てがみ座「地を渡る舟」東京芸術劇場シアターイースト(若干ネタバレあり)
<2015年10月30日(金)夜>
民俗学者として活躍した宮本常一。1935年に渋沢敬三に認められてからの活躍と、アチックミューゼアムで働いた研究員たちとの10年を描く。
脚本家、長田育恵の評判を一躍高めた芝居の再演。確かに戯曲賞にノミネートされるだけの実力ある芝居だった。けど、それだけにいろいろ気になるところも目についた芝居だった。脚本がよくて演出が負けていて、それはたまに見かけるけど、脚本がよくて脚本自身の物足りなさまで目につくのはとても珍しい。
ひとつは、宮本常一と渋沢敬三にフォーカスしすぎて、周りの研究員が薄くなったこと。アチックミューゼアムの休眠を前に思いのたけを台詞にされる場面を盛上げたいなら、その前に各人のエピソードをもっと入れてほしい。宮本常一にフォーカスするなら、そのあとの「自分勝手」が思い当たるようなエピソードをもっと入れてほしい。
もうひとつ、時期が第二次世界大戦に突入して敗戦になるまでの10年を選んで、軍人や戦争に協力した研究員をかなりはっきり嫌な奴として描いている。そこまではいいとして、他の人が善人に見えすぎないか。女中頭の弟の出征と戦死の話があって、ここに民俗学の調査結果(死者の魂は故郷に帰る)を重ねて軍人にたたき返してしまうのが、脚本家の実力であり、惜しいところ。庶民禁止という個人的趣味からすると、その前にラジオを聴いて喜んでいた場面からつなげて、もっと因果応報な描き方にしてほしかった。渋沢敬三の妻はその点で好みの線で描かれていたけど、財閥出身者なので普通はあれも軍人たちと同じ側で見えてしまう。
演出について言えば、泣きたい感情を全面に押し出した湿度の高い演出で仕上げているけど、薄く見せるほうがいいような内心もはっきり台詞にした脚本なので、もっとドライな芝居に仕上げた方がこの脚本にはよかった。最後の70年後の現代人の通行。いい感じの選曲と、冒頭の70年前という台詞と合せて、たぶん戦時中の庶民のたくましさ、たとえば飢えさせないように農民ががんばったから今日がある、みたいな美談にしたいのだろうけど、自分には、よいところ以上に悪いところも温存して今日まで来てしまったようにしか見えない。
ほんの少し脚本と演出を変えるだけで激変しそうで、それが今は自分の好みではないほうに振られている。観られてよかったとは思うけど、いろいろ書いて気が付くのは、やっぱり自分は政治的な芝居は原則苦手。政治的な悪人を想定して自分は無条件で善人のふりをする芝居は特に苦手。なので政治的な話はもっと上手に隠してほしい。
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