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2010年2月15日 (月)

<再掲載>芝居の費用を計算する

すでに再掲載したエントリーを引用してブログを書こうとしたら、実はまだでした、というオチ。今読むと我ながら暇な計算をしたものだと思いますが、今でも書いたことを覚えているくらいなぜか熱心に書いたエントリーです。

一部のエントリーは失われていますので省きました。あと、東京都の最低時給は上がっているのですが、金額は昔のまま載せました。

<ここから再掲載>

唐突ですけど、芝居を行なうにあたっていったいどのくらいの費用が必要なのかを計算してみます。別に観客としては予算の内訳を知らなくとも、払ったチケット料金に見合った満足が得られれば構わないのですけど、私はお金の話に興味があるので。

実は商業演劇の予算については調べるまでもなく、詳細な内訳があります。キャラメルボックスの制作者である加藤昌史氏が、自身のホームページに「演劇の謎」というコーナーを設けています。その中の一項目として「チケット料金の謎」というページ(注:リンク切れ)があって、「1000席の劇場で1ヶ月30ステージ、出演者10人、当日スタッフ15人、ロビースタッフ10人の場合の費用は1日475万5千円、1席あたり4755円」ということを、具体的な数字を挙げて計算しています。

ここで挙げられた内訳を参考に、小劇場の最低の上演必要金額を算出してみます。若干内訳の分類は変わります。上演内容は、会場が東京、仕込み1日と週末3日間で5ステージ、稽古期間と上演で1ヶ月(30日)とします。

・脚本家1名:100万円(日本劇作家協会「劇作家の最低上演料に関する決議」(注:リンク切れ))
・演出家1名:13万6320円(東京都労働局「東京都内の最低賃金」。710円/時で192時間。計算は稽古1日6時間で24日、稽古休み2日、小屋入り後1日12時間で4日、交通費などは省略)
・役者:1名当たり同上
・当日スタッフ3名(舞台監督、照明、音響各1名):1名当たり12万円(舞台照明ブログ「照明家に払う適正なギャランティはいくらか?」より1日3万円の小屋入り4日間で計算。音響、舞台監督も同じとみなして算出)
・衣装スタッフなし(自前持寄り)、照明機材、音響機材持込なし
・音楽有り物:とりあえず1万円(JASRAC「演劇・漫才などの芸能の催物」。計算方法がいろいろあり、チケット代や使用曲数によっても変わってくるので、大まかに)
・ロビースタッフ2名:6万8160円(受付2名、場内整理1名、うち制作責任者が兼任1名として除外、スタッフは小屋入り後受付以外の仕事も行なうために全時間走り回るものとして、4日間48時間、時給710円×2名で計算)
・舞台美術(小道具込み):デザイン料20万円と製作代実費(日本舞台美術家協会「舞台美術(装置・衣裳)のデザイン契約にあたっての今年度の目安」で製作物100万円未満として計算(注:リンク切れ))
・宣伝費:デザイン料10万円と印刷代実費(fringe「チラシアートワーク指南」。このデザイナー(京さん)はデザイン料5万円からと書いていますが、同文中の荻野さんの「東京で10万円以下は見たことがない」から取りました)
・稽古場代なし(無料スペースを渡り歩く)
・チケットは全部手売りで、チケット会社に払う手数料はないものとする
・その他雑費は省略
・劇場費諸経費込み:後回し
・最後に、制作責任者1名:後回し

脚本家と演出家、役者のバランスが悪いですね。一定の質を求めるのであれば、書直しも含めて3ヶ月は必要でしょうし、コンスタントに書くのも困難でしょうから、専業脚本家ならこれくらいはもらってもいいとは思いますけど。逆に演出家や役者は最低時給で計算するとこの金額になってしまいました。これは試算なので、バランスを取るために脚本家に泣いてもらい、半額の50万円としましょう。これを3ヶ月で割れば、1ヶ月の稼ぎとしてはまあまあ近づきました。脚本は芝居の出来の根本を為すものですから、演出家や役者よりは高くてもいいと思います。

実際には稽古外での打合せなど多数あるでしょうし、稽古期間ももっと長いでしょうし、仕込みは2日間ほしいでしょうから、総額はもっと上に振れると思われます。でも、試算なので省略します。

すると役者、劇場費、制作者を除いた金額は、137万4480円 + 舞台製作代 + 宣伝印刷代実費になります。宣伝印刷代が2万枚(これも独断による推定)で10万円くらい(もちろん独断による推定)なのかな。それと、舞台製作は仕込みバラシも込みでお願いすると、30万円は必要かも(くどいですけど独断による推定)。なので、177万4480円。便宜上役者が5人と仮定すると、68万1600円。劇場選びが難しいのですが、誰もが一度は通ったと思われるシアターグリーンにします。現在改築中なのですが、HALL IN ONEによると(注:リンク切れ)130人収容で平日1日9万4500円とあります。週末料金は不明ですが、この規模にしては高額な部類のようですから、平日料金で4日間を計算すると、37万8000円。ここまでを合計すると、283万4080円。制作者を含めて、切りよく300万円にしましょう。制作者には金銭を取扱う最終責任者としての役割がありますから、演出家や役者より上乗せする大義名分もあります(劇団を継続するにあたっては、公演外の部分での仕事も増えるでしょうから、公演単位での計算に合わないポジションであることは承知しておりますけど、便宜上)。

総額300万円を5ステージで割ると60万円/ステージ。130人で割ると4615円/ステージ人。商業演劇と大差なくなってしまいました。収容人数が少ないことによる効率の差と、上演ステージ数が少ないことによる固定費(舞台美術とか宣伝印刷代とか)の重みの違いですね。シアターグリーンだったら2500円くらいのチケット代でしょうから、どう考えても赤字です。役者がもっと大勢だったり、当日スタッフが大勢必要な芝居だったら、これよりさらに膨れ上がります。グリングの「ストリップ」では、主人公である主宰者が逃げ出して公演中止になり、付合っていたヒロインが「肩代わりした借金の額が300万円以上あった」という台詞がありましたけど、これで大体納得がいきました。

では世間一般の劇団ではどうしているかというと、脚本家も演出家も役者も制作者も、ただ働きどころかノルマを背負って、さらにスタッフの費用を値切って上演しています。あと、複数のパートをひとりで兼任することも多いですね(脚本家と演出家、役者と美術タタキ、など)。音楽の使用料金も払っていないでしょう。ただしこのような形態をとることは、本来その人が行なっている貢献に対する報酬を犠牲にすることで成立っています。キャラメルボックスではチケット代から逆算して足りない分は我慢してもらうと書かれていますけど、これは規模が大きく、年間の芝居公演数も多いからお願いできるわけであって、払わないということとは違います。あと、同じスタッフが毎公演担当しているので、スタッフのチーフ(クレジットされる人)がお弟子さん(という業界なんですよね)に規模の大きい公演を経験させるという了解ごともあるかもしれません。

あとこの金額が最低限というのは、金額やリンク先を見ればわかっていただけると思います。例えば役者だったら1ステージ計算だと2万7000円で結構な額のようですが、実際に費やした時間は1ヶ月です。それでこの金額では全然見合いません。先ほど挙げた加藤昌史氏も、役者だって月収30万円はほしいじゃないですか、と同じページに書かれています。

単発芝居ならいざ知らず、継続を目標とする劇団で、適切な報酬を犠牲にした状態が長く続くわけがありません。芝居の質の向上が第一目標なのは当然としても、金銭の管理もそれに劣らず重要です。劇団を継続するのであれば、適切な利益を上げて各種維持費を捻出することも必要でしょうし、スタッフワークが大掛かりな公演に備えることも必要でしょう。スポンサーに頼るのでなければ、より高いチケット代、より大きい劇場、より長期間の上演を目指すことは、収支のバランスをとるうえで劇団として自然であり必然ではないかと思う次第です。

この手の事情に詳しい方、間違っている部分がありましたらご指摘ください。予算の管理は制作者と舞台監督が担当するものと認識していますが、「それだけの金額が使えればましな方だ」という泣き言もお待ちしております(笑)。ところで制作者や舞台監督の最低賃金はいくらなんでしょう。特に舞台監督は、他のスタッフ以上の重責を担わされるポジションため、1ステージ換算すると、役者も含めた関係者でもっとも高いギャラが必要という話を聞いたことがありますけど。

<ここまで再掲載>

で、fringeでわざわざ実際の計算を載せてもらって恐縮した次第です。

<2017年2月27日(月)追記>

プロの制作者に依頼する場合の費用について「制作者のギャラはいくら払うか、いくらもらうか」というエントリーを書きました。併せてご覧ください。

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