2014年下半期決算
恒例の年末決算です。
(1)本多劇場プロデュース「志の輔らくごin下北沢 牡丹灯籠 2014」下北沢本多劇場
(2)大人の新感線「ラストフラワーズ」赤坂ACTシアター
(3)OFFICE SHIKA PRODUCE「山犬」座・高円寺1
(4)パルコプロデュース「君となら」PARCO劇場
(5)演劇系大学共同制作「見よ、飛行機の高く飛べるを」東京芸術劇場シアターイースト
(6)葛河思潮社「背信」KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ
(7)SPAC「マハーバーラタ」KAAT神奈川芸術劇場ホール
(8)冨士山アネット/Manos.「醜い男」東京芸術劇場アトリエイースト
(9)こまつ座「きらめく星座」紀伊国屋サザンシアター
(10)パラドックス定数「怪人21面相」spaceEDGE
(11)サンプル「ファーム」東京芸術劇場シアターイースト
(12)世田谷パブリックシアター企画制作「炎」シアタートラム
(13)東京芸術劇場主催「小指の思い出」東京芸術劇場プレイハウス
(14)ナイロン100℃「社長吸血鬼」下北沢本多劇場
(15)青年団「暗愚小傳」吉祥寺シアター
(16)二兎社「鴎外の怪談」シアターウエスト
(17)新国立劇場主催「ブレス・オブ・ライフ」新国立劇場小劇場
(18)PARCO Production「紫式部ダイアリー」PARCO劇場
(19)東京芸術劇場主催「ポリグラフ」東京芸術劇場シアターイースト
(20)M&O playsプロデュース「水の戯れ」下北沢本多劇場
(21)てがみ座「汽水域」シアタートラム
(22)イキウメ「新しい祝日」東京芸術劇場シアターイースト
(23)ミナモザ「みえない雲」シアタートラム
(24)新国立劇場制作「星ノ数ホド」新国立劇場小劇場
(25)演劇集団キャラメルボックス「ブリザード・ミュージック」サンシャイン劇場
(26)Bunkamura/大人計画 企画製作「キレイ」Bunkamuraシアターコクーン
以上26本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果、
- チケット総額は148258円
- 1本あたりの単価は5702円
となりました。上半期の18本とあわせると
- チケット総額は247358円
- 1本あたりの単価は5621円
です。上半期ですでにペースオーバーして、例年なら年末で加速するところ、 秋口から加速が始まって44本になりました。記憶では過去最高の年間観劇本数は49本だったので、全盛期同等の勢いです。
見損ねた芝居も多数あるなか、志の輔あり三谷幸喜あり青年団もイキウメもサンプルもこまつ座もありでラインナップだけなら上半期と似ていますけれど、観終わった今から振返れば上半期が地味だったと霞むくらい、下半期の芝居はメリハリの付いた濃い芝居が多かったです。
そんな中で年間を含めて文句なしの1本は(12)で、これで口コミプッシュを出し損ねたから今年はもう出せない、たとえ3年に1回でもこういう芝居が観られるなら芝居を観続けないといけない、と思わせてくれた素晴らしい出来でした。これで久しぶりに目が覚めたので、秋口以降のペースが加速した遠因ともいえます。(12)も上半期に見た「ムサシ」も、相手を許せるかが芝居の問いかけになっていました。 ただし「ムサシ」が強い人物の立場から相手を許せるかを問う描き方になっていたのに対して、(12)は虐げられた人物の立場から相手を許せるかを問う描き方になっていて、描かれた世界の身近さと問いの重さも相まって(12)が圧倒的に濃かったです。この殺伐とした時代に、数年前に書かれた脚本が上演されてぴたりとはまるところは、脚本家がすぐれた時代先取り感覚を持っていたからでしょうか。
他に、芝居でここまで笑ったのは久しぶりという(4)と、出演者を初めとしていろいろな要素が絶妙に組合わさった(23)も、思い返せばなぜ口コミプッシュしなかったのかとこちらに反省を促す出来でした。最近は以前よりも再演の数が増えているようで、その最高の1本が今年は(4)でした。まだまだ掘れば出てくるので各団体ともぜひ積極的に再演演目を増やしてほしいです。そして(23)は初演だけど再演してほしい1本で、かなうのであれば「Caesiumberry Jam」など近い話題の芝居とセットでの上演を企画などいかがでしょうかと期待を込めて書いておきます。
もうひとつ。下半期は久しぶりに噛み付くようなエントリーを書いてしまったのでその補足です(「状況倫理と絶対倫理と説教芝居と芝居の強度について」「一日に二度も永井荷風を観たくない」)。下半期だと(11)(21)(22)(23)は現代の日本人への批判が含まれていますけど、それは大きな目に見える絶対悪を想定しての直接的な批判ではなくて、善であり悪でもある個人や個人の行ないの集積が引起している問題に対して、個人の立場からの苦闘を描いていて、それでいて、というかそれだからこそ、物語が膨らんで大きな存在の方向に観ている側の関心と想像が向かっていました。この、どこまでも個人を立ち位置にした描き方というのが、いいことだと思えるようになってきました。
この話を何でしつこく書いているかというと、鶏が先か卵か先かという話になりますけど、日本語というのは状況倫理に適した表現をたくさん持つ言語なので、意識せずに日本語を使う人の間で日本語を話して育った日本人は、よほど気をつけない限り状況倫理が体にしみこんで行動にも現れるのではないかという乱暴な仮説を立てたからです。今の日本に何か大きな問題があったとしたら、それはそこまで問題を大きくした個人の無自覚の集積で、それを直すとしたら問題ではなく原因を責めるべきで、そのためには自分を含めた個人が、適切な絶対倫理を身につけるのは難しいとしても、日常で「今のは状況倫理だ」と自覚するだけでも、長い目で見れば自分にも周りにも良い効果があるのではないか、と思うようになりました。
閑話休題。この下半期に観た劇場が公立劇場に偏っていました。以前の公立劇場は、失礼な表現を使うならもっとつまらない芝居を細々と上演していましたが、いつの間にか気になる芝居が多数上演されるようになっていました。特に東京芸術劇場のシアターイースト/シアターウエストの人気には目を見張ります。 これは明らかに野田秀樹が芸術監督に就任して以降の話で、フェスティバル/トーキョーの拠点としても根付きそうです。就任から約5年経って、完全に流れを持ってきたように見えます。
他に、シアタートラムはイキウメが、吉祥寺シアターは青年団が毎年上演するようになりましたし、他にも若手中堅の劇団は座・高円寺や三鷹星のホール、少し離れて神奈川芸術劇場の大ホールなど、200人強の規模の劇場を持つ公立劇場の人気が高いです。いつのタイミングからかはわかりませんが、都内の公立劇場が若手中堅支援の企画やらスタッフ研修やらを立てるようになってから、公立劇場間で特色を競うような流れに変わってきたようです。これは別途どこかでまとめたいと思います(ちなみに同じことを2009年末にも書いて放置していました)。合せて、自治体が芸術に金を突っ込むようになった理由を知りたいです。もし何となく金を突っ込んでいるのだとしたら、何となく際限なく金を突っ込む可能性と、何となく金を突っ込むのを止める可能性と、両方がありうるので、その理由を知っておくのは大事だと思います。
その分だけ民間の劇場が細ってきたというか、民間の劇場が細ってきたのを補っているのかわかりませんが、 近年で覚えているところではTHEATER/TOPS、ル・テアトル銀座、相鉄本多劇場など、閉館が目立ちます(公立では青山劇場/青山円形劇場もなくなりますがそれは来年のトピック)。新宿のコマ劇場の跡地ビルも2015年にオープンしますが、映画館のみで劇場は作られないとのことです。本多劇場が下北沢に小さい劇場をたくさん作りましたが、そこらへんの受け皿も考えてのことかもしれません。この話も、公立劇場の話と絡めてどこかでまとめたいです。
今年は明らかに観すぎましたが、(12)のような芝居に出会えたのも事実なので、2015年は年間24本の目安を少し緩めて、30本以内を目標にしたいと思います。
取りとめのない文章になりましたが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。