パルコ企画製作「ハーパー・リーガン」PARCO劇場
<2010年9月4日(土)夜>
夫は失業中、娘は高校生で、一人で家計を支えるハーパー・リーガン。父親が危篤との連絡を受けて勤務先に休暇願を出すが、繁忙期のため家庭の事情で足元を見られて、拒否される。思うところがあって、家族や職場にも内緒で実家に戻るハーパーが経験する様々な人たちとの出来事。
長塚圭史の久しぶりの翻訳劇演出、つい初日に観てしまいました。感想を端的に言えば、今の自分には観られてよかった、でも人には勧めるのをためらう、役者と、たまにやりすぎを感じるけど脚本のストレートさには好感、演出もっとがんばれ、って感じです。
小林聡美が、それぞれの場面でそれぞれの登場人物とひたすら対話する、直球ど真ん中の会話劇。血とか暴力は、昔の長塚圭史と比べるとほとんどありません。まあそれは予想通りだからいい。で、登場人物の話が、微妙な話題のときでも、というか、微妙な話題のときほど、すごい会話が明晰。このあたりが良くも悪くも、いかにも英語圏の脚本だなと思う。まったく余韻がないんだけど、こなれた翻訳と達者な役者で味わいが深まるのはいいです。ただ、喧嘩別れしたとはいえ、親の危篤の日以降ののハーパーの行動のぶっ飛び方は、芝居とはいえ、あれはイギリスならありうる展開なんでしょうか。正直どうなんだと思っているうちにハーパーがどんどん格好良くなっていくんで、だんだん気にならなくなるんですけど。
自分の人生に理不尽や疑問を感じたことがある人なら、どこかの場面が必ず心にひっかかるでしょう。そういう脚本です。それで自分は観られてよかったと感じたんですけど、ほかの人の感想、特に30歳から50歳くらいの女性の感想を聞いてみたい。
で、場面転換以外冗談抜きで出ずっぱりのハーパー小林聡美の演技が、なんていえばいいんでしょう、説得力が高いというか存在感が強いというか。失礼ながら決して美人な女優ではないんですけど、すごい凛々しくてきれいに見えて、さすが人気女優は違うと思いました。衣装の着こなしもよかったですね。ほかの役者も実力に異論はないんですけど、若者の多感な感情を表現した2役の美波と、とても馴染んだ雰囲気だった福田転球は、個人的にはかなり好感度が上がりました。
なんですが、芝居全体で観ると、もっさりしたテンポであることは否めず。厚みを出そうとして逆に緩急をつけ損ねた印象。あと、上で小林聡美の演技力を絶賛していますが、その説得力があだになった面もあり。ハーパーは行動や台詞にぶっ飛んだところがありますし、確実なのは確実なんてないことという台詞に象徴されるように、揺れ動いた結果として格好良くなるのがたぶん脚本の狙いだと思うけど、ハーパーが何をやっても正しくて必然で常識を体言しているようになっていた。そこは演出で調整してほしかったし、もし狙ってそうしたんだとしたら、稚拙じゃないかと思う。あと、コンクリートにはもう少し意味を持たせてほしかった。
これからよくなる余地も見て取れたので、血とか暴力とか目当ての人には勧めないけど、人生悩める人で、役者か脚本に興味を持った人にはいいんじゃないでしょうか。
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