テアトル・エコー「日本人のへそ」恵比寿エコー劇場
<2010年9月19日(日)昼>
吃音症の患者だけを集めて、自分の吃音症の原因を物語に仕立ててミュージカルとして発表することで、吃音症を治療するという、アメリカで考案された治療法。それを本場で学んできた教授による第1回の発表会は、ストリッパーだったヘレン天津の回。岩手出身の彼女が集団就職で東京に出る前の晩から話は始まる。
テアトル・エコーはこれで3回目ですが、井上ひさしのデビューがテアトル・エコーだったとは今回の公演まで知りませんでした。その処女作の上演。作曲はずいぶんタイムリーな人が担当していたのだから、豪華なもんです。すごい軽口に仕上げた2時間40分の喜劇。
上演は、たぶん初演のときもこんな調子だったんだろうという、今となってはずいぶん素直な感じ。それを役者はきっちり上演したから何も言わない。でも、この素直な演出なのに、全体に脚本の禍々しさが浮かび上がっていました。
40年前だからなのか40年前ですらなのかわかりませんが、いまどきの脚本家には書けない毒に満ちています。ところが話の構成や展開はしっかりしていて、細かい設定や言葉遣いも詰められており、結果として荒々しさをうまく残しつつ、今上演しても面白い、古くならない脚本になっています。これに比べたら東京裁判三部作なんてつまらないもんで、自分が観た範囲では、これに対抗する出来の脚本は「天保十二年のシェイクスピア」くらいかな。でもあんなきっちりではない。率直にいって、これを書いたときの脚本家は気狂いすれすれの欲求不満だったと思います。DVで名をはせた井上ひさしのイメージと脚本がようやくつながったのと、それでいて何であんなに崇められていたのかがようやくわかった。それが一番の収穫。
これは当時の舞台設定を知る伊東四朗にもう少し巧く演出してもらうか、松尾スズキにもっとケバく演出してもらうかしてもう一度観てみたいと思ったら、来年の3月にシアターコクーンで栗山民也演出+豪華キャストで上演するという折込チラシを発見。今回観られない人はそちらで取返してください。でも栗山民也かなぁ。もっと暴力とかセックスを感じさせる人が演出するべきだと思うんだけど。
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