文学座「リア王 」文学座アトリエ
<2015年1月11日(日)昼>
歳を取ったこともあり王国を分割して娘たちに与えようとするリア王。長女と次女のような美辞麗句をいえない三女を勘当処分にしてしまう(以下略)。
直球のリア王。まず、物語が圧倒的に分かりやすい。リア王の境遇だけでなく、その周りの人の立場や人間関係がとても丁寧に描かれていて、誰が、どのような立場で、どんな思惑で、誰に何をしているのか、よくわかる。恥ずかしながらようやくリア王の物語を理解した。過去に見たことのあるシェイクスピアで一番分かりやすかったといえるくらい。これは演出の力。
そして役者。立居はきびきびしていて、声もよく通る。長女の夫を演じた高橋広司の声は素晴らしかった。他はいちいち挙げないけど、出番の少ない役も含めて全体に芝居にコミットしている雰囲気が漂っていて、観ていて気持ちがいい。
だけど、それらを上回るインパクトが、これが初見の江守徹のリア王。脳梗塞で一度入院したことがあるのは知っていたけど、まず呂律が怪しい。早口や大声で言うべき箇所の台詞もそこまでいかない。たまに台詞を忘れたんじゃないかという間の空け方をする。冒頭の王国分割の場面はリアルリア王という単語が浮かんで、観てはいけないものを観た気がした。
それが、荒野の場面までくると印象がだんだん変わってきて、錯乱していろいろ訴える調子がこの台詞回しに合って、最後の場面までいくとあまりにぴったりとはまって、リアルリア王が良い意味に取れるようになった。個人的には、役者には五体満足な状態で五体不満足な役を演じてほしい、作り物を作り物以上のものとして舞台に上げるには事実ではだめだと思っているけど、これは許せる。「生き恥さらすのが人生の醍醐味」と言わんばかりに体を張って、リア王の老いと狂気と死を演じてこれ以上ない適役に見えた。江守徹はこれが舞台最後と言われても驚かないので、観ておきたい人は今のうちに駆けつけるべき。芝居も良くできていてこの値段ならお買い得。
ところで、文学座のアトリエはどんな場所かと思ったら劇研のような雰囲気のスペース。もともと銭湯?のような建物で耐震性は不明だけど、ああいう場所を持っていることは財産。
あと、ヘーイ・ホーの曲(終演後には英語の曲が流れていた)は前にどこかで聴いたと思ったら同じ鵜山仁の「十二夜」で歌っていた曲だった。文学座のシェイクスピアでいつも定番にしているのか何なのか、曲とその由来を知っている人がいたら教えていただきたく。
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