2024年12月
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2014年12月31日 (水)

2014年下半期決算

恒例の年末決算です。

(1)本多劇場プロデュース「志の輔らくごin下北沢 牡丹灯籠 2014」下北沢本多劇場

(2)大人の新感線「ラストフラワーズ」赤坂ACTシアター

(3)OFFICE SHIKA PRODUCE「山犬」座・高円寺1

(4)パルコプロデュース「君となら」PARCO劇場

(5)演劇系大学共同制作「見よ、飛行機の高く飛べるを」東京芸術劇場シアターイースト

(6)葛河思潮社「背信」KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ

(7)SPAC「マハーバーラタ」KAAT神奈川芸術劇場ホール

(8)冨士山アネット/Manos.「醜い男」東京芸術劇場アトリエイースト

(9)こまつ座「きらめく星座」紀伊国屋サザンシアター

(10)パラドックス定数「怪人21面相」spaceEDGE

(11)サンプル「ファーム」東京芸術劇場シアターイースト

(12)世田谷パブリックシアター企画制作「」シアタートラム

(13)東京芸術劇場主催「小指の思い出」東京芸術劇場プレイハウス

(14)ナイロン100℃「社長吸血鬼」下北沢本多劇場

(15)青年団「暗愚小傳」吉祥寺シアター

(16)二兎社「鴎外の怪談」シアターウエスト

(17)新国立劇場主催「ブレス・オブ・ライフ」新国立劇場小劇場

(18)PARCO Production「紫式部ダイアリー」PARCO劇場

(19)東京芸術劇場主催「ポリグラフ」東京芸術劇場シアターイースト

(20)M&O playsプロデュース「水の戯れ」下北沢本多劇場

(21)てがみ座「汽水域」シアタートラム

(22)イキウメ「新しい祝日」東京芸術劇場シアターイースト

(23)ミナモザ「みえない雲」シアタートラム

(24)新国立劇場制作「星ノ数ホド」新国立劇場小劇場

(25)演劇集団キャラメルボックス「ブリザード・ミュージック」サンシャイン劇場

(26)Bunkamura/大人計画 企画製作「キレイ」Bunkamuraシアターコクーン

以上26本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果、    

  • チケット総額は148258円
  • 1本あたりの単価は5702円

となりました。上半期の18本とあわせると

  • チケット総額は247358円
  • 1本あたりの単価は5621円

です。上半期ですでにペースオーバーして、例年なら年末で加速するところ、 秋口から加速が始まって44本になりました。記憶では過去最高の年間観劇本数は49本だったので、全盛期同等の勢いです。

見損ねた芝居も多数あるなか、志の輔あり三谷幸喜あり青年団もイキウメもサンプルもこまつ座もありでラインナップだけなら上半期と似ていますけれど、観終わった今から振返れば上半期が地味だったと霞むくらい、下半期の芝居はメリハリの付いた濃い芝居が多かったです。

そんな中で年間を含めて文句なしの1本は(12)で、これで口コミプッシュを出し損ねたから今年はもう出せない、たとえ3年に1回でもこういう芝居が観られるなら芝居を観続けないといけない、と思わせてくれた素晴らしい出来でした。これで久しぶりに目が覚めたので、秋口以降のペースが加速した遠因ともいえます。(12)も上半期に見た「ムサシ」も、相手を許せるかが芝居の問いかけになっていました。 ただし「ムサシ」が強い人物の立場から相手を許せるかを問う描き方になっていたのに対して、(12)は虐げられた人物の立場から相手を許せるかを問う描き方になっていて、描かれた世界の身近さと問いの重さも相まって(12)が圧倒的に濃かったです。この殺伐とした時代に、数年前に書かれた脚本が上演されてぴたりとはまるところは、脚本家がすぐれた時代先取り感覚を持っていたからでしょうか。

他に、芝居でここまで笑ったのは久しぶりという(4)と、出演者を初めとしていろいろな要素が絶妙に組合わさった(23)も、思い返せばなぜ口コミプッシュしなかったのかとこちらに反省を促す出来でした。最近は以前よりも再演の数が増えているようで、その最高の1本が今年は(4)でした。まだまだ掘れば出てくるので各団体ともぜひ積極的に再演演目を増やしてほしいです。そして(23)は初演だけど再演してほしい1本で、かなうのであれば「Caesiumberry Jam」など近い話題の芝居とセットでの上演を企画などいかがでしょうかと期待を込めて書いておきます。

もうひとつ。下半期は久しぶりに噛み付くようなエントリーを書いてしまったのでその補足です(「状況倫理と絶対倫理と説教芝居と芝居の強度について」「一日に二度も永井荷風を観たくない」)。下半期だと(11)(21)(22)(23)は現代の日本人への批判が含まれていますけど、それは大きな目に見える絶対悪を想定しての直接的な批判ではなくて、善であり悪でもある個人や個人の行ないの集積が引起している問題に対して、個人の立場からの苦闘を描いていて、それでいて、というかそれだからこそ、物語が膨らんで大きな存在の方向に観ている側の関心と想像が向かっていました。この、どこまでも個人を立ち位置にした描き方というのが、いいことだと思えるようになってきました。

この話を何でしつこく書いているかというと、鶏が先か卵か先かという話になりますけど、日本語というのは状況倫理に適した表現をたくさん持つ言語なので、意識せずに日本語を使う人の間で日本語を話して育った日本人は、よほど気をつけない限り状況倫理が体にしみこんで行動にも現れるのではないかという乱暴な仮説を立てたからです。今の日本に何か大きな問題があったとしたら、それはそこまで問題を大きくした個人の無自覚の集積で、それを直すとしたら問題ではなく原因を責めるべきで、そのためには自分を含めた個人が、適切な絶対倫理を身につけるのは難しいとしても、日常で「今のは状況倫理だ」と自覚するだけでも、長い目で見れば自分にも周りにも良い効果があるのではないか、と思うようになりました。

閑話休題。この下半期に観た劇場が公立劇場に偏っていました。以前の公立劇場は、失礼な表現を使うならもっとつまらない芝居を細々と上演していましたが、いつの間にか気になる芝居が多数上演されるようになっていました。特に東京芸術劇場のシアターイースト/シアターウエストの人気には目を見張ります。 これは明らかに野田秀樹が芸術監督に就任して以降の話で、フェスティバル/トーキョーの拠点としても根付きそうです。就任から約5年経って、完全に流れを持ってきたように見えます。

他に、シアタートラムはイキウメが、吉祥寺シアターは青年団が毎年上演するようになりましたし、他にも若手中堅の劇団は座・高円寺や三鷹星のホール、少し離れて神奈川芸術劇場の大ホールなど、200人強の規模の劇場を持つ公立劇場の人気が高いです。いつのタイミングからかはわかりませんが、都内の公立劇場が若手中堅支援の企画やらスタッフ研修やらを立てるようになってから、公立劇場間で特色を競うような流れに変わってきたようです。これは別途どこかでまとめたいと思います(ちなみに同じことを2009年末にも書いて放置していました)。合せて、自治体が芸術に金を突っ込むようになった理由を知りたいです。もし何となく金を突っ込んでいるのだとしたら、何となく際限なく金を突っ込む可能性と、何となく金を突っ込むのを止める可能性と、両方がありうるので、その理由を知っておくのは大事だと思います。

その分だけ民間の劇場が細ってきたというか、民間の劇場が細ってきたのを補っているのかわかりませんが、 近年で覚えているところではTHEATER/TOPS、ル・テアトル銀座、相鉄本多劇場など、閉館が目立ちます(公立では青山劇場/青山円形劇場もなくなりますがそれは来年のトピック)。新宿のコマ劇場の跡地ビルも2015年にオープンしますが、映画館のみで劇場は作られないとのことです。本多劇場が下北沢に小さい劇場をたくさん作りましたが、そこらへんの受け皿も考えてのことかもしれません。この話も、公立劇場の話と絡めてどこかでまとめたいです。

今年は明らかに観すぎましたが、(12)のような芝居に出会えたのも事実なので、2015年は年間24本の目安を少し緩めて、30本以内を目標にしたいと思います。

取りとめのない文章になりましたが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

Bunkamura/大人計画 企画製作「キレイ」Bunkamuraシアターコクーン

<2014年12月30日(火)昼>

日本のようなもうひとつの日本。民族同士が争っている中、死体集めを生業にする一家に謎の浮浪少女ケガレが保護される。物事を知らないだけでなく、過去についても覚えていない。そんなケガレを中心としたいろいろな栄枯盛衰の物語。

粗筋はとても書きづらいので適当。初演が松尾スズキ初見の芝居でこれだけはどうしても観ておきたくて、当日券を蹴られて蹴られてさすがに酷いと諦めかけたところに東京楽日やけくそで挑戦してようやく観劇。自分史上最多挑戦かつ最長時間の当日券待ち。もう二度とこんなに並ばない。そのかわり、座席で観たのは今回が初めての気がする。

全体にネタが整理されたみたいだけど、大部分は以前と同じ。すごい久しぶりだったけど、歌の力というのはすごくて、曲を聴いたらいろいろ思い出して、今さらだけどいい曲が多かった。あとダンスもよかった。1991年初演で2012年にみた「ふくすけ」は古いという印象を受けたけど、2000年初演で今回観た「キレイ」は10年後に観てもまだ古くならなさそう。初演再演と比べたら良くも悪くもコメント出てくるけど、今回の多部未華子/松雪泰子のケガレは3回の中で一番お互いが近い気がした。他の役者も、初見の人なら文句は出ない仕上がり。2014年の悼尾を飾るのにふさわしい芝居だった。次の上演がいつになるかわからないので、大阪公演で迷っている人は当日券にチャレンジを。

初演で「生き恥さらすのは人生の醍醐味でしょう」って言っていたように記憶している台詞は再演時と同様に微妙に違っていて、脚本が変わったのか記憶が間違っているのか初演の観たときだけ台詞を変えていたのかは定かではない。再演のときはがっかりしていたけど、再々演まで観た今となってはどっちでもいい。私の中では「生き恥さらすのは人生の醍醐味でしょう」で決定。

チケットについての余談1。世の中の金回りがよくなったからか、今回はダフ屋がうろうろしていて、敷地外ならともかくBunkamura敷地内を闊歩されて劇場真ん前で声かけていて制作は何やってんだしっかりしろよと思った。それとは別に、ダフ屋を眺めながら、あれはあれでなかなか面倒な商売なのだということもわかった。

チケットについての余談2。あれだけ当日券で苦労したのに近くに空席が残っていた。一般の人が購入済みのチケットで急遽都合が付かなくなったのならしかたがないけど、関係者席のすっぽかしだったら勘弁してほしい。別の日で蹴られたときに、開演しているけど関係者が来場していなくて連絡が付かないチケットが残っている気配があったけど、あれは5分前で連絡つかなかったらその時点で無条件に当日券に回してほしい。これだけの名作なんだから、キャンセル待ちまで並んだ客にごめんなさいしたけど空席が残って、それが関係者席のドタキャンだったら、大げさにいえば芝居と客に対する冒涜だ。

2014年12月24日 (水)

演劇集団キャラメルボックス「ブリザード・ミュージック」サンシャイン劇場

<2014年12月21日(日)夜>

90歳の祖父が劇場を借りるために多額の申込料を支払っていたことが発覚。オーディションで集まった役者に発表した演目は、宮沢賢治から預かっていた未発表原稿を舞台化したものだという。キャスティングでもめる中、その原稿を預かることになった経緯を舞台化することに決まる。その経緯は祖父しか知らないため聞取った内容を元に即興で芝居を作り上げていく。劇場は1週間後までしか借りておらず、その最終日が上演予定日。果たして芝居は上演できるのか。

別の当日券で蹴られて収まりがつかず思案した結果、この前観たミナモザで大森美紀子が結構よかったのと、観たはずだけと筋を忘れていたのと、ハーフプライスチケットが手に入ったのとで、まさかのキャラメルボックス観劇。すっかり忘れていて観ながらでもクライマックス以外思い出せなかったけど、途中からはおおよそ予想どおりの山と谷が展開してこれぞキャラメルボックス。よく言えば元気いっぱい悪く言えば押しつけがましい演技が目立つ中で、軽さが出ていた菅野良一がいい感じ。クライマックスのささやき声は2階席からはほとんど聴きとれず、狙いだとしてもその狙いは違うのでは。

所々でものすごい御都合主義が入るけど、基本のアイディアがいいので、まったく別の演出家が豪華なキャスティングで上演したらがらっと印象が変わるかもしれない。JAC出身の役者に堤真一とか、「元」宝塚女優に天海祐希とか。

2014年12月23日 (火)

新国立劇場制作「星ノ数ホド」新国立劇場小劇場

<2014年12月20日(土)夜>

共通の知人が主催するバーベキューで知合った、養蜂家のローランドと物理学者のマリアン。人生の転機で起こり得た無数の出会いと衝突を描きながらたどる2人の人生の行方。

出会いの場面からして5パターンくらい、その後もそれぞれの場面で誘ったり喧嘩したりの場面を何パターンも描く、脚本の構成に大きく依存した芝居。エッシャーの騙し絵みたいな舞台で繰広げられるやり取りは「そのときその一言を上手くいえなかったばかりに」という場面ばかり。その無数の場面の果てがどうなるか、もやっぱり脚本の構成で用意されている。同じ場面のパターン切替は音で合図してくれるので、その仕組みさえわかればあとはそれぞれの場面やパターンを楽しめる。エンディングも含めて満足できる佳作。

2人芝居を演じたのが浦井健治と鈴木杏で、2人とも観ている側に真面目な印象を与える役者なので、悪いことではないが、笑えるシーンの数の割には芝居全体も真面目に進行した印象。これはよい芝居なので、いっそダブルキャストやトリプルキャストにして、新国立劇場で定期的に上演する演目になったらいいのにと空想。あの役者とあの役者だったらこの場面はどうなっていただろう、と想像が膨らむ。

2014年12月15日 (月)

ミナモザ「みえない雲」シアタートラム

<2014年12月14日(日)夜>

西ドイツの原子力発電所で事故が起きた。両親が出かけており、弟を探しに家に戻った少女は、電話で連絡を受けた母親の指示に従って叔母の家を目指す。近隣区域の住民が避難していなくなってしまった中、2人で自転車で駅を目指すが、それは苦難の始まりだった・・・。チェルノブイリ原発事故の直後に書かれた架空の原発事故の物語と、それを昔読んで、忘れていて、2011年の原発事故に直面した演出家の物語とで綴る、2つの物語。

「みえない雲」は実際に書かれた本(小学館文庫)で、演出家(兼上演脚本家)が実際に著者に会いにも行って、そのときの話が途中に入っている。けどそれは仕上がった芝居の一部に貢献しただけのこと(と言っては失礼だが全体のほんの一部)で、本編の上演内容が圧倒的に素晴らしい。かなり直球な話題だけど、政治的な芝居が嫌いな自分も今回の仕上がりは認める。

本編の、事故が起きた直後の混乱から始まって、一定の被曝を受けた避難地域の住民に対する避難先地域住民の偏見、事故自体を忘れたがる人、いいポーズをとりたがる政治家、なんでも政治家のせいにしようとする人。事故自体よりも、事故が起きたときの人間の振舞に焦点を当てた原作者はさすが。どう見ても責任はないという主人公の少女との組合せはややずるいと言えるけど、そういう存在を主人公に持ってこないと成立しないくらい面倒な話とも言える。

役者は抜群にはまった人選で、見終わったあとは感心した。どうやってキャスティングを決めているのか知りたい。開演第一声でこれはよい芝居になると感じさせてくれた陽月華と、やっぱりこの主人公を120点で勤め上げて外すわけにはいかない上白石萌音とを挙げておく。16歳でこれが初舞台という贔屓目をのぞいても褒めたい仕上がりで、上手くいけば宮沢りえクラスを目指せるので、ぜひ育ってほしい。

何か最近シアタートラムで上演する劇団はスタッフワークが高いレベルで揃っていて、平舞台に椅子と机がメインで進める美術といい、それを支える照明と衣装といい、開演前から雰囲気を出すのに貢献していた音響といい、素晴らしい。けれど一番不思議なのはチラシで、未だにわからないけれど、チラシで「ジャケ買い」して滅多に外さないあの第六感は何なんだろう。仮ビラの時点で気にはなっていたけど、本ビラを見た時点でこれは観ないといけないと思って、実際観たら当たりというこの感覚。

ただ1点だけどうにも釈然としない点があった。原発是非に絡む話を演出家の物語の部分で話していて、この手の話は「危険とのトレードオフでこのまま続ける」「止める代わりに使うエネルギーを縮小して不便に甘んじる」「より安全で使用量もまかなえる新しいエネルギーを探す」の3点のどれかの選択肢に落着くはずなんだけど、何か原発に反対する人たちは反対の先の代案を探す方向にまったく労力を割かない印象がある。別に科学者じゃなくても、そういう方向を模索する動きを支持することはできると思うのだけど、そこを「疲れた」で終わってしまうのは、それ以外の場面の出来を台無しにする。

上記1点だけが大不満だけど、その他は普段なら緊急口コミプッシュ出してもいいくらいの仕上がり。あと2日3公演あるので間に合う人はぜひ。原発賛成反対の人が観るのもいいけど、そんなこと滅多に考えないという人ほど観てほしい力作。休憩なし2時間30分なので体調は整えて。

できれば5年後にこの同じキャスティングで、同じ劇場で、再演してほしい。とリクエストしておく。

追記:アフタートークで「原作の本はロビーで売っている」と言っていたけど、終わってからロビーに出たら売っていなかった。売切ならそれでいいけど、時間が遅いからって仕舞ったのならそれは売り逃しもはなはだしい。

2014年12月 7日 (日)

イキウメ「新しい祝日」東京芸術劇場シアターイースト(ネタばれあり)

<2014年12月6日(土)夜>

会社でひとり残業する男。そこに変な格好をした不審な男が突然現れる。どこから現れたのかわからないし、電話も通じない。不審な男はこんなところは会社じゃないと暴れだし、男に勝手な名前を命名し、行こうぜと誘いをかける。さらに現れた人たちとは話している内容がかみ合わず、なんとなく話をあわせるが、不審な男とだけは会話が通じる。

残業する男が不審な男の言うことを聞かされる導入部が超強引で、これさえ乗り切ればと思いきや、こういうのはメタ物語というのか、非常に好みの分かれる展開が続く。終わったときの拍手の少なさは内容よりも描き方が万人受けしなかったからだと信じたい。今の自分ならとても好き。劇団ならではのよい冒険だと思う。

ネタばれで書くと、男の人生をやり直させて、どこで自分に嘘をついたのかを辿る旅なのだけど、それにかこつけて自分に嘘をつくことを強いる日本の集団心理を描いたもの。その代表として(導入部は置いておいて)幼稚園、部活動、会社組織を選ぶところがセンス。その中で特に部活動を重点的に描いているけど、あの悪気は一切ない悪意の描き方はよかった。ルールに従うというのは大事なのだけど、それは適切な目的に沿って妥当な理由に基づくものであって、単に「俺のいう事を聞け」をルールと言換えるのは違うだろ、そんなものに従って自分に嘘をつく義理はない、という直球の脚本だった。けど、あれが通じない人もいるんだろうな。自分も15年前なら通じなかったと思う。中学校のころ観たらどういう感想になったんだろう。

で、もっとすぐれているのはあれを全部テンプレートとして描いたことで、当日パンフの登場人物は役名でなく役割を載せたこと。芝居としてつまらなくなるすれすれまで親切設計してきたか。

いつもだと引張るのは安井順平と岩本幸子(あの部長役の罪作りな感じは最高です)で、2人が引張っていたのは同じだけど、今回はさらに出ずっぱりで浜田信也が頑張った。この人はやや受身な役のときに輝くっぽい。他の役者も舞台脇待機なのである意味出ずっぱり。そして今回はゲストも含めてレベル高かった。どうも芝居によって演技水準の振れ幅が激しい印象がある劇団だけど、このレベルで安定してさらに上を臨むことを期待。

てがみ座「汽水域」シアタートラム

<2014年12月6日(土)昼>

日系二世の父とフィリピン人の母との間に生まれて、海に流れ込む河口の近くの村で育ち、家業と漁を手伝って暮らす兄弟。日本の援助で貿易港を建設するために立ち退きを迫られて対立する村人たち。立ち退き拒否派の筆頭である両親と、村から出て日本に行くことを考える長男、それに関わる人たちの行方。

初見のてがみ座は、フィリピン人の家族を描きつつ、そこに大なり小なり関わる日本人と日本の悪い面を描いてしかもある種の美しさの残る話。地理も時間もスケールが大きくて粗筋まとめも一苦労、描いていることは具体的なのに具体的な美術を抽象的に切替えてフィリピンと日本とを切替える手際など、力作。

必要なさそうなのに、実はかなり役者に身体能力を要求するあたりも含めて、ぱっと見では全然似ていないけど、言葉遊びのない野田秀樹を想像した。脚本と演出がかなりいい感じで噛み合ったか。最初劇場に入った瞬間にスズナリでやれよと思ったけど結局は良くできていた美術、美しさの演出に重要だった照明など、スタッフワークもよい。

初見の劇団を観る場合は知らない役者を知るのも楽しみのひとつだけど、幅広い年齢層でよく集めたとはずれなしの好印象。特に山場をひっぱった母親役の大西多摩恵と、明らかに悪人役だけどどこか気になる日本人ブローカーの笠木誠は目を引かれた。無名塾と第三エロチカの出身。まだまだ知らない名手は大勢いる。

日本人の個人の良くないところについてはだいぶ色々考えられるようになってきたけど、直近の日本の企業組織が下した決定の良くないところについてはまだ考えがまとまらない。それで「頑張った」人たちの成果を良くも悪くも享受している自覚はある。なので物語のそこについての評価は保留。でもあと何回か劇団を観たいと思わされた。

左端が切れて脚本家と演出家のコメントがまともに読めない当日パンフをよしとした制作だけは駄目だししておく。仮にも千秋楽だから直す時間はあっただろう。

2014年11月 4日 (火)

M&O playsプロデュース「水の戯れ」下北沢本多劇場

<2014年11月2日(日)昼>

ある仕立て屋。3人兄弟のうち、仕立て屋の家業は独身の次男が継いでいる。長男は仕事で飛びまわり、三男は亡くなって13年になる。三男の住んでいた近所のマンションには妻がまだ独りで暮らしているが、マンションの取壊し計画をきっかけに、彼女に心を寄せているがなかなか打明けられない次男はこの機会に自宅に来ないかと遠まわしなプロポーズをしている。そこへ長男が中国人の彼女を連れて帰宅。うやむやになっていた家の権利を次男に譲りたいと持ちかける。

じりじりと進む話の中に、男の面倒と女の面倒を詰めこんだ1本。脚本演出に加えてキャスティングもはまった傑作。前半の最後から後半に飛んだ直後からのスリリング。やっぱり岩松了芝居はもっと観ないと損だと思い知らされる。

この脚本を成立させるには次男と三男の妻の配役が鍵だと思うけど、そこに光石研と菊池亜希子を連れてきたのが大当たり。特に菊池亜希子は役どころもあるけど、観ていてくらくらした。他に誰を挙げてもいいけど、みんないいので挙げられない。

これまで観た岩松了の芝居は役の内心に委ねることが多くて、よく言えば観る側の想像にまかせる悪く言えば煙に巻かれることもあったけど、今回は所々ではっきりとした台詞が何度かあって、かなり親切なほうだった。当日券でも良席が残っていたので、これからでもこの面倒の行方をぜひ見届けてほしい。お勧め。

東京芸術劇場主催「ポリグラフ」東京芸術劇場シアターイースト

<2014年11月1日(土)夜>

カナダのケベックシティーに住む女優の卵ルーシー。たまたま見かけた列車の飛込事件がきっかけで、犯罪捜査学を職業とするデイビッドといい仲になる。ルーシーの隣人のフランソワは大学時代に政治学を学ぶも今はレストランのウェイターをやっている。やがてルーシーはオーディションで映画の主役に選ばれるが、その映画はかつて起きた事件を題材にしたものだった。

3人のいろいろな出来事がやがて絡んでいく筋を、さまざまな演出テクニックを駆使して格好良く、だけど乾いた舞台に仕上げた1本。投げっぱなしの殺伐とした脚本は日本ではなかなか見かけないけど、だからといって上演するのは別の話。オリジナルと別物といっていたけど、ゼロから演出したのだとしたら吹越満は天才。YouTubeで宣伝映像を見つけたけど、広島はこれを3500円で観られるのか。うらやましい。

大田緑ロランスの切替の見事な演技に対して、一見棒読みだけどそれがかえっていろいろ想像させて怖い吹越満が別の意味で見事。動きも鬱屈も魅せてくれた森山開次に対して、よく動くけど微妙にゆがんだ感じがまた目を引く吹越満。2人ともレベル高いけど、なんだかんだ言って吹越満が気になる。WAHAHA本舗出身だけど、日本では、小劇場出身で有名になった役者の身につけているある種の「怪しさ」の魅力がすごい。

PARCO Production「紫式部ダイアリー(プレビュー公演)」PARCO劇場

<2014年11月1日(土)昼>

とあるホテルのバー。翌日にあけぼの文学賞の発表を控えて、選考委員のメンバーとして宿泊中の清少納言が、同じく宿泊中の紫式部を誘って飲んでいる。2人きりで飲んだことのない相手をわざわざ誘ったのはある依頼をするためだったが、そこからやがて話は飛んで・・・。

どういう設定かとおもったらこういう設定だった。台詞なしのバーテンダーはたまに登場するも、あとは本当の2人芝居。女のバトルとか作家のぶつかり合いとか煽っていたような気がするけど、三谷幸喜の独白のような芝居だった。

プレビューの初日だったけど斉藤由貴の落着き方にくらべて長澤まさみがまだ硬い。芝居の都合があるにしても何で長澤まさみにあんな極端な人物造形を割当てたのかと思ったけど、後で考えてみたらいかようにでも「ものにし甲斐のある役」だった。あれをまだ自分の役にできていなかった長澤まさみは、ひょっとしていい人なんじゃないだろうか。

斉藤由貴が上手にやってくれた作家の心得の台詞は、あれは素晴らしかった。ちょっと三谷幸喜の印象が変わった。