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2008年4月21日 (月)

Bunkamura企画製作「どん底」Bunkamuraシアターコクーン(ネタばれあり)

<2008年4月19日(土)夜>

ロシアの地方のある村にある安宿。光も差さない不衛生な地下室にはその家賃にも苦労するような人々が相部屋で、大家からの取立ておびえながら暮らしている。ある日この宿に巡礼の途中であるという老人が宿泊する。ささいなことで諍いが絶えない住人を諌めたり慰めたりする老人に触発され、少しずつ皆の心が前向きになっていくのだが・・・。

読んだことはなくても題名だけなら誰もが知っている「どん底」を、ネタのためなら時代考証も無視するKERAの演出で上演。もはや驚かない3時間15分の長丁場ですが、長さが気にならない面白さです。

地下室の住人は貧困にあえいで、それでもそれなりに楽しく過ごし、時には助け合う人たちです。演技で観ているとものすごく魅力的なのですが、住人たちを取巻く環境がそれ以上よくなるような希望はまったくありません。大家の一家は貧しさこそ逃れているのですが、不信と諍いが絶えません。お金だけでは幸せになれないという典型です。彼ら彼女らに足りないのは「明日は今日よりもよくなる」という希望と、それを信じる心です。

そして希望を語る老人はすばらしいのですが、その希望が却って状況を悪化させる原因になってしまいます。ほんの数日立寄っただけの人による親切は、結果を見れば不親切に終わります。それで環境が改善されたのは、老人から何も励まされなかった饅頭屋だけです。

ひとりだけ、原作に新たに追加されたという正体不明の男は実は記者で、これは容赦なく人間のくずとして描かれています(笑)。他人を踏みつけて生きてきた人間の嫌らしさを短い台詞であらわしています。いくら生活に困らないとはいえまったく羨ましくない人物です。

人間に対する信頼と、そんなものを蹴散らすような冷徹さが混ざって、なんというか、現実主義なんでしょうか。どこまでが原作でどこまでが脚色演出なのかはわかりませんが、100年前の芝居とは思えません。幸せや希望や現実はいったい何なのか、選択肢の限られる人間がいったいどうやって過ごすべきなのか、考えさせるけど主張は提示されません。真面目に考えようとするなら、これほどきつい芝居もない。その混沌を、混沌のまま、上手に舞台化するKERAの腕前が発揮された芝居です。

そんな芝居を明るくしてくれるのは華も実もある豪華キャスト。KERA演出に役者の外れはないし、というか今回大当たりだし、段田安則や江口洋介や荻野目慶子や緒川たまきを褒めてもいいんですけど、それよりも目を引いたマギーと松永玲子をべた褒めしておきます。演技を演技と思わせないくらい伸び伸びとして住人のたくましさを全身で体現したマギーと、売春婦の強さと弱さを交互に出して魅力を十二分に振りまいた松永玲子の2人が、今回のキャストの中でも拳ひとつくらい目立っていました。

ひとつだけ残念だとすれば、これだけはどん底とはいかないチケット代です(苦笑)。私はとてもいい席で観られて満足しましたし、ぜひお勧めしたい芝居なのでが。立見も出ていますから、お金に余裕はないけど体力に自信のある人は立見を狙ってはいかがでしょうか。ちなみに見切対策で上手を優先的に発行しています。そういう細かさがありがたいシアターコクーンです。

ただ、先日観た「バーム・イン・ギリヤド」もそうですけど、本当にここのところ、きつい現実を描いた芝居が多いですね。人間が現実にそれだけ追いつめられているということでしょうか。

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