イキウメ「散歩する侵略者」シアタートラム(ネタばれ少々あり)
<2011年5月28日(土)夜>
ある町で3日間失踪していた男が保護された。知識に問題はないが、性格が大きく変わっていた。脳の病気ではないらしいが生活に困るため、別居中だった妻が面倒を見ることになる。男は少しずつ回復していくが、同じ頃、同じ町で、認識能力の一部が欠けた患者が次々と発生する。
調べてみたらイキウメではすでにこの芝居だけ再々演になっていて、それだけ脚本がよくできているからだと思うのですが、はたして素晴らしい物語でした。欠点も目立ちましたが、それを補うだけの魅力ある舞台というのが正確か。
1にも2にも素晴らしいのは脚本。ネタばれを承知で言えばLove&Peaceのひと言で済んでしまう内容で、うっかりすると「若えな」で終わってしまう話で、設定は荒唐無稽で展開は強引なんですけど、そんな事を気にさせない、それだけで終わらない何かが作用している。それが何かについて1日考えたんですけど、いまだにわからない。大きな背景と身近な現象という点では「東京ノート」を思い出しますけど、それと比べて、徹底的に身近なミクロの場面を描いて、それがラストに世界のマクロにつながるところがいいのかな。
そういう物語の面白さに、演出と演技が追いついていないように思う。役者でいいと思えたのは岩本幸子と大窪人衛で、主人公2人が弱い。劇中の日数の経過とか場面設定なんかも、適当に済ませたんじゃないかという点が散見。小劇場の欠点として衣装替えを嫌がるってのがあるけど、今回の演出ならそれは不自然。個人的にはテーマ音楽の音の悪さ(録音の悪さ?)も気になる。もっと言えば、脚本も部分的に整理する余地はありそう。
ところが、そういう明白な欠点が多数あるにも関わらず、いいんですよ。普通これだけ欠点があると、脚本が良くても評価は辛くなるんですけど、カーテンコールでまず「観られてよかった」という満足感が先にきました。そこが不思議なところ。
以上の感想を短くまとめると、こちらの方の感想に近くなります。「なにか奇跡が起きてる気がする舞台」というのが私の抱いた印象を説明するのにありがたい言葉です。ただ、明々白々に奇跡が起きるには粗すぎました。でも観たことのない人は観ておいたほうがいい。そういう不思議な芝居。ウェルメイドの上手な別の演出家でも観たいな。宮田慶子とか。