劇団チョコレートケーキ「治天ノ君」シアタートラム(若干ネタバレあり)
<2016年11月3日(木)夜>
病気のために執政の期間が短かった大正天皇。父である明治天皇や息子である昭和天皇との不和に悩みながらも全力で生きた生涯のうち、皇太子時代に婚約してから亡くなるまでを、貞明皇后が振返る。
少年期は父から叱責を受け、晩年は摂政の立場を巡って息子と対立。重い話の枝葉を落としてまとめて、一見よくできた芝居だったけど、個人的には合わなかった。
先に良いところを挙げておくと、役者はとてもよい。威厳のある天皇から食えない政治家まで、全体に雰囲気を揃えて宮中のトーンを作っていた。あと狙った配役なのか、皇族役に美声の持主が多くて、それがここ一番の場面を盛上げるのに一役かっていた。その点は観て後悔はない。
もったいなかったのは舞台美術と役者の出入り。玉座から伸びる赤絨毯を置いてしまったために、絨毯をまたいで部屋を移動する場面が多数出た。あれは色に拘らず照明で必要に応じてあらわした方がよかった。あと絨毯の話も関係するけど、役者が舞台から出たり入ったりする位置と部屋の関係が全然頭に入らなくて最後まで場所への想像力が追いつかなかった。あれは何かを意図してわざとやっているのか。だとしても意図がわからない。
個人的に合わなかったのは、扱っている歴史の認識が合わなかったのがひとつ。明治天皇と明治時代が威厳があって、明治への復古を目指した体制が昭和の悪さを構築していった、という流れだけど、そうかなあ。明治天皇と明治時代は偉大ではあるけど本来もっとおおらかだったのを、後付けで威厳があったと昭和時代に構築したんじゃないかな。神棚という台詞はあったけど、明治天皇に現人神という単語を使わせているから、前者のように受取れた。これは趣味の違い。
歴史の扱い方に疑問があったのがもうひとつ。当日パンフで「この物語は歴史的事実を参考にしたフィクションです」と書かれているけど、それにしては全体を大真面目に作りすぎている。それでいてどこか薄い。設定だけ借りてハチャメチャな芝居にすることは望まなかっただろうけど、事実を押さえて不明なところを埋めたという感じもしない。大正天皇をモデルにした話に専念すればよかっただろうけど君が代まで流してしまったし。
前回もそうだったけど、登場人物がほとんどすべての状況と心情を台詞で説明している。逆に、登場しない人物や外部の状況を伝えるような情報はほとんどない。ただし今回はその説明台詞だらけでバランスが一応成立している。なぜかと言えば、観ているこちら側が必ず何かしらの歴史情報を持っているから、背景を知識で想像できる。その代り、各人の歴史情報に依存するので想像の背景はばらつく弱点があるし、そこに疑問が生じると話が成立しない。この脚本を架空の国の王3代の物語に置きかえたらスカスカになる。だから一応成立していると書いたけど、実は適切なバランスではない。だったらもっと歴史的事実で観客の想像力を方向付けするような脚本にすることが望ましいけど、そうなっていない。そこをフィクションで済ませるのは、重い歴史を扱った割には軽い扱いではないか。なにより、宣伝チラシに引用していた渡辺保の劇評で
「治天の君」は衝撃的な舞台であった。私たちの体験した戦争がどのようにして決定されたかが鮮明に描かれていたからである。
とまで書かれた劇評を引用するからには、フィクションでないと描けない真実があるという意見には賛成するけど、今回についてはフィクションで済ませないでほしかった。そういう色々なことが、個人的に合わなかった理由。ちょうど昼間に観た「遠野物語」がフィクションについて上手に扱っていた芝居だったのでなおさら。
あともうひとつ運営について。今回当日券を買ったらトラムシートしか余っておらず、後ろが立見だったからまあましな席を確保できてよかったと思っていたら、招待券が大量に余ったのか、立見客が椅子席に案内されていた(椅子席が埋まったあとはトラムシート)。席を無駄にするくらいなら直前でも捌いた方がいいのでこれ自体はいい判断。
ただそれならトラムシートの客から案内してほしかった。開演直前でまとまった枚数を急いで処理しないといけなかったのはわかるけど、優先されたのはキャンセル待ちの客じゃなくてすでに立見席を買って入場まで済ませた客ですからね。自分たちで立見席より先にトラムシートを売っていたのだから、どちらが先に並んでいたのかわかるでしょう。トラムシートは当日券金額だったけど、ひょっとして立見席は当日券よりも安く売っていた可能性もあるので、だとしたら割高なトラムシートを買ったことになる。早めに劇場に来て並んでチケット買ったほうが損するのはどうなんだと文句を言いたい。立見より楽とはいえトラムシートでも腰にきつい、そういうときに限って休憩なしの2時間半。芝居の感想と合せて踏んだり蹴ったり。
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