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2017年5月26日 (金)

新国立劇場主催「マリアの首」新国立劇場小劇場

<2017年5月20日(土)昼>

終戦から13年後の長崎。原爆投下で顔に火傷を負った女は、昼は看護婦として働き夜は客を取る。原爆では無傷だったが防空壕で強姦された女は、その時の男への復讐を考えながら、病弱な夫をささえるために夜中に薬と詩集を売る。キリスト教の信者でもある2人が気にするのは原爆で崩れた長崎天主堂を巡る保存か再建かの協議の行方。特に、その入口に残る、原爆で半分顔が崩れたマリア像の首。

粗筋だけ書くと重たい話だけど、重いというより真剣な話と書いたほうが適切。基本的には神も仏もありはしない世の中で信仰を続ける女たちと、それに関わる、戦争や原爆の影響がある男たちの話。肝心の仕上がりは、脚本に完敗。観られてよかったけど、全力で臨んで脚本の立上げが叶わない結果だった。

脚本がちょっと変わっていて、舞台が長崎だから長崎弁なところまではわかるけど、台詞が詩で書かれている部分が多くあって、一筋縄ではいかない作りになっている。この脚本が書かれたのも舞台設定と同じ時期で、その頃の日本は復興して軌道に乗り始めた頃で、でも戦争の記憶は残っていて原爆の被害者も生きている時代。その時期に戦争とか信仰とか書こうとしたときに、勝手な推測だけど、散文では追いつかないと考えて詩を台詞と同じに扱う形式を思いついたんだと思う。これが脚本を完成度を上げるのと同時に、上演の難易度を格段に上げている。

メインの2人を演じた鈴木杏と伊勢佳世は出演舞台を結構観たことがあって、自分の観た範囲では過去最高。最後の場面の掛声とか、あんな声が出せるならもっと昔から出しておけって声だった。そこに気合の入ったスタッフワークが重なって、脚本の良さが伝わってきた。けど、そのスタッフワークでようやくそこまで届いた感じ。日本記録でオリンピックに出たのに入賞に届かなかったような完敗だった。成功したら最高に立体的な舞台が立上がる脚本なことはわかったし、下手な上演だとそれすら伝わらないのだからレベルが高かったのは確かだけど、「面白い脚本を面白く演じるのは難しい」を地で行く結果になった。

ただ今回については、役者より演出家のほうが責任は大きいと思う。何か方向が揃っていなくて、特に女性陣と男性陣との差が気になった。ロビーに貼られていたインタビューでもこちらのトークセッションでも「難しい」を連発している。じゃああの脚本を誰なら上演できたかというと、それもあまり思い浮かばない。宮田慶子や栗山民也がやっても苦労しただろうし、蜷川幸雄や唐十郎でもちょっと違う。ひょっとしたら平田オリザが青年団で上演したらどうだろうとは想像する。でも原爆をピカドンと呼ぶ芝居を上演できる役者が現代にいるのかとも思う。戦後は遠くなりにけり。

ここまでひどいことを書いてきたから信じてもらえないかもしれないけど、その割には観られてよかったと思っている。完敗にもいい完敗と悪い完敗があって、今回は出し惜しみせずに全力で脚本にぶつかっているのが観られて、結果跳ね返されていたのだけど、いいほうの完敗だった。上手な芝居はたくさんあるけど、一定以上の水準で全力の芝居を観られる機会はそうそうない。さらに、この手強い脚本が他で上演されるとは思えない。興味のある人は今回観ておいたほうがいい。

で、新国立劇場で数年後にリベンジをしてほしい。今回のシリーズで登場している演出家に「東京原子核クラブ」とか「Caesiumberry Jam」とか名作が揃っているから、「日本人脚本家による原子力シリーズ」とかどうでしょう。海外原作を入れていいなら「見えない雲」とか。

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2017年5月11日 (木)

ローザンヌ・ヴィディ劇場製作「ウェルテル!」静岡芸術劇場

<2017年4月28日(金)夜>

引越した先で知合った女性シャルロッテに恋したウェルテル。彼女にはすでに婚約者がいた。叶わぬ恋に悩み自殺するまでの話をウェルテルとして演じる一人芝居。

初日。マイクとカメラでライブ映像を映したりしながら演じ通す。ドイツ芝居(というか原作小説)は強度があって何とでもいじれるとの評判は伊達ではない。恥ずかしながら原作を読んでいないのだけど、開演前にSPACのメンバーがロビーで粗筋解説していた。粗筋がわかったからといって楽しむのに問題ないとの判断もあってのことだと思う。

実際の上演は、本人が客席とのコミュニケーションを楽しむスタイルを好んだようだけど、ドイツ語メインかつ字幕にいろいろ問題があって客席との齟齬が多く、結構滑った。途中で日本語を繰出したり四苦八苦していたのだけど個人的にはことごとく裏目に出ていた。演技はよかっただけにもったいない。

齟齬について補足しておくと、客席に話しかけたりリアクションを期待した芝居が開演直後から多数あったのだけど、英語ならともかくドイツ語だと客席に通じる割合が低く、反応が鈍かった(出来なかった)。特に、途中で一度終わったように見せかけて退室する演出があったのだけど、そこで拍手なり笑いなりを期待していた役者と、いやいや全然終わりじゃないだろそんなのネタだってバレバレだから拍手も笑いも無しで続きを早くというスレた客席(自分を含む)とで思いっきり食い違って、非常に気まずい進行だった。客いじりなんて日本人が日本人を相手にしても難しいのだから、最後まで飛ばしてもらってもよかったと思う。クラシック音楽の演奏会みたいに、最後にわっと拍手するのもいいものだ。

あと字幕はひどかった。台詞と全然合っていないだけでなく、先に進みすぎた字幕を戻したりして(PowerPointのスライドをキーボードで行ったり来たり操作するような)、初日ゲネですらなかった。字幕の完成が遅かったのか、ビデオ含めて一度も上演内容を確認せずにぶっつけ本番でやったのか、字幕のオペ担当が急病で代理になったか。すくなくともドイツ語がまったく分かっていなかったのは確かで、通訳が客席後方で待機していたのだから(オペも客席後方だった)通訳に任せたほうがまだマシだったはず。

字幕についてはもうひとつ。天井の高い劇場の後方を目一杯ライブ映像に使っていたので、字幕がさらにその上に表示された。たぶんそれが原因で、客の目線が上に寄って、客席とコミュニケーションを取ろうとした役者が映像トラブルを疑って最初に何度も後方を確認していた。字幕の配置場所はもっと配慮があってもよかった。映像を使うから悩みどころだけど、重ねてしまってもよかったと思う。途中で前方に幕を追加する演出があって、それがまた悩みどころだけれど。

終演後は役者のフィリップ・ホーホマイアーのアフタートーク。客席から集めた質問を宮城聰が訊く形。ちょっとうろ覚えだけど覚えている範囲でメモ。間違っていたらそれは私が悪い。当日パンフの内容が混ざっているかも。

・小さい頃に独学で詩を勉強した。中学生になって授業でコッポラの映画を観たあと、教師から感想を求められた。他の同級生が何も感想を言わない中で、自分は机の上に立って詩を朗読した。あれが自分の初の演劇体験。

・その後、演劇学校に入って役者の勉強をしたが、そのころに演出のニコラス・シュテーマンと知合った。今回上演した芝居は演劇学校で最初に発表したもので、基本的にはその20年前のときと同じ演出で今回も上演した。「若きウェルテルの悩み」はドイツでは全員が知っている有名な小説で、(一般階級の男性が恋に破れて自殺するというのは発表された1774年当時では衝撃的な内容だったため)ドイツの小説史上でもとても重要な位置づけがされている。

・演劇は自分にとってはこれしかできないもの。他の仕事をやったら「カローシ(過労死)」してしまう。

・普段はできるだけ自分をニュートラルに保って、何かあったときにそれを即座に自分の中に取りこめるように努めている。取りこんだものを芝居に出す。(通訳補足)今回の上演で「津軽海峡冬景色」を流したが、あれは前日の懇親会で流れた曲を本人が耳にして、その場でダウンロードして、今日の芝居に使うことを決めた。

・上演中は飛行機のパイロットのつもりでいる。出発地と到着地は同じでも、周囲の状況は違う。雲の中をどうやって抜けていくか、風が吹いている中で無事に離着陸できるか、状況が毎回変わる中でどうやって運転するかが大事になる。芝居の上演も状況が毎回異なる中で、運転を調整しながら、到着地を目指している。

・(今までで一番記憶に残る公演は?)毎回違う状況で運転しているので、どれが記憶に残るということはないが、今日の公演は滅多にない公演だった(客席の反応が鈍かったことを指している)。

・(ひとつの演技に複数の感情が込められていたが、どのようにしているのか?)自分たちは普段の生活で、すでにそのように行動している。演技でも、できるだけ自分自身を正直に解放するように演じると、そこに複数の感情が表れる。

・(劇中で食器を割る場面で、何のためらいもなく食器を割っていたのに魅了されたが、ためらいはないのか?)あの場面はウェルテルの心がそれを欲しているので、ためらいはない(宮城聰も面白い質問と言っていたけど、日本人ならもったいない意識が働きがちなところ、どうももったいない感覚自体が伝わっていなかった?)

・(大きい声を出すにはどうすればいいですか?)筋肉を鍛える!

こういうトーク、向こうの人たちはとても真摯に応対する印象がある。芸術の国と芸能の国の違いかもしれないけど、ストレートでいいなあという感想と、もう少し照れてくれたっていいんじゃないかという感想と、半々。

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