乞局「杭抗(コックリ)」こまばアゴラ劇場(ネタばれあり追記注意)
<2008年6月6日(金)夜>
ゴミの埋立で作られ、戦争直後は戦犯の収容所が建ち、その後で工場とマンションが並び、でもどこかスラムの雰囲気が漂う、同名にして現実とは別物の平和島を舞台に描かれる4世代の物語。
乞局といえば不気味な設定、難しい漢字を当てた不吉な役名、喪服、土下座のカーテンコールと後味の悪さで徹底してきた劇団。相変わらずその後味の悪さは継続中、かと思いきや、今回のラストは何か違う。いや後味悪いんですけど、必ずしもそうとはいえないところがある。これはレベルが高い。
3部構成でだいたい60年分90年分を描いて、しかも4世代のうちの1人は外国人なのですが、それぞれの世代の変遷を通して、日本人の変化してしまった部分と、60年90年たっても変化できなかった部分とが執拗に描かれます。笑いは皆無に近いですが、引込む力の強さとラストの場面の構成力は半端じゃないです。これはぜひ観て確かめてほしい。
以前観たときは役者のレベルが揃っていなかったのですが、今回は2役をこなして、しかもどちらも素晴らしい演技を観せてくれる役者ばかりで実力十分です。美術と照明の上手さも芝居を盛上げます。松村翔子が降板していますが、もったいなかったですね。
こまばアゴラ劇場のいつも通りの自由席なのですが、下手だと一部見切れができますので、観に行く人はできれば上手に陣取りましょう。席選びの失敗だけが無念です。
後味の悪さなんて気にしない、むしろ臨むところという人たちにはぜひ観てもらいたい。
8日までは終演後に「グレムリンの行程」という短編も上演しています。これは悪意に満ちた寓話というでも言えばいいのかな。日本を落着いて外から見るとこんな感じという短編で、こちらはなんかエロかったり笑えたり、でも後味悪くて拍手もし損なう(笑)芝居です。これはこれで一見の価値あり。
2008年6月7日(土) 60年分 -> 90年分に変更。現実とは別物といいつつ、現実の近未来まで想定している舞台でした。
2008年6月8日(日)ネタばれになるけど個人用に内容メモを追記。これから観に行く人は読まないで。
・構成:3つのネタ。セックスと出産。差別と格差。おかしい人の基準。時代は戦後、バブル期、近未来(予想2035年)。
・昔はセックス(それが強姦でも)して子供が出来て出産するけどそれは命がけ。子供ができないとそれは何か気まずい雰囲気。今は結婚して子供ができる。将来はセックスではなく人工授精。それって変じゃね。
・戦争したとはいえ昔のほうがむしろ外国人をあまり差別してない。権力を持つものが持たないものを差別した。あと男尊女卑。今は女性が働くようになって男尊女卑が解消されたけど、仕事と稼ぎによる格差があり、外国人差別があり、外国人や貧しい人が底辺に追いやられる。それを見て見ぬ振りをする。格差が相対的に上の人が下の人を差別する。将来は外国人の血が混じっていることは何とも思われない。でも日本人の中で二極化。仕事をしている人と仕事がない人。仕事がない人は生活も性格もすさんでいる。そうなっちゃうよ。
・昔はおかしい人間とはわかりやすい犯罪を犯す人のこと。強姦とか詐欺とか。今は精神的に病んでいる人のこと。将来は何も問題のない普通の人がブラジャーを着けたり。おかしさが分散している。これはTHE SHAMPOO HAT「木更津」でも描かれていた。
・3つの時代で最初の2つははっきりつながっている。戦争時代に直接つながっている人が生残っている。近未来ではつながっている人がいないのは当然だが、その時代の話が何も語り継がれていない。祖母の国に出かけることを旅行の一種として捉える。それは悲劇?むしろ歴史との和解?個人的には後者と見て大感動したが。でもそんな曾孫の危機を助ける曾祖父。血はつながって、今までずっとつながって。
・最後の娘が訛っているところに意図は何かあるか。いくつか想像できるが、確信するだけの材料はない。
・「今」という言葉を使ってメモを書いたけど、「今」の話はない。少し前か少し後。
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