イキウメ「散歩する侵略者」シアタートラム(ネタばれあり)
<2017年11月3日(金)夜>
海の向こうと戦争が開始され、戦闘機の発信が頻繁に行われている、日本海に面するある町。海辺を歩いていた男が保護される。日常生活のことがわからなくなっており、病院で検査しても問題はなかったが、行方不明だった3日間の行動は不明。不仲で別居同然だった妻に引取られる。そのころから同じ町で、認識能力に問題がある患者が次々と発生する。
映画化と合せて四演目のイキウメの名作。前回と比べて格段に上手になっていて、しかも脚本が親切な方向に改定されていて、誰が観ても楽しめる一本。先に書いておくと連休初日だったせいか当日券は前方端席のみからトラムシートに立見目いっぱいまで売って満員御礼。自分は立見でしんどかったけど見切れは皆無の舞台美術。椅子席が取れるならもう一度観たい。ただし親切になりすぎて不満もあり、感想がややこしい。以下、観た人向けのネタばれ全開の感想。
今回の発見はやっぱり脚本。いろいろなエピソードがこんなに緊密に関係している脚本だとは思わなかった。これから侵略されようとしている話とすでに始まった戦争とを並べて、方や家族の概念を奪われた姉が攻撃的になって所有権に敏感になること、方や所有権の概念を奪われた男が戦争反対の運動を始めること。あるいは初期に家族の概念を奪った宇宙人が比較的温和なのに対してそうでない仲間が荒っぽくて乱暴なこととか、いろいろ対比している。
あと、いまどきの乱暴な議論の発露にも突っ込みがある。自他の区別の概念を奪われた医者がよくも悪くも反射的に相手に感情移入するとか、所有権の概念が戦争を引き起こしているんだと主張する男にその所有権の概念を正しく理解していないのに反対してどうするんですかと反論する後輩とか、そういう説明を昔に聞いて理解しておきたかったという場面がたくさんあった。平和なときに平和を訴えるたり戦争の時に戦争を訴えるのはダサくて戦争の時に戦争反対をとなえるのがいいんだという場面、恥ずかしがらずに主張してみろよというアジテーションと、何でも反対だけする人たちの胡散臭さを一刀両断する両方を同じ場面で描いた場面は秀逸だった。
そういうよくできたエピソードが、最終的には「愛について」に集約されるのたけど、昨今の北朝鮮のミサイル騒動と結び付けられて、ちょっと戦争反対色が強めになった。前回観たときは「一言でいえばLove&Peace」なんて書いたけど、今回の改定がむしろ「Love&Peace」で、前回はもっと全編愛についての話だった。それがあの「何か奇跡が起きてる気がする舞台」の奇跡の正体だったと観ている途中で気が付いたけど、今回の脚本改定で直接解説する台詞が後半に多く出てきてしまった。親切と言えば親切なのだけど、観ていて気が付いたことを解説されるのは興ざめで、今回が初見だったらそんなことは感じなかったはずだけど、個人的には残念。
前回欠点と思っていた衣装替えは、背広と制服の多い芝居だったけど、今回は私服は適宜行なわれていていい感じ。テーマ音楽は古い音源だったけど、あれは多分そういうものだ。
最後に役者の話だけど、劇団員もいいけどゲストもよくて、カタルシツからこちらにも参加した板垣雄亮の警察官役がよい味。判断に困るのが主人公と言っていい妻役の内田慈。ひとり目立つ演技をしていてなぜ目立つのか理由を考えたのだけど、たぶん、他の役者が役の確立を目指して演技していたのに、内田慈だけ役の変遷に重きを置いて演技していたから。場面ごとに立場が明確な役が多いこの脚本の中では数少ない、感情が揺れる役だったからというのもあるのだろうけど、その演技プランに乗りすぎたのか、もっとストレートな声が出る役者なのに声が浮いて聴こえた場面あり。それとも感情の揺れにあまり馴染みがない脚本演出が、新しいアプローチを仕掛けた役者に負けたのか。調べたら内田慈は役は不明ながら再演にすでに参加していたのでイキウメ初参加というわけではない。それなら、本人を調整するか、それに乗って周囲を調整するか、脚本演出で対応してほしかったところ。保護された夫役の浜田信也の「宇宙人だけど記憶は持っている真治(役名)で、今の(親切そうな)真治はこれまでの記憶で可能性としてありえた真治」の変化がもっと前面に出たら内田慈の演技とかみ合ったのにと残念。
でももう一度観たいのは変わらない。このまま海外に持って行きたい現代日本小劇場の名作。
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