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2020年5月24日 (日)

新型コロナウィルスの補償問題で本当にドイツがよかったのか疑問になる記事から転じて文化芸術復興基金の話まで

海外の支援状況を調べた時に、ドイツがいいかもしれないけど日本も言うほど悪くないと書きました。その後、ドイツの補償の話を見つけたので追記しています。Soforthilfe I、II、III、IV、Vがあって、このうち芸術分野はIIとIVが関係します。

ところがそのドイツで、フリーランスのアーティストやクリエイターを中心にベーシックインカムを求める運動が起きているという記事がありました。記者も疑問を述べながら紹介しています。

そんななか、フリーランスのアーティストやクリエイターを中心に高まっているのが、ベーシックインカムを求める声だ。

ベルリン在住のファッションデザイナー、トニア・メルツによる「コロナ危機に、無条件のベーシックインカムを」という呼びかけには46万人以上の署名が集まり、財務相に向けた「コロナ・シャットダウン中の、フリーランスとアーティスト支援」と題されたオンライン署名運動には30万人近くが署名している。

後者の署名運動の発起人であるライプツィヒ在住のカウンターテナー、ダヴィッド・エルラーは、ドイツ連邦政府文化相が提案する総額600億ユーロ以上にのぼる「文化分野のための救済策」に不満を唱え、ユニヴァーサル・ベーシックインカム(UBI)が最良の支援だと呼びかけた。

しかし、ドイツと言えば、アーティストを重視する姿勢が日本でも話題になった国ではなかったか。

ドイツ政府は国の「即時支援」として、個人フリーランスやフルタイム従業員が5人以下の零細企業に向けて最大9,000ユーロ(約104万円)、従業員5名から10名以下の小企業の場合は15,000ユーロ(約173万円)の支援を打ち出した。しかも、申請からほんの数日で、指定の口座に振り込みがあるという。金額や即時性など、よく考えられた支援のように思えるが、何が問題なのだろうか。

「国の即時支援の問題は、生活費に使えない点にあります。用途が限られており、スタジオや店舗などの賃料やリースの料金などにしか使うことを許されないのです。例えば、わたしはレッスンを自宅でしていて、機材なども特に使いません。わたしのような人間にとって、この即時支援はまったくの無意味です」と、エルラーは憤る。

「即時支援がだめなら半年間の生活保護が生活費をカヴァーすると言いますが、わたしたちは失業しているわけでも、仕事を探しているわけでもない。国による『職業の禁止』を強いられているんですよ!」

今回のベーシックインカムへの議論がアーティストから出てきたというのは、ある意味必然でもあった。ドイツの芸術家社会保障(KSK)の2017年の発表では、画家の作品での平均年収は12,000ユーロ(約140万円)、オペラ歌手が11,200ユーロ(約130万円) 、実験芸術家は9,100ユーロ(約105万)だという。芸術家たちは、平常時からぎりぎりの生活をしているのだ。

エルラーやメルツなど、今回のコロナ禍にあってUBIを求める人たちが望んでいるのは、日々の生活の助けとなり、3月からキャンセルが続く仕事の損失補填に当てられるお金だ。彼らの要望は、月額800~1,200ユーロ (約9万円から14万円)。半年間の期間限定である。

しかし、その最適な回答とは、UBIなのだろうか

そこから説明が続きますが、支援金が生活費に使えないとはどういうことか。Soforthilfe IIという呼び方が前に調べた時にわかっていたので、改めて調べてみます。といってもドイツ語がわからないのでGoogle翻訳頼みです。

緊急援助は、運営資料や財務費用の負債に使用できます。

緊急援助額は、(申請から)次の3か月間の申請者の明白な流動性不足から計算されます。

今後3か月の現在の収益(推定)

./。今後3か月間の継続的な物的および財政的費用

=流動性のボトルネック

費用/支払いは3か月間設定できます。

商業施設の賃貸料およびリース料(最低20%の家賃の減額は5か月間適用できます)
商業活動のための保険料
すでに延期が許可されていない限り、商業的に使用される商品および機器の利息、リース率、および返済
自動車が経済活動に必要な場合の自動車費用(保険/リース費用/負債)
人件費ではなく、取締役の給与、個人の引き出し、個人の生活費の収入や手数料の失敗の補償、健康保険の拠出などを認識することができます。

さらなる公的援助、ならびに可能な補償支払い、短時間の労働手当、税の繰り延べ、ならびに事業の中断または事業の中断などの保護からの当然の保険給付。A。主に使用され、流動性のボトルネックを計算するときに考慮されます。

生活費に使えない説明は私が太字にした個所の説明ですね。なるほどその通りでした。それに収入が少ないこともわかりました。ただそれに対して「即時支援がだめなら半年間の生活保護が生活費をカヴァーすると言いますが、わたしたちは失業しているわけでも、仕事を探しているわけでもない。国による『職業の禁止』を強いられているんですよ!」と返すのは、ちょっとまあ、極端すぎやしないかと思います。

日本に限らず、サラリーマンがもらって嬉しいボーナスですが、正式名称は「賞与」と「一時金」の2つがあります。「賞与」は会社側の呼び方、「一時金」は労働者側の呼び方です。同じものに対して異なる呼び方をするのは、こちらのリンク先がわかりやすいと思いますが、ボーナスの位置づけが違うからですね。でもそこを棚に上げることで、何はともあれ労働者はボーナスがもらえるわけです。悪く言えばなあなあですが、落としどころを探った昔の大人の知恵の産物とも言えます。名より実を取ったとも言い換えられます。名より実という言葉はドイツにはないのでしょうか。それとも名称が何より大事で、生活保護のかわりに「アーティスト保護」のような名称だったら問題にならず収まっていたのでしょうか。だとしたらそれこそ朝三暮四です。この記事だけで、日本のサラリーマンがヨーロッパのアーティストの権利意識を想像するのは困難です。

今週になって「自民が新型コロナ対策で文化・芸能支援に500億円要望 ソフトパワーを守る」という記事が出ていました。

 新型コロナウイルス対策として、自民党文部科学部会が取りまとめた「経済対策に関する重点事項」が19日、分かった。活動が困難となっている芸術家やアスリートの支援、生活苦の学生を支える新たな給付金制度の創設などを政府に求める。近くまとめる党の経済対策に盛り込む方針。

 重点事項では音楽、演劇、伝統芸能などに携わる人々やアスリートらの活動を支えるため、「活動の維持・継続と活動の再開・活性化を強力に推し進めるため、基金や地方創生臨時交付金の活用」を提起。自民党幹部は少なくとも500億円以上の財源が必要との認識を示した上で、「欧州ではペスト流行後にルネサンスが花開いた。与党としては、コロナ収束後を見据えて日本のソフトパワーを守る責任もある」と語った。
(後略)

あれだけ炎上した割にはずいぶんまとまった金額が拠出されそうな可能性が出てきました。おりしも、演劇、ライブハウス / クラブ、小規模映画館(ミニシアター)が連携した「文化芸術復興基金構想(仮称)」が提案されたところです。シアターナタリーより映画ナタリーのほうが良さそうなので引用はそちらから。

これは「SAVE the CINEMAプロジェクト」「演劇緊急支援プロジェクト」「SaveOurSpace」が連携して実施したもの。記者会見前に3団体は、3者統一要望書や署名を文化庁、文部科学省、経済産業省、厚生労働省に提出している。要望書には文化芸術団体が実施する公演や上映、ライブにともなう売上減少・経費増大に対して補填することなどを目的とした「文化芸術復興基金」創設を求める内容が記載された。また持続化給付金の継続や運用の柔軟化、さらに固定費に掛かる支出に対する給付型の支援も要請している。加えて、雇用調整助成金が早期に支給されるよう運用の是正と、各種制度においてフリーランスも対象とするよう制度の是正や柔軟化を求めた。
(中略)
劇作家で演出家の詩森ろばは、今回設立を要請した「文化芸術復興基金」とは別に「文化芸術復興創造基金」が作られたことに触れ、後者の問題点を指摘。民間から寄付を募って行うものであることと、基金という名前にもかかわらず配り終われば助成金がなくなってしまうシステムであることを挙げて要請時に話をしたと言い、「とまどいながらも『変えていかないといけないのでは』というような意思を感じられた」とコメントした。30人以上の国会議員もその場を訪れていたことを前置き、「文化は必要だと熱い演説をしていただいた」「超党派でやっていただけていると実感しました」とも述懐する。

これがどう転がっていくのかまだわかりません。私の今の意見では、文化芸術を担うのは何と言ってもスタッフまで含めた個人、また業種によってはそれを鑑賞に供するための拠点、だから支援もそこを対象に、となります。どういう形で支援が考えられているかわかりませんが、少なくとも興行を補償する形だけはとらないでほしいです。

そしてもし、この支援が実現して受取れた人が出てきて、その人が過去に海外出羽守の発言を行なっていたら、その海外の支援制度を調べて報告してほしいです。その結果、過去の発言と海外の支援実態とが間違っていたら訂正してほしいし、日本の支援制度のほうがよかったらそのことを表明してほしい。金銭的に苦しくて支援を必要としている人が声を挙げるのは通常の権利ですが、海外出羽守論法で間違った情報をもとに要求していたのだとしたら訂正は行われるべきです。早とちりで勘違いしていた人はいても、支援を要求するために確信犯で間違った情報を流していた人はいなかったと信じたい。

2020年5月23日 (土)

新型コロナウィルスに関する東京都のロードマップで劇場の位置づけが明確になる

東京都から「(第382報)新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ~「新しい日常」が定着した社会の構築に向けて~の策定について」が発表されていました。新しい日常なんて大きなお世話とは言えません。劇場の再開基準についても載っているからです。

新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」のPDFにいろいろ書かれています。劇場の位置づけはSTEP2のグループです。「2週間単位をベースに状況を評価し、段階的に自粛を緩和」と書かれていますから、国の緊急事態宣言(STEP0)では休業要請、スライド5の指標を達成して解除後(STEP1)、記載の基準を2週間達成したら(STEP2)、「劇場等→入場制限や座席間隔の留意を前提に施設の再開」で営業できることになります。一度緊急事態宣言に入ったら稽古もできないので、解除の方向ではまあまあ実用的な位置づけと思えます。

反対方向、スライド5の指標にひっかかったときには東京アラートが発動されますが、これがどうやって動くのかがわかりづらいです。想像ですが、東京都で2020年2月21日に大規模な屋内イベントの中止が発表されときのようなイメージでしょうか。この時は3週間中止だったものが、基準を下回って2週間(最低2週間プラス1日)になる。ただし小規模な劇場については各劇場、各団体の判断に任せられるような。

では開催の注意事項は何か。もうひとつのPDFである「事業者向け『東京都感染拡大防止ガイドライン』」が載っていますが、各業界の事業者がまとめたガイドラインへのリンクが基本です。QRコードまで載せて、少しでも元ガイドラインを読んでほしいという努力を感じられます。劇場の部は、先日このサイトでも紹介した全国公立文化施設協会のガイドラインへのリンクになっています。お上は万能でもなければ業界別の事情を知り尽くしているわけでもないので、そうなるのはしょうがないですよね。

むしろこれを見て、ああ業界団体はこういう風に役立つのだなと、人生で初めてといっていいくらい業界団体に前向きな感覚を覚えました。自分たちはまともな業者の団体であり、その業者の代表たちが自分たちのためにまとめたガイドラインなので信用して採用してください、と言えることがこういう状況では強い。そしてこのガイドラインが劇場に寄って上演団体の対策が不明であるという意見は前に書いて変わっていません。もし上演団体の業界があって、その団体が稽古および上演の実用的かつ有用なガイドラインをまとめていたら、セットで採用されていたはずです。ちなみにスライド7に「(例)・博物館、美術館、図書館→入場制限等を設けることを前提に施設の再開」や「(例)・劇場等→入場制限や座席間隔の留意を前提に施設の再開」と、ほかの業種を差置いて文化系施設が代表例として載っているのは、東京都が自前で多数抱えている面もありますが、文化行政の誰かがこっそり頑張ってくれたのではないかと推測します。他のメディアにこのスライドだけ引用されるときに目に触れて、多少なりとも前向きな意見が増えることを期待します。

とりあえず劇場の営業再開可能な時期は示されました。わたしはもっと大げさな対策が必要ではないかと悲観的でしたが、そうはなりませんでした。もちろん、「入場制限や座席間隔の留意を前提に」という条件を目いっぱい満たすと「ソーシャルディスタンスの客席シミュレーション写真」のようになり、興行的には営業の意味があるのかという状態になります。でもそこを、笑いの少ない演目ならもっと詰めて大丈夫とか、換気能力があるからもう少し大丈夫とか、対策をとっていた3月の公演の実績ではクラスター感染は発生しなかったとか、いろいろ説得するくらいは、上演団体が頑張ってもいいと思います。

2020年5月20日 (水)

新型コロナウィルス後に芝居を上演するようになってもすぐには観に行けない

首都圏の緊急事態宣言解除が見送られる、というニュースを見ました。惜しい。

ですが、緊急事態宣言が解除されたことは、新型コロナウィルスが沈静化したこととは違います。収まっていたはずの韓国でナイトクラブからクラスター感染が発生した事例もあれば、ドイツでロックダウンを緩和したらまた感染の実行再生産数が増えた事例もあります。ここまで劇場でクラスター感染が発生していないのは確かですが、それは劇場で上演される演劇を観劇しても大丈夫であることの証明にはなりません。上演に先立って、稽古も小屋入り後もこれだけ対策したから観に来てくれ、と言えるくらいの対策が確立するのももう少しかかるでしょう。

関係者ではなく観客専門の人たち、中でもガチ勢と呼ばれる人たちは真っ先に劇場に向かうのでしょうか。自分はガチ勢にはほど遠いので、無理です。そんなにすぐには観に行けません。公共交通機関を使って劇場に行く、2時間か場合によってはそれ以上閉鎖空間で過ごす、公共交通機関を使って帰る。どこかで感染する危険性がまだあります。それで感染して、死なないにしても発症して自分が苦しむのも嫌だし、無症状で知らない間に人に感染させるのも嫌です。

夏になったら収まるとか、いろいろ言われていますが、新型なのでどうすれば大丈夫なのかまだよくわからない、が実際のところです。次の秋冬に再流行するとも言われています。南半球でまもなく冬のブラジルでは、ノーガード作戦の結果、いつのまにか1日1000人死亡クラブ入りしていました。放っておいたらやっぱりこうなります。

最近チラシがないのでスケジュールが頭に入っていませんが、観る側としてどこが復帰のタイミングかは考えてしまいます。今のところ思付くのは、7-8月予定の野田秀樹の「赤鬼」、8月の宮沢りえ主演の「アンナ・カレーニナ」あたりですが、上演がどうなるか、予断を許しません。特に後者は外国人演出家だから来日が危ぶまれます。「赤鬼」は削いだフィジカルな演出の似合う大好きな1本ですが、それだけに稽古場がスポーツジム化する可能性があります。このタイミングなら「贋作・罪と罰」のほうが世相にあってよかったんじゃないかと半分本気で思います。

もっと先になると、10月の「リチャード二世」は多数観てきたシリーズの締め。もっともっと先になると来年1月の「東京原子核クラブ」はこれも大好きな1本をマキノノゾミの本家演出です。ただし1月にまでなったら冬ど真ん中。感染の状況はどうなっているでしょう。

そうやっているうちに芝居を観る習慣が失われそうです。こんな形で趣味が失われるとしたら悲しいですが、ここのところ観すぎが続いていたのでそれでもいいかなと思うようになってきました。ひとつ確実なのは、芝居を観ないとチケット代も交通費も減って、財布には優しいです。

2020年5月17日 (日)

劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインが出る

何かガイドがないかと探していたら、公益社団法人全国公立文化施設協会が「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」を5月14日付で掲載していました。何だこの団体はと思ったら「国及び地方公共団体等により設置された全国の劇場・音楽堂等の文化施設が連絡提携のもとに、地域の文化振興と地域社会の活性化を図り、もってわが国の文化芸術の発展と心豊かな社会の実現に寄与する」とあるので、国公立の、文化会館とか文化センターとか名の付くような施設が参加する協会のようです。正会員が国立/新国立/東京芸術劇場から、近所の市立施設まで、おそらくほぼ網羅されているようです。1305施設だそうで、これだけ拠点があるってすごいですね。ほかに、該当する施設ではないけど参加しておきたい団体が準会員、施設と関係が深い舞台系の団体などが賛助会員、のようです。

具体的な対策は後半に出てきて、今回それは長くなるので引用しませんが、前半の、いろいろな考え方のところをいくつか引用します。

 今回お示しするガイドラインは、国の方針を踏まえ、劇場、音楽堂等の活動再開に向けて、新型コロナウイルス感染拡大予防対策として実施すべき基本的事項を整理したものです。
 全国の劇場、音楽堂等には設置主体や運営形態、施設の性格や規模の違いなど多様な施設があり、施設によっては本ガイドラインの詳細版が必要になることも想定されます。また、地域や施設の状況によって直ちに対応・導入することは難しい事項も含まれているかと思います。すべての項目の実施が活動再開の必須条件ではありませんが、基本となる感染予防策を実施した上で、より感染予防効果を高めるための推奨事項として、今後の取組の参考にしていただきたいと思います。
(中略)
 なお、劇場、音楽堂等におけるイベント等の開催について、対処方針においては、「特定警戒都道府県及び特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、(中略)特に、全国的かつ大規模な催物等の開催については、リスクへの対応が整わない場合は中止又は延期するよう、主催者に慎重な対応を求める。」こととされ、また、「特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、感染防止策を講じた上での比較的少人数のイベント等については、適切に対応する。ただし、リスクの態様に十分留意すること。」とされていることに十分留意する必要があります。
(中略)
 設置者及び施設管理者、公演主催者は、施設の特性や公演の規模や態様を十分に踏まえ、施設内及びその周辺地域において、当該施設の管理・運営に従事する者(以下「従事者」という。)、公演を鑑賞等するために施設に来場する者(以下「来場者」という。)、出演者及び公演の開催に携わるスタッフ(公演主催者を除く。以下「公演関係者」という。)への新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、必要となる負担を考慮に入れながらも最大限の対策を講じていただく必要があります。
(中略)
 施設管理者は、新型コロナウイルスの主な感染経路である接触感染(①)及び飛沫感染(②)のそれぞれについて、従事者、来場者及び公演関係者の動線や接触等を考慮したリスク評価を行うことが求められます。
 大規模な人数の移動や県境をまたいだ移動が惹起される公演については、集客施設としてのリスク評価(③)及び地域における感染状況のリスク評価(④)も必要となります。
 また、それらの公演や催物等については、各都道府県において示される対応とリスク評価(③④)に基づいて実施の可否について設置者とその影響と補償等も含めて協議し判断する必要があります。
 利用を回避すべきとの判断に至った場合は、できるだけ速やかに公演主催者に対して施設利用が困難になる旨を伝達する必要があります。

で、この後に具体策の話がたくさん出てくるのですが、一読した印象は「今後の取組の参考」という位置づけです。何を言っているかというと、劇場の協会が劇場向けに出しているアナウンスのため、劇場(「従事者」)が担当するであろう業務についてはかなり事細かに示しています。一方で、上演団体(「公演関係者」)が取るべき対策はほとんど触れられていません。それはしょうがないですね。国立/新国立/東京芸術劇場のように、自分たちで企画だけでなく製作まで行なう例のほうが少ないでしょうから。

それでも、劇場側がとる対策としては、全部できるかは別として、個々の対策は施設側で実現可能性のある案を盛込めるだけ盛込んだと思います。ここからどうやって実用に落としていくかの問題はあっても、だいたいの情報は入っているので。もうすこし具体的な数字がほしかったのは座席くらいですけど、これも国が出したら座席の工夫にかかわらずその瞬間に絶対縛りができるので、しょうがない。

ちなみに最初は、首相官邸の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2年5月14日変更)」を読みました。ガイドラインがまとめられた根拠の話が載っています。

2)催物(イベント等)の開催制限
 特定警戒 都道府県及び特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、クラスターが発生するおそれがある催物(イベント等)や「三つの密」のある集まりについては、法第24条第9項及び法第45条第2項等に基づき、開催の自粛の要請等を行うものとする。特に、全国的かつ大規模な催物等の開催については、リスクへの対応が整わない場合は中止又は延期するよう、主催者に慎重な対応を求める。なお、特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、感染防止策を講じた上での比較的少人数のイベント等 については、適切に対応する。ただし、リスクの態様に十分留意する。
(中略)
3)施設の使用制限等(前述した 催物(イベント等)の開催制限、後述する学校等を除く)
① 特定警戒都道府県は、法第24条第9項及び法第45条第2項等に基づき、感染の拡大につながるおそれのある施設の使用制限の要請等を行うものとする。これらの場合における要請等にあたっては、第1段階として法第24条第9項による協力の要請を行うこととし、それに正当な理由がないにもかかわらず応じない場合に、第2段階として法第45条第2項に基づく要請、次いで同条第3項に基づく指示を行い、これらの要請及び指示の公表を行うものとする。
 特定警戒都道府県は、法第24条第9項に基づく施設の使用制限等の要請を行い、また、法第45条第2項から第4項までに基づく施設の使用制限等の要請、指示を行うにあたっては、国に協議の上、外出の自粛等の協力の要請の効果を見極め、専門家の意見も聴きつつ行うものとする。政府は、新型コロナウイルス感染症の特性及び感染の状況を踏まえ、施設の使用制限等の要請、指示の対象となる施設等の所要の規定の整備を行うものとする。
 なお、施設の使用制限の要請等を検討するにあたっては、これまでの対策に係る施設の種別ごとの効果やリスクの態様、対策が長く続くことによる社会経済や住民の生活・健康等への影響について留意し、地域の感染状況等に応じて、各都道府県知事が適切に判断するものとする。例えば、博物館、美術館、図書館などについては、住民の健康的な生活を維持するため、感染リスクも踏まえた上で、人が密集しないことなど感染防止策を講じることを前提に開放することなどが考えられる。また、屋外公園を閉鎖している場合にも、同様に対応していくことが考えられる。また、特定警戒都道府県は、特定の施設等に人が集中するおそれがあるときは、当該施設に対して入場者の制限等の適切な対応を求めることとする。
② 特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、法第24条第9項等に基づく施設の使用制限の要請等については、感染拡大の防止及び社会経済活動の維持の観点から、地域の実情に応じて判断を行うものとする。その際、 クラスター発生の状況が一定程度、明らかになった中で、これまでに クラスターが発生しているような施設や、「三つの密」のある施設については、地域の感染状況等を踏まえ、施設の使用制限 の要請等を行うことを検討する。一方で、クラスターの発生が見られない施設については、 「入場者の制限や誘導」「手洗いの徹底や手指の消毒設備の設置」「マスクの着用」等の要請を行うことを含め、「三つの密」を徹底的に避けること、室内の換気や人と人との距離を適切にとることなどをはじめとして基本的な感染対策の徹底等を行うことについて施設管理者に対して強く働きかけを行うものとする。また、感染拡大の防止にあたっては、早期の導入に向けて検討を進めている接触確認アプリを活用して、施設利用者に係る感染状況等の把握を行うことも有効であることを周知する。特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、法第24条第9項に基づく施設の使用制限等の要請を行い、また、法第45条第2項から第4項までに基づく施設の使用制限等の要請、指示を行うにあたっては、国に協議の上、外出の自粛等の協力の要請の効果を見極め、専門家の意見も聴きつつ行うものとする。なお、特定警戒都道府県以外の特定都道府県は、特定の施設等に人が集中するおそれがあるときは、当該施設に対して入場者の制限等の適切な対応を求める。
③ 事業者及び関係団体は、今後の持続的な対策を見据え、5月4日専門家会議の提言を参考に、業種や施設の種別ごとにガイドラインを作成するなど、自主的な感染防止のための取組を進めることとし、政府は、専門家の知見を踏まえ、関係団体等に必要な情報提供や助言を行うこととする。

都道府県でよろしくやってくれ、ただし何かあったら都道府県のせいだから都道府県の責任で止めろ、関係団体でガイドライン作っておけ、ではほとんど丸投げですけど、しょうがないですね。個々に条件が違う上演を一律で決められないし、決めたら決めたで画一的だと上演団体側が非難するでしょうから。そもそも劇団四季の自前稽古場自前劇場上演と、名もなき劇団による駅前劇場上演とで同じ基準を決められるとは思えません。むしろ実務に近いところに決定権が任されたので、上演に向けて動き出せる主導権が自分たちのほうに来た、くらいに思ってほしいです。上演団体側も「公演実施可能な条件『ガイドライン』で示してほしい」などと言わず、上演に臨んで自分たちは稽古期間はこれだけの対策をとって、公演期間中もこうしているからと、言ってほしいです。せっかく「緊急事態舞台芸術ネットワーク」を作ったのだから。

不要不急で無駄だからこそ芝居は文化たりうる

演劇業界の著名人が発言するたびにいろいろ言われて、私もいろいろ書いていますけど、芝居は文化で必要だからという言い回しにずっと引っかかっています。いろいろ考えていますがうまくまとまりませんのでとりあえず書いてみます。

音楽を聴いたことがない人はいないでしょうが、芝居なんて学校鑑賞以外で観たことがない人は大勢いるでしょう。それを非文化的とは言えませんし考えもしません。

芝居を考えるとき、もし芝居が必要不可欠だったら、つまらないものになっていたとは思います。人生で必要なものは、時に嫌になったりしばらく遠ざけたくなったりするものです。人生から無駄を省いて効率的に生きるべきという意見もあるでしょうが、効率にも限度があります。そこまで効率を追求されたら、まずお前の存在が一番無駄だろうと言い返さないといけません。

必要と必要の間に、不要不急や無駄があってこその人生です。その不要不急や無駄に彩りを添えてくれるからこそ、音楽や芝居は文化たりえます。義務化された不要不急は必要に化けて、文化から生活に変身します。お前は年に2本芝居を観るのが義務だと言われたらいずれ嫌になります。

こうやって考えると、不要不急であることを認められない芝居は、文化たりえるのか、と禅問答のようになってきます。不要不急で無駄だからこそ、非常事態にはいったん引かざるを得ない立場ですけど、人生を彩る文化でもあると、言えるのではないでしょうか。

その、鑑賞側にとっての不要不急や無駄を、提供側は生業として生活しているから必要という立場の違い。ここが出発点ですね。

それともうひとつ。鑑賞側がその業界の不要不急を欲しているとして、それがその人とは限らない、という事実もあります。別の言い方をすれば、その人が必要だと思うことが他の人にとっても同じように必要ではない、ということです。我々は別々の個人であり、私の常識はその人の非常識で、その人の常識は私の非常識とも言い換えられます。

私はサラリーマンをやっていて、補償される見込みのない業界で働いています。お客様から見れば勤め先の提供しているものはある意味不要不急で、でも私からすればそれで給料をもらって生活しているので必要です。お客様がいるから需要はあるのでしょう。でも、お客様からしたら、私の勤め先が駄目なら他を当たればよいわけです。

別に私の仕事が文化的だと主張するわけではありません。ただ、たいていの人が、似たようなものではありませんか。世の中、突詰めたら必要不可欠なものはそこまで多くなくて、大半は不要不急に満ちています。

やはり、自分の仕事、自分たちの団体、自分たちの業界が、必要不可欠であり、救済されるべきと主張する意見は、それがどの業界でもバランスが悪く聞こえます。それを全員が言い出したら、「お前には必要だけど俺には不要、だから却下」の応酬になってきりがないし、助かるはずの人も助からなくなります。

世の中、不要不急で無駄ばかりだから、そこに優位性を主張するのではなく、お互い似たようなものだから大勢が助かる方法を考えましょう、と進められるとよいのではないでしょうか。

新型コロナウィルス対策のソーシャルディスタンスの客席シミュレーション写真

元写真が本人撮影か、送られてきたものを共有したのかわかりませんが、セカンドライフという劇団の主催者(名前は出さない方針だそうです)がTwitterに載せていました。ずいぶん立派な劇場ですが、どこでしょう。固定客席だけど前後がまっすく配置され互い違いになっていないので、歴史の長い劇場という印象を受けます。

それはさておき。中2階は抜いて、多少幅はあるけどざっと1列30人が15列の450人。私の知っている劇場だと、紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYAを少し横長にした感じ、旧パルコ劇場を長方形に直した感じ、でしょうか。座席の大きさが、換気能力計算で調べた新国立劇場小劇場だと幅50cm奥行91cmなので、1列空けるのはほぼ同じ、幅は4席飛ばしのところを3席なのは写真の劇場の座席幅が多少広いか口元の距離で計算したか。でもだいたい写真の通りですね。

で、手前が見切れているのでもう1人くらい入りそうですけど、それでも62人かな。音響オペとか複数人必要な場合はどうするんでしょう。Twitterにはどこまで本気か「最前列は座ってはダメですよ。舞台に近すぎます。最前列の客が咳をしていたら、ステージ上も危険でしょう。」と返信が付いていて、それを実行したらさらに5、6人減ります。

一応、互い違いになる前提で、間が3席空くなら、1列空きはなくしてもぎりぎり大丈夫かもしれませんが、それにしたって単純に倍で120人前後。450人の劇場にこれだけしか入らないのは、観るほうも演じるほうも落着きません。

難しい問題です。

2020年5月10日 (日)

新型コロナウィルス騒動で日本の芸術団体は団結していないし演劇業界はぶっちぎりで団結していないことがわかったという話

このエントリーをむきになって書いて、頭に血が上ったから一晩置いてから直してアップロードするか、と思ったら似たような内容でもっと落着いてコンパクトにまとまった大人のエントリーが見つかったので、みなさんそちらを読んでください。

で投げてしまうのももったいないので、載せます。以下本文。

新型コロナウィルスに対する海外の支援状況」を調べた時に思ったのですけど、海外は「芸術家」とか「芸術セクター」に支援する形が多いですね。そこから先は拠点単位だったり、プロジェクト単位だったり、実績ある個人だったりといろいろありますが、演劇はあくまでも芸術の一部門として扱う、と読めます。

日本で演劇に支援を、と訴えている人たちをいろいろ見かけますし、クラウドファンディングも乱立していますが、なんか演劇関係者は自分を助けろ、演劇を助けろ、と訴えているように見えます。芸術を助けろ、と訴える人はほとんどいません。

実際には、芝居で音楽を使ったり、舞台美術や衣装を作ったり、関係は深いです。当然、演劇と映像と両方に関係する関係者も多いです。なのに、芸術に支援を、と訴える演劇関係者が、訴えの数に対して少ないように思います。

演劇関係者の認識はどうなんだというと、劇団四季は、経済の問題が重要と認識しつつ、でも芸術ととらえています。前にも引用した劇団四季社長のインタビューですが、前回引用しなかった前半を引用します(フランス語の個所のアクセント記号は省略)。

私は、浅利の次のような口癖を憶えている。「フランスの演劇人に『あなたの仕事は?』と問うと、“Je travaille au theatre.(劇場で働いている)”と、誇らしさを伴った返事が返ってくるんだ。日本の演劇界にはアマチュアが多いが、ここではプロフェッショナルが生きている。羨ましいと思ったし、日本でもこう言えるようになりたいと心から願った」

 また浅利は、敬愛したジャン・ジロドゥのパートナーだった演出家のルイ・ジュヴェの言葉、「恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱」を座右の銘としていた。それは次のような内容だ。

 演劇ほど色々な問題に溢れているものはない。芸術的なことから、経済面までありとあらゆる問題を抱えている。それにもかかわらず、本質的な問題はたった一つしかない。それは「当たり」の問題だ。今日の劇場の賑わいがなければ、我々芝居者は主演俳優から裏方の一人まで生きていくことはできない。したがって、当たりを取るためには、時に時代の流行に身を屈さねばならないこともある。「恥ずべき崇高さ、偉大なる屈辱」―ここに我々の職業の秘密を解く全ての鍵がある―。

 崇高な思いだけでは観客は集まらない。演劇には、恥に塗れるような観客獲得の努力が必要になる。或いはその時に屈辱を感じることがあるかもしれないが、これも偉大な芸術家の行為なのだということか。健全な社会の良識と民力を信じ、真摯に向き合い、寄り添いながら芸術を営む決意ともいえる。

 だから我々はこれまで、「プロの演劇人として生きる」という浅利の祈りを受け継ぎ、何度も恥に塗れながら、「当たり」を求めて全力で走ってきた。映像産業やタレント業など周辺の仕事には脇目も振らず、もちろん資産で財テクすることも考えなかった。どうしたら劇場でのお客様の感動を最大化出来るかを考え、そこに全ての資産とマンパワーをつぎ込んできたのだ。演劇に注力した経営を続けてきた背景には、劇団創立者の思想がある。

これがホリプロの社長のインタビューになると、エンターテインメントになる。劇団四季のように全文寄稿型ではありませんが、心配しているのはスタッフなので自分たちの行なっているライブやイベントの関係者で、美術や出版といった広く芸術と呼べる分野を視野にいれた発言ではありません。鍵カッコで個人はアーティストと呼び、業界をエンタメと呼ぶので混乱していますが、ホリプロ社長は演劇を含むライブイベントはエンターテインメントと認識している、で間違っていないと思います。

 今、最も心配しているのが、エンタメの作り手が倒れていくこと。裾野が広い業界で「見えないところで支えている人の方が圧倒的に多い」。例えば、スタッフ用の弁当業者や音響機材業者などだ。「末端の人からどんどん苦しくなっている。五月に入り、“決断”する会社もあると思う」との認識を示した。

 ぴあ総研の調べでは、ライブイベントの中止や延期が五月末まで続けば、約三千三百億円の損失が見込まれるという。こうした状況に政府は、購入者がチケットの払い戻しを求めなかった場合、寄付とみなして税負担を軽減する措置や、終息後にイベントチケットの補助クーポンを出す案などを打ち出している。しかし、「両方とも事業者には何の得もない。政府には今、業者が倒れないようにしないとV字回復なんてありえないことを理解してほしい」と訴えた。

 公的支援では海外との差を感じているという。「ドイツや米国では、外国人アーティストでも早い段階でまとまった金額が国から入金されたと聞いている。エンタメが国の財産だと思っているから手厚いのだろう」。一方で日本については「『クールジャパン』というが、これでは『冷たい日本』だ。海外で稼いでくれと言うのに、死にかかっている時は手を差し伸べない」と批判する。

 「エンタメは日本経済にさしたる影響力がないと思っているのではないか。政策を作る側の人は舞台を見に来ないし、テレビドラマもアニメも何十年も見ていないのでは。どれくらいすごいのか分かっていない」

そもそも演劇分野の巨頭ですら認識があっていない。なぜこうなるか。日本の芸能は民間で発達してきたからですね。なので、実演者ではなく興行主の意向が強い。

こういうのはどの本で読んだか忘れたので、細かいところが間違っていたらご容赦を。少なくとも歌舞伎と能狂言の話は渡辺保の本で読んだはず。

歌舞伎は国立劇場で伝統芸能のふりをしていますが、あれは役者の引抜合戦を経て松竹が確保しているものです。今の松本白鸚と中村吉右衛門が、父の引抜について帝国劇場だか日生劇場だかのオープニングに合せて東宝に移籍する、とかやっていたくらい最近のことなので、歴史の古い団体ほど、興行、エンタメの認識が強くなります。その分だけ実演者の地位が低い、というか、実演者の人気と興行主との駆引きになる。芸術云々で連携するのではなく、個人事業主の色が濃いです。

能狂言がそうならなかったのは、初期はともかく、途中から武士のたしなみになったこと、そのあと明治時代に一度瀕死になって、皇室の御前舞台上演から皇室や政府の後援を受けられた、という経緯だからでしょう。逆に後援されて、他から切離されたとも言えます。

新劇は、大正時代の築地小劇場以来、もっと現代に即した海外の戯曲紹介を、から始まって、もともと政府に批判的な立場だったのが業界を守るという名目で岸田國士が大政翼賛会文化部長に就任したけど結局うまくいかなかったり、とかいろいろな経緯があって、伝統的に独立志向が強いです。他にも劇団分裂騒動があったりするので、他の劇団に出演するなんてもってのほか、という時代は、今の60歳以上くらいの人たちだと若いころに体験しているはずです。仕事で映像分野との縁は深いはずですが、映像で稼いで公演を打つ、というくらいだったので、今はいざ知らず、一昔前の演劇関係者では映像より演劇が一段上、との認識が一般的だったのでしょう。

で、その後にアングラがあって、夢の遊眠社や第三舞台があって学生上がりの劇団、いわゆる小劇場がさかんになりますが、成功すれば興行に近づき、表現を追求すれば少ない客を相手にマニアックな上演を行なうことになります。どちらにしても、演劇の道を進んで、そこから他分野との連携は少ない。上演のために映像を引張ってくるとか、音楽を引張ってくるとかはありますけど、そこから外への進出はあまり聞きません。

職業別団体を見ると、スタッフは一般社団法人舞台技術者連合があって、その先に舞台監督、音響、照明などの団体が見えますけど、衣装や映像はありません。

役者は、今回の騒動で西田敏行が支援を訴えたのは協同組合日本俳優連合ですが、ほかにも検索したらいろいろ出てきて、団体すら乱立しています。アメリカとかイギリスだと、特定の団体に所属しないとメジャーな公演には参加できない、所属の資格がいる、所属したからにはストライキとかに協力しないといけない、とかいろいろあったはずで、統一団体も良し悪しです。ついでに書くと、最近は複数の劇団に所属する人がいるので、劇団も所属元には使えません。

脚本家は日本劇作家協会がありますが

 劇作家協会は、井上ひさし初代会長の、「子どものためにクリスマスの劇を書いたお父さんも入会できるように」という理想そのままに、プロとアマチュアの分け隔てなく、劇作に携わるすべての人に参加する資格のある協会です。

という、この手の騒動のときには向かない団体です。演出家は日本演出者協会がありますが、

〈演出家〉ではなく〈演出者〉とした理由は、初代理事長である村山知義の「演出は単なる職能であり、またプロもアマチュアも参加できる」という理念からでした。

と、劇作家協会と同じような位置づけのようです。

とにかく、業界内ですら団結していません。代表団体もわからないし、資格者もわからない。何ならプロとアマの区別すらわからない。それにメリットもあるのですよ。上演の敷居が低いので様々な人たちが参加して裾野が広がり経験を積む機会を得て、そこからプロとして通用する人たちが業界として手をかけずに育つこと。

でもこのような騒動で、支援しろと言ったとき、何をもって支援しろというのでしょうか。法人にもなっていない芝居の団体だとして、数えられますか。関係者だとして、何をもってプロとアマを区別しますか。組合所属者だとして、支援対象の組合を挙げられますか。劇場だとして、それは劇場勤務者と上演団体とどちらの支援ですか。

だから興行単位、上演単位で補償を、となるのは、興行主としての言い分以外に、他に支援団体を定義する方法がないという現実的な理由もあるのでしょう。でもそれを言う人たちがうらやましがる外国で、興行に補償したケースがどれだけあるのでしょうか。私が見つけていない補償ケースがあるかもしれませんが、だとしても、各国のベストをつまみ食いするような補償を訴えるのはやめて、演劇の支援だけでなく、その国の支援全体見て論じてほしいです。日本の、プロアマどころか国民全員に10万円、失業相当の収入源の個人事業主には100万円、家賃3か月という支援。助成金なら日本でも執行は進めているはずです。これに加えて上演中止になった興行を補償をしている国があるのでしょうか。

そして演劇業界は他の芸術業界と連携する気配がありません。個人レベルの交流はいざ知らず、芸術家、芸術団体として交流している気配です。仕方がないですね。そもそも代表団体がないので交流しようがありません。

観測範囲が狭いのでわかりませんが、作家や音楽分野や美術の分野でも、芸術全般に支援を訴えているのでしょうか。あまりそういう話は聞きません。作家は江戸以来の出版業界管轄ですね。また外出自粛は既存出版物には有利に働くはずです。音楽は音楽業界で、やはり興行の強い業界で、補償を求める話は2月3月ごろはしきりに出ていましたが、まあ難しいでしょう。大御所はすでに稼いで困らないでしょうし、配信やサブスクリプションがうまくいっているなら実演者レベルでは大丈夫というのもあると思います。美術はよくわかりませんが、美術館や博物館は、文化庁の支援で再開を探っているようです。もともと箱ものとして管轄がはっきりしているので支援しやすいのでしょう。国際的にも再開後の運営ルールを探っているようで、作品の展示環境という前提事項があるので、交流やルール作りに慣れているのでしょう。

そして演劇業界は芸術業界だけでなく、他の一般業界にも言及しません。シアターナタリーが4回に分けて関係者の声を集めています(第1回第2回第3回第4回)。自分たちの業界と客以外のことに触れている人がどのくらいるでしょうか(太字は私が追加しました)。

第1回の野村萬斎。

1つには春の選抜高校野球が中止になったのが大きかったです。裕基と同じような若者に我慢をさせないといけない状況にハッとしました。また、気合の乗った晴れの舞台を、周囲に疑心暗鬼しながらではなく、集中して楽しんでいただくために、時期を改めたほうが良いという結論に至りました。

第3回の那須佐代子。

民間の小劇場としては、借主である主催者の意思ある限り公演を続行するというスタンスでした。中止する団体と続行する団体は半々で、劇場としてできる限りの衛生対策は施しましたが、日に日に増える感染者数に気が気ではない毎日でした。当時はクラスター発生源として「ライブハウス」がやり玉に上がっていた頃で、このタイミングでどこかの「小劇場」がクラスターを出したら最後、すべての小劇場が世間から総攻撃にあってしまうだろうという危機感でした。

第3回の畑澤聖悟。

劇団員は一様に悔しさを述べたが、同時に自分の職場のことを語った。飲食店店員、保育士、小学校教員、市役所職員、看護師である彼らは、自分の職場を、お客様を、子供たちを、患者を守るためには仕方がない、と口をそろえた。我々は東京でなく青森で生活することを選び、同時に演劇を生活の中心に置くことを選んだ。そのためには自立した社会人となり、仕事を持たなければならない。そして青森だけでなく東京やいろんな街で公演を打ち、作品のクオリティを証明し続けなければならない。どちらも地域の力となり、地域を守る仕事である。今回、1つを諦めたが、1つを貫くことはできた。そう考えている。

野村萬斎と那須佐代子はぎりぎりな感じですが、そこまで入れないと畑澤聖悟だけになってしまうので入れました。それでもこの3人だけです。芝居のサイトへの投稿なのもありますが、自分たちの狭い業界だけでなく他の業界も危機、という前提を認識して発言できる人が少ないです。むしろ渡辺源四郎商店のように他の仕事を持ちながら演劇をやっているアマ(セミプロ)のほうが視野が広いという逆転現象が起きています。

演劇関係者の訴えが聞き苦しいと思っていた理由がわかってきたのはいいのですが、結論はずいぶんさみしい話です。狭いなら狭いなりに突詰められた発言だといいのですが、ステージナタリーに限らずなかなかそういう発言は見かけません。横内謙介の覚悟が例外に見えてしまうのは残念です。

2020年5月 6日 (水)

12人の優しい日本人を読む会「12人の優しい日本人」YouTube

<2020年5月6日>

殺人事件の裁判の陪審員として集められた12人。審理に入って採決したら全員無罪を選ぶ。だがその結果に納得いかない1人が有罪に意見を変える。話し合おうという1人にほかの11人が様々な情報をぶつけていくなかで新たな発見が出てきて、陪審員たちの気持ちが揺らぐ。

「12人の怒れる男」を元にした三谷幸喜の名作芝居。今回は東京サンシャインボーイズ時代と同じ出演者を極力集めて、自宅からZoomで参加する企画。最初はライブと言って宣伝していたので見逃したと思ったら、(少なくとも)5月中はアーカイブを残すとのことで、追っかけて観られた。こちらから辿れます。無料です。

どうせネットで観るなら、舞台を撮影したものよりネット向けに企画されたほうがいいと思っていたところに見かけた企画だったので、どんな感じかと挑戦。自分が観たことがあるのは2005年のPARCO劇場版だけど、今回のキャスティングはWikipediaによると3演目に沿っている。演出に冨坂友を立てて、一応リーディングとは言っていたけど、台本は(あったとしても)見えない。登場人物が同じ部屋にいる設定で、投票用紙や地図など最低限の小道具は用意して、やり取りしているように見せるスタイル。途中、声の大きさが変わるところがあったけど、なにしろ元の脚本がよくできているので、多少のデコボコはあっても最後まで観られた。

内容は、無料だしまあ観てください、って感じなので、今回の企画の感想を順不同に。よかったところ。

・もっとネットワーク環境がグズグズになると想像していたけど、ほぼ大丈夫だった。これは時間帯が影響しているかもしれない。

・思ったより違和感がなかった。これはほぼ座った状態で進む会話劇を選んだところが肝。途中の喧嘩の場面に振りをつけていたけど、ああいう場面が難しい。

・後編は遅れてライブの時間内に観たけど、チャットは切った。私にはチャットのスクロールが目障りだった。

・団体名というか、上演団体企画名くらいはつけてほしい。付いていたのに気が付いていなかったので直しました。

・稽古期間がどのくらいだったかわからないけど、経験者と芸達者がそろって、やっぱり上手。特に声の距離感は、調整してきた感がある。

・元は2時間の芝居を前後半に分けたのは正解だった。2時間連続の視聴はきつい。前半は出だしで説明があるため1時間28分あるのだけど、最後10分くらいはダレた。たぶんこのスタイルだと連続は1時間が限界で、15分から30分くらいがちょうどよさそう。きちんと撮影された映像とはやはり違う。

・カメラ内に収まるように動きやカメラ位置も調整した感がある。挙手のところがいい感じ。

・ログインメンバーの名前に1号とか2号とかついているのが、今回の企画だとむしろ親切。ないと困る(後述)。

ここはなんとかならなかったというところ。次回があるなら対応を検討してほしい。

・Zoomの機能で自動的にログインメンバーの並びを変えられてしまうこと。本当は並び順が指定できるとよかった。前半と後半とで並び順が変わってしまうのが痛い。そこがログインメンバーの名前表示でカバーされていて助かった。

・ミリ秒を調整するような笑いはほぼできなかったけど、それよりは「全員がはっと気が付く」ような場面の演出が難しい。

・音の解像度というかレンジというか、とにかく音が揃っていないのがもったいない。手持ち機材で参加したのか、声にばらつきがある。あとオープニングやエンディングの音楽はだいぶ音が古い。こういうのは機材をそろえれば解決できるのか、専門家がマスタリングを行なわないとそろわないのか、どっちだろう。

・解像度低めとはいえ、カメラの画角が揃えられるとよかった。手持ちのカメラやスマホで参加したのかな。あと位置も、高さや前後が結構違った。今回の演目なら同じカメラで同じような位置(目の高さ)で揃えられるとよかった。

・照明は吉田羊だけリングライトを用意していたか? 人によってだいぶ違ったけど、照明はあったほうがいいのでいろいろ工夫してほしい。

・背景は自宅のままだったけど、部屋の背景画像を用意できたらよかった。そういう商売が出てくるかも。

・あまり直す暇もなかったか、梶原善が30代という脚本の設定は無理がある。そのほか何か所か調整したい。でもいっそ、陪審員を密室に閉じ込められないのでオンラインで参加してもらいました、という設定まで調整できたらベストだった。

・三谷幸喜がオープニングに出てくるけど、伊藤俊人は、とか余計なことは言わない。

・同じく三谷幸喜が後半に出てくるけど、三谷幸喜が一番稽古不足。試しに出てみたいのはわかるが、水準以上の役者に交じって水準以下の振舞をされるのはつらい。

まだこれからの手法で、いろいろノウハウが蓄積されたらいい線いけるようになりそうな予感はしました。

<2020年5月7日(木)追記>

企画名があるのを見落としていたので修正。

新型コロナウィルスに対する海外の支援状況

なんか海外では、という話が多いので、調べました。

その前に日本でどのくらい支援があるのでしょうか。わかりやすくまとまっているのでYahoo!のサイトから大雑把に調べます。

個人向けの主な内容です。
・国民全員が1人10万円(児童手当を受給する世帯には対象児童1人につき1万円追加)もらえます
・失業と同程度の収入減の人は、3か月(最大9か月)の家賃相当額(上限あり)支給があります
・休業または失業した人には10万円から20万円の小口融資があります

事業者向けの主な内容です。
・売上が半分以下になった、資本金10億円未満の法人には200万円、個人事業主には100万円が、給付されます
・労働者を雇用している立場の人なら、休業手当の助成があります。

その他にもいろいろありますが、業界業種ではなく、個人と事業主を支援する形です。たとえば仕事がパーになった個人事業主の役者なら、申請すれば110万円と家賃3か月の補償が得られるはずです。

また芸術分野の助成金の扱いですが、申請された助成金は執行、または繰延されているはずです。日本はもともと数十万円から3百万円くらいの金額を、ものによってはもっと多額の金額を幅広く助成しているので、それがそのまま執行されるなら結構な額だと言えます。

そして本題の海外の事情。美術手帖にまとまった記事があったので、ほぼ全文引用になりますが載せてみます。「この情報は3月30日時点のものです」とあるのでその後の追加情報は不明です。あと引用の都合で順番を入替えます。

アメリカです。

 NEA(米国芸術基金)は、非営利芸術団体向けに7500万ドル(約83億円)の緊急支援の方針を発表。通常はプロジェクト・ベースの事業費助成のところ、運営費に充てることが可能となる。内訳として、40パーセントは州・地方レベルの芸術支援団体、60パーセントはそのほかの応募芸術団体に配分される。

 なおアメリカでは3月25日に新型コロナウイルス救援・救済・経済安定(CARES)法が成立。企業・自治体向け支援に5000億ドル(約5兆5000億円)、中小企業向け融資プログラムに3490億ドル(約3兆8390億円)、現金給付(一定の所得制限のもと1人1200ドル、子供は1人500ドル)、失業保険の受給条件緩和など、総額は2兆ドル(約220兆円)およぶ。

個人向けに1200ドルは日本の10万円より少し大きいくらいです。総額のうち芸術向けは83億円で、これは非営利芸術団体向けで、芸術支援団体と応募芸術団体を通じての支援なので、なんらかの団体登録名簿のようなものがあるのでしょうか。

アメリカについては美術手帖の別記事が少し説明しています。

 アメリカにおける大統領直轄の独立連邦機関であるNEA(the National Endowment for the Arts、米国芸術基金)は、新型コロナウイルスで危機に瀕する文化機関に対し、7500万ドル(約80億円)の支援を決定した。

 今回の支援策について、NEAのチェアマンであるメアリー・アン・カーターは「NEAは可能な限り多くの雇用を維持し、アメリカ経済とコミュニティの創造的な生活に価値を与える何千もの組織の扉を開き続けるための支援を提供する」とコメント。「アメリカは、経済、コミュニティ、生活の一部として芸術とその仕事を必要としており、芸術基金はその役割を果たすことを約束する」と力強いメッセージを出している。

 7500万ドルは非営利の芸術団体を支援することを目的としており、助成された資金は一般的な運営費に充てることが可能。これは、プロジェクトベースで資金を助成するというNEAの通常要件を超えており、アメリカのアートコミュニティが直面する状況への危機感を示している。

 なおNEAによると、2017年の芸術・文化分野の国内総生産は8778億ドルで、同年同分野の雇用は500万人を超えているという。また、NEAは過去にもリーマン・ショック後の09年にアメリカ復興・再投資法の一環として、芸術分野の雇用維持のために5000万ドル(約53億円)を計上した過去がある。

(4月9日追記)
 NEAは、80億円のうちその40パーセントを4月30日までに州や地域の芸術機関に直接助成することを発表。また、残り60パーセントは全米の非営利芸術団体への直接助成金に指定されており、詳細は6月30日までに発表される。

そもそもNEAは幅広い芸術分野を含みますので、演劇以外の各種芸術分野を含むことは確実です。ただ仮に500万人が本当だとして、この全員に配ったら1500円くらいです。なので団体支援のほうが効率がよいとは言えそうです。そして非営利団体への支援なので、少なくとも今のところ、ブロードウェイの興行補償ということはないようです。

フランスです。

 舞台芸術・映画のフリーランス労働者でも失業手当を受給できる制度「アンテルミタン・デュ・スペクタクル」があるフランス。

 文化省は第一弾緊急支援策として3月18日に2200万ユーロ(約26億円)の拠出を決定した。映画関係では、映画館入場料税(映画支援の財源)の支払いを猶予し、音楽では不安定な立場のプロフェッショナルに向けられた支援基金(当初予算1000万ユーロ=約12億円)を創設。入場料税の支払いも猶予する。

 音楽を除く舞台芸術では、雇用の維持に配慮し、民間劇場に対して500万ユーロ(約6億円)の緊急支援を実施。公共劇場については、パートナーの地方自治体と連帯して、衝撃の緩和を図るという。

 また美術関連では、アート・ギャラリー、公共アート・センター、芸術家=作家の支援のために緊急基金(当初予算200万ユーロ=約2億4000万円)を創設。ギャラリーに対する支援の基準を緩和し、延期されたアートフェアの参加ギャラリーに対する助成金は、すでに生じた経費を処理できるように維持するとしている。

 なお3月19日には文化省と労働省がアンテルミタンや短期契約労働者の失業手当受給条件緩和を発表。封鎖期間中に切れる失業手当は封鎖が解けるまで延長する。

個人向けには失業手当で対応、業界向けには映画館、劇場、ギャラリーやセンターといった発表拠点が中心になっています。ちなみに舞台芸術は業界は、民間向けが6億円、公共劇場は別途自治体経由、です。

イタリアです。

 イタリア政府は、舞台芸術・映画・視聴覚産業の企業・作家・芸術家・実演家を対象とする緊急基金(1億3000万ユーロ=約156億円)の創設を発表。また、文化・観光セクターの労働者に所得補償(セーフティ・ネット外の労働者まで対象)を行うほか、企業に対しては租税・社会保障負担金の支払い猶予の措置を取る。

金額は大きいですが、映画や視聴覚産業まで含めての対応です。企業が含まれているのはわかりますが、作家と芸術家と実演家の区別が不明です。おそらく、小説のような本を書く人と、絵や彫刻などの芸術家と、役者と、がかの国では区別されていて、それら全部をひっくるめて対象にするのだと思います。

アラブ首長国連邦も載っています。

 アラビア半島最大級のアートフェア「アート・ドバイ2020」が開催中止となったアラブ首長国連邦(UAE)では、外務省の公共・文化外交部が同連邦のアーティストによる約40万ドル(約4332万円)の作品購入を発表。

 購入されたこれらの作品は、「Artists in Embassies」というプログラムの一部として世界各国のUAE大使館に設置される予定。これは現状他の国にはない支援策だ。

作品を買上げて支援。具体的なモノがあると支援のイメージがしやすいですね。

カナダです。

 カナダでは助成団体・芸術家向けの緊急支援策を検討しており、雇用対策として、通常の失業保険の対象とならない自営業者、契約労働者、フリーランス向けの緊急対応手当を創設。2000カナダドル(課税対象、約15万円)を最大4ヶ月支給する。またカナダ芸術評議会は、助成金の範囲で中止や延期にかかる費用(助成対象経費のみ)を支出可能としている。

 ケベック州は、3月16日にケベック州芸術人文評議会が、助成団体・芸術家に対して、短期資金や緊急帰国費用などの手当てなどの緊急支援を実施することを明らかにしている。

個人への支援が最大4か月と、助成金の支出継続、が2本柱でしょうか。

オーストラリアです。

 オーストラリア芸術評議会は支出を組み替えて、芸術家・芸術組織の緊急支援に約500万オーストラリアドル(約3億3000万円)を投じる方針を発表。また、連邦政府は求職者手当の増額や中小企業向けに2万~10万オーストラリアドル(約140万~700万円)の支援、最大25万オーストラリアドルの融資保証など、総額660億オーストラリアドル(約4兆6200億円)の対応策を打ち出している。

求職者手当などはおそらく一般的な支援ですね。芸術家と芸術組織の内容がわかりませんが、おそらく美術や音楽など全分野合計で3億3千万円でしょう。

シンガポールです。

 シンガポールは3月6日、芸術団体向けに160万シンガポールドル(約1億2000万円)の緊急支援を発表。能力構築(スキルアップ)にかかる費用を助成する。また、国立文化施設の利用料は約3分の1を減免することも明らかにしている。

 また、3月26日には芸術文化セクターにおける雇用の維持のために5500万シンガポールドル(約41億円)を支出すると発表した。

まず芸術団体向けに支援ですが、これもおそらく美術や音楽など全分野でしょう。あと芸術文化セクターにおける雇用の維持、とあるので、フランスのような映画館、劇場、ギャラリー、センター全部をひっくるめているのでしょう。そもそも日本のような芸能プロダクションがシンガポールに存在するのか不明ですが、あったとして、芸術文化セクターに含まれるとは思えません。

香港です。

 香港は、3月5日に香港芸術発展局(アーツ・カウンシル)が芸術文化セクターの支援スキームを発表。当初予算は500万香港ドル(約7000万円)だったが、これを5500万香港ドル(約7億7000万円)へと大幅に増額した。助成プロジェクトについては、1万5000~13万0000香港ドル(約21~182万円)を追加助成し、非助成プロジェクトには1万5000香港ドル(約21万円)、芸術家個人には7500香港ドル(約10万5000円)を支援する。

芸術家個人への金額は日本の全員向け10万円助成金とほぼ同額ですね。元の助成プロジェクトへの助成金額がわかりませんが、追加助成の金額から察するに、同額くらいではないでしょうか。

で、メルケル首相の演説に日本の関係者が落涙したドイツです。

 連邦政府のグリュッタース大臣が「芸術・文化・メディア産業におけるフリーランスおよび中小の事業者に対する大規模な支援」を約束したことで大きな存在感を示したドイツ。

 3月23日には連邦政府が7500億ユーロ(約90兆円)規模の財政出動を決定した。そのなかで、零細企業・自営業者(芸術や文化の領域も対象に含む)に対しては500億ユーロ(約6兆円)を拠出。助成金(企業の規模に応じて、3ヶ月で上限9000~15000ユーロ、約108万円~180万円)や融資(30000ユーロ以上、約360万円以上)といったかたちで当座の資金を提供する。加えて、個人の生活維持のために100億ユーロ(約1兆2000億円)を支援し、各種のイベントやプロジェクトが中止になった場合でも助成金の返還は可能な限り求めないとしている。

どこまでが芸術分野なのかわかりませんが、ここに載っている6兆円と1兆2千億円を足しても7兆2千億円。1人10万円で13兆円の日本の半分です。

もう少し詳しい話がNewsweekに載っていました

3部構成のパッケージは助成金やローンの形で提供されるが、芸術関連の個人や組織に加えて、資金は新聞などのメディアも対象となる。ローンの申請はすでに開始されている。個人の自営業者(従業員のいない自営業者)、個人のアーティスト、および最大5人の従業員を持つ中小企業は3か月間、最大9,000ユーロの一括払いを受け取ることができる。従業員最大10人までの場合、3か月間15,000ユーロまでの一括払いを受け取ることができる。

助成金に加えて、失業保険を含む社会保障も、4月から10月の 6ヶ月間、個人やフリーランサーが利用できるようになる。これはとくに家賃を払えない場合の立ち退きからテナントを保護することが目的で、「誰もが安心して自分の家に滞在できるようにする」ために、政府はさらに100億ユーロの支援を注入する。返済も延期される可能性があり、個人は税務局に減税を求めることもできる。

「助成金は一度取得すれば返済する必要はない」とグリュッタースは強調。連邦政府の援助パッケージにより、音楽家も画家も作家も、映画・音楽関係者や書店・ギャラリー・出版社も、誰もが生き残ることを望んでいると述べた。

「音楽家も画家も作家も、映画・音楽関係者や書店・ギャラリー・出版社も」と幅広い分野が対象です(演劇も入っているでしょう)。個人向けには失業保険の利用を6か月間。団体向けには最大10人までが中小企業の区分のようです。個人向けや条件に該当する事業主向けの支給金額は日本より大きいようですが、事業主の該当範囲は日本のほうが広いように思えます。

そしてイギリス。

 イギリスでは、3月20日にスナック財務大臣が雇用を維持する企業に2500ポンド(約34万円)を上限として、給与の最大80パーセントを助成することを発表。その予算規模は3500億ポンド(約47兆円)に上る。

 そんななか、アーツカウンシル・イングランドは1.6億ポンド(約216億円)の緊急支出を決定。内訳は、フリーランスを含む個人向けが2000万ポンド(約27億円、1人当たり最大2500ポンド=約34万円)で、ナショナル・ポートフォリオ助成団体向けには9000万ポンド(約122億円)、それ以外の団体には5000万ポンド(約68億円)となっている。

これも内訳がわからないので、別の美術手帖の記事から引用します。

 長引く新型コロナウイルスの影響で、世界各国の美術館や博物館の休館や、アートフェア・芸術祭の開催中止や延期などが続いている。こうした状況下、アートや博物館、図書館など文化と芸術に関与している個人や組織を保護するため、イギリスのアーツ・カウンシル・イングランド(ACE)が1億6000万ポンド(約212億円)の緊急資金を提供することを発表した。

 その内訳は、ACEが定期的に資金提供するアート組織である「National Portfolio Organisations」に9000万ポンド(約120億円)、それ以外の組織に5000万ポンド(約66億円)、アーティストやクリエイター、フリーランサーなどの個人に2000万ポンド(約26億円)を提供する。

 個人の場合は、公的資金による文化プログラムの実績があれば、最高2500ポンド(約33万円)の助成金を申請することができる。音楽、劇場、ダンス、ビジュアルアート、文学、コンバインドアート、博物館といった分野で働いている振付師、作家、翻訳者、プロデューサー、編集者、フリーランスの教育者、作曲家、ディレクター、デザイナー、アーティスト、クラフトメーカー、キュレーターなどが対象となる。

 募集要項は、3月30日に公表予定。応募者は4月3日までにACEの応募ポータルサイト「Grantium」に登録する必要がある。

団体向けにはやっぱりアート組織経由が主。そして芸術家個人向けは26億円、ただし資格として「公的資金による文化プログラムの実績」を要する、という条件付きです。日本だと何人該当するのでしょう。

日本は個人と中小規模の事業主はまんべんなく、大規模な事業主は外す方向ですね。でも営利団体への支援をしている国もそんなにありません。単純に配布の仕方の違いだけで、世界最高とは言いませんが、日本の支援内容もそんなに遜色ないと思うのですが、いかがでしょうか。

<2020年5月17日(日)追記>

「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」という日本の演劇業界人が涙した発言ですが、ドイツの首相だと思ったら文化相の発言でした。で、支援の手続を担当しているベルリン投資銀行(IBB)の担当者へのメールインタビューが掲載されました。その中で支援内容についても載っていたので、そこを補足で引用します(ページリンクは略します)。

――コロナ危機対応として用意された援助金/助成金について教えてください。例えば、3月27日から支払いを開始した、Soforthilfe IとSoforthilfe II(Soforthilfeは「即時援助」の意味)の違いは何でしょう?

ホルトカンプ氏 コロナ救急援助金(Soforthilfe I)は、貸付期間最長2年、最大50万ユーロの無利子ブリッジローン(つなぎ融資)としての流動援助金(Liquiditatshilfen)で、中小企業が利用できます。申請は既に打ち切られ、全申請を現在処理中です。

 コロナ助成金(Soforthilfe II)は、連邦政府によって決定された「コロナ保護シールド(Corona-Schutzschild)」からきたものです。自営業者、フリーランサー、最大5人の従業員を抱える中小企業が、最大9000ユーロまで申請できます。従業員10人の企業は、最大1万5000ユーロまで利用できます。

 この助成金は返済義務がありません。IBBのWebサイトにてオンラインでのみ申請できます。3月に既に、ベルリン州は最初の前払いを行い、個人の自営業者、フリーランサー、および最大5人の従業員を抱える中小企業に、最大5000ユーロの助成金を提供しました。

――それに続いて、4月20日に、Soforthilfe IVとSoforthilfe Vという援助金パッケージの存在が報道されました。これらの概要について教えてください。

ホルトカンプ氏 5月11日からIBBで提供を開始したSoforthilfe IVは、11人以上の従業員を抱える文化/クリエイティブ/およびメディア部門の企業を対象としています。 5月18日に申請受付が始まったSoforthilfe Vは、従業員数11人以上の中小企業が利用できるものです。

――なるほど。単独フリーランス、および従業員数が少ない企業からまず援助を開始、だんだん従業員数が多い企業にも援助を行っていく、というシナリオが読み取れます。つまり、コロナ危機で潰れてしまう可能性の高い事業者から順番に救済すると。
(中略)
――さて、4月9日に閣議決定されたSoforthilfe IVとVですが、なぜ、IIIがないのでしょうか? この救済金パッケージは前々からリスク対応パッケージとして用意されていたように推測しますが、そうなのでしょうか?

ホルトカンプ氏 いえ、Soforthilfe IIIも存在しますよ。ですが、IBBを通じては処理されません。上院財務省預かりです。このプログラムは、コロナ危機によって限られた範囲でしか働けない受給者への給与支払いを、企業が継続できるよう支援します。

――現時点で何人の申請者がいますか?

ホルトカンプ氏 5月12日までに、IBBはSoforthilfe I 救助ローンでは、合計1620件の申請がありました。これまでに、969件の申請に対して1億690万ユーロが承認され、5800万ユーロが企業に支払われました。

 Soforthilfe II については、単独自営業者や最大10人の従業員を抱える零細/中小企業から約24万件の応募がありました。これまでに、合計18億ユーロが申請者20万8000人に支払われました。
(中略)
――重複支給などを防ぐ仕組みはあるのですか?

ホルトカンプ氏 申請ツールには、IBAN情報(国際標準銀行口座コード)や納税者番号などを用いて、重複を特定できる自動チェックメカニズムがいくつか実装されています。加えて、念入りに人手によるテストも行いました。

――受取人側の銀行からのデータのフィードバックはあるのでしょうか? 例えば、口座が存在しないなどの受け取りエラー、あるいは、既に受け取り済みであるなどが分かるのでしょうか?

ホルトカンプ氏 IBBのシステムでも独自のチェック処理が実行されますが、受領銀行システムとの連携は非常に優れています。ちなみにこれは、コロナ危機時の連携に限った話ではありません。さらに、商業銀行は、マネーロンダリングなど不正行為に対するチェック処理の実装が法的に義務付けられているため、口座および金銭の動きに疑いのある不正行為を非常に注意深く監視しています。

個人事業主はSoforthilfe IIが対象で、最大9000ユーロ。従業員10人以下の小規模事業者は従業員の人数によって、最大9000または1万5000ユーロ。

従業員11人以上の中小事業者はSoforthilfe IVとVが対象で、業種によってIVかVかが分かれる。芸術関係はIVだけど、芸術関係だけが対象ではない。IVとVの違いは、IVだと25000ユーロの助成金になるけど、Vだと同じ25000ユーロでも財務目的限定?の助成金+ローンの一部免除と建付けがやや変わる(ちょっと翻訳ツールの限界で詳細には把握しきれず)。

Soforthilfe IIIは日本だと雇用調整助成金に該当すると認識します。

素早い支払は、記事のコメント欄にもありましたが、納税者番号で国が全部把握済みだから。日本でマイナンバーが同じ仕組みを目指していますが、私は嫌ですね。マイナンバーに賛成する人は演劇業界にどのくらいいるのでしょう。

こうやって見ると、日本の補償とそんなに変わりがない。Soforthilfe IVが芸術分野を含むけど、それだけでもない。朝三暮四とまでは言わないけど、文化相の演説上手に涙した面もありそうです。

新型コロナウィルス騒動の中で公演を再開する方法を想像する

緊急事態宣言が延長されたので想像してみました。前のエントリーを前振りとして、続きです。この状況で劇団がどうするか。現金を確保していずれ来る上演の機会を待つか、上演する方法を模索するか。現金を確保しても先が知れている、1年持たないから上演の機会を探りたいとしたら、どういう手段があるか。

手持ちのカードは、これまでクラスター感染を出さなかった実績と、あと新型コロナウィルスの感染経路が、三密は駄目だとして、実はそこまではっきりわかっていないこと。そのうえで、世間の非難をかわすための大義名分を探すこと。

そこで、このままではどうにもならないという窮状を訴えたうえで、業界として感染防止策を検証するという名目を立てます。ライブハウスとは違ってクラスター感染を出さなかった実績はある、換気については劇場ごとに違うとしても強力な換気装置を備えている、新型コロナウィルスの詳細がわからなくてもここまでやれば大丈夫だという線を示したい、と旗を掲げてみます。

実際の上演はどうするか。まずは客側。感染が起きた時に追跡できるようにするため、住所まで登録した人だけがチケットを買えるようにします。感染者の移動の可能性を考えて、最初は遠方客は購入禁止でしょう。当日券の販売はもちろんなし、譲渡もなし、家族分も登録がないと買えない、入場時に身分証明書で本人確認実施。

マスク着用は必須だし、入場時の体温チェックや消毒も必須とします。発熱や咳がみられる場合は入場拒否することは、チケット販売時に明記しておきます。客席は1席飛ばしを目安に一定間隔を空けて、その他いろいろな三密解消対策も立てる。ただ、そもそもの客数が大勢すぎると、感染者が見つかった場合の追跡が大変なので、1席飛ばしとはいえ、人数を抑える。最初は1日1公演にしたほうがいいかもしれません。

上演側。稽古参加時点でスタッフ含めて検査してアウトなら別の人にバトンタッチ、劇場入りに合せてもう一度検査してだめならやはりバトンタッチします。特に最初は、私生活の行動も相当制限されることに同意した人でないと参加できないように制限が必要です。稽古から本番中の稽古場の換気と消毒も徹底して、劇場入り後の楽屋も同様の対策を取ります。相部屋も極力避ける。そのためには演目選びの段階から考慮する必要があります。上演中のロビースタッフも、同様の対応。そして上演前後で消毒実施。

これで1か月なりなんなり上演して、毎週の休演日ごとに調査してもらう。

こんなことをやるに当たって、前提がいくつかあります。まず、これまで中止した公演への金銭的支援は求めないこと。支援を求める、でも上演も続ける、だと炎上が予想されるためです。どうせ「自粛」した分はもらえないのが前提だから、そこは最初から諦めましょう。

感染者が見つかったら上演を中止することも前提です。客側に見つかったら、追跡調査が終わるまで待つ。上演側に見つかっても同様に待つ。上演側だけでなく客側にも、行動を律する高い自制心が求められますが、そこは信じるしかありません。もちろん、その間のチケットは払い戻して、検証という名目にふさわしく振舞う必要があります。

そして医療業界を敵に回してはいけないこと。上演するとなった時点で世間の反発は予想されますが、医療業界の反発だけは避けないといけない。いろいろ検索すると、4月上旬の首都圏の医療現場は本当にきつかったようです。それが落着いてきたところに上演とかふざけるな、と言わせてはいけません。そのためには検証の名目が名目だけではない(ややこしい)ことを信じてもらう必要があります。どういうことかというと、稽古前の段階から、稽古場、劇場とも衛生と導線の設計を行なう。関係者にそれを守ってもらうことで、感染者が見つかったとしても、感染経路を狭められて、観ていたから感染したのか、それ以外の場所で感染したのか、特定しやすくすることです。例えば、観客として来場した人が楽屋訪問をして接触、のような事態は厳禁です。なんならロビースタッフと出演者も接触禁止です。そういう設計を行なって、医療業界の人も結果に興味深々とできる専門家を招かないといけません。ダイヤモンドプリンセス号に乗込んで、能力と実績が十分なのに前線から浮いてしまっている専門家とかどうでしょうか。

こういう対策を立てて実行できる劇団はあるでしょうか。残念ながら普段から助成金をもらっている小劇場はお呼びではありません。上演しないとこの先が危ないと訴えられる自他ともに認められているプロ集団、稽古場と劇場を両方所有してその段階から設計対応できる設備、客を登録制にしても一定数の動員が見込める集客力、最初に予定していた人がダメになっても代わりの務まる人がいる人員の厚さ、この対応への協力を呼掛けて賛同してもらうための人気と知名度と政治力、そして、最初は儲けにならないだろうけれどそれでも投資可能な財力。

私はこれこそ劇団四季が適任だと思います。本当なら国公立劇場が率先できるといいのでしょうが、それでクラスター感染が発生した日にはどこから訴えられるかわかりませんので動くのは無理です。宝塚はファン層が女性に限られているので検証の効果が半減なのと、3月の上演が目立って叩かれてしまったので、避けたほうが無難です。創立者がヤス、ケイタの間柄で劇場立地を分捕って以来の政治力はもうなくなってしまったのでしょうか。

もちろんこれを実施した結果、感染が広がると信じられる結果が出たら、業界全体アウトです。あとは観客が想定よりも来なくて赤字が拡大して体力を弱める可能性もあります。なので、あれこれ天秤にかけての想像の話です。

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