「アーツカウンシルとは」に対するパブリックではないコメント
まとめたけど、長い。念のためにいっておくと、ここは芝居のブログなので、芝居に限って話します。先にこっちとこっちを読んでおくと、なんでこんな長いエントリーを書いたかわかります。
<2011年6月8日追記>資料のPDFのリンクを追加しました。
芸術文化振興会によるパブリックコメント募集の資料はこちら。その資料がまとまるまでの議事が8回あって、議事次第はこちら(1回目、2回目、3回目、4回目、5回目、6回目、7回目、8回目)。
(1)自分なりの経緯の把握
後先は正確に把握していないので間違っているかもしれないけど、たぶん最初は2009年の事業仕分けだと思う(これとかこれ)。特に評価やフォローが出来ていないという指摘があって、実際に成果を定量的どころか定性的にすら説明できなかっただろうから「とにかく成果を説明できるようにならないと将来はない」というのは重視されたんだろう。
ところがここに、芸術の成果を正しく説明する方法なんてどこにもないという大きな問題がある。公平性とか納得できる基準とかを求められる税金の使途と根本的に相反する。
そこで事例を調べて見つけた。海の向こうにはアーツカウンシルというものがある。そこではプログラムディレクターとかプログラムオフィサーとかを専門家がつとめて審査と評価を行なうらしい。だったら丸ごとパクったれ。
検索したら、「六つの重点戦略」という話を見つけた。2010年6月でちょっと資料が古いけど、わかりやすいのでこれを引用。この時点ですでにアーツカウンシルという単語があった。もともと2011年からの5ヵ年計画を立てることは決まっていて、実際に今年2011年の2月に閣議決定されたらしい。だから急いで盛込んだのでしょう。
こういう経緯を考えると、とにかく、評論家ではなく専門家による基準とフォローができることが、何よりも求められているんだと思う。誰に求められているか? 芸術分野担当の官僚に。経緯は官僚主導ですよ。金を今までどおり用意するために、金をもらう側が自分たちの責任においてもらいたい金の使い道の正当性を説明しろ、もっと言えば、毎年説明に困らないような仕組と(説明する側の)人材育成まで責任を持て。ここまでがゲームのスタート。
ヒアリングの結果は、芳しくない。金の使い道の正当性を説明できる人材、あるいはそういう組織構成やワークフローについての回答を期待しているのに、もっとオープンに評価しろ、公平にしろ、云々。それは前提で、そのための意見を集めているのにもらえるつもりで回答している、誰のためにヒアリングしてると思っているんだ。と思ったかどうかはさておき、ご意見拝聴の1と2はまあいいから3で実務専門家が必要と言えるような流れで回答がほしかったのではないかと推測する。官僚がね。あと多分、ジャンル別を正当化する言葉もほしかったんじゃないかと思う。オペラのおっちゃんは結構よさそうな感じの回答だった。そういう意味では、地域別という発想はなかったはず。地域とか小せえこというな、助成金がなくなるかどうかの話だぞ、というのはさすがに邪推?
それに対して委員は実例で対応。実例は説得力があるしね。
(2)そういう前提で再構成
最大の欠点は、このアーツカウンシルの助成方針(目的)が不明なこと。セゾンでいうところの「中長期の支援」「公演の場ではなく、創造の過程を対象」「助成金だけでなく場、情報、機会などを組合せて提供」というもの。アーツカウンシルに限らず、基本方針を定めないことには機能できないのはどこの組織も同じ。「プログラム」ディレクターや「プログラム」オフィサーがプログラムを組めない。そしてこの基本方針が既存助成団体と重なるならわざわざ国がやる意味がない。
そしてその助成方針に大義名分がないといけない。何を大義名分にするか。「六つの重点戦略」に載っていた
・文化芸術そのものの価値の向上
・日本人のアイデンティティの確立
・文化力=経済力・外交力の基盤
のうち、3番目を大目的にする。具体的な活動としては戦略6の「文化発振・国際交流の充実」を目指す。
そして成果が評価できることが大事。咽から手が出るほど大事。これを海外活動の実績、その際の興行の両側面から評価する。国が税金で支援するのにふさわしい規模だし、支援が終わったあとも追跡調査しやすい。あと、単発の助成だと評価しにくいからセゾンを見習って3年から5年の期間を対象にしたいけど、そういう(一般的には)中長期の助成を正当化するには、これくらいの大風呂敷があってしかるべき。つまり、海外公演の実施と、助成終了後の海外での活躍を評価対象とする。3つの項目で「文化芸術そのものの価値の向上」を選ぶとアーティストの育成が入ってくるけど、アーティストの実力向上は評価できない。なので活動を評価項目にする。そこがポイント。
どこでジャンル別の話を持ち出すかはわからないけど、評価対象も評価項目もジャンルによって違ってくるのはなんとなくわかる。なので以下は芝居を対象にした話。各分野でこれを決めないといけないので、初代の担当者の任務は重い。
具体的には
・助成対象を直近3年でX公演以上、かつ平均年齢がX歳以下の団体とする。これは、すぐに解散されても困るし、助成した結果、長く海外向けの活動をしてほしいから。そして支援後も海外向けの活動をしてほしいので、制作責任者を含めた団体をターゲットとする。アーティスト個人は対象外。
・助成期間の最後に海外公演を行なうことを目指す。3年なら3年後の海外公演をターゲットに、助成期間はそのための準備、つまり、それに耐えうる製作側の創りこみの準備と、制作側の準備に充てる。もちろんその間に国内で上演するのは問題ない。というか、その上演と上演準備を海外公演のためのテストプロダクトという位置づけにする。最低限、国内ツアーを行い、その活動を評価するところまでこぎつける。また、支援完了後も継続観察する。
・助成(国)側は、海外公演の調整、制作のサポート、海外芸術事情のアドバイスなどを行なう。その他、環境やら現金やらあってもいい。海外の芝居を観に行くツアーがあってもいい。短期留学があってもいい。海外公演につながる名目が立つかどうかで判断。
・これを、ひとつの団体に対して助成側は特定の個人(複数でもいいけど固定のメンバー)が担当することで、より深く、個別の団体の特徴を生かす方向に進める。
・スタッフを助成対象にするか困るのだけど、これもまた評価しづらいので、直接助成対象にしないで、海外公演のための「助成内容」として扱うことで、結果的にスタッフが助成の恩恵を受けられるようにしたらいいのでは。今はそこまでしか思いつかない。
この実務を担うのが、プログラムディレクターとか、プログラムオフィサーとか。誰がやるか。ここで劇場法(仮)とかを持ち出す。劇場館長、あるいは劇場プロデュース部門のトップで海外に明るい人を中心に持ってくる。ここで将来はジャンル別の下にさらに地域別の階層を設ける、とかすればいい。芸術監督が制作に詳しいかどうかは不明なので、そこは実情に応じて決める。短期で入れ替わるという問題があったけど、これならそれぞれの劇場の任期に応じて少しずつ入替わるし、極端な短期も長期もない。それがイヤなら就任時にだけ資格を課し、最短と最長の任期を明記しておく。誰がディレクターで誰がオフィサーかはさておき、座長は新国立劇場の指定席。ただし、海外制作の支援が務まる人。この場合の支援の具体的内容は不明だけど。
アーティストオンリーの人は入れない。教授も評論家も入れない。支援されるのはアーティストとスタッフで、支援するのは制作のプロとして制作経験のある劇場の上位スタッフを資格の担保とする。ここを人選の基本とする。野田秀樹はどっちかと聞かれると、芸術監督なので資格としてはあり。ただ制作に詳しいかどうか知らないので、詳しくて本人が希望するなら本人が、詳しくないなら高萩宏が、劇場代表になる。
じゃあどうやって選ぶか。そのときのプログラムディレクターやプログラムオフィサーの独断による推薦を、プログラムディレクターたちの合議による独断で選ぶ。こればっかりは独断になってもしょうがない。体裁は応募性だけど、事実上の推薦とする。打診して断られたら、次点の団体を推薦する。ただし、その都度重視する項目を「プログラム」の一部として事前に発表しておく。その項目は一定期間通す。プログラムディレクターもプログラムオフィサーもその項目に沿って評価する。あと、プログラムディレクターやプログラムオフィサーが普段からどんな団体を観ているのか、それをどう評価したのか、ブログでもなんでもいいからすべて発表させる。未発表は罰則。偏っていてもいいので、偏っていることがわかるようにする。
選考漏れの団体をどうするか。諦める。全部とか無理。あるいは最初から特定の劇場で上演した公演が評価対象、他は対象外にする。むしろ推薦したくなるような団体は劇場プロデュース公演で上演させて推薦候補にする。もう一歩進めれば、プログラムディレクターやプログラムオフィサーの劇場に助成候補育成とかの名目で助成金を渡してもいい。劇場法(仮)につながりましたね。めでたい。ただし、助成の採択数が少ない劇場は外す。あるいは推薦した団体の評価が低い団体ばかりだったらやはりその劇場は外す。入替える
その団体の評価を何によるか。ここで経済を導入する。海外公演ステージ数、会場のキャパ数、そして実際の(有料)入場者数を初めとして、最終的には海外興行で黒字かどうかをひとつの目安とする。グッズを売ってもいい。これは芝居の内容と制作手腕の両方が求められ、しかも申告内容に嘘がなければ助成団体で左右できない。あと、短期だと赤字確実なので、一定期間の公演が必要になる前提を導入して、それでいろいろ慣れてもらうという狙いもある。ただ、海外でいきなり純粋黒字はハードルが高すぎるだろうから、なにがしかの費用はさっぴいていい。輸送費とか。ただ個人的には、海外公演だから赤字当たり前というのはおかしい。当初の目的に照らすなら、海外で現地の人が金を払ってでも観に来てくれて黒字公演になるような団体を輩出するのを超長期目標とおいてもいい。
まあこれは大風呂敷で、全部を海外に持っていけるとは限らないので、最初は国内ツアーの助成から始めて、その中でさらにいけそうな団体を海外推薦としてもいいと思う。
ここまでの話を上演団体から観た話に整理。
・一定の実績を持つ上演団体は、特定の劇場に応募して上演する。あるいはその劇場から誘われて上演する。
・そこでプログラムディレクターやプログラムオフィサーの眼鏡にかなうと、打診を受ける。
・受けると、応募書類を兼ねた目標までのロードマップの作成になる。ここからプログラムオフィサーがヘルプに入ってのアドバイスが始まる。このときすでにある程度の助成項目や金額も見積もる。
・で、応募して、審査。
・で、合格すればチャレンジ。公演のたびに決算と評価をして、ロードマップを確認して、団体の方針と活動内容を調整。
・公演がないときでも定期的にそのロードマップを確認しつつ、上演やら準備やらをしながら、国内ツアーまでこぎつける。
・その結果がよければ、海外推薦。
・で、合格したら、1年くらいかけて準備する。慣れの問題も、字幕その他の問題もあるから、原則再演。仕組が回ってきたら新作での挑戦を開始してもいいかも。
こうなると組織構成としては、プログラムディレクターやプログラムオフィサーが金額やらなにやらを含めた助成を決めるようにする。今の運営委員会と部会を置き換える。今の運営に物言いがついているのが最初だから、それでいい。
・理事長
・ジャンル別プログラムディレクター
・ジャンル内プログラム別オフィサー
の3段構成。将来地域別に展開する場合、地域別担当者を配置する。これをプログラム別オフィサーと並列に置くか、プログラム別オフィサーの配下に置くかはそのとき検討。ただ、助成が始まった後の助成の実務を、プログラムオフィサーが行なうのか、そこから委託されたプロの制作者がサポートする形のほうがいいのか、ここはちょっと今はわからん。
(3)こういう考えに立ったパブコメのようなもの
コメント1。そもそも助成方針が不明確。助成方針の立案までPDやPOに期待しているように読めるけど、公平な助成、万遍のない助成はそもそも不可能という前提に立って、それは金の出し元である国(から委託されている日本芸術文化振興会)が既存の助成団体とは違う方針を、責任を持って決めるべき。ここを逃げる団体に納税者として助成金を任せたくない。PDやPOの仕事が決まらないのはこれが原因。自分の意見は上述。
コメント2。現在の助成対象と評価委員の資格が曖昧。助成対象はアーティストと制作者を団体単位で、評価委員は制作経験を持つ劇場の上位スタッフということを明らかにしたい。アーティストが直接評価側に入るのには以下の2点から反対。
・選定が恣意的と言われる可能性がある。またそれを防ぐ手段がない。無理に防ごうとしてアーティストと無関係な分野を担当させると、それはアーティストを起用した意味がなくなる。
・そもそもアーツカウンシルは助成対象の成果を評価したり今後の活動をサポートするのが元来の役割で、それは国を超えても共通する概念として保持すべき。なのに助成側、審査側に回ることで育成する云々というのはアーツカウンシルではない。単なる言語遊びとして流したり、日本の現状に合わせて解釈とかで逃げてはいけない。最低限この意味を固定しないと、何でも助成可能になる。
コメント3。その上で、PDとかPOがサポートになって決定権がないのはおかしい。今の委員で評価できるならPDとかPOとかポストを用意するのがおかしい。評価できなかったメンバーのサポート役を増やすだけなら反対。今の委員を大幅に入替えて、PDやPOに実質的な評価委員として権限を持たせる。その代わり、上に書いたような資格を設ける。何も劇場法(仮)にこじつけた資格というわけではなく、求めている職務内容の質は高くも量も多いので、そういう立場の人でないとこなすのに支障がでるだろうというのもある。あと、PDやPOは各ジャンルを広く浅く観るよりは、特定のジャンル内で広く深いほうがいい。
コメント4。芝居に関して言えば、評価団体に(略)の資格を設ける。東京なんかはそれでも数が多いと思うので、さらに上演場所で区切ってもいいと思う。その上で、その評価資格公演は必ずPDやPOは観て、個人的に発表してもらうし、その感想を評価メンバーが交換する場を定期的に設ける。月1回くらいが理想。こういうことも、劇場職員なら職務に組みこめるけど、アーティストやスタッフだと厳しい。
コメント5。地域別に分ける場合は、細かい地域分けにしない。地元密着アーツカウンシルが将来出てくる事を期待して、国は大まかな分け方で対応する。東京、東日本、西日本でいい。東日本や西日本のような広い区分で評価資格公演を観るのも、アーティストやスタッフだと厳しい。
コメント6。公平は期待しない。ただし透明性を課す。プログラムと評価ポイントは事前に公表する。評価メンバー(PD、PO)には費用を払う代わりに、普段の芝居で何を観て、どう評価したかを逐一発表してもらう。プログラムの段階で偏りが起きうるのはしょうがないが、それならそれでその期間は一貫した偏りを目指す。その偏りがわかるように、発表してもらう。
コメント7。海外を対象とすることで、その外国語でその国の芝居を観られる、制作が出来る程度の語学力は助成側のメンバーの能力としてかなり重要視する。
コメント8。最終評価に興行評価もいれたいので、会計知識もあったほうがいい。これを会計専門家にするか、制作アドバイザーが兼ねるかは不明。現実的には別々にしないと人材がいないか。
(4)まとめ
なんか現状追認の箇所も多いけど、せっかくのチャンスなら官僚のプロレスにのるのもありと思います。ちなみにこの話の前提となる私の問題意識として、
・芝居の分野は支援してもらえて当たり前と思っている人が多すぎじゃないか。元は税金だぞ。
・なんでそれで食っていける職業として成立つ劇団が少ないんだ。プロとしてやっていくつもりはあるのか。
という、個人的にはまっとうと考える意見があります。なので貧乏当たり前のアマチュア劇団の単発運営費に税金を使って欲しくない。助成するならプロを目指す人の中で今後の見込みがある人に、それでプロになるまでの修行の費用を税金で立替える(投資する)ことで、将来もっとお釣りがくるような大物のプロになってほしい、というのが願いです。
<2011年6月14日追記>決着がついたようなので改めてエントリーをアップしました。
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