グリング「吸血鬼」青山円形劇場
<2009年3月7日(土)夜>
ある古いアパートの一室で独身の女性がひとりで亡くなっていた。大学時代に付合っていた脚本家が、自殺と判定されたことに納得できず、また行詰った脚本のテーマにもすべく、彼女が亡くなった理由を探る。
久しぶりのグリングは青山円形劇場(たぶん)初登場。事前に知らなくてよかったのですが、某有名事件をモチーフにしているとのことで、じっとり重い話が進みます。前半の謎解きの緊張感と、それを後半で転がすテンポのよさ。たまに突飛な展開もありますが、その不完全さがこの脚本には寧ろ合っている気がします。
人間もウサギも、寂しいとだめなんですよ。という点では「ちっちゃなエイヨルフ」にも通じるところがありますが、それを現代で描くとこんな事件になってしまうというのが。前半の最終場面(と書くのがしっくりくる)と後半の最終場面は、非常に好みです。
役者は高橋理恵子、みのすけ、平田敦子、中野英樹が好演で、みのすけなんて一人何役も担当していたのにナイロン100℃よりよかったかも(さっそくこのネタでアドリブを披露していたあたりは余裕綽々ですな)。一方、脚本家役で芝居を引張るべき杉山文雄が力不足。杉山文雄ががんばると芝居の仕上がりがもう二段くらい上がったはずなので、もったいない。
あと演出の課題としては、全体に円形舞台上の役者配置が混乱していました。背中が見えるとかそういうのではなく、なんとなく「あっちのほうでやっている」感のする場面がいくつもありました。やっぱり難しいんですかね。
スタッフでは上手に変わる衣装がいいです。美術は今回グリングには珍しい抽象的な美術を採用していて、それ自体はよいのですが、上手の出入口に十分な高さを設けられなかったため、出てくるときはよいのですが引込むときに屈む姿が格好悪くて損しています。下手からだと隠れて見えなかったと思うんですけど、私の席は上手だったのでよく見えてしまったんですよね。
台詞や場面に見所満載で心打たれる一方、慣れない劇場の使いこなしに足を取られて、脚本のポテンシャルを引出せていない、という感想です。
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