世田谷パブリックシアター/エッチビイ企画制作「遠野物語」世田谷パブリックシアター
<2016年11月3日(木)昼>
標準語政策が推し進められて、方言で書かれた書物を出版すると罪に問われ、また迷信や怪談を実際にあったものとして出版すると扇動罪に問われる時代。怪しげな迷信を方言で書いて自費出版した男、柳田が警察に逮捕される。方言には標準語を併記している、内容は事実であると主張する男のために、怪奇現象を科学で説明する教授を事実判定担当者として警察は連れてくる。急いで駆けつけたためまだ内容を読んでいない教授に対して、これは佐々木という男から聞いた事実であると柳田は内容の説明を試みる。
原作の遠野物語自体は未読。この後、柳田が佐々木から話を聞いたり遠野に案内してもらったりする話でつなぎながら、たまにおちゃめな場面を挟みつつも、真面目に遠野物語のいくつかの話(ですよね?)を上演しながら進む。観ていて飽きさせないための構成と適度な方言の取入れでよい雰囲気に引込んで、でもそれだけで終わらせない良作。
単純に遠野物語を観るつもりの観客としては、柳田や佐々木の立場に一方的に肩入れしそうになる、逆に言えばその立場に反発する観客には全然受入れられない仕上がりに偏りそうなところ。そこに、教授がなぜそのような仕事をしているのかの短くも強烈な話を1本入れるだけで、全体のバランスを取りながら、ここで語られるような出来事は現在にもある話だと印象付ける展開がものすごく好み。その地域に伝わる怪談を事実ととるか迷信ととるかで対立する両者の立場を軸に、標準語政策を筆頭とする近代化が進むことで逆に貧しくなっていく地方の現実、たぶんそれらを現代の余裕のなさ、進行形で進む物心両面の貧困化に重ねる上演意図。そう受け取った。
天井も高くてスペースも広い劇場に簡素なセットだったけど、その雰囲気を一変させる背後のボードがよい効果。上手な役者があつまる中、佐々木の祖母を演じた役者が方言を使いつつひときわ上手な演技が明らかに一段上で、雰囲気づくりを含めて芝居を引張っていた。忙しすぎて事前に出演者を調べていなくてどこで探してきたんだこんな役者と終演後にポスターを見たら銀粉蝶でしたごめんなさいごめんなさいこんなに上手い人だとは知りませんでしたと反省した。この劇場では反省させられる。
周りを見渡すと年齢の高い客層だった。確かに演目は渋いしチケット代は高いしで学生が気軽に来るような演目ではないけど、かといって芝居慣れしている人たちばかりではなさそうだった。あれはどういうチケット販路で来た人たちなんだろう。
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