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2008年12月29日 (月)

2008年下半期決算

2008年も終わりが近づいてきたので、恒例の決算をしたいと思います。

(1)パルコ企画製作「SISTERS」PARCO劇場

(2)青年団「眠れない夜なんてない」吉祥寺シアター

(3)松竹製作「羊と兵隊」下北沢本多劇場

(4)劇団☆新感線「五右衛門ロック」新宿コマ劇場

(5)Bunkamura企画製作「女教師は二度抱かれた」Bunkamuraシアターコクーン

(6)松竹製作「八月納涼大歌舞伎 第三部 野田版愛陀姫」歌舞伎座

(7)パルコ企画製作「ウーマン・イン・ブラック」PARCO劇場

(8)TPT「ミザントロオプ」ベニサン・ピット

(9)シス・カンパニー企画製作「人形の家」Bunkamuraシアターコクーン

(10)ナイロン100℃「シャープさんフラットさん(ホワイトチーム)」下北沢本多劇場

(11)ナイロン100℃「シャープさんフラットさん(ブラックチーム)」下北沢本多劇場

(12)世田谷パブリックシアター企画制作「THE DIVER」シアタートラム

(13)パルコ企画製作「幸せ最高ありがとうマジで!」PARCO劇場

(14)ウーマンリブ「七人は僕の恋人」下北沢本多劇場

(15)Bunkamura企画製作「表裏源内蛙合戦」Bunkamuraシアターコクーン

(16)青年団「冒険王」こまばアゴラ劇場

(17)五反田団「すてるたび」アトリエヘリコプター

(18)パルコ企画製作「グッドナイト スリイプタイト」PARCO劇場

(19)新国立劇場主催「舞台は夢 イリュージョン・コミック」新国立劇場中劇場

(20)俳優座劇場プロデュース「空(ソラ)の定義」俳優座劇場

(21)青年団「サンタクロース会議」こまばアゴラ劇場

(22)青年団「サンタクロース会議(アダルト編)」こまばアゴラ劇場

(23)KERA・MAP「あれから」世田谷パブリックシアター

上記23本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果、

  • チケット総額は141950円
  • 1本あたりの単価は6171円

となりました。上半期の予想である「下期20本」は少し超えましたが、2バージョンものが2本あった(「シャープさんフラットさん」と「サンタクロース会議」)ので、本数だけなら予想の範囲と言っていいと思います。その上半期とあわせると全37本で

  • チケット総額は238150円
  • 1本当たりの単価は6436円

です。年末に話題作が集中するので総額が上期より増えるのはいつものことですが、青年団4本+五反田団の芝居が集中したため単価は下期の方が安くなりました。ただ、通年での単価は微増してしまい、なかなか前年比で減少してくれません。

またチケット代が二極化していて、高いプロデュース公演と安くて頑張っているこまばアゴラ劇場系に分かれてしまっています。4000円から6000円の間がほとんどありません。伸び悩む劇団が多いのか、今までならこのクラスへの成長を目指していた劇団が集客よりも自由度を選んでいるのか、微妙なところです。

それと、上期の決算でも書きましたが、今年は劇場にはっきりと偏りが出ています。

  • Bunkamuraシアターコクーン 6本
  • PARCO劇場 5本
  • 世田谷パブリックシアター+シアタートラム5本
  • 下北沢本多劇場 4本
  • こまばアゴラ劇場 4本
  • その他 13本

ということで、3分の2を渋谷、三軒茶屋方面で観ています。つまり劇団芝居をほとんど観ていないということですね。新規開拓はもはや諦めの境地です。

「その他」に2本含まれるいるベニサン・ピットが来年は閉館するので、プロデュース公演中心の観劇がますます渋谷方面に移動することが予想されます。王子小劇場は気になる芝居がコンスタントに出てくるのですが、東京に行くついでにいろいろ用事を入れてしまうと、ちょっとの距離が結構なハンディになってしまうのが残念です。

「どれだけ舞台を観られるかは時間とお金と運次第」とはこのブログのトップに掲載している文言ですが、来年の経済状況でどれだけ観られるかはまさしく時間とお金と運次第です。やや控えめに30本を目標としたいと思います。

来年もよろしくおねがいします。

2008年12月24日 (水)

KERA・MAP「あれから」世田谷パブリックシアター

<2008年12月23日(火)昼>

中学生時代に同級生で30年ぶりに再会した女性2人。それぞれ夫と分かり合えない問題を、片方は仕事に打ち込むことで、片方は不倫で紛らわしているが、そんな話をいきなり相談できるわけもない。そんな中年夫婦2組の、接点を持たせたり持たせなかったりして描く日常の危機の話。

あーもうこれは傑作としかいいようがない。夫婦のすれ違いの原因とか、登場人物の職業とか、微妙だったり微妙じゃなかったりするエロとか、あってもおかしくなさそうなちょっとした設定やイベントをどんどん重ねて絡めて盛上げていくあたりが最高です。私には味わいきれない部分もあるんですが、似たような経験を持っている人が観るとより深く味わえるのではない かと思います。ラストはちょっと予想外だったのですが、あれが今の気分ってやつでしょうか。主人公が女性2人なので、女性のほうがより感情移入できそうです。

高橋克実-高橋ひとみの夫婦と、渡辺いっけい-余貴美子の夫婦で、脇でも贅沢な役者をそろえて、はずれなし。というか豊作。高橋克実、高橋ひとみ、余貴美子、山西惇たちの演技を堪能した一方で、渡辺いっけいにもっと出番がほしかったとか、植木夏十のツンデレ娘と赤堀雅秋の乱暴者と萩原聖人のちょっといい男がKERA芝居で続いている気がするので別の役でも観たいとか、微妙なリクエストはあるんですが、今回の出来は全員よいです。

芝居の内容をそのまま抽象化したような美術と、格好いい照明と、どきどきする音楽と、おしゃれな衣装+髪型。スタッフワークもいいもの観たって感じです。

ただひとつ、ある程度まではリアルな設定なんですが、カウンセラーの助手があの調子というのが、話を転がすために必要とはいえ、ちょっとやりすぎたかと。それを言ったら赤堀雅秋の乱暴っぷりはありなのかとか、深さ(観ればわかる)とか、抗議に来る際の名乗り方とか、突込みどころはいろいろあるんですけど。客席が結構真面目に観ていたような回だったので、別の回に観れば印象がちがったかもしれません。まあそれで傑作の評価が変わりはしません。

最後にひとつ。客席が埋まっていません。日にちと時間が悪かったのかもしれませんが、2階席なんてスカスカでした。この芝居を埋もれさせてはもったいないので、制作は最後に頑張ってほしいところです。今やっている三谷幸喜と同じ値段で、あちらはあちらで面白かったのですが、私はこちらを推します。24日の休演をはさんで残り6ステージのみですが、今年の芝居納めにこの1本、いかがでしょうか。休憩を挟んで3時間と相変わらずKERA=長時間ですが、面白いから大丈夫ですよ。

<2008年12月28日(日)>

粗筋を訂正。

2008年12月23日 (火)

青年団「サンタクロース会議(アダルト編)」こまばアゴラ劇場

<2008年12月22日(月)夜>

粗筋は子供参加編を参照。

内容をがらっと変えてくるかと思ったらそんなことはなく、本物の子供の変わりに役者3人が子供代表として出てくる。で、話の筋道はそんなに変わらない。ただしところどころで子供らしくない発言とかしょうもない発言とかが出てくる。立蔵葉子のガリガリ博士の過去と、山本裕子演じる浜口先生に対する保護者3名(田原礼子、兵藤公美、川隅奈保子)の調子がツボ。開演前に風船を割ってしまったのは内緒だ。

筋だけ見ればこっちのほうが楽しいけど、本物の子供を相手に進める分だけ子供参加編のほうが緊張感がある点で好みかな? 村井まどかのリラックス度も違いましたし。本物の子供相手の緊張感で良し悪しを判断するのも何なので、そこは人それぞれの判断でお願いします。

<2008年12月23日(火)追記>

完全にかぶってる

青年団「サンタクロース会議」こまばアゴラ劇場

<2008年12月22日(月)夕>

サンタクロースに関する様々な討議を行なうことが目的の「サンタクロース会議」第833回から第835回までを、保護者や関係者や識者に加えて、子供を招待して行なう企画。

粗筋になっていなくて申し訳ないが、会議モノかつ会議の参加人物自体がネタになっているので、千秋楽前日とはいえ詳細は書きにくい。面白かったけど粗筋はこんなもんでご勘弁。アダルト編の感想はこちら

会議1回が1場になっていて、毎回の議題ごとに子供に質問を振るのだけど、その答えを実に上手に拾う出演者が素晴らしい。適切な回答を毎回アドリブで要求されてしかもこなした立蔵葉子と、鉄道マニアの子供の発言を当り前のようにフォローした島田曜蔵がナイス。明らかに気を使っていた議長役の村井まどかですが、無事に会議を仕切った彼女には拍手を。

で、そんな会議でサンタのいろいろが議論されて、その合間にいろんな話が起きて、最後はなんじゃそりゃ、ときれいに落ちるその展開は、きれいすぎて毒づきたい気もなくはないけど、ありと言えばあり。

今回いたく感心したのは、子供客が15人くらい(20人くらい?)いたのに、きちんと巻込みながら話を進めていく手際。客席にお兄さんお姉さんを配置して誘導、チケットの塗絵による時間つぶし、開演前の案内、上演中の発言の振り方と意見の引出し方。なにより子供を馬鹿にしないで、ただし目線は子供に合わせた付合い方。観終わってから当日パンフを読んだら、事前に様々な形で子供の反応を確かめたとの事。海外公演よりよほど不安だったと書いているが、その初めての分野に挑戦する気概と、初めてのことを実現するまでの準備を実践できる限りは、青年団の繁栄は続くでしょう。

子供に安心して観せられるし、実際子供も観ていて参加できて、楽しいと思います。やっぱり平田オリザはすごい。

2008年12月13日 (土)

俳優座劇場プロデュース「空(ソラ)の定義」俳優座劇場

<2008年12月12日(金)夜>

喫茶店を経営する父と、医者の娘。母は娘が2歳の時にいなくなった。娘は念願の留学が実現しそうだが、ちょうど妊娠し、同じく医者の夫と意見が食い違っている。というタイミングでいろいろな出来事が重なったある日の話。

青木豪脚本。表テーマに結婚の話を用意して、裏テーマに60年安保の政治活動を見せる。やや御都合な出来事を織交ぜつつ、かついかにも青木豪と言えなくもないけど、そこは上手に展開させつつ鋭い台詞をさらっと混ぜて、とてもよいお話。佳作です。

結婚生活に関する近頃の話と安保がつながるのかと思うんですけど、きれいにつながっていました。展開としてもそうなんですけど、メッセージというか、時間のつながりというか、それがとても腑に落ちた。いかにも安保な台詞もでてきますけど、それが本来のメッセージを引立てるスパイスだということがよくわかる。

並居るベテランを従えて松永玲子が主演だったけど、鮮やかに切替わる感情、目まぐるしく変わる表情、絶妙の声のトーン、一人勝ちになってもおかしくない素晴らしい仕上がりでした。同じ土俵に乗らずに自分の役を通した名取幸政や中嶋しゅうで、バランスが取れていました。普段だと縁の遠いベテラン俳優をこういうよい芝居で観られて幸せです。

それにしても結婚の話、この前の三谷幸喜もそうだったし、今度のKERA・MAPもそうだし、世の中そんなに結婚生活がやばいのか。世の中の変化に人間が追いついていないのか。

チケット半額デーだけでもありがたいのに、いい席が取れたので表情までじっくり堪能できて満足です。ひとつだけわからなかったのは客席の反応で、ここで笑うかという場面でも笑い声が聞こえたりして、なんというか、新鮮な客層でした。

あと、俳優座劇場の素っ気ない公演紹介ページはあんまりでしょう。改良を求む。

2008年12月 7日 (日)

新国立劇場主催「舞台は夢 イリュージョン・コミック」新国立劇場中劇場

<2008年12月6日(土)夜>

行方不明の息子の消息を知るために、魔術師の元を訪ねた老父。魔術師は老父の願いを聞き入れて、息子の消息を目の前で再現してみせる。行方不明だった息子は紆余曲折を経て貴族の娘と恋に落ちて・・・。

フランスの古典脚本に、豪華な役者を集めて、芸術監督が演出した、新国立劇場気合の1本。ですが、非常に普通の仕上がりになったのがもったいない1本でもあります。

古典「喜劇」なので、やりようによってはいくらでも面白くできるはずなのですが、本筋の恋物語をものすごく堅い演出でまとめてしまったので、なんというか、喜劇にならない。劇中劇の構造なのでそちらを生かすようにしたかったのかと推測しますが、高田聖子がいろいろやって、後半の堤真一が軽めに仕上げて、一回だけ秋山奈津子が飛蹴りを披露して、しかもそれが成立していたのを観ると、これを松尾スズキが演出したらどうなっていたことかと残念でなりません。

この公演は席種によっても印象が変わると思いますが、A席から観た感想では、正面寄りの演出になっていたので、A席以外のほうがいいかもしれません。ちなみに、サイドでも見切れはほとんどなさそうなので、B席やZ席だとコストパフォーマンスが高いです。当日券でも売残っていましたのでこれから観る人はそちらを狙うのもありです。役者については秋山奈津子の全力投球と堤真一の口説き文句と健気な高田聖子と、とにかくいろいろ観られますので、私が言うほど芝居は悪い仕上がりではないですよ。むしろ役者の出来は素晴らしい。昼間に三谷幸喜を観たというタイミングの悪さが大きいです。

今回ひとつ収穫だったのはその席種で、もともと広い中劇場を、舞台を中央に持ってくることで狭く見せた使い方。2階席も禁止しているので、広めの青山円形劇場みたいで、どの席からでも非常に観やすいし、舞台との距離もそれなりに近いです。新国立劇場の公演は客の入りが悪いという噂もありますのでそれを防ぐためという可能性もありますが、災い転じてこれだけ演劇向けの舞台が組めるなら、今後もっとやりようがあると思います。ただ、マイクを使っていたせいか今回はたまに台詞が反響していて聞きづらかったです。あの役者陣なら演出にすらマイク不要だと思うのですが。大劇場(オペラ劇場)も台詞が反射していたので、劇場の構造のせいかもしれない。

唐突ですが、囲み舞台でも臨場感あふれるこんな芝居を観るにつけ、やっぱりシアターコクーンはよく出来た劇場だよなと思います。

パルコ企画製作「グッドナイト スリイプタイト」PARCO劇場

<2008年12月6日(土)昼>

30年近く一緒に過ごして、ついに離婚することとなった夫婦。かみ合わない会話、食い違う想い出、通い合わない心の内をたどる回想。

三谷幸喜の新作。劇場では楽しく、劇場を出た後はなにも心に残らないような芝居が理想と言っていた三谷幸喜が、劇場を出た後も心に残るのは百も承知で出してきた(と思われる)夫婦の微妙な会話とすれ違いを描いた芝居。これが作風のターニングポイントになるのか、それとも特異な1本になるのか、面白うてやがて悲しき芝居です。

妻が夫を離縁した形を取っていますが、まあ実際に男性より女性の方がいろいろ影響を受けることが多いので、その分いろいろ考えているし、全体としては夫に責任がある形に仕上げたのは三谷幸喜の賢いところです。そのいろいろ考えた結果としてどんどん変わっていく女性を演じる戸田恵子の幅の広さと、あんまり変わらない男性(笑)を演じる中井貴一の情けなさの対比は、非常によくできています。観る人によってどこが身につまされるかは違うけど、かならずどこかはひっかかるという点で、とても普遍的な内容ではないかと、偉そうなことをいいつつ感動するわけです。

そこそこ広い舞台を2人芝居で埋めるために中心に集中させた美術、ベッドの距離、演奏者もときどき舞台に参加させる生演奏、登場するアレ(内緒)、5分前から始まる三谷幸喜のアナウンス、黒子の衣装など、細かい工夫がいっぱいです。個人的には時間の前後関係を教えるパネル(観た回では表示が一度間違っていたような気が)は不要だと思うのですが、芝居初心者にはあったほうが親切ですから、そういう細かい配慮のできるあたりが三谷芝居の人気の一端かと。

笑い多数あり、涙少々あり、9000円はやや高めですけど今の日本では(劇場の適度な大きさみたいなものも含めて)このクオリティにはこれが相場と割切って、普段芝居を観る人はもちろん、普段芝居を観ない人にもお勧めです。当日券は当日電話予約が必要なのでご注意を。詳細はPARCO劇場のページでご確認ください。おそらく毎回10枚前後にキャンセル待ち数枚です。

2008年11月24日 (月)

五反田団「すてるたび」アトリエヘリコプター

<2008年11月23日(日)夜>

長女、長男、次男、次男の妻のいろいろを、次男の視点で描く。

同じ話題で生とか死について見た夢をそのまま何本か舞台にあげました、みたいな芝居なのであらすじを説明しづらい。ネタばれOKならアレーシャ日記のエントリーを参考にしてください。でもここまではっきり説明すると、曖昧さに潜む面白さとか不気味さが失われてもったいない気もする。4つの椅子だけで場面転換を進めていく素早さは、最近こういう見事な展開を観ていなかったので新鮮。

当日パンフによれば思いついた内容を、思いついた段階の未分化なままに近い形で作った脚本らしいですが、(えんげきぶっくの記事によれば)やはり思いつきに近い宮藤官九郎の「七人は僕の恋人」とはまったく違うことに、個性とは何ぞやとかいろいろ考えたりします。笑いを取る合間に深い台詞を混ぜたり、余裕度が高いです。こちらのほうが展開がとっぴでマニア度は高いですが、かといって何を言っているのかわからないということもない、すれすれのバランスは保たれているのが脚本演出の腕なんでしょう。

次男役の黒田大輔が全力で優柔不断に振舞ってじたばたするのも見ごたえありですが、それを長男役の前田司郎がいなす間が絶妙。前田司郎はもっと役者としても活躍してよいのではないでしょうか。長女役の後藤飛鳥と妻役の安藤聖にMな仕打ちもある意味エロい。

苦情をひとつ。客席がぎっしりだったため入口付近も混雑していたのですが、それにしても終わってすぐに元気な声で「順番に退席していただくのでお待ちください」と案内するのは余韻が台無しです。あそこはもう少し大人な声で案内するか、あるいは事前に案内しておくか、工夫がほしいところです。

2008年11月23日 (日)

青年団「冒険王」こまばアゴラ劇場

<2008年11月22日(土)夜>

1980年のイスタンブール。もともと西欧人が居つかない国のため、外国人向けの安宿に日本人だけが泊まっている部屋のひとつ。泊まりに来る者、旅立つ者、泊まり続ける者たちのいろいろな話。

7割が実話と当日パンフに書かれた、平田オリザ17歳の旅行時の体験談。初演は1996年らしいけど、今観ても全然古くない。笑える場面も多数あるし、前作「眠れない夜なんてない」よりもいろいろな情報がストレートに表現されていて、誰にでも勧められる、面白いと素直に言える作品です。

音響なしでも大丈夫という、あいかわらず層の厚い役者陣です。青年団の役者は個性を消すのが上手い人が多いのですが、大竹直はいい意味で妙な存在感を放っています。目立つ役だからということもないと思うのですが、青年団にしては珍しい。

以下当日パンフを読まないとわからないので申し訳ないです。

当日パンフによれば、もともとは「怠惰、退廃」を描写したが、前作の後で見直してみるととても真摯な若者たちに見えたため、今回は明るく積極的に演出してみたとのことで、実際そういう仕上がりです。何で作者がそう思ったかというと、推測ですけど、ここ10年くらいの間に

  • 日本のしがらみというかシステムが世界の先進国と比べると特殊である
  • 日本のシステムから脱出して暮らしている人も大勢いる
  • 日本でも従来のパターン以外で成功する人が増えてきたこと

などの情報が、インターネットの普及で若者を中心に共有されてきたことが大きいと思います。逆に言えば、12年前の平田オリザは日本を脱出する若者に冷たかったけれど、今は日本以外で生活する他人への抵抗がなくなったのでしょう。ヨーロッパで仕事をして10年経って、「The World Is Flat」を実感しているのかもしれません。

ちなみに私の意見として、日本の将来は悲観的でも、日本人が国にお付合いすることはないし、実際に個人レベルで観察すると十分生きていける人たちが多いと思います(自分の事は棚に上げます)。なのでこの芝居、前作と違って、非常にポジティブに受止めました。

2008年11月17日 (月)

Bunkamura企画製作「表裏源内蛙合戦」Bunkamuraシアターコクーン

<2008年11月15日(土)夜>

江戸時代、高松に生まれ長崎に学び江戸で活躍した平賀源内の一代記。

源内の心のうちを語る役として裏源内を配置し、活躍したとばかりは言えない源内の一生を見せつつ、江戸の風俗を描いてみせる芝居。4時間10分の大作でしたが、私はダメでした。

最初からずっと出る役は源内(表源内と裏源内)くらいですけど、それすら飛び飛びで、あとは様々な人物が次から次へと出てきます。一代記だから様々な人物が出てくるのはしょうがないにしても、落着いて役を追うことはできませんし、正直、主役の2人以外は群集扱いです。「月光のつつしみ」で上手だった篠原ともえに期待していたんですけど。

で、源内とは直接関係ない、江戸の風俗にまつわる人たちもたくさん登場するのですが、そのうちの大半がワンポイントで、源内に絡むわけでも、そちらで話を作るわけでもありません。役や物語を観たい私には、水増しエピソードになっただけです。さらに一部は(今の感覚では)グロい風俗に関係する人たちで、おそらく実際にあった内容を調べて登場させているのだと思いますが、猥雑を通り過ぎて、さらし物感覚です。

舞台の背面には鏡があって、セットの裏側や客席が写る美術になっているので、不遇な評判だったころの源内の扱いも含めて「観客のお前らが一番残虐なんだからすました顔をしているんじゃないよ」という演出だと思います。が、自分が嫌になることなんてしょっちゅうな私からすると「まったくその通りだけど、それがどうした」ってなもんです。

前半に比べて後半のほうがまとまっていて、カーテンコールの拍手はそれなりに熱のこもったものでしたから、他のお客さんには満足している人もいたのかもしれませんが、私には豪快な空振りでした。