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2012年6月10日 (日)

パルコ企画製作「三谷版『桜の園』」PARCO劇場(ネタばれあり)

<2012年6月9日(土)夜>

帝政末期のロシア。先祖代々の資産を食潰しながら、なお贅沢な暮らしを続ける未亡人の貴族。借金の抵当となっている自宅の城と、その周りの広大な桜の園。現実を直視できない当主の未亡人と、その娘姉妹、抵当の競売流れを防ぐために骨を折る元使用人たちをめぐる、人と時代の物語。

三谷版だの喜劇だのこれぞチェーホフだのとさんざん宣伝で煽っていた本作ですが、観終わった感想はよくも悪くも王道の演出という印象。以前一度だけ、確か蜷川演出で観たけどほとんど覚えていない、という程度の事前知識で原作をわかっていないネタばれ感想は以下。

どこらへんが三谷版で喜劇かというと、家庭教師や小間使いなどの周辺人物によるやり取りのコミカル化、および小ネタの追加がメイン。あと舞踏会(が開かれているときに別室でやりとり)の場面がちょっと変わっていたりするのかな? 筋はほとんどそのままだと思う(これは自信がないので詳しい人が調べてほしい)。通常は恋愛沙汰を強調して描いて、たまに金絡みの話に戻るような感じで、観やすさとしてはとてもバランスがよい。それは三谷幸喜の手柄。脇で笑わせる分だけ未亡人の場面で締めるようになっていて、未亡人役の浅岡ルリ子では遊びが少なかったけど、それでも大学生役の藤井隆を問詰めるような余裕もあり。

青木さやかが前説をやったんだけど、その中で「登場人物の名前が誰が誰だかわからない」というくだりがあって、みんな同じなんだと笑った。それかどうかはしらないけど、登場人物のビジュアルに大幅に差をつけて、名前がわからないでも筋の把握に困らないようになっていた。これも三谷幸喜の手柄。

適度に笑わせてきっちり締めて、脚本負けしていないレベルの仕上がりは、演出家の手腕だなと思う。そしてそもそもこの脚本をこの時代に取上げるところがやっぱりセンスなんだと思う。新旧上下の逆転の悲喜劇ほど今の時代に、特に日本に適したテーマはなかなかないから。その点でも三谷幸喜はさすがだと思う。

じゃあ絶賛モノかというと、まだそこまでは行っていない。桜の園を取上げて新旧上下の逆転は避けて通れないと思うのだけど、それが弱い。なんでだろうと考えたんだけど、新旧の差はあっても、上下の差が希薄。浅岡ルリ子だけが上っぽさを表していて、他の上っぽさ、下っぽさが足りない。そういう時代なんだとしても、市川しんぺーの成金商人は元使用人の屈折感がないと、桜の園を買収したときの絶頂感とか、長女に結婚を申込めないいじらしさが引立たない。それができる役者だと信じているので、あと10倍がんばってほしい。大和田美帆は新しいことに期待する次女として他のベテランを差置いてすでに完成レベルの仕上がり。

公演後半になるほどよくなる気配は感じたので、観るなら後半がよかったかも。と思いつつ、こういう生意気なことが書けるのは今回のチェーホフがわかりやすかったからで、その点では三谷幸喜に感謝と拍手。新しいことに何でも手が出せる才能と地位がある人なんだけど、観客としては、一時のKERAみたいに演出に専念するような時期があったら面白いだろうな、けど新しいことに手を出して道を作ってほしいな、という両方の期待を勝手にしてしまいます。

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コメント

最近このサイトを発見し、レビューを毎回楽しみにしています。
一つお願いが。
文中のイタリックフォントですが、読み辛いことこの上ありません。
快適に読むために是非改善をお願いいたします。

>匿名さん
ありがとうございます。昔はブログの書式が今ほどなかったので、本文と引用分とがぱっと見で区別がつきやすく、設定もしやすいイタリック体を使うようになって、それ以来の習慣です。

今は引用書式もあるのですが、切替えるならどこかで揃えたいので、当てにしないで気長にお待ちください。読みづらい場合、引用元に直接アクセスしていただけば当ブログよりは読みやすいはずですので、それで当面はご容赦ください。

2012年7月14日(日)大阪公演を見てきました。チェーホフという作家を知らずして三谷幸喜さんという脚本家の喜劇に憧れて行ったので、正直がっかりでした。ストーリーに喜劇性がないところに、三谷さんが役者のセリフをコミカルに仕立てているようでしたが、セリフの末尾にダジャレを入れている位で、正直関西では笑えません。ストーリーに笑いがないと厳しいです。浅丘ルリ子は喜劇に向いていません。彼女のセリフの中に観客を笑わせる部分があったようですが、感情がこもっておらず棒読みなので、笑うことができませんでした。笑いを期待して行っただけに、笑えないので、些細なセリフに観客が無理して笑っていることに逆に笑ってしまいました。あれで9,000円でしたっけ?高すぎます。

>大阪太郎さん

どうも。「ストーリーに笑いがないと厳しい」というのがどのような笑いなのか、関西に縁のない私にはピンとこないのですが、何しろチェーホフなので、そこから大きく話がはずれない以上、ストーリーに笑いは期待できないと思います。その点は、前評判で煽りすぎですね。

チケット代で9000円が高いと書かれていますが、挑戦して合わなかったのであればお気の毒でした。私の個人的基準では9000円は芸能人か演出家への興味次第という位置づけなので、もしもコメント欄を再訪していただけたようでしたら以下のエントリーもご覧ください。
http://www.kangekiroku.com/2011/09/post-d014.html

初めまして。当方演劇は素人で、演技の良し悪しはわからないですが浅丘ルリ子はよかったと思います。なんで笑えないのかがわからないです。関西にはズレを笑う文化がないんですかね。一緒に行った関西出身の友人はハマってましたが…
チェーホフの喜劇性は関西では通用しないのかもしれないですね、ちょっと調べてみたいです。『敵』の滑稽さとか伝わらないのかなあ。
六段落目の上下に関する指摘、とても的確だと思います。長女に結婚を申し込めないのがなんかちょっと唐突なんですよね。

>まつのさん

どうも。お褒めに預かり恐縮です。私も大阪のノリというか、笑いの分類に詳しくないので、ぜひ調べてみてください。

一般論として、芸術要素が強いほど、全員が100%満足するものはありえないということはあると思います。

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