パルコ企画製作「海をゆく者(プレビュー公演)」PARCO劇場
<2009年11月14日(土)夜>
アイルランドの田舎。怪我で目が見えなくなった兄の世話に戻ってきた弟。一人では外出もままならない兄は、クリスマスイブということで、家に友人を呼び祝おうとする。そこに弟と因縁のある友人も呼んでしまい険悪な雰囲気になるが、その友人は途中で知合った男と一緒に来訪する。
中年男ばかりの5人芝居で休憩を挟んで3時間。アイルランド人はこんな辛気臭い話しか書けないのかという出だしに身構えてしまいましたが、登場人物が増えてから一気に面白くなります。そうなると役者の実力が生きてくる。飽きさせない芝居でした。人間の弱いところをたくさん描きつつ、それでも見放さないところが、芝居に深さを与えます。この匙加減は栗山民也の演出に追うところも大きいでしょう。地味になりすぎず、派手になりすぎず、よいバランスを保っていました。
なんというか、この脚本はあまり西洋モノっぽくないですね。ディテールはとてもしっかりしているんですけど、脚本のノリは、どちらかというと日本の小劇場に近いものがあります。迫力あるぶつかり合いをあれだけ見せておいて、オチはあれでいいのか(笑)、いやいいんだろうな、という展開。あと、はっきりと片付かない問題をひとつ放置しておくのも、あまり翻訳モノではみかけないかな。
肝になる設定も、日本の芝居に慣れた立場としては「現実離れした設定がより現実をはっきりさせる」ととらえましたけど、西洋の人にはあれもひとつの現実と認識しているのかもしれない。キリスト教の国の人の設定ですよね。何をいっているのかわからないでしょうけど、この芝居はネタばれなしで観た方が面白い。
役者はみんな芸達者。登場人物は基本的にダメ男ばかりなんですけど、みんなダメ男の役が上手(笑)。浅野和之は最初誰だかわからなかった。吉田鋼太郎は、一番声が大きいのに一番怒鳴り散らす役で、ちょっとうるさい(笑)。個人的には小日向文世がよかったかな。あと、照明がいい雰囲気を出していた。
落込みそうなところで観ると慰められるというか励まされるような芝居で、実際励まされるところがありました。God bless you! という言葉はこういう時に使うんだということを教えてもらえる芝居でした。
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