ナイロン100℃「百年の秘密」下北沢本多劇場(若干ネタばれあり)
<2012年5月18日(金)夜>
樹齢もわからない大木を中心に立てられたベイカー家の屋敷。この屋敷の家族として生まれたティルダと、12歳で転校してきていらいの友人コナをめぐる、ベイカー家の百年に渡る歴史と、そこで起きた秘密について。
シリアスなのは覚悟の上でとチラシに書いていたけど、シリアスというよりはある家族をめぐる壮大な歴史モノ。少な目ながらも残っている笑いの種類とか、大木の反応とか、いろいろ手癖は残っていても、たぶん「わが闇」以降のKERA新路線の完成形。
先にスタッフワークを褒めておくと、あの無茶な構成で成立たせた美術に、いつになく美しい照明、耳に残るテーマ曲、ナレーションに合せたオープニングの振付、すっきりした衣装やもはや芸術の域の映像など。長くナイロン100℃やKERAとやっていた人たちの阿吽の呼吸を感じる。このスタッフワークがあってこそ、ここまで完成したのだと思う。
その分脚本演出に注力したのかしないのかはわからないけど、脚本のネタはシリアス寄り。いろいろな人物のいろいろな秘密が出てくるけど、直接間接に「死」を感じさせる秘密がとても多い。それが芝居っ気抜きに(っていうのも変だけど)展開するので、観ていて気が抜けない。時間が行き来して、先に結果をばらしてから後で秘密が生まれた瞬間に戻るんだけど、これがよりシリアスさを濃くしている。主人公の両親の秘密が薄かったけど、それは必要なら再演時に修正すればいい。多少の笑いはあっても、自分で書いたものでも、緊張感を保って最後まで演出しきったこの手腕は本物。そしてその中心を担った犬山イヌコと峯村リエの2人も本物。この2人の実力を最大限に輝かせるための芝居だったんじゃないかと思う。
そして、本物なんだけど、本物だからこそ今まで見えなかったものが見えてしまった。役者が追いついていない。この脚本演出の水準に見合っていたのが、上の2人と、松永玲子、客演だと山西惇くらい。廣川三憲が終盤の一瞬だけいい感じだったけど、大倉孝二とか村岡希美とかみのすけとか、いつも通りの演技をいつも通り観せられた感じ。ナイロン100℃自体がもともと小劇場というかサブカルチャーというか、リアリズムど真ん中って感じではないし、この芝居の何箇所かではそういう演技のほうがよかったとは思うけど、でもリアリズムで責めたほうがいい場面で責めなかったのは、あれは演出なのか。リアリズムっていうのも違うな、うーん、これが正しい言葉なのか自信がないけど、もっと「生っぽい」ものに「触らせて」ほしかった。大倉孝二が親と口論する場面とか、村岡希美が取立に来て犬山イヌコと口論になる場面とか、あれは観ている側が登場人物の核に触れられる機会だけど、なんか中途半端に終わってしまった感じがする。これはたまたまどっちも口論の場面だけど、普段の場面からもっといけるはず。他の人も含めて、超もったいない。
なんだけど、とてもよい芝居なのは間違いないので、これからツアーで観る人はお楽しみに。観るかどうか迷っているなら迷わずチケットを手配。首都圏だと横浜がもう1日だけあります。笑ってすっきりする芝居ではないですし、休憩をはさんで3時間35分とか長いですけど、観ている間はそんなの気になりませんから。
« 今年も新国立劇場演劇研修所のオープンスクールをやるそうなので奮ってご応募ください(追記あり) | トップページ | 演出家と演技指導 »
« 今年も新国立劇場演劇研修所のオープンスクールをやるそうなので奮ってご応募ください(追記あり) | トップページ | 演出家と演技指導 »
コメント