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2010年1月 7日 (木)

2009年下半期決算

遅くなりましたが、2009年下半期決算です。
(1)世田谷パブリックシアター企画製作「奇ッ怪」シアタートラム
(2)演劇集団キャラメルボックス「さよならノーチラス号」紀伊国屋サザンシアター
(3)大人計画「サッちゃんの明日」シアタートラム
(4)ハイバイ「」東京芸術劇場小ホール1
(5)ナイロン100℃「世田谷カフカ」下北沢本多劇場
(6)(7)(8)新国立劇場主催「ヘンリー六世(第一部、第二部、第三部)」新国立劇場中劇場
(9)パルコ企画製作「海をゆく者(プレビュー公演)」PARCO劇場
(10)パラドックス定数「東京裁判」pit/北 区域
(11)(12)バンコク・シアター・ネットワーク「赤鬼」東京芸術劇場小ホール2、「農業少女」東京芸術劇場小ホール1
(13)TBS/エピキュラス主催「夜会 本家・今晩家」赤坂ACTシアター
(14)グリング「jam」東京芸術劇場小ホール1
(15)庭劇団ペニノ「太陽と下着の見える町」にしすがも創造舎
(16)松竹制作「十二月大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

 

上記16本(ヘンリー六世は3本でカウント)、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果、

 

  • チケット総額は100950円

 

  • 1本あたりの単価は6309円

 

となりました。上半期に観たのが14本15本なので、前回の年末決算では「30本を目標」と書いたとおり、きっちり30本31本になりました。その上半期を合せた計算は、

 

  • チケット総額は190700円195200円

 

  • 1本あたりの単価は6357円6297円

 

となりました。ただ、中島みゆきの夜会が底上げしており、それを除くと単価が500円以上安くなるので、ようやく単価6000円未満の目標が見えてきました。

 

下半期の特徴としては、セット企画が多かったことだと思います。ヘンリー六世もそうだし、見送りましたけど「コースト・オブ・ユートピア」三部作一挙上演がありました。歌舞伎座は昼の部が宮藤官九郎で野田秀樹と同時の小劇場出身者の起用だったし(昼の部は観られなかった)、東京芸術劇場が中心になっているによるFestival/Tokyoや芸劇eyesも、セット企画と言えます。あと、観るのは年明けの予定になりますが、青年団も「カガクするココロ」と「北限の猿」の同時上演を行なっています。そう考えると、下半期に観た芝居の半分以上がセット企画の公演になります。

 

これはつまり、よく言えば集客に力を入れるようになった兆候だと思います。もともと青年団(こまばアゴラ劇場)は劇場会員や全国の劇団紹介など企画による集客が得意でしたが、それに目を付けた関係者が、狭い演劇市場を広げようとしている試みの結果であれば、よろこばしいことです。これが継続されて「観劇経験の浅い一般人はここに参加する団体から観始めれば大丈夫」と認知されるまでになれば国内市場の開拓につながるので、ぜひ途中で投げ出さないで続けて欲しいです。個人的にはさらに進んで、インフラ整備や海外展開までつながらないかと妄想します。

 

芝居っぽい小劇場の紹介という点で、芸劇eyesには期待するところが大きいです。世田谷パブリックシアターも、芸劇eyesより手前の団体を集めた企画をやっていますし、あと、遠くていまだに行ったことがないですけど、三鷹の芸術文化センターも頑張っていますよね。機会を見つけてこの手の企画ものは整理したいです。

 

これを上演側から見ると、こういう企画に参加できない団体はダメということで、芝居の出来がよいことは前提で、いかに参加できるように目立てるかという戦略が重要になってきます。年間観劇100本越えの猛者たちの目に留まることを目指すだけでなく、応募式の企画があったら積極的に申込んでみるといいのではないでしょうか。以前だと上演すると目立つ劇場があったと思うのですが、今はよい劇場ほど貸し館をやめて上演団体を自主的に選んだり、プロデュース公演で頑張ったりしているので、劇場を使った注目を集めるのは難しいと思います。吉祥寺シアター、ザ・スズナリ、シアタートラム、赤坂RED/THEATERなどが貸し館をやっていて、なおかつ登竜門のような劇場でしょうか。だいたい200席規模ですね。若手団体がどのように劇場を選んでいるのかはわかりませんが、劇場の選択には将来がかかっており、すでにそこにセンスが現れるので、小劇場すごろくと言われようがなんと言われようが(もうすごろくは壊れましたけど)、よい劇場で上演できる機会があったら逃さないようにしましょう。

 

話は戻って、ちょっと最近は新しい劇団の発掘がおろそかになっていたのですが、その隙にいろいろ話題になった劇団が出てきたので、意識してそういう劇団を観るようにしたいと思います。で、2010年は芝居は同じく30本の観劇を目標にします。今年は音楽のライブにも初めて自分から行ってみたのですが、これもなかなか面白いもので、少しずつそちらの体験も増やしていきたい、将来は芝居と音楽で50本になれば、ととりあえずは考えています。

<2020年5月24日(日)追記>

上半期で1本漏れていたので、それを受けて本数と金額を訂正。

2009年12月22日 (火)

松竹制作「十二月大歌舞伎 夜の部」歌舞伎座

<2009年12月19日(土)夜>

野田版鼠小僧。あと2つ。

酔っているのでこんなもんで失礼。

やっぱり野田版鼠小僧のスピード感、テンポのよさは素晴らしい。初演から特に演出は変わっていないけど(他の役者をネタにした台詞はたくさん増えていた)、再演に耐えうる名作です。再演でリラックスした勘三郎、軟派から悪役まで幅広く見せる三津五郎、短めの見せ場もきっちりこなす七之助など、役者も見ごたえ十分。このテンポのよさを支える野田芝居常連のスタッフも素晴らしい。

何度も書くけど、何でこのテンポと台詞回しが歌舞伎の標準にならないんだろう。これに比べると、一幕目の引窓なんてかったるくて観ていられないし、第一何を言っているのかわからない。外国人向けにはいざ知らず、日本人向けにイヤホンガイドが必要な芝居なんてそれだけで失格だ。伝統芸能づらしているんじゃないよ。このペースで芝居ができないならそんな役者は引退しちまえ。

2009年12月13日 (日)

庭劇団ペニノ「太陽と下着の見える町」にしすがも創造舎

<2009年12月12日(土)夜>

精神病院とおぼしき場所で繰広げられる妄想の数々。

よく考えたら劇団でみるのは初めてかもしれないタニノクロウの新作は「パンチラ」。新鮮ではありましたけど、賛否のわかれるところ。個人的には個々のエピソードが細かすぎて散漫な印象あり。

医者や患者の妄想がパンチラと共に語られるという芝居ですが、語られている内容とパンチラは必ずしも一致しない、というか、関係ないことも多い(笑)。個々のエピソードはそれっぽいのですが、それを一本の芝居につなげてしまうあたりの強引さは素晴らしいです。途中から見切れ対策なのか、パンチラどころかパン見せになっていました(笑)。どうせなら、パンチラ席と非パンチラ席に分けると面白かったかも。

どれが誰の妄想かについては、最後でちょっとネタがあるのですが、これの解釈がちと難解。まあ好きに解釈すればいいや。

あと、これを芝居として成立させるために音響は外せません。タイミングといい、不快感といい、芝居のスタンスをもっともはっきりあらわしていたと思います。ついでに言えば、音がとてもクリアで、機材もよかったと思います。

次回以降も、大きくてチケットの取りやすい劇場だったら、観に行きたいと思います。

2009年12月12日 (土)

グリング「jam」東京芸術劇場小ホール1

<2009年12月12日(土)昼>

軽井沢にあるペンション。周りは続々閉鎖しているが、食事のおいしさに常連がついて、そこそこやっている。地域の年末の第九イベントに向けて指揮者とピアニストを招いて練習が重ねられており、その人たちの宿泊先にもなっている。今月の練習が終わり、一段落の飲み会を開こうとした夜の話。

今回で活動休止公演のグリングは再演もの。再演でもあまり役者を変えない劇団という印象があるのですが、今回は大分入替えての上演。6年前ですでにこれだけの脚本でやっていたのなら、いまさら劇団でもないよな、という完成度(ラストのひとつ前に場面を追加したくらいだそうな)。後味のよさと悪さを両方兼備えた良作。

ペンション経営家族の家庭事情に、宿泊客の思惑が交錯。思惑のいくつかをはっきりさせないことで、どうなるかなと期待を持たせる展開。何かを遠慮することで成立っていたバランスが、行動に移されたことで変化を生じるまでのいきさつを、実に上手に描いています。休止公演の脚本に選んだだけのことはあります。

が、その脚本のせいなのかキャスティングのせいなのか、過去のグリングの芝居がデジャブするような感覚もあったりなかったり。コンパクトにまとめた舞台で、一幕一場リアルタイムの1時間45分。これは劇団以外の役者だけでもう一度上演してほしいです。ピアニスト役の松本紀保はサバサバした女性を好演。この人はもっと小劇場に出てきてほしいですね。

で、芝居には何の問題もなく楽しんだのですが、たまたま知らずに観に行ったらアフタートークがあったので観たのですが、これが今まで観たアフタートークの中で最悪に下品なものでした。青木豪が脚本を書いたテレビドラマが今度放映されるようで、その宣伝も兼ねて監督とプロデューサーが登場したのですが、jamの話をしたのは最初だけ。あとはひたすらドラマの撮影話に終始する。途中で中野英樹と萩原利映も登場したのですが、それもドラマの話に終始。

別に1時間もあるならドラマの宣伝をしてもいいですけど、あくまで舞台のアフタートーク。「取材が長いと聞いていたらドラマの取材は短かった」というエピソードを出すなら舞台の脚本の取材の話を振るとか、「監督は役者を安心させる」という感想を出すなら舞台稽古のときの青木豪の話を訊くとか、「(ドラマの出演者である)泉谷しげるが青木豪の父親に似ている」のを披露するならjamでは誰かモデルはいないの尋ねるとか、いくらでも舞台の話と絡める機会はあった。舞台のアフタートークなんだからもう少しバランスを考えろ。「余韻が醒めるからアフタートークには出たくない」と監督とプロデューサーは最初に言っていたけど、こんなトークを聴かされたこっちが興醒めだ。こんなアフタートークならやめちまえ。

2009年12月 6日 (日)

TBS/エピキュラス主催「夜会 本家・今晩家」赤坂ACTシアター

<2009年12月5日(土)夜>

売子の娘。有名な観光地である寺の、隣の小さな寺の前で売子をしながら寺に迷惑をかけたり世話になったり。

一度観てみたかった夜会をようやく観られました。が、予想と大きく違ってまあびっくり。もうすこし芝居っ気の多い舞台だと思っていましたが、前衛劇というか、ここまで実験色が強い舞台だとは思いませんでした。

一幕と二幕で話がつながっていなくもないけど、舞台からして違う。一幕はまだ舞台設定がひとつだけだったけど、二幕は途中でどんどん変わっていくし、二幕の中につながりを探すのが難しい。夢十夜をさらに抽象的にしたようなもので、歌とリズムにひたすら乗っていくのが正しい楽しみかたなのかな。合間合間の台詞は野田秀樹っぽいんですけどね。

それなりに前の席が取れたんだけど、それでも「普通に中島みゆきに興味を持っている」程度の人が、2万円を払って観るものではない。シアターコクーンで1万円ならまだ実験舞台と言えたけど。一度観て、ああこういうものか、歌も上手いな、と納得できたからまあよしとする。次からは観るならコンサートのほうが私はよい。

それにしても、劇場であんなに男の観客が、それも年長の人が多いのは始めて見た。トイレの行列は、全部足したらたぶん男の方が長かったんじゃないか。おっさんたちの財布を開かせる中島みゆきの人気、恐るべし。

2009年11月22日 (日)

バンコク・シアター・ネットワーク「農業少女」東京芸術劇場小ホール1

<2009年11月21日(土)夜>

タイの北部に位置する農村の、農家の少女。できるだけ農業から離れたいと願っていた少女が、たまたま乗過ごした電車に乗ってバンコクに。そこで関わることになったボランティアの行方。

赤鬼と同時上演のこちらはタイ人による現代演劇。当日パンフやアフタートークで話されていた通り、農業(米)をめぐる状況は日本とタイとで非常に似ているそうで、設定がタイになってもまったく違和感なし。よい感じでした。

役者の演技も癖が無く、身体がよく動くので観ていて楽しいです。主人公をめぐる2人の男はいい役者です。6つの箱で舞台を組替えたり、ちょっとした衣装の工夫で役を早変わりするあたりは、野田秀樹の舞台に通じるものがあります。

もったいない点を挙げると、イヤホンを聞きながらだったため声には集中しづらかったので、字幕のほうがよかった気がします(後ろの壁は使っていなかったので場所には困らないはず)。あと、照明がもうすこし派手でもよかったかも。輪郭のはっきりした照明が全然なくて、なんかぼうっとしていました。

残念な点を挙げると、私はサイド席で観たのですが、これは正面席で観たほうがわかりやすいように構築されていました。わからないとか見切れるということはないのですが、後ろでも端でもいいので、これから席を選ぶ人は正面席を選びましょう。

バンコク・シアター・ネットワーク「赤鬼」東京芸術劇場小ホール2

<2009年11月21日(土)夜>

海辺の漁師村、ある嵐の夜にどこからともなく現れたひとりの男。言葉も通じず見た目も違う男を、「赤鬼」と呼んで拒否する村人。その「赤鬼」をはからずも匿うことになった、村八分の兄妹の話。

リケエというタイの大衆演劇バージョン。タイの歌舞伎+舞踊+囃子みたいなものです。非常に興味深かったのですが、総合的にはちと外れ。

役者はみな上手で、「あの女」役の女性なんかは非常によかったです。が、脚本を編集したために、展開が飛んで感情が追いつかなくなる場面(特に前半)があったのがひとつ。常に音楽が明るくてメリハリが足りなかったのがひとつ。たびたび客席も明るくする照明が(個人的には)集中力を削ぐ方向に作用したのがひとつ。

あと残酷な話なんですが、やっぱり過去2回観た野田秀樹のタイバージョンの完成度は高すぎた。同じアプローチで迫るにはハードルが高いし、違うアプローチで仕上げたくてもやり尽くされている。

リケエの所作が判ると、もう少し違う興味を持てたのかもしれないですけど、残念。

パラドックス定数「東京裁判」pit/北 区域

<2009年11月21日(土)昼>

東京裁判の開かれた法廷。28人のA類戦犯を弁護するために集まった、圧倒的不利な5人の弁護団の法廷闘争。

男5人による、直球勝負のストレートプレイ。かねがね評判になっていたパラドックス定数をようやく観られたと思ったら、こんな当たり芝居にいきなりめぐり合えました。

東京裁判についてはいろいろな見方がありますが、法律の観点からは、ずさんなところが多くみられるのは最近の研究で指摘されています(私が読んだことがある本はこれ)。その法廷闘争を中心におきつつ、弁護に関わる5人の立場の違いを上手に描いて、引込んでくれます。法定で弁護団があんなに私事の絡む協議をするわけはないのですが、そこは芝居の力というもので、それが複雑な事案を順番に説明するのに一役買っています。多少は前知識があったほうが理解はしやすいと思いますが、無くても十分楽しめます。

今回pit/北 区域という劇場には初めて行ったのですが、劇場自体が非常に狭く、そこに照明変化なし、音響ゼロとすることで、役者の力だけで芝居を成立させることを要求するのですが、十二分に応えています。素舞台にテーブルと椅子を置いただけという舞台は、そのために役者の位置や向きが制限されて顔が見えないことも多々あるのですが(私は自由席)、この劇場内に響く声の説得力は圧倒的でした。5人ともものすごく上手。

まさか小劇場の芝居でこんな重厚なドラマを観られるとは思っていませんでした。劇場が狭いというアドバンテージはあるにしても、そこらの海外の芝居を吹飛ばす質です。勝手な願いですけど、この芝居はジャップと呼ばれる覚悟で海外、特に欧米に持っていって上演してほしいです。世界のどこに持っていっても通用します。せめて全国ツアーをやってください。パンフレットや脚本は絶対買わない主義の私が脚本を買ってしまいました。見逃したらもったいない。ぜひ観てください。

あと、受付から座席案内、事前の携帯電話停止依頼、何かあったときの対応の説明など、狭い劇場でぐだぐだになってもおかしくないところを手際のよくさばいていた制作陣も素晴らしかったので書いておきます。

2009年11月15日 (日)

パルコ企画製作「海をゆく者(プレビュー公演)」PARCO劇場

<2009年11月14日(土)夜>

アイルランドの田舎。怪我で目が見えなくなった兄の世話に戻ってきた弟。一人では外出もままならない兄は、クリスマスイブということで、家に友人を呼び祝おうとする。そこに弟と因縁のある友人も呼んでしまい険悪な雰囲気になるが、その友人は途中で知合った男と一緒に来訪する。

中年男ばかりの5人芝居で休憩を挟んで3時間。アイルランド人はこんな辛気臭い話しか書けないのかという出だしに身構えてしまいましたが、登場人物が増えてから一気に面白くなります。そうなると役者の実力が生きてくる。飽きさせない芝居でした。人間の弱いところをたくさん描きつつ、それでも見放さないところが、芝居に深さを与えます。この匙加減は栗山民也の演出に追うところも大きいでしょう。地味になりすぎず、派手になりすぎず、よいバランスを保っていました。

なんというか、この脚本はあまり西洋モノっぽくないですね。ディテールはとてもしっかりしているんですけど、脚本のノリは、どちらかというと日本の小劇場に近いものがあります。迫力あるぶつかり合いをあれだけ見せておいて、オチはあれでいいのか(笑)、いやいいんだろうな、という展開。あと、はっきりと片付かない問題をひとつ放置しておくのも、あまり翻訳モノではみかけないかな。

肝になる設定も、日本の芝居に慣れた立場としては「現実離れした設定がより現実をはっきりさせる」ととらえましたけど、西洋の人にはあれもひとつの現実と認識しているのかもしれない。キリスト教の国の人の設定ですよね。何をいっているのかわからないでしょうけど、この芝居はネタばれなしで観た方が面白い。

役者はみんな芸達者。登場人物は基本的にダメ男ばかりなんですけど、みんなダメ男の役が上手(笑)。浅野和之は最初誰だかわからなかった。吉田鋼太郎は、一番声が大きいのに一番怒鳴り散らす役で、ちょっとうるさい(笑)。個人的には小日向文世がよかったかな。あと、照明がいい雰囲気を出していた。

落込みそうなところで観ると慰められるというか励まされるような芝居で、実際励まされるところがありました。God bless you! という言葉はこういう時に使うんだということを教えてもらえる芝居でした。

2009年11月 1日 (日)

新国立劇場主催「ヘンリー六世(第一部、第二部、第三部)」新国立劇場中劇場

<2009年10月31日(土)一日中>

王座を目指した権力欲に取付かれた馬鹿共と、その巻添えで名誉を守って死んでゆく人たち。または「お前が言うな」の繰返し。

三部作一挙上演で、しかも重厚な役者が揃っていて、これは見逃せない。いろいろ考えて、当日券で苦労の末、首尾よくチケット取得。さすがスケールの大きさは別格で、観られてよかった。

三部揃うと、ある部の喧嘩が次で戦いになったり、この部の展開は前の部の出来事のためだったりするのがよくわかります。似たような名前が多く出てくるけど、それも順番に登場してくれるので、混乱も少ないです。笑ったり失笑したりする場面もそれなりにあって、肩がこる心配はありません。

どの部も独立しているけど、つながりを観るならやはり第一部から順に観た方がよいです。ちなみに第三部の後はさらに「リチャード三世」に繋がるのが順番ですが、今回でようやくリチャード三世のバックグラウンドや家系もわかりました。というか、ここまできたら「リチャード三世」も同時上演してほしいところです。

登場する役者は、台詞回しと声の張りが命の新劇ベテラン陣が中心。演技ももちろんいいけど、台詞を聴いていて非常に心地よいです。全員は挙げられないけど、それでも挙げずにはいられません。誰がいいかは人によるだろうけど、第一部の木場勝己と鈴木慎平、第二部の村井国夫と中嶋しゅうと久野綾希子と関戸将志、第三部の今井朋彦と岡本健一、そして三部を通して浦井健治と中嶋朋子がとてもよかった。

最高に素っ気ない舞台を照明で変化させて、現代の軍服を意識した衣装を多めに投入。王位を巡る争いの不毛さに、今の戦争の不毛さを連想させるのは予想の範囲内。ところが三部連続で(チケット購入から数えて)12時間も経つと、本当にずうっと戦いばかりが続くので、最後には「まだやってんのかよ不毛だな」と心の底から思えるようになるというおまけがつきます(笑)。だから冒頭のような粗筋になったのですが。あと、フランス人を馬鹿にしすぎではないでしょうか(笑)。あれが脚本に忠実だとしたら、昔からイギリスとフランスは仲が悪かったという証拠にできるくらいです。

ただですね、殺陣が緩いのはしょうがないとしても、選曲がダメダメでした。木場勝己がさらう第一部はまだ気にならないとして、第二部全部と、第三部前半は、まったりしすぎでぜんぜん乗れません。音楽で訴えかけるセンスに関しては、いのうえひでのり(今日見かけました)とか蜷川幸雄に完敗です。もったいない。

それを差引いても観る価値があると私は思いますが、落ちている人も見かけましたので、不安な人はやはり第一部から観ると、話がわかりやすくなっていいと思います。個人的には、予備知識の無い人が第二部をいきなり観ると、経緯と名前がすんなり入らないのではないかと思われます。第三部はむしろそうでもない。

当日券ですが、第一部は完売のキャンセル待ち(遅れたもので)、第二部はZ席が昼まで残っていてその後キャンセル数枚、第三部はほぼ全席種で大丈夫でした。どうやら通しで買っても座席は同じにならないようです。あと、舞台が客席側に張出しているので、1階席ならどこからでも円形劇場状態で距離は近くなるのですが、上手に池があり、そのせいでアクティングエリアまで距離が遠くなります。センターが一番なのですが、上手と下手で選ぶ必要があるなら下手をお勧めします。