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2017年8月21日 (月)

日生劇場は実は贅沢な劇場という話

日生劇場はたぶん1回だけしか行ったことがないはずで、そのときはうねった劇場内のデザインのインパクトが強かった。Wiredでエッセイに合せた断面パースが掲載されていたのだけど、天井が本当にアコヤ貝とは知らなかった。その中に

「最初から子ども向けの劇場として設計された」という事実はあまり紹介されていないように思う。

と書かれていて、確かにニッセイ名作シリーズを上演しているけど、そんなことはないだろうと調べたら、Wikipedia

『すぐれた舞台芸術を提供するとともにその向上をはかり、わが国の芸術文化の振興に寄与する』ことを事業目的とし、日生劇場を拠点として運営者の「公益財団法人ニッセイ文化振興財団」が様々な活動を行っている。

・1964年より、日本生命保険と共催で、劇団四季出演によるミュージカルに都内の小学生を学校単位で無料で招待する、「ニッセイ名作劇場」を毎年実施している。
・1979年より、中学・高校生を対象に本格的なオペラを鑑賞できる機会を安価で提供する「日生劇場オペラ教室」 を開催し、学校単位でこれを行っている。
・1993年より、親子で本格的な舞台芸術に安価で触れられるようにと「日生劇場国際ファミリーフェスティヴァル」を毎年夏休み期間に行っている。

なんて載っていて、筋金入りだった。恐れ入った。

これを調べている最中に劇場サイトに設計した村野藤吾本人による設計経緯の文章が載っていた。なんであんなにうねった設計なのかというと、音響効果を考えてのことらしい。

劇場を単一の目的に設計すること、例えば、コンサートホールとか、演劇専門に設計するとか、ともかく一定の目的にふさわしいように設計することは、劇場建築という建築的には困難な設計でも、いくらかやりやすいのであるが、わが国では多くの場合多目的に使用されるようである。これは、劇場経営の点からやむおえないところもあると思うが、建築的には、殊に音響的には非常に困難で、成功する場合は少ないようである。そこでこの劇場の設計に当たっては、まず使用目的をはっきり してもらうことにした。オペラおよび演劇(歌舞伎を除く)に使用するというのであったが実はオペラと演劇ということだけで既に非常な建築的な性格の相違である。音響の点は石井聖光先生の指導によったもので、はじめ、音の拡散だけを考えて客席の天井も壁も曲面の多いものにし、これをそのまま建築的な表現にしたいと考えたのである。

これがWikipediaだと

しかしその卓越した音響効果は「良すぎて」クラシック音楽には向かないと言われており、実際近年では著名オーケストラによる公演は行われていない。

となるから難しい。

ところで、劇場経営の観点から多目的にするのはやむをえないと書かれている。断面図で見るとわかりやすいけど、1階には劇場部分がない。これについては同じ文章で説明されている。

そこで最後の案として採用されたことは、客席を上にあげて1階部分を開放するということに帰着したのである。いうまでもなく建物を商業的な採算一方の考えでいくなら、例外なしにこの部分の価値は、他の階に数倍するであろうことは、市街地建築を商業的に見た場合の通念である。このように非常なバリュウを有する部分を開放するということは、もとより一建築家の設計でなし得ることではない。
弘世社長の建物に対する愛情と理解によって決断されたということを、特に明記して おきたいと思う。
(中略)
現在のところ我国では、これだけ多くの部分を解放して、これを一般の用に提供するということは前例に乏しく、結果は都市景観としても、また都市計画的にいっても好ましい状態となったことは、なんだか生命保険会社という特別な使命を持っている会社の理想のようなものが志向されているように思う。そこで1階はただ社会というものだけを対照にして、二つの機能が単純に硝子のスクリーンでしきられているばかりである。この建物の設計に当たって、会社からは商業主義的な要求は何一つ与えられなかった。ただ天下の大保険会社として、建物にはいくらか記念的な性格のようなものが望まれた。記念的性格というのは、あまりに商業的な表現を避けて永久性のある表現の意味である。時代の建築的変遷とその影響をあまり敏感に受けないような建物のことである。

劇場の場所は改めて書くまでもなく日比谷の一等地。センスとそれをささえる有形無形の余裕があった時代ならではの決断。最近の新しい劇場はどの座席からも観やすいし、音響だっていいのだけど、あんなうねった設計はおそらく費用の点から許容されないはず。

子供向け事業といい、凝った設計といい、日生劇場は実は贅沢な劇場だという話です。

なお、新国立劇場を設計した柳澤孝彦のインタビュー記事はこちら

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