シス・カンパニー企画製作「エノケソ一代記」世田谷パブリックシアター
<2016年12月23日(昼)>
喜劇役者榎本健一ことエノケン、にあこがれてエノケ「ソ」として一座で巡業生活を送る男。座員は妻、相手役兼スタッフ一切の男、脚本家兼マネージャ一切の男、の4人だけ。興行元の誤解や妥協に付けこんでの巡業なのでトラブルも多いがあの手この手で乗りきっていく。しかし本物のエノケンに問題が起きたら偽者はどうするべきか・・・。
どんなものだろうと観に行って、普通に観ればよくできているけど不満の残る出来。期待していたハードルはもっと高い。
満足したのはなんといっても吉田羊。脚本に魂を吹きこんで確実に芝居を一段上に上げていた。笑いをきっちりとって、偽者の夫を支える妻役の座中の立場もきっちり見せて、その分ラストで涙を誘う。カーテンコールの拍手の半分は吉田羊向け。脚本もおいしかったかもしれなけど、それ以上に仕上げていた。浅野和之と春海四方もいい感じ。浅野和之は「まともなヤツと付きあうのはもう飽きた」って台詞(聞きようによっては肝の台詞)で一部の客が吹いたのにつられて、一瞬詰まっていた。名手浅野和之の珍しいとちり。
あと、今回は3階サイドの席で観たのだけど、舞台がセンターに固めてあって、見切れが全然なかった(上手の端だと2場の黒板だけ見えなかったかも)。結構広い劇場なので目一杯使いたくなるところ、コンパクトに抑えてしかも小さく感じさせないのは親切かつ見事。
不満は3つあって、ひとつは猿之助。1月に観たのと同じ役者とは思えないオーラのなさで、脚本に書かれていることは全部やるけど書かれていないことは一切やらない、みたいな演技だった。偽者のオーラのなさまで演じたのかもしれないけど、それはそれとして、観客を揺さぶってほしい。あれじゃエンノスケじゃなくてエンノケソ。劇中でも芝居でも吉田羊に頼りっぱなしなのはどうなんだ。
あと脚本。よくできていたけど、巡業プラスアルファの5場を、ナレーションで繋ぐのは物足りない。場面が変わったときにそれがどういう場面かをいかに上手に伝えるかは脚本の技術であり、その情報を受取りながら芝居にのめりこんでいくのは観客の醍醐味だけど、そこはぜんぶ飛ばされていた。大河ドラマのナレーションが評判になっていたのに味を占めたのか。1時間50分という近年稀に見る短時間に収まったのはありがたいけど、あと15分延ばしてもいいからナレーションなしで挑んでほしい。
で、不満の最後が役者三谷幸喜。一般に観ればあれだけできれば上手だけど、残念ながら三谷幸喜芝居のレベルに達していなかった。チョイ役とか、インフルエンザの役者の代役とかだったらご愛嬌だけど、3場の相手役としてフル出演していたのはいただけない。このチケット代の芝居には見合わないし、あれでOKでは猿之助の演技に駄目だしできない。今後は出演するにしても控え目にしてほしい。
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