阿佐ヶ谷スパイダース「アンチクロックワイズ・ワンダーランド(プレビュー公演)」下北沢本多劇場(ネタばれありあり)
<2010年1月24日(日)昼>
作家の男。それまでの路線を変えて、観念的な話に挑戦して2冊目の本が出版されたばかり。だけど書評は酷評ばかりで、読者評でもけなされている。そこで編集者と自棄酒を飲みに行ったところから始まる、現実と観念とが入混じった世界。
留学帰国後第一作ということで注目の高いときに観念路線を投げてくる確信犯。プレビューということもあるけど、ここの場面は面白くて興味深いけど、全体的になんかちぐはぐ感は否めず。本番でどのくらい変わるのかは不明。以下ネタばれ混じりで。
冒頭の話で勘のいい人はわかると思うけど、今回も「失われた時間を求めて」と同様、長塚圭史の葛藤を舞台化した観念路線。そのときにやりつくしたと思ったらまだ葛藤していたのかとびっくり。冒頭の酷評の部分で「観念路線で2作目だが上手くいっていなくて手垢にまみれて云々、元の刺激路線を求む云々」とこの芝居の感想を予告するような構成を取入れてすでにアンチクロックワイズ。イギリスは皮肉と議論の国だっけ、と思ったり思わなかったり。
登場人物は、制作仲間(欲しくもない応援をして作家をがっかりさせる)、作品ファン(刺激路線を強要する、作品の内容より作家の心情に興味を持つ、観念路線を受入れる)、過去の作品の登場人物(「失われた時間を求めて」の登場人物、飛びだして作家にサジェスチョンする)の大きくわけて3種類。
刺激路線を強要するファンは殺したと思いきやしぶとく生残ったのでもっとひどい目にあわせようとしたり、作家に興味をもつファンは消してしまったりして、観念路線を受入れたファンには過去作品の登場人物を救済させる。最後は制作仲間の元に帰る。
まあこんな感じ。観念路線はどちらかというと好きな路線なんですけど、それでもそれなりの物語と人物描写を求めたい性質の私には、今回の芝居には両方とも足りない。ワークショップで作ったせいかどうか、キャラクターに統一感の取れていない登場人物がいたり、場面ごとの雰囲気に統一感が欠けたり、プレビュー公演だとしても仕上がりはイマイチでした。あと、猫とか公園とか、「失われた時間を求めて」を観ているかどうかで理解度に差が出てくるのはいただけない。シリーズ物だとしても単品での仕上がりは担保してほしいので、その点は平田オリザを見習ってほしいです。
あとは提出を忘れたアンケートへの回答を。
・印象に残ったシーン:作家が、ファンの女の家で話す序盤の場面。
・登場人物の印象:そのファンの女を演じた小島聖は、キャラクターが生きていてよかった。馬渕英俚可は、あの役を演じるには今回の役者では一番適任だったとはいえ、結果としてもったいない役になってしまった。
・スタッフワークの印象:モノトーンの舞台に色をつけない照明は渋くて好き。だけどその分は衣装で色の変化を付けてほしかった。小島聖以外は地味な色ばっかりで、意図があるとしても暗すぎる。
・上演時間と休憩時間:観念路線に休憩時間は禁物。2時間に収めて休憩なしにしてほしい。
・客席内の温度:当日券エリアで観たけど、寒いです。眠気覚まし狙いなら勘弁してください。
・料金:こんなもんかと思う。どちらかというと劇場の選定に異議あり。ベニサン・ピットがなくなった今、こういうのはスズナリか、世田谷パブリックシアター/シアタートラムのほうがいいでしょう。本多劇場はエンターテイメント劇場です。
・困ったこと:当日券は椅子が痛い。クッション追加希望。
・色にたとえると:どんよりした灰色。
・感想:さっき書いたとおり、観念路線は好きなほうだけど、刺激路線を求めている客は寝るんですよ。前回も今回も隣の客が寝ていました。そうすると観ていてがっかりするので、この路線を区別するようなユニット名(?)を付けて、間違えた客が混じらないようにしてもらいたいです。「阿佐ヶ谷スパイダース 表現かんねん」みたいな。営業上は嬉しくないかもしれませんけど、これから観念路線を定期的に上演するのであれば、ぜひ検討してください。
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