二兎社「歌わせたい男たち」紀伊国屋ホール(ネタばれあり)
<2008年3月22日(土)夜>
ある都立高校の卒業式当日。元シャンソン歌手で、今は臨時の音楽教師として勤務しているミチルはピアノが苦手。体調が悪い上にコンタクトレンズを落としてしまい、楽譜を読めない。今後も勤務を続けたいミチルはなんとしても卒業式での伴奏を成功させたい。同僚の社会科教師である拝島の眼鏡がぴったりであることを思い出し貸してくれるように頼むが拒否されてしまう。日の丸掲揚、君が代斉唱に反対する拝島は、自分の眼鏡で君が代の伴奏の手助けをすることに抵抗があるという。眼鏡を貸してもらうための説得が、いつのまにか校長や他の教師も巻きこんだ日の丸、君が代論争になっていく。
幸運にも初演をベニサン・ピットの通路席かぶりつきで観られた名作。役者も美術もそのままに、脚本演出に細かい手直しを入れて再演。ホームページには「今回限り」と書かれているので、少なくともこのキャストでの再演はもうないでしょう。と思って観て来ました。
感想は、うーん、初めての人が観るならよく出来ているし笑いどころもたくさんあるしで楽しめるはずの仕上がりですが、脚本演出の細かい変更が私の苦手な方向に作用してしまい、初演の感動を再びとはなりませんでした。以下ひたすら初演との比較ですので、そんな比較のいらない方はここまでで。
初演だと、日の丸君が代なんてどうでもよい、何と言われようとこの仕事を手放すわけにはいかない、というミチル(戸田恵子)の態度が他の役やテーマの中和剤となっていたのですが、今回の演出ではミチルが徐々に真剣に考え込むような印象を受けて、中和剤らしさが半減していました。
拝島(近藤芳正)を説得する他の役は初演よりも嫌らしさが強調されていて、言い分を聴く以前に嫌悪感を感じさせるような台詞や演技が目立ちました。拝島は初演とそんなに変わらないのですが、結果として
拝島は嫌な役から嫌われる役->拝島がいい役に見える->拝島の言い分が(劇中の)正義のメッセージに近づく
という流れを感じてしまいまして、初演のウェルバランスが消えてしまったのが残念。特に、臨時教員は校長の指導に従わなくてもいい、と拝島がミチルに説明する場面で、校長(大谷亮介)が契約更新しないことをちらつかせるのは、初演にはなかったと記憶していますが、決定的に芝居のバランスを悪くした、非常に残念な場面です。
初演と比べて気の毒な面もあって、校長の演説場面は、初演では小泉元総理の真似を取入れることで笑いと批判のバランスを取っていました。今回はそこを石原都知事の真似に変更して対応していましたが、いまいちでした。一部福田総理の真似もしていたかもしれませんが、最近テレビを観ていないので真似されてもわからない(これはこっちのせいですけど)。
というわけで、初演を観てしまったために粗探しになってしまってもったいなかったというのが感想です。
補足:
今のところ私は日の丸、君が代については正直どうでもよいという立場なので、それに関する突っ込みはなしで。むしろ改めてこの芝居を観て、何を教師の責務とするか、何を教師の責務としないか、教師の責務を考えるときにどのくらいの範囲で考えるべきか、そっちのほうに興味をもちました。
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