2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

2015年7月 1日 (水)

2015年上半期決算

恒例の中間決算です。

(1)TBS企画製作「真田十勇士」赤坂ACTシアター

(2)文学座「リア王 」文学座アトリエ

(3)趣向「奇跡の年 ANNUS MIRABILIS」神奈川芸術劇場大スタジオ

(4)パルコ企画制作「志の輔らくご in PARCO」PARCO劇場

(5)シス・カンパニー企画製作「三人姉妹」Bunkamuraシアターコクーン

(6)青年団若手公演+こまばアゴラ演劇学校"無隣館"「南へ」こまばアゴラ劇場

(7)M&Oplaysプロデュース「結びの庭」下北沢本多劇場

(8)カタルシツ「地下室の手記」赤坂RED/THEATER

(9)サンプル「蒲団と達磨」神奈川芸術劇場大スタジオ

(10)劇団東京ヴォードヴィルショー「田茂神家の一族」紀伊國屋サザンシアター

(11)(12)(13)青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場主催企画制作「高校演劇サミット2014」こまばアゴラ劇場

(14)PARCO Production「幕が上がる」Zeppブルーシアター六本木

(15)イキウメ「聖地 X」シアタートラム

(16)日本総合悲劇協会「不倫探偵」下北沢本多劇場

以上16本(通しで観た高校演劇サミットは単発券も発売していたので3本でカウントしています)、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果

  • チケット総額は78760円
  • 1本当たりの単価は4923円

となりました。

観たい芝居はたくさんあったのでひょっとして今年は年間50本超の記録に挑戦かと思ったのですが、都合でかなわず。それでも、初めてリア王を観た気にさせてくれた(2)は、演出家の言葉とともにこの半期の一番に挙げたいです。あとはキャストとスタッフのレベルアップが好循環に入っている(15)も推します。

記録しておくべきは、再演ものとして日本人の痛々しさを掘当てていた(5)(6)(9)という流れで、これらがほぼ同時のタイミングで上演されるというのは、日本の芝居の業界にある種のセンスがあることを教えてくれます。そして(6)(9)は四半世紀前、(5)にいたっては100年以上前の芝居なのに、嫌な面を描いて古びないあたりに、芝居という表現手段の底力を感じます。

社会も自然も荒れ模様な昨今、なかなか思い通りにいかないことが多い中で、その思い通りのいかなさの中にも楽しみを見出して過ごしたい、それができれば芝居を観てきた甲斐があったと言えると思います。

引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2015年6月30日 (火)

日本総合悲劇協会「不倫探偵」下北沢本多劇場

<2015年6月25日(木)夜>

ビルの一角に事務所を構える探偵。不倫の調査で依頼主を口説いて関係を持つ。が、翌日に隣の空き部屋で殺人事件が見つかり、被害者は依頼主の夫。その調査に来たのがかつての相棒である女刑事。刑事だったころのコンビで事件を追う。

ずいぶん豪華なキャスティングだと思ったけど、びっくりするほどB級に徹したギャグ舞台。部分的に切れのある台詞もあるけど、ほぼ全編にわたってB級ハードボイルドで、さらに途中でB級であることをさらに揶揄するようなコメントもはさむ。きっちりオチはつけたけど、雰囲気しか残らないというチラシのコメントに嘘はない。

松尾スズキや平岩紙や二階堂ふみが漫画っぽさを出していたけど、それを完全に漫画にしたのが片桐はいり。その割りに出番が少ないというか物足りない。もっと片桐はいりが観たかった。

今回はプロジェクションマッピングも使っていて、松尾スズキは初利用かも。芝居ではKERAが最初に使って、それからほぼずっと使っていると思うけど、それがここまで広がっている。そろそろこなれてきたのかな。

2015年5月17日 (日)

イキウメ「聖地 X」シアタートラム

<2015年5月16日(土)夜>

夫が自分の実家の金を使い込み風俗に入れあげたのを見つけた妻が、離婚を決意して実家に戻る。そのまま1か月が過ぎたある日、近所で夫を見かけた妻が追いかけて改装中の店舗内まで入ると、管理者が出てきて人違いで他には誰もいないと言い張る。その直後に夫が店舗の奥から出てくる。が、財布も携帯電話も持たない夫はなぜここにいるのか全く分からないと言い張り、自分の携帯電話に掛けると自分と同じ名前の男が出る。妻の兄はドッペルゲンガーを疑うが・・・。

いかにもイキウメらしいSF芝居。細かいことを言えば過去の他の作品とネタが重なっているけど、そんなことは気にせずに、笑いにまぶされて少しずつ明かされていく情報を、どきどきしながら楽しむのがよい快作。

以前は公演のたびに演技が安定していなかった劇団員だけど、今回は前作に続いて高いレベルで揃った。そしてイキウメを観るたびに何度でも書くけど、安井順平の切れが素晴らしい。一周していっそすがすがしい駄目男を演じさせたら当代一じゃないかと思う。これと、眉を八の字にひそめるのが似合う伊勢佳代との序盤の兄妹のやり取りは、ここだけもう一回観たくなる。自分が普段は芝居を観るときはあまり笑わないようにしているのだけど、イキウメの展開ではつい笑ってしまう。段ボールだけであそこまで笑わせるのがすごい。そして終始笑いを取りながら、朗らかに終わったように錯覚するけど、実はどうなったかわからないあたり、観る側の想像力が問われるところ。

さらに、このずっと後にどうなるかも、想像力が問われるところ。芝居中でも触れられていたしネタばれということもないから書くけど、たぶん、忘れられる、って言いたいのだと思う。オープニングで出てくる石としめ縄は、先人が残した石碑が忘れられた津波被害の話につなげていると推測したけど如何。

充実のスタッフワークはさらに充実して、何年も同じ劇場で上演してきているけど、以前よりも舞台美術が豪華になっていたのはとても好印象。あと、昼に観た芝居と比べると、こっちの音響のほうが舞台っぽい。

イキウメを観たことがない人にも自信を持って勧められる。芝居慣れしていない人には高く感じるかもしれないけど、このクオリティでまだチケット4000円台というのは非常にお買得。イキウメを観たことがない人にはぜひ観てほしい1本。ちなみに次回はカタルシツ名義で中島朋子をゲストに迎えて秋に公演、ますます見逃せない。

PARCO Production「幕が上がる」Zeppブルーシアター六本木

<2015年5月16日(土)昼>

とある高校の演劇部。地区大会を突破したものの、信頼する顧問が学校を辞めてしまい、動揺する部員たち。体調不良で部活を休む部員もいる中であせる部長が何とか取りまとめるものの、部員の一人が台詞を言えなくなってしまう。その回復を願いつつも試験前の部活禁止期間に突入して稽古はできない。果たして無事に県大会を迎えることができるか。

小説、映画に続いて舞台まで、きっちりと制作側の思惑に乗せられて観劇。アイドルの初舞台だからグダグタになることも想像していたけど、想像の一番上よりもさらに上の出来で仕上げてきた。平田オリザがワークショップを設けたそうだけど、だとしても、もっと広い会場でもっと大勢の観客を相手にパフォーマンスしてきたアイドルをなめてはいけないと一人で反省中。「演技は声派」の自分としては玉井詩織がよかった(腹筋しながら歌うのすごい)。けど周りに見覚えがあって妙に上手いと思ったら、7人中4人を青年団(無燐館経由)で固めていた。それは上手いはずだ。

映画と違って舞台は平田オリザが脚本だけど、観客が小説か映画を見ている前提のようで、いつになく早いテンポの導入部分。けど、やっぱり歌わせないと、という期待に応えてさりげなく歌わせる展開から、そういう繋がりで突っ込むかという舞台オリジナルの話をピークにもっていくところ、さらに最後の展開の飛ばし方は、さすがの手腕。いつもの青年団と違うとしたら音響の使い方で、選曲が映画監督らしかった。そして最後の場面にビジュアル的な美しさを持ってくるところがとても素敵。

客席数が900もある割に、横に長くて舞台までの距離が短いため観やすい劇場にも恵まれて、暴れるようなファンもおらず、好印象の芝居だった。そして普通の芝居ではまず聞いたことがない、終演後の熱烈で切れのいい拍手を聞いて、ああ今目の前にいるのは人気のあるアイドルなのだなと改めて認識した次第。

2015年3月31日 (火)

青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場主催企画制作「高校演劇サミット2014」こまばアゴラ劇場

<2015年3月29日(日)昼夜>

事故で亡くなった飼犬の追悼に来た女性が、鍵を無くしたという老女と通りがかりの美大生に絡まれて鍵を探すうちに「成蹊高等学校『井の頭八景』」。顧問の教師が入院して不在になった文芸部、短歌甲子園への応募を控えて顧問に選歌してほしい部員たちが入院先の病院を目指すが途中で道をそれて「甲府南高校『秘密の花園』」。専務が謎の呪文に凝る運送屋、今度の新人は妙に大人びて訳ありに見える「暁星高等学校『アブラカタブラビリケンケンチャンラミパスラミパスルルルルルー』」。

1日券で3本まとめて観劇。公募制で断るほど応募があった中から選ばれた3本。事前の想像よりもレベルが高くて、あと上演順番にも恵まれて、もっと下手でつまらない団体がいくらもあるところ、これで3000円ならお得と断言できる。

物語に絡めて地元・吉祥寺の名所8箇所の紹介を試みた1本目。今回最多の11人の出演者が、あまり広いとはいえないこまばアゴラ劇場を広く使いこなす。パネルを使いこなした場面転換とスムーズな出入りは見事。ラストの紙を使った演出は好き。ただ、1時間で収めるには登場人物とエピソードが多すぎた感あり。序盤にあと10分使えればだいぶ違ったはず。オペを往復した出演兼音響はお疲れ様。

女子高生の不安な1日を短歌できれいに描いて終わるかと思ったら、道をそれたところから果てしなく話もそれる2本目。どうやって外せば客が付いてくるか、どこまでなら外れても大丈夫かを把握しているベテランの仕事と思ったら顧問創作。どうやら有名らしい。あれだけ外してきっちり話を終わらせる脚本は当て書きか。まったく不慣れな客いじりのオープニングはご愛嬌。

他校を話題に使った軽いつかみから、掛合い、客いじり、ちょっと危ないかもしれないところまで体を張ったネタと、とにかく全力で笑いを取りに来た3本目。慣れすぎ落着きすぎ、間の取り方声の出し方、すでにしてこのまま外に出られるくらいの貫禄。そのネタの合間というか、ネタを転がすためというか、物語も入れて、それがきれいに収まる。一番最後だったけど一番集中して観た。ただ、あれだけネタに走ってあのラストにまとめたのは悪印象。出演者が誰もコミットしていなさそうなラストで話より構成が前面に出すぎたように感じた。わがままな客であることは認める。

すごい雑にまとめると、1本目は事前に想像していたThis is 高校演劇、80年代風味、キャラメルボックス系。2本目は高校生ならではの魅力と高校演劇の枠を壊さずにどこまで拡げられるかに挑戦した高校演劇、2000年代風味、五反田団系。3本目は文化祭で全力でふざける高校演劇のさらにトップクラスのもの、90年代風味、新感線ネタモノ系。応募の数が多いとはいえ、よくぞこれだけバラエティに富んだ3本を揃えたものと関心。これだけよく出来ているならもう1組(3校)くらい出られるように企画してもいいと思うけど、春休みから外れるから無理か。

あと、客席の広さだけなら200人規模くらいほしいところ(今回せまかったので)。こまばアゴラ劇場はやや狭い代わりにどんな芝居でもはまるような懐の深い劇場なので、ただ広いだけの劇場だと幅の広い3本には向かないのが悩ましい。けど東京芸術劇場ならもうシアターイーストとウエスト両方使ってもう1組招聘するという案も成立つのでは。もう少し認知度が高まったらディレクター/プロデューサーにはぜひ御一考を。いつかは東京国際フォーラムで「熱狂の日」みたいに上演できるところまで目指してほしい。

3年越しの念願がかなって、ひとつ満足。

2015年3月25日 (水)

劇団東京ヴォードヴィルショー「田茂神家の一族」紀伊國屋サザンシアター

<2015年3月20日(金)夜>

人口が100人ちょっとの小さな村。前の村長が怪我で勇退し、後継者の予定だったその長男は選挙運動中に事故死。急遽行なわれた補充選挙には村長の他の親類一同が5人も立候補。投票日を2日後に控えて一同が合同討論会を開催するがそれぞれの家族が協力しての中傷合戦に。果たして有権者の心をつかめるのは誰か。

この設定からきっちり転がしていくのはさすがの三谷幸喜だけど、東京ボードビルショーの持味に合せたか、脚本の設定に合せて意図的に演出したか、全体にもっさりした印象。さらに開始早々オチを想像したらそれが結構当たってしまい、がっかり感は否めず。「君となら」を観た今となってはあのレベルまで自分でハードルを上げてしまう。2時間弱の芝居だったが、感覚では、このオチで1時間、そこからあとでもう1時間くらいの密度がほしい。

そのもっさりした感じの中でも、きっちりコントロールしているように見えたあめくみちこは目を引いた。ゲストの角野卓造は挙措発声とも存分に発揮していたけど、伊東四朗は役どころの割りに抑え気味で、客としてはもっと見せ場を設けて活躍させてほしかった。体の向きに関わらず声が均一に聞こえたけどマイクを使っていた?

2015年3月10日 (火)

サンプル「蒲団と達磨」神奈川芸術劇場大スタジオ

<2015年3月8日(日)昼>

娘の結婚式を終えた夜。娘夫婦はそのまま新婚旅行に出かけ、近隣の友人は二次会に、家族や親類は家に戻ってくる。寝室で休む夫婦だが、つもる話あり、調子が悪い人の介護あり、なかなか落着かない。やがて祝宴の夜に相応しくない出来事が少しずつ積重なっていく。

2日連続で観た岩松了の、こちらは岸田國士戯曲賞受賞作。はっきり見せられる出来事もあれば、それらしくにおわされる出来事もあり。脚本は正攻法で演出されていたけど、そうしたら「三人姉妹」を思わせるような序盤から、終盤にいたるまで、笑うに笑えない、救いのない展開になった。何でもセックス、みたいに見えるけど、セックスが問題だからこじれるのか、問題がセックスの話を通して出てきているのか、わからない。それよりは、登場しないけど、一区切りついた娘と、寝たきりになっている母の両方が、面倒のタネなんじゃないかと思う。

岩松了が演出する芝居は、登場人物には自明だけど観客には隠している情報から漏れるような、どことなく危ないけれど色っぽい雰囲気が漂うけど、松井周が演出した今回は色っぽさ無しで危ない雰囲気が舞台を覆う。登場人物を駆け巡る負のオーラが重い。観終わってもまったくすっきりしない。前日から続けて観る側の体力を吸いとるような芝居を観ることになったのは失敗だったけど、観た回がたまたま客席の笑いが少なかっただけだったのか。

今調べたらバブル突入の1989年が初演で、1989年は、夢の遊眠社が絶頂期で、劇団☆新感線の東京公演がTHEATER/TOPSで、KERAは劇団健康のころで、三谷幸喜は東京サンシャインボーイズ6年目で、大人計画は旗揚げ2年目。あの時代にこんなささくれた会話劇を上演していたのはすごい。ちなみに青年団は「ソウル市民」初演で、これは未見なのだけど、翌年が「南へ」なので、平田オリザもいい勝負。

カタルシツ「地下室の手記」赤坂RED/THEATER

<2015年3月7日(土)夜>

親が亡くなり、相続した家を売払った金である地下室に篭った生活をしている40歳の男。自分の抱えている鬱憤を訴えるためにインターネットの動画生中継サイトに向かって語り始める。自分がいかに不平に扱われたかという「事件」と、女の話。

初演を見逃して残念がっていたら、再演は気付かずに危うく見落とすところを、気がついて無事観劇。「インターネットの動画生中継サイト」と書いたのはニコニコ生中継で、舞台から客席に演じるスタイルと、途中で適宜コメントが流れるのが、独り語りととても相性がいい。そして前回2人芝居だったのが今回1人芝居になったけど、前回を観ていなくてもこのほうがいいと言える。

観た感想は、特に前半は、まるで自分のことを言われているような場面があって、いたたまれなくなって叫びそうになった。それでも叫ばずに観通せたのは、序盤に「未来の俺がここにいると聞いて」のコメントが流れたからで、このコメントのおかげで、少しだけ客観的な距離が保てた。この痛々しさを書いたドストエフスキーと、現代の出来事に翻案した前川知大はすごい。ドラマターグとして谷澤拓巳もクレジットされているけど、どういう役割だったんだろう。

終盤、二転、三転、四転くらいしたのか。この痛々しい芝居が前向きにまとまりそうに見せて、そこにストップをかけられて、観終わったらすごい消耗していた。再演しやすい形式だし、ドストエフスキーから今になっても通じるくらい時代を超える内容だから、今後も再演されると思うけど、もう観ない。無理。けど、一度も観ていない人は、2時間出ずっぱりでやり通した安井順平の名演として一度は観ておくことをお勧め(書いている時点では今回の東京公演は終わって大阪公演のみ)。地下室という設定に合せてこの劇場を選んだのかもしれないけど、そしてこの規模の劇場で観られるのは贅沢だと思うけど、PARCO劇場のサイズまでは問題なくいけると思う。地下室がいいならシアタークリエでもいけるかも。

M&Oplaysプロデュース「結びの庭」下北沢本多劇場

<2015年3月7日(土)昼>

財界の大物の一人令嬢と、企業買収案件を主に手がける弁護士。かつて令嬢が被告になった事件で無罪を勝取ったことを縁として2人が結婚して1年が経った。家政婦とアシスタントの弁護士とからサポートを受けて順調に暮らしているように見えた2人だが、過去の事件を蒸返すような恐喝が弁護士の夫に届く。

岩松了の新作に、「アイドル、かくの如し」以来2回目となる宮藤官九朗を主演に招いての5人芝居。面白かったのだけど、今まで観た岩松了の芝居より、さらに全体に親切な印象。若干説明台詞が多かったか。

いつも台詞が身についた雰囲気になる宮藤官九朗だけど、役どころが普段と違うからか、初日からまだ間がないせいか、一生懸命正しい雰囲気で台詞を話そうとしている感じがして、すごい新鮮だった。他のメンバーは馴染んでいて、岩松了の芝居ではやっぱり女優が怪しい雰囲気を生き生きと演じている。芝居中でもネタにしていたけど、舞台が転換するので軽くなるように作ったのだろう舞台美術が、立付けの悪さで雰囲気を損ねていたのは残念。序盤で異音がしたのは何かのトラブルか?

あと、ちょっとだけネタばれになるけど、岩松了の芝居は前向きな設定で開始して後向きな展開で終わることが多かったけど、これはその逆に思えた。あんな展開になって前向きかと言われると困るけど、今どきの前向きだと思う。

2015年3月 2日 (月)

青年団若手公演+こまばアゴラ演劇学校"無隣館"「南へ」こまばアゴラ劇場

<2015年2月28日(土)夜>

とある客船。日本から載ってきた日本人乗客たちが、途中いろいろと島に寄りながら、南の島を目指す。南の島を目指そうとする割には落着いて高揚感が少ない。あと3日で目的地に着く日の、午後の甲板を舞台に交わされる会話。

Bチーム。これまで観てきた平田オリザの他の芝居に比べると、いろいろな情報を隠したまま(もちろんヒントは先に出している)進めて、終盤で一気に動かすというちょっと毛色の違う構成。その分、前半4分の3くらい、いつにも増して地味な舞台が進む。観終わったあとはそれなりに満足はしたけれど、脚本の密度が最近のものに比べて低いというか、正直、もう少し時間を縮めるような演出をしてほしかった。劇場を斜めに使った舞台で、思いっきり見切れの上手席だったから暇に感じた場面は多い。下手の階段を自由に使いたかったのかもしれないけど、それにしてもちょっと上手席にはスパルタすぎる。せめて「東京ノート」をやったときのような真横で抑えてほしかった。

バブル真っ只中の1990年が初演で、「バブル経済が、あのまま極限まで進んだ仮想の未来」を想定したそうだけど、今これを上演したら今の話になる物語。それがここまで世相にはまるのは、平田オリザの先見の明、ではなく、四半世紀経ってもまったく日本人が変わっていないことを嗤われているような印象。ただ、iPodを持っていたから現在(または現在から見た仮想の未来)を舞台にした上演、と断言した上で私見を書くと、たとえ乗客を金持ちと設定してもクルーの設定が理由でこの仮想の未来は仮想のままになってしまうよな、と思う。そこを書換えると脚本が成立しなくなってしまうのが残念。

倦怠感の漂う乗客、という設定の中だと働くクルーが目立って、藤松祥子がいい感じだったけど、会話から想定されるプロフィールなら訛ってはいけなかったと思う。あれだけもったいない。