2015年下半期決算
恒例の年末決算です。まとめが非常に延びました。
(1)ミナモザ「彼らの敵」こまばアゴラ劇場
(2)劇団☆新感線「五右衛門vs轟天」赤坂ACTシアター
(3)日本の30代「ジャガーの眼2008」駅前劇場
(4)KERA・MAP「グッド・バイ」世田谷パブリックシアター
(5)カタルシツ「語る室」東京芸術劇場シアターイースト
(6)てがみ座「地を渡る舟」東京芸術劇場シアターイースト
(7)FUKAIPRODUCE羽衣「橙色の中古車」こまばアゴラ劇場
(8)大人計画ウーマンリブ「七年ぶりの恋人」下北沢本多劇場
(9)ブス会「お母さんが一緒」ザ・スズナリ
(10)シーエイティプロデュース「スポケーンの左手」シアタートラム
(11)パルコ企画製作「ツインズ」PARCO劇場
(12)劇団チョコレートケーキ with バンダ・ラ・コンチャン「ラインの向こう」東京芸術劇場シアターウエスト
(13)Bunkamura/こまつ座企画製作「ひょっこりひょうたん島」Bunkamuraシアターコクーン
以上13本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果
- チケット総額は80600円
- 1本当たりの単価は6200円
となりました。上半期の16本とあわせると
- チケット総額は159360円
- 1本あたりの単価は5495円
です。今年は年中バタバタしていて、上期のラインナップを見返したら3年くらい前、下期でも前半は1年以上前の印象があります。芝居を観られない時期もあり、これは当たりだと思っても見逃した芝居が片手に余るようになったので、去年から大幅減少です。観る機会が減ってもなるべく開拓精神は維持したいのですが、相対的に手堅く当たりの期待できる芝居が多くなるのは致し方なく、単価5000円を越えてしまいました。見逃した芝居も、公演期間が4週間未満だったら公演期間が短いほうが悪いと開き直る昨今です。
そんな下期は当たり外れがはっきり分かれる結果となりました。実話を基にした直球社会派の再演モノ(1)と、堅苦しさは脇に置いてスクリューボールコメディの何たるかを見せつけてくれた(4)が甲乙つけがたいのですが、どちらかひとつを選ぶとしたら今回は(4)です。年間トップもこれで。理由は後述。他に、1時間の一人芝居で惹きつけられっぱなしだった(7)と、女同士のエグい話を描かせたらさすがの(9)が、佳作や秀作と呼ぶにはもったいない出来で楽しませてもらいました。
で、非常に重苦しい話題の多かった1年なので、振返ると暗い話になるうえに政治の話題を避けて通れないので気が進まないのですが、できるだけ落着いて振返ってみます。
エントリーを読み返してみると神経質だったりそっけなかったり、いつにも増して書き散らかしています。その中でも年末最後の3本が暗い日本の話題で続いて、まったくもって年おさめに相応しくない芝居ばかりでした。安全保障法案の討議や可決で盛上がったのか、再演の(6)に新作の(12)(13)と戦争絡みの芝居が並びましたが、個人的には労働者派遣法の改正が通ったことに注目します。この法案で、今よりももっと雇用環境が悪化して、生活が不安定で貧しい人が増える、もともと中流が多い構成から少数の裕福な人と多数の貧しい人とに分かれる流れ(長くなるので理由は割愛)が起きていますがこの法案はその流れを加速させる、と考えるからです。
もともと不安定なのが当たり前の演劇関係者には「だからどうした」「安定しているほうがおかしい」「表現したい欲求は安定を求める気持ちより大きい」と考える人もいるかもしれません。が、下り坂の経済で貧しい人が増えれば、短期には観客数の減少(金がない、金があってもより有益な他のことに回す)、中長期には業界の人材不足(そんなことにかまけている余裕はない、そもそも興味が湧く機会もない)、上演環境の悪化(もうからない上演場所の廃止や稽古場所の商業転用による減少、助成側の資金力低下による助成金の減額)で影響がでると予想します。今の日本で芝居が一般的な趣味や共通の話題とは言えませんが、それでも一定数の上演があり、その中からたまにはモノになる団体や役者が出てくるのは、その活動を許容する経済的体力と精神的余裕が社会の側にあればこそです。その土台がぐらついたら、等しく影響はあるわけです。
安全保障法案の可決で徴兵制を心配する言葉もちらほら目にしますが、個人的には徴兵制はないと踏んでいます。貧乏を押しとどめるだけの力が社会になくなったら、学費免除による進学と兵役志願とのバーターが魅力的に見えるようになるからです。昔ローマ今アメリカで市民権や学費と引替に兵役に志願する例があります。何より徴兵制になったら地位や資産に関係なく、自分やその親族が兵役に就くことになります。徴兵逃れなんてやろうものならばれた時のバッシングは想像するにかたくありませんし、大多数の人間は戦場に行くのは真っ平ごめんです。もしそういう事態になったら、金持ちだけでなく、もっと一般人もふくめて賛成します。それに対抗するには思想信条や反骨精神なんて役にはたたなくて、社会全体が豊かさを維持して、お互いが五分五分で対峙できるだけの余裕を持つのが大事で、大金持ち対貧乏人だったら貧乏人の勝ち目はありません(ただし、この方針は人口が増えるないし若者の比率が一定以上維持される前提なので、人口減少中の日本では移民の話が絡みますが、これも割愛します)。
できるだけそういう状態に陥らないように、あるいはそういう状態になるまでの時間を稼いで反転の機会に望みをつなげられるようにするべきだと考える自分には、戦争反対徴兵制反対ばかりを声高に訴える演劇関係者は、一般政策のまずさを隠すための政府の回し者じゃないかと疑われます。あるいは、今の社会のまずさを描いて「ひどいよね」止まりの芝居は、意識的か無意識的かはさておき、そんな分かっていることを言われても困ります。かといって「あいつらが悪い」とそれっぽい悪役をこしらえて糾弾するのはもっと違います。問われるべきは自分たちであり、まずは自分たちが正しく自分の意見を言語化して自分自身を認識すること、叶うものならそこから前に進む勇気を得ること、これができない限り改善への道は遠いです。それを描いて客席を問詰めたのが(1)です。これも再演ですが、楽日に間に合ってよかった。瀬戸山美咲はまだ2本しか観ていないのに非常に惹かれるので、もっとたくさん上演してほしいです。次が1年後(2016年6月)というのはいかにも長い。
それとは別に、そんな世情とはまったく関係ない(4)が傑作コメディとして、久しぶりに声が出るくらい笑わせてくれました。どちらも甲乙つけがたく、もし(1)が年末に上演されたものだったらそちらを年間トップに選んでいました。が、あまりに暗い芝居が年末に3本も続いてしまい、むしろこのご時勢ではコメディのほうが貴重ではないかという意見に傾いたので(4)を年間トップに選びます。こういうコメディを上演できているうちはまだよくて、不謹慎だから止めろという声が挙がってきたらそれが危険事態の一歩手前です。戦争反対もいいですが、全力でコメディというのも演劇関係者の意思表示として覚えていてほしいです。
ここまで書いて読返してみたら政治の話題ということもあって結構恥ずかしい気もしますけど、妄想が過ぎますかね。でも想像力が大事というのは芝居で学んだことのひとつなので恥は恥として残しておきます。そして珍しく政治の話を書いたのでもう少し。
2015年は戦後70年ということで、その時代を体験した人たちがどんどん亡くなってしまい、どうやって語り継ぐかが課題というニュースを見ました。そんなことは当たり前で、ロボットじゃあるまいし、何十年も前から分かっていたことです。もし本当にその戦争が自分たちにとってよくないものだったと考えるのであれば、原因と責任を追究して、そういう事態にならないような社会の体制であったり、組織の人事であったり、意思決定の教育であったり、そういう仕組の部分に反映させるところに努力するべきです。
なんでそういう話題が出ないのか自分なりに考えたのですが、仕組というのは人間が作るものであるという実感のなさ、自分の意見が仕組みに反映される体験の乏しさが理由だと思います。自分の場合は仕事上の経験でそういう考えを持つようになりましたが、それまではそういう発想さえありませんでした。
その仕組作りの最も大きいもので、その割になおざりにされているのが選挙です。ピンポイントで政策に投票できないのでまどろっこしいかもしれませんが、選挙は一般人が自分の意志を社会の仕組に反映させることができる貴重な機会です。変革が常に望ましいものとは限りませんし、数年前に政権交代があったときには被害が思いっきり社会と一般人にも跳ね返ってきました。でも、特定の候補にお灸を据えることができれば他のどの候補でもいいという発想の投票ではなく、自分が期待する社会のあり方に最も近い候補に投票する行為を積重ねていくことが、今より半歩でも期待できる社会に近づくために必要な行動である、そのために先人が用意してくれた仕組と権利を無駄にしないという考えは、そんなに悪くないと思います。2016年からは選挙権が18歳からに引下げられましたが、18歳以上、何歳でも選挙権は持っていますので、ぜひとも有効活用して投票率を上げてほしいです。
いろいろ書きましたが、観るからにはコメディでもシリアスでも、とにかく面白い芝居が観たいのです。来年の目標は去年の目標と同じく30本にしておきますが、気になる芝居を全部観るには年間30本ではいかにも足りない。でもそれは最初にこのブログを始めて以来トップに掲げている「どれだけ舞台を観られるかは時間とお金と運次第」なので如何ともしがたいです。せめて出合った芝居が観た側にも観られた側にも幸せな、人ひとりの一生を超えた大きな命のつながりにつながってほしいと願うばかりです。
今年の様子を見る限り来年の更新頻度は低調な見込みですが、引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。