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2015年4月13日 (月)

平田オリザ「幕が上がる」を読んだ(ついでに映画も観た)

文庫本が出ていたからついうっかり買ってしまった。小説のつもりで買ったけど、文体が一人称にしても独特。登場人物の心情は担当の役者が考えるものだから書かない、みたいな感じで、舞台用の脚本のト書きに近い。出来事の説明に必要な最低限の設定だけ書いていて、小説なのに描写がない。しかも芝居の部分は本当に台詞だけ抜書きして処理するという荒業。描写らしい描写は新宿の夜景と県大会で出番をうかがう舞台袖の役者くらい。小説中で上演になる「銀河鉄道の夜」は青年団でも上演しているけど、観たことがない人でもここから想像できるんだろうか。ついでに書くと、平田オリザが他の本で書いたりインタビューに答えたりした内容があちこちに出てくるから、 吉岡先生を筆頭に4人くらい平田オリザが登場すように読めて紛らわしい。

読み終わった感想は、ものすごい慎重に書いているなということ。何が慎重かというと、あまり具体的な演技指導を描写しなかったこと。その筋ではそれなりに有名な演出家として、誤った指導方法や演技方法が出回らないように、気をつけたのだと推測する。指導で書かれていたのは台詞の順番を「正確に」と指摘する箇所くらい。芝居をブラッシュアップした結果60分の時間制限を越えて失格になるオチだと予想しながら読んでいたけど、そういうオチではなく、きっちり青春小説の枠で収めていた。ターゲットとして高校演劇をやっている人+これから(高校一般含めて)演劇をやる人を対象に、その枠の中に「高校演劇あるある」と「演劇あるある」とをふんだんに散りばめて(どこまで本当かわからないけど)、芝居の作り方や、高校演劇の大会を勝つための分析なんかを説明していた。これで興味を持った人は、作り手かどうかにかかわらず平田オリザ本をお勧め。王道は「演劇入門」と「演技と演出」の2冊。新書で安いし、それを読むと「4人くらい平田オリザが登場して」の意味もわかってもらえます。

で、文庫本が出ていたのは映画と連動したプロジェクトになっているからで、勢いで観に行った。一番そういうところから遠いと思っていた平田オリザの原作に、ももいろクローバーZの5人全員をメインの高校生役に迎えるというまさかの展開。アイドル5人に持ち場を振るという制約の中、文庫本で300ページ越えの内容を2時間前後に圧縮するのはどうやるんだろうと思ったら、
・原作を彷彿とさせるほど主人公のナレーションを多用
・男子部員カット、転校生をスーパー高校生からプレッシャーにやられた高校生に変更
・上手い学生が揃ったから、というところを先生の指導で上達、に変更して「演劇あるある」は大幅カット
・演技演出に関わる箇所もほぼカット(「正確に」の場面は残っていた)
・進路に悩む話は縮小
・入れられるエピソードは順番を変えて他の場面に足しこみ
・県大会の開幕直前でエンディング
と、いろいろ工夫して、5人の成長青春物語に絞り込んで着地させていて、原作のある映画の脚本化の実例として非常におもしろかった。脚本のクレジットは喜安浩平で、すでに脚本で賞まで取っていた。自分のイメージはナイロン100℃の役者なんだけど、多才な人はいるもんだ。原作中の数少ない描写だった新宿の夜景は入っていて、そこは原作よりも饒舌に台詞を入れていて、力入れたのかな。役者では吉岡先生役の黒木華が一番光っていて、この人が入ったおかげで原作のテイストを残して映画が成立した感がある。

プロジェクトとしてはこの後で舞台まで用意されているけど、すでに前売完売の状態でチャレンジしたものか。

小説に戻って、観る側の人間としては以下の箇所が「観客あるある」で一番気に入った。

 一瞬の静寂。
 全員で頭を下げる。
 客席に、グニョッていうへんな時間が流れて、それから万雷の拍手が来た。
(中略)
 拍手をもらうだけでもダメだ。一生懸命やれば、親や友だちは拍手をしてくれる。でも今回は違った。拍手の質が違うなんて、それが手に取るように分かるなんて、いままでは思ってもいなかった。

よくぞあの瞬間を言葉で表現してくれた。「グニョッていうへんな時間」としか表現できないあの瞬間。そして自分がすごい満足度の高い芝居を観た直後、いつもより一生懸命拍手をしつつ、客席全体もその満足感を共有していてあきらかに拍手の熱量が高いとき。あれが芝居を観る側の至福の時間だ。ちなみにこれは校内公演終了時の描写で、ここから小説に入り込めた。小説でも映画でも、この校内公演の場面は好きな場面だ。

<2015年4月25日(土)追記>

ああそうか。これは「脚本家兼演出家の立場から見る(高校)演劇の作り方」という手順書+成功例を小説の体裁で書いたものだ。だから小説としての記述よりも、いつごろ何をやるの記述が多いんだ。読み返してわかった。

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