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2014年12月15日 (月)

ミナモザ「みえない雲」シアタートラム

<2014年12月14日(日)夜>

西ドイツの原子力発電所で事故が起きた。両親が出かけており、弟を探しに家に戻った少女は、電話で連絡を受けた母親の指示に従って叔母の家を目指す。近隣区域の住民が避難していなくなってしまった中、2人で自転車で駅を目指すが、それは苦難の始まりだった・・・。チェルノブイリ原発事故の直後に書かれた架空の原発事故の物語と、それを昔読んで、忘れていて、2011年の原発事故に直面した演出家の物語とで綴る、2つの物語。

「みえない雲」は実際に書かれた本(小学館文庫)で、演出家(兼上演脚本家)が実際に著者に会いにも行って、そのときの話が途中に入っている。けどそれは仕上がった芝居の一部に貢献しただけのこと(と言っては失礼だが全体のほんの一部)で、本編の上演内容が圧倒的に素晴らしい。かなり直球な話題だけど、政治的な芝居が嫌いな自分も今回の仕上がりは認める。

本編の、事故が起きた直後の混乱から始まって、一定の被曝を受けた避難地域の住民に対する避難先地域住民の偏見、事故自体を忘れたがる人、いいポーズをとりたがる政治家、なんでも政治家のせいにしようとする人。事故自体よりも、事故が起きたときの人間の振舞に焦点を当てた原作者はさすが。どう見ても責任はないという主人公の少女との組合せはややずるいと言えるけど、そういう存在を主人公に持ってこないと成立しないくらい面倒な話とも言える。

役者は抜群にはまった人選で、見終わったあとは感心した。どうやってキャスティングを決めているのか知りたい。開演第一声でこれはよい芝居になると感じさせてくれた陽月華と、やっぱりこの主人公を120点で勤め上げて外すわけにはいかない上白石萌音とを挙げておく。16歳でこれが初舞台という贔屓目をのぞいても褒めたい仕上がりで、上手くいけば宮沢りえクラスを目指せるので、ぜひ育ってほしい。

何か最近シアタートラムで上演する劇団はスタッフワークが高いレベルで揃っていて、平舞台に椅子と机がメインで進める美術といい、それを支える照明と衣装といい、開演前から雰囲気を出すのに貢献していた音響といい、素晴らしい。けれど一番不思議なのはチラシで、未だにわからないけれど、チラシで「ジャケ買い」して滅多に外さないあの第六感は何なんだろう。仮ビラの時点で気にはなっていたけど、本ビラを見た時点でこれは観ないといけないと思って、実際観たら当たりというこの感覚。

ただ1点だけどうにも釈然としない点があった。原発是非に絡む話を演出家の物語の部分で話していて、この手の話は「危険とのトレードオフでこのまま続ける」「止める代わりに使うエネルギーを縮小して不便に甘んじる」「より安全で使用量もまかなえる新しいエネルギーを探す」の3点のどれかの選択肢に落着くはずなんだけど、何か原発に反対する人たちは反対の先の代案を探す方向にまったく労力を割かない印象がある。別に科学者じゃなくても、そういう方向を模索する動きを支持することはできると思うのだけど、そこを「疲れた」で終わってしまうのは、それ以外の場面の出来を台無しにする。

上記1点だけが大不満だけど、その他は普段なら緊急口コミプッシュ出してもいいくらいの仕上がり。あと2日3公演あるので間に合う人はぜひ。原発賛成反対の人が観るのもいいけど、そんなこと滅多に考えないという人ほど観てほしい力作。休憩なし2時間30分なので体調は整えて。

できれば5年後にこの同じキャスティングで、同じ劇場で、再演してほしい。とリクエストしておく。

追記:アフタートークで「原作の本はロビーで売っている」と言っていたけど、終わってからロビーに出たら売っていなかった。売切ならそれでいいけど、時間が遅いからって仕舞ったのならそれは売り逃しもはなはだしい。

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