こまつ座「紙屋町さくらホテル」俳優座劇場(ネタばれあり)
<2007年5月2日(水)夜>
戦争中、観光客の減少に伴って、軍の慰問劇団兼稽古場に衣替えしたホテルでは、東京から有名俳優と有名女優を招いて入団審査中。ホテルの女主人はアメリカ帰りの日系人であるため、特高から監視されている。そこへやってきた薬の行商人は、宿泊と引換に入団することになる。実はこの行商人は、天皇陛下からの密命を受けて全国の陸軍施設の現状を隠密調査している海軍大将だった。その大将を尾行していた陸軍の密偵も、行きがかりで入団することになる。全員で3日後の芝居上演を目指すためにいろいろな騒動が起きる、昭和20年5月の広島。
劇中稽古に歌を絡めて、本当の演技指導まで取入れつつ、戦争へのメッセージを織交ぜるという面倒くさい構成をすっきり見せる、非常に良く出来た脚本。3ヵ月後はチラ見せだけで観客の想像に任せているのがよい。
戦争で苦労するのはいつも下っ端で(*)、戦争なんてやるもんじゃないし、戦時中の国家も勝手なことばっかり、守る国民を犠牲にしてとはどういう了見だ、だいたいどこにそんな物資を隠し持っているんだ、というメッセージはまあその通り。
私が食いついたのは「国民の被害が拡がったのは、終戦の決断を陛下に促さなかった私にも上層部の一員として責任がある(大意)」という海軍大将(辻萬長)の台詞。国を会社に、天皇陛下を社長に見立てれば、完敗(倒産)したのはトップの責任だろう、という翻訳をすると、井上ひさしの政治的意見も理解しやすいのではないかと。天皇機関説というか、天皇陛下社長(会長?)説、ですね(**)。なんでこんな見立てを行なったかというと、サラリーマンをそこそこやっていると、組織の長の責任というものにいろいろ言いたいことが(略)。
それよりも注目なのが、いろいろな演技指導や新劇初期の話。なんか残しておきたいと脚本家が思ったんでしょうか。前半終盤の稽古場面は相当面白い。名前を呼びかける場面は、役者の実力を試されているみたい。いろいろ説明される舞台関係者も実名ばかりで、特に築地小劇場の3人については、今回の会場である俳優座劇場に写真が飾ってあるという縁も。
役者(「俳優だ!」)は有名俳優役の木場勝己がいち押し。辻萬長、栗田桃子が続く。陸軍密偵役の河野洋一郎は現在場面がいまいち。有名女優役の森奈みはるは歌声が出ていない。言語学者役の久保酎吉は、手帳の長台詞が迫ってこなかったのが残念(他はよかったのに)。軍の現状を劇団に例えて説明する場面は会場の反応はいまいちだったけど、私は内心爆笑。
何度も上演されるだけの出来です。全員の紹介が終わる前半の前半までは遅いけど、残り4分の3はお勧め。今回は当日券は補助席のみ。多分最大でも15席くらいのはず。
チラシには前回公演のこちら方の感想が載っていました。こちらの方は今回も観たようです(ひょっとして同じ回だったのかも)。ブログからの引用とは最近の事情を反映しているな、掲載許可の連絡はあったのかな、と内容とは無関係なところに発想がすぐ飛ぶ今日この頃。
*:下っ端というのは見下した意味では使っているわけではない。為念。
**:芝居に政治が持込まれるのが私は嫌い。ここは芝居サイトなので、政治については論じない。純粋に、私が会社で(略)な連想が働いて、その副産物として拒否反応が少なく済んだ、ということ。為念。
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