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2017年12月30日 (土)

シアター風姿花伝プロデュース「THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE」シアター風姿花伝

<2017年12月23日(土)夜>

アイルランドの田舎町リナーン。昔ロンドンに働きに出たものの、いろいろあって実家に戻っている娘。姉2人は結婚してすでに家を出て、病気がちの母と二人暮らし。生活に望みもなく出会いもなく、娘をこき使い嫌味をいう母とはけんかが絶えない。ある日、近所でアメリカに旅立つ人間の見送りパーティーが主催される。招待された娘は、家族の見送りで地元に戻ってきた昔の同級生と再開し、互いに恋に落ちる。

長塚圭史版に続いて2回目は小川絵梨子演出。演出家が違っても悲惨な脚本であることには変わりないけど、初期長塚圭史の暴力っ気全開に比べてこちらはやや抑え気味で笑いもそれなりに。悲惨な話の悲惨なポイントを母娘両方とも強調したのが長塚圭史版で、悲惨な中にもある面白さをできるだけ拾って娘をより重点的に描いたのが小川絵梨子版。でも筋書きを知っていたためか舞台を今の日本に置換えても十分あり得る話だからなのか、抑え気味で笑いを入れようとすればするほど怖い感が強調されて見えた。スイカにかける塩のような、笑えない部分を強調する笑い。

一番の違いは「私はどうすればいいのよ」という最後の母の台詞で、これが全体の重しになって母と娘の言い分が拮抗したのが長塚圭史版で、そこを流して重くなりすぎないようにしたのが小川絵梨子版。観比べたら好みの範囲だけど、昔より体力の弱った今観るなら小川絵梨子版のほうがよかった。

役者については、演技がモダンというか西洋演技のスタンダード風。兄役の吉原光夫と弟役内藤栄一が実に自然で、役の本人がそこにいるような、ストレートプレイのお手本のような演技。那須佐代子の娘はそれよりももう少し役者の色を出して、鷲尾真知子の母はまあうるさい役だったけど(笑)、出演者全員がこのくらいの出来が一般になったら舞台を観に来る客が増えるよねという高水準。あとある程度具体的な美術ではあったけど、家の中も外も、登場人物の見ている景色が共通しているような印象があった。あるようでなかなか見られない仕上がり。

で、それと同じくらい今回の芝居を観ていていろいろ感心したのがスタッフワークの予算組み。

美術は、狭い会場を、通路も使うことによってアクティングエリアを拡げるアイディアはこの劇場では珍しくないかもしれない。けど、サイド席を設けることで客席を増やすと同時に壁を不要にした美術は、舞台を狭くしたのに実際以上に広く見せている。しかも床を張って、ドアを2箇所に建てて、後は家具を置くだけなのでデザインだけでなくタタキや仕込みバラシに要する美術予算の節約にもつながっている。家具や流しをどこから手配したかまではわからないけど、これは金を掛けずに効果を上げるためのベテラン(島次郎)の工夫全開。

それと連動して、同じ室内の場面だけというのもあるけど、照明も少ない器材で賄っていたように見える。奥の暖炉の明かりと台所の電灯をアクセントにして、夜の場面は下手寄りに照明を追加して、あとはクライマックスで必要になる下手奥の数体くらい。ドアより向こうは壁の向こう扱いだから照らす必要なし。サイド席からも見えるようにする必要はあるけど壁を照らさないで済む分だけ器材が減らせたのかな。

音楽も、暖炉やラジオやテレビにスピーカーを仕込む必要はあったけど、古い民謡と効果音がメインだったのでひょっとしてJASRAC税は払わないで済んでいるかもしれない。

あと4人中3人は衣装替えが何度があって、それが舞台や照明のバリエーションの少なさをカバーして、日時の経過を感じさせた。あれに手持ちの洋服が混ざっていれば節約になるし、弟役は衣装替え不要と判断したのであればそれも同じ効果あり。その分はヘアメイクに回せる(この規模でヘアメイクがいるのはなかなか贅沢)。

あとは翻訳。上演料をまけてもらうのは難しいと思うけど、演出の小川絵梨子に翻訳もやってもらうことで勉強してもらった可能性がある。長塚圭史版ですでに目黒条翻訳があるけど、細かいところをより好みにできるのであれば、翻訳の再利用より少し安い費用でも乗るか、となったかどうかは不明。それなりに縁はあっても、新国立劇場の次期芸術監督にそこまでお願いするのも何だけど、背に腹は替えられない。実際どうだったんだろう。

主演が劇場支配人で各方面に縁があるとはいえ、規模の割にずいぶん贅沢な体制の上演だったのが気になってきょろきょろしていたのだけど、昔こんなエントリーを書いた素人の推測はこのくらい。誰か詳しい人がいたら金額もつけて解説してください。

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