」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

(25)梅田芸術劇場企画制作「BOOP! The MUsical」東急シアターオーブ

(26)KERA CROSS「シャープさんフラットさん」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

(27)ミックスゾーン企画製作「コテンペスト」本多劇場

以上27本、隠し観劇はなし、すべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は 265050円
  • 1本あたりの単価は 9817円
  • チケット購入手数料は 12595円

です。チケット購入手数料は払った芝居と払っていない芝居とが混ざっての上半期通算です。また上半期は映画館での芝居映像見物はありません。観たかったのですが時期が合いませんでした。

1本あたりの単価は1万円をぎりぎり切りましたが、購入手数料を入れれば超えています。昨今の物価高に連動したチケット代の値上がりもありますし、ミュージカルや歌舞伎を観たこともあります。でも最大の理由は、いわゆる小劇場らしい小劇場の芝居発掘を怠った結果だというのが自分なりの分析です。見覚えのある、つまり実績があってベテランの役者や脚本演出家に引張られて芝居を選んだら、それは高い芝居になるだろう、ということです。その補足は後でまた書きます。

ただし高額芝居のチケットを何本か買った経験からすると、上演する側も何とか1万円は切りたいと頑張っているのも伝わってきました。さすがに1万円を超えると熱心なファンかベテラン観劇者ばかりになって、将来の観客が育たないという判断もあるのでしょう。学生向け割引もそれなりに広まっているようです。ただし今回の決算のように、手数料を入れたら1万円を超えるという微妙なラインで頑張っている団体が多いので、これもいつまで持つか危ぶまれます。

それも有名人がそこそこ出演したらさすがに1万円では難しく、一般席は1万2000円から1万3000円、というのが昨今の(元小劇場を含む)商業演劇の相場でした。その分だけミュージカルや歌舞伎は1万8000円前後が相場になりつつあり、このまま行くと来年後半あたりには2万円が珍しくない相場になりそうです。

チケット代の値上がり自体は物価高、ひいては表方裏方まで含めての稼ぎを手当てしないといけないからしょうがないですが、その分だけ観客として脚本演出役者に求めるものも上がってしまうのは許してほしいです。これも後で補足を書きます。

寸評です。笑わせてもらった(1)(12)(27)、歌って踊ってを楽しんだ(4)(15)(25)、古典の力を考えさせられた(6)(10)(11)(14)(21)(22)、近年作の再演もいいものだと楽しめた(19)(26)、新作も気を吐いている(16)(24)です。重なる芝居もありますがとりあえずどこか1つのカテゴリーとします。

これをひと搾りして(8)(12)(14)(15)(16)(21)(22)(24)(25)(26)(27)、さらにもうひと搾りして(12)(14)(24)(26)になります。上半期で一番笑った(12)、上半期で一番健全な熱気に充ちていた(14)、上半期の新作で一番力作として残しておきたい(24)、上半期で個人的に一番染みた(26)、とそれぞれ異なる理由があって選び難いところですが、上半期の1本は(12)とします。あの時期へろへろだった自分をあれだけ笑わせてくれた腕前は認めなくてはいけない。ちなみに(26)はもう一度観ようとした日程が台風で予定が狂い、7月再挑戦を迷っているところです。

この上半期も、演目なり団体なりを「一度は観たい」と「もう一度観ておきたい」がテーマでした。(3)(8)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(17)(19)(21)(22)(26)です。裏テーマの「まだ行ったことのない劇場にも行っておきたい」も(22)でひとつ潰せたのはよかったです。ビルの形状のため客席が変形なのとエレベーター必須っぽい構造とがやや難ですが、あんなところにあの規模の劇場があるとは知りませんでした。

ここから上半期の振返りです。観たい芝居を見逃して、飛びついた芝居がいまいちで、チグハグな半年でした。が、そんな中でも収穫はあります。

まずはベケットの(8)(21)を短い間にまとめて観られたこと。どちらも素直な演出だったおかげで、脚本を見定められました。別に不条理劇というほど不条理劇ではなく、戦争明けで将来への展望が定まらない当時の社会情勢を、少ない登場人物の芝居に仕上げただけです。主張と構成がはっきりしている西洋芝居よりは、むしろ日本の芝居の「見立て」に近いと感じました。だからそういう時代である今、立続けに上演されたのでしょうし、今後も似た時代になれば上演されるでしょう。そこまで見定められたので、ベケットは当分いいです。「一度は観たい」「もう一度観ておきたい」が上手く嵌まったケースです。

次にミュージカル。新しいミュージカルは歌い手(役者)と踊り(ダンサー)が分かれている演出が多いです。その方が個々のパートを磨けますし、不足の事態があったときの代役代案も立てやすいでしょう。ただ自分は、同じ役者が歌って踊るミュージカルが好きなのだと気が付きました。そう言えば劇団四季を気にしたきっかけの「キャッツ」もそういう演目でした。だから(15)や(25)は満足度が高くて、(4)はムービング以上の振付がもっとあったらよかったのになと考えます。

そしてシェイクスピア。今年は何故かシェイクスピアの上演が目白押しで、上半期で観られた範囲だとオペラ化も含めて(11)(14)(20)(27)です。古典と呼ばれる芝居を一度は観ておきたいと思うようになってからもシェイクスピアは別にいいやと考えていたのですが、(14)を観て考えを改めました。やっぱり一度は観ておいたほうがいい。蜷川幸雄がいればシェイクスピアシリーズに付いていけばよかったのですが、吉田鋼太郎に移ってからはホリプロ役者の人気者を遠慮なく引張り出すからチケットが手に入りません。この上半期も「リア王」は観られませんでした。小さい公演まで目を配ってなるべく見落とさないように拾うことを心掛けたいです。

あとは数少ない小劇場で当たりを引いた、寸評でも最後まで残っていた(12)(14)(24)の3本。腕前と、腕前以上の熱意が噛合った芝居は観ていて本当に気持ちがいいです。そして小劇場と呼ぶかは微妙ですが、いい歳のおっさんおばさんたちが馬鹿をやり切った(27)もこのカテゴリーに入れてもいいかもしれません。もちろん熱意だけでは足りなくて、たとえば(10)は古典の厚みと社会を構成する一員としての視点の両方から攻める必要があって、及んでいませんでしたが、及ばないなりに全力を出して歯が立たないのも、それはそれでありだと思います。

再演もののうち、古典ではなく小劇場芝居では(12)(17)(19)(23)(26)が当てはまります。これが出来が千差万別で、脚本演出役者までオリジナルと同じ(12)は今回の1本に選んだくらいの上出来。脚本演出は本人が行なっても役者の異なる(19)は良し悪し半々。脚本のみで演出も役者も(一部を除いて)異なるのが(17)(23)(26)ですが、脚本の完成度がどれだけ高くとも魂を籠め損ねた(23)、脚本だけでなく演出と役者も込みで完成する作品だが未完成に終わった(17)、オリジナルと若干異なるも高い完成度を見た(26)でした。この辺が小劇場脚本の難しいところで、脚本演出役者の全てを気にしないと当たりを引けません。

おおまかに言えば、小劇場芝居は脚本単体での完成度は低いことが多いのだなと気が付きました。脚本に含まれるものを引出すだけでなく、演出と役者で足していく必要のある脚本が多いです。翻訳物だと、芝居の出来がいまいちだった場合に構成の壁に跳ね返されて失敗が見えるようなことがままあって、この上半期だと(10)がそういう1本でした。でも日本の小劇場芝居だとなんとなくぐずぐずになる。個人的に出来に不満があった(17)(23)ですが、(一部パートは堪えつつも)ぐずぐずに崩れた(17)に対し、構成の壁を超えて立ち上げられなかった(23)との違いは、興味深いです。そう考えるとやはり(26)の成功が目立ちます。

芝居の話はここまで。業界的な話題は、この上半期はほとんど追えていません。公演中止の話で気が付いたものを残しましたが、割愛します。

あとは個人の話。

去年の年末から続いた体調不良が、今でこそ回復気味であるものの、年を越して特に前半はアカン状態が続きました。ブログに書く暇ネタが少なかったことと、各芝居の感想がごく短いものになったのはそれが理由です。その割に本数が多いのは、前売券を買うことが増えてきたからです。手元のチケットを出かける理由に使うようなところがありました。そんなだったので長い文章を書くのが面倒で、昔の1行レビュー時代を思い出しながら書いていました。

この体調不良が何を引起したかというと、新しいものへの挑戦活力が弱まって、見覚えのある要素のある芝居に偏ることになりました。芝居見物は個人の趣味なので、別に悪い事ではありません。チケットも高くなるのですが、不遜ながら、金なら払うから楽しませてくれ何とか自分を元気にしてくれと割と考えていました。

ところがと言うべきか、そういう了見で選んだ芝居はどうにもいまいちな物が多くなります。不思議な話なのですが、選び、観る、こちら側の熱意が結果に表れがちです。オカルトですが。

そしてそういうオカルトな因果関係を一人納得する一方で、つまらない芝居への遠慮がやや欠けていました。感想の文章を短くしたため。短いと八方考慮する余裕がないので、面白かったかつまらなかったかをはっきりさせることが必要になります。が、それだけではありません。

値上がりしたチケット代の芝居。それを選んだのは自分ですが、体調がすぐれないところを押して高い芝居を観るからにはそれなりに大きい期待値があるところ、下回る仕上がりの芝居を観てしまうと、がっかりを通り過ぎて腹が立ってしまうこともありました。それが感想の文章に表れてばっさり書いてしまう。所詮素人の感想なのだから文章だけは丁寧に書きたいと願っていたのに。

気付いたのなら直せばいいのですが、体力が落ちているためそれに気付いて止める力が足りない。しばらく後で読返すと、これは老化の初期現象ではないかと考え込んでしまいます。

ただし、です。久しぶりに短い文章で感想を書くのはそれはそれで気分転換になりました。去年まではひたすら感想が長くなっていたので、短い感想にして書きたいことをはっきりさせるのは、かならずしも悪いことではないなとも考えています。なので下半期も感想は短いスタイルで書くことにします。

まとめると、芝居は昔も今も玉石混合ですが、自分の好みをはっきりさせて熱心に探せば、面白い芝居は今のところはまだまだたくさん上演されています。それを掴めるかどうかはやっぱり、時間とお金と運と、何より体力次第です。年間50本ペースでも足りないのですが、それを超えると体力勝負になってくる。そして数を撃たないで楽に当たりばかり引こうとする図々しい了見ではかえって外れを掴むことになる。そこはあらためて思い知らされました。がっつりした料理を味わうために体力が必要なように、がっつりした芝居を味わうためには体調を万全にして臨まないといけません。

引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2026年6月28日 (日)

ミックスゾーン企画製作「コテンペスト」本多劇場

<2026年6月28日(日)昼>

とある地方の百貨店である天平ストアは、賑わう本館とは別にほとんど客の来ない別館があり、ここに異動となることを従業員間では島流しと呼んでいる。その別館になぜかあるバーに通う中年童貞男性は、三十代の魔法使いを通り越して四十代の妖精だったが、五十歳の誕生日を迎えてさらなる境地に至る。それを見込んだ、別館で働くフロア責任者は、自分を島流しにした本館の部長への復讐を果たすべく男性に協力を申込む。

観たことあるはずの演目でも展開をすっかり忘れているが、これはテンペストを叩き台にした東京軽喜劇とでも呼ぶような展開。断じて真面目な展開ではないが、全員テンション200%で押切ったのはお見事。カーテンコール含めて実測2時間なのに2時間半くらいに感じるクドさてんこ盛りには、小劇場から有名人までこれだけ馬鹿のできる役者をよくぞ幅広く集めたと感嘆。良席で観られたためおそらく感想が2割増しくらいだが、この出来なら別作であらためてパロディをやっても真面目なシェイクスピアをやってもどちらでもよいので、次回作をやるなら役者陣がパワフルにできる体力があるうちに企画を。

2026年6月21日 (日)

KERA CROSS「シャープさんフラットさん」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

<2026年6月21日(土)夜>

バブル真っ只中の、東京からやや離れた地方にあるサナトリウム。主宰する劇団で作・演出を担当していた主人公は、公演稽古中に公演も恋人も放り投げて失踪してここに引きこもる。他の入居者とも極力関わらずに過ごしていたものの、恋人の推測から居場所を突き止めた劇団員が訪ねてくる。

主人公および他の入居者2人の人間関係に焦点を当てて整理された演出は良質という言葉がよく似合う仕上がり。今回のマギーの演出は、やや脚本を大事にしすぎて笑いとテンポが落着きすぎた感もあるが、その分だけ脚本に込められていた鬱屈がよく見えた。主人公が、序盤の何でも笑いで考える癖が付いたところ、中盤に新入居者の松永玲子と盛上がるところ、終盤の作文の話から回るところまでが納得して繋がって、ああここで主人公はぎりぎりから抜け出せたんだなというのが伝わって初演以上に浸れたのは、観ているこちらの年齢が上がったためか。柄本時生の主人公が今回ははまり役。その他全員好演だが、出番が多い職員役のトリンドル玲奈が見た目もタッパも目立ちすぎるため、恋人役の高梨臨がもう少し押すといっそうバランスが取れたかもしれないが、難癖の域。都合が付けばもう1回観たい。

梅田芸術劇場企画制作「BOOP! The MUsical」東急シアターオーブ

<2026年6月21日(土)昼>

人気者であるベティー・ブープは毎日撮影に大忙し。忙しすぎて、何でもない普通の1日を願っていたところ、発明家のグランピーが作った装置のことを知る。こっそり使ったところ、やってきたのは現代のニューヨークのコスプレ会場。そこでたまたま知合ったドウェインとベティーファンであるトリーシャの暮らす家で世話をしてもらえることになったが、家の持主である叔母はニューヨーク市長選の選挙参謀として大忙し。

昼に何を観ようかと探してチケットが手に入った都合で選んだ1本。あまり小難しいことを考えずに歌とダンスを楽しめるのは役者が役を消化して筋を進めてくれるから。やっぱり役者が歌とダンスの両方を兼ねている方がミュージカルは楽しい。今回はどちらもできる礼真琴がアニメキャラの主人公のキャラをよく掴み好演しつつ、おそらく一番踊らないトリーシャの鈴木瑛美子の声の圧が深くて耳を引き、その他役名持ちも全員好演。バックダンサー兼コーラスの面々が歌いまくりの踊りまくりで、1人ずつの名前がわからないのが残念なくらいの素晴らしい出来だった。

ダブルキャストのところだけメモ。ドウェインが松下優也、トリーシャが鈴木瑛美子、レイモンドが渡辺大輔、グランピーが東山義久。

2026年6月 7日 (日)

青年劇場公演「Sの顛末」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

<2026年6月6日(土)夜>

女学生同士の心中事件の記事をきっかけに青鞜に文章を送った女学生S。青鞜の編集部を訪ねたその日に出会ったスズを下宿先の親戚の家に招きつつ、青鞜の雑誌編集活動を手伝い、彼女らの活動と関係、そして問題をつぶさに見ることになる。

史実を基にしたフィクションとは言い条、ざっとWikipediaを読んだだけでもまずまずの史実が盛込まれていて、たとえば紅吉の話はほぼ史実。Sとスズに喫茶店店員の男性といった架空の登場人物を導入して、史実を拡張するようにLGBTやトランスジェンダーといった補助線を入れることで、現代でも問題になっているその方面の人たちの息苦しさと、当時の青鞜の崩壊につながった主要女性陣の心変わりや狭量やその致し方なさを対比して両方を描く鮮やかさ。役者もよくそれに応えて存分に力を発揮。衣装を着物にする以外は明治大正風に囚われないことで新旧両方をつないだスタッフワークも見事。劇団、スタッフ、脚本演出の高羽彩の力作と評したい仕上がり。

平塚らいてうではなく保持研(当日パンフのクレジットは研子ではなく研)にはっきり言わせたクライマックスはおそらく脚本家の筆力の賜物と想像しながら、少ない出番で手厳しい与謝野晶子の発言がどのくらい史実なのかに興味が湧きつつ、女が女を描くことの何と辛辣なことよとも思う。それも含めて力作。

関西テレビ放送企画制作「曲がれ! スプーン」IMM THEATER

<2026年6月6日(土)昼>

クリスマスイブ。超能力への興味が高じて店名に念力を名乗るくらい熱心なマスターが経営する喫茶店で、一般営業を止めて常連の本物の超能力者だけが集まるパーティーが企画される。互いに能力を披露する中で遅れてやって来た男に力を披露するも、実は待合せ場所にたまたまここを選んだ一般人だった。能力を言いふらされては適わないと足止め口止めの最中にやって来た男の待合せ相手は、テレビ局の超能力番組のADだった。

普通にやってこれだけ面白い脚本に感心しつつ、これだけ面白い脚本を普通止まりにしか上演できなかった出来に文句あり。見守る立場の多いマスターの相島一之と、問詰められる側の男のひょうろくに緊張はあっても、男に言いふらされないように、ADに自分たちの能力がばれないようにとふるまうべき超能力者の主要5人で緊張が表現できていないため緩和が作れず笑いが起きない。岡田義徳の役がただの不機嫌に見えては駄目。大勢の前であれだけ普通に振舞えるのも大したことではあるが、このチケット代なら役者の実力不足と演出家の怠慢の誹りは甘んじて受けてほしい。

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