2017年下半期決算
2017年下半期決算
恒例の年末決算です。
(1)世田谷パブリックシアター企画制作「子午線の祀り」世田谷パブリックシアター
(2)ホリプロ企画制作「NINAGAWA・マクベス」さいたま芸術劇場大ホール
(3)Bunkamuraその他主催「ウェスト・サイド・ストーリー」東急シアターオーブ
(4)東京芸術劇場企画制作「気づかいルーシー」東京芸術劇場シアターイースト
(5)シス・カンパニー企画製作「子供の事情」新国立劇場中劇場
(6)Bunkamura企画製作「プレイヤー」Bunkamuraシアターコクーン
(7)松竹製作「野田版 桜の森の満開の下」歌舞伎座
(8)日本総合悲劇協会「業音」シアターイースト
(9)シス・カンパニー企画製作「ワーニャ伯父さん」新国立劇場小劇場
(10)小田尚稔の演劇「悪について」新宿眼科画廊地下
(11)Q「妖精の問題」こまばアゴラ劇場
(12)ななふく本舗「浪曲タイフーン!」カメリアホール
(13)風琴工房「アンネの日」三鷹市芸術文化センター星のホール
(14)こまつ座「円生と志ん生」紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
(15)インプレッション企画制作「謎の変奏曲」世田谷パブリックシアター
(16)さいたまゴールド・シアター「薄い桃色のかたまり」彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアター
(17)日本のラジオ「カーテン」三鷹市芸術文化センター星のホール
(18)国立劇場制作「霊験亀山鉾」国立劇場大劇場
(19)ワタナベエンターテイメント企画製作「関数ドミノ」下北沢本多劇場
(20)株式会社パルコ企画製作「想い出のカルテット」EXシアター六本木
(21)KAAT×PARCOプロデュース「オーランドー」神奈川芸術劇場ホール
(22)イキウメ「散歩する侵略者」シアタートラム
(23)シス・カンパニー企画製作「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」世田谷パブリックシアター
(24)野田地図「表に出ろいっ!」東京芸術劇場シアターイースト
(25)庭劇団ペニノ「地獄谷温泉 無明ノ宿」神奈川芸術劇場大スタジオ
(26)ナイロン100℃「ちょっと、まってください」下北沢本多劇場
(27)新国立劇場制作「かがみのかなたはたなかのなかに」新国立劇場小劇場
(28)城山羊の会「相談者たち」三鷹市芸術文化センター星のホール
(29)Bunkamura企画製作「欲望という名の電車」Bunkamuraシアターコクーン
(30)ブス会「男女逆転版・痴人の愛」こまばアゴラ劇場
(31)チェルフィッチュ「三月の5日間 リクリエーション」神奈川芸術劇場大スタジオ
(32)マームと誰かさん「ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜」VACANT
(33)シアター風姿花伝プロデュース「THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE」シアター風姿花伝
以上33本、隠し観劇はなし、チケットはすべて公式ルートで購入した結果
- チケット総額は228980円
- 1本当たりの単価は6938円
となりました。上半期の20本とあわせると
- チケット総額は352380円
- 1本あたりの単価は6648円
です。数多くの芝居を観るためには高い芝居も安い芝居も両方観ることが必要ですけど、それでもあれだけ高い芝居を大量に観て単価が7000円を切ったのは驚きです。
今年の個人的な喜びとしては年間50本の観劇に到達したことです。これまでは記録を取りはじめてからの過去最高が2004年の48作品49ステージ(1本だけ2回観た)。一度は50本越えをやってみたかったけど無理かと諦めていたところ、夏ごろに今年はいけるかもという感触があったので挑戦しました。今年を逃すと多分無理という予感もあったので相当頑張って、最後は「できれば週1回ペース」と言える52本越えも目指した結果、見事達成できました。「どれだけ舞台を観られるかは時間とお金と運次第」とブログの頭に書いていますけど、達成した今なら正しくは「時間とお金と体力次第」だと言えます。体力の重要性を実感した1年になりました。体力は重要です。
ただしふたを開けるまで仕上がりがわからないのが芝居の特徴で、良い芝居に出会えるかどうかは嗅覚に加えて運が重要です。普通は数が増えれば玉石混合になるところ、今回はかなり打率が高かったです。総評は、劇団員や常連役者と組んで劇団芝居の底力を見せ付けた(13)(16)(22)(25)(30)、初見にして今後も機会があれば観たいと思えた(10)(12)(28)、プロデュース公演でよい仕上がりを見せた(5)(19)(21)、何年どころか何十年単位で様々な団体によって上演が繰返される国内外の良脚本で実は難しい一定以上のクオリティを出して見せた(1)(2)(3)(9)(15)(18)(29)(33)、子供向けかと思いきやかなり真面目なテーマを扱ってしかも観て楽しかった(4)(27)になります。
この中でも特に観られて良かったと思うのは、主役級をずらりと揃えてしかも期待以上に笑わせて満足しなかった人はいないだろうという三谷幸喜の(5)、劇団改名を控えた最後の新作が女優限定芝居で生理という話題を時にポップに時に真正面から取上げてしかも芝居としても相当よかった詩森ろばの(13)、蜷川幸雄が鍛えた老若男女のカンパニーを率いて人間の想像力への信頼を覚える圧巻の芝居を創った岩松了の(16)、イキウメの看板芝居を以前よりもはるかによい出来で見せてくれた前田知大の(22)の4本です。全部脚本演出兼ねている芝居でした。しかも4本中3本が新作と、大量に観たこともありますが、近年まれに見る豊作です。さらに選べば(5)と(16)なのですが、上半期の「足跡姫」も足した3本から年間ベストを選べと言われても選べません。これだけ観ても見逃したと悔やまれる芝居は何本もありますが、それは「時間とお金と体力と運次第」と諦めます。
そのほか、今年は勝手に一部に部門賞も設けます。役者では上期の「足跡姫」「マリアの首」から(29)にかけて目に見えて腕を上げた鈴木杏。スタッフでは(15)で抜けるような美しい照明を見せてくれた佐藤啓。美術では上期「令嬢ジュリー」「死の舞踏」での見事なシアターコクーンの使いこなしに加えて(5)で映画のエンディングを思わせる奥行きの使い方が見事だった松井るみ。企画では3本中2本を観て(1本は観損ねた)、好き嫌いはともかく、活動歴に拘らず今後を期待させてくれるラインナップを揃えていた今年で18回目のMITAKA "Next" Selectionを挙げます。
観ている芝居の上演場所が公立劇場に偏っていますけど、実は民間プロデュース公演という企画がかなりあって、しかもそういうのに限って出来がよかったりする傾向がありました。観る側にとっては劇団かプロデュースかというのはどうでもよいのですが、今後も芝居を楽しめるよう人材は育ってほしいです。その場合、事実上自営業の芸能界だとしても、どこかの団体に所属していたほうが育つ確率は高いのではないかと、最近思うようになりました。そういう時期だからこそ、育つ劇団が減っている中で18年間もこういう企画を続けているMITAKA "Next" Selectionの価値が光ります。この手の企画にしては比較的上演期間を長めに確保していたり、スタッフのお勧めコメントなども出して観客を集めようとしているあたり、よい印象です。
その他の話題では、昔から気になっていた「いつまでたっても上手くならない感想文」の話が、何で書けたのかわかりませんが、ぽろっと書けました。長い間気になって内側に溜まっていたものが、高校生の劇評を読んでふたが開いたのでしょうか。今もって不思議です。
それと「観客にどれだけ届いている実感がありますか」の話は、改めて言葉で示されて、少し前の「『ネタバレされたい人』が世の中にいる」も思い出しつつ、いろいろ考える機会になりました。年間50本越えを達成した今年だから実感を持って言えますけど、芝居に限らず鑑賞するという行為は、体力があっても疲れます。対象に働きかけられる要素がほとんどない受身の行為で、考えたり味わったりすることを要求されるからです。普段の会話でも話すより聞くほうが疲れるのと同じ理屈です。芝居で観客側が演者に能動的に出来ることは笑う、泣く、拍手するくらいしかありません。あとは歌舞伎だと掛声もありますが、好きなときに笑ったり拍手したりしてもいいものではないのは皆さんご存知の通りです。
元気なときなら体力と引換えに難しい話を味わう余地もあるのですが、疲れているときは難しい話は頭に入りません。確実に理解力が下がります。そこに妙に小難しい芝居だったり、主張は強いけど提示する技術が下手だったりする芝居を持ってこられた日には、何だこれはと言いたくなります。長くてややこしいなんてもってのほかです。仕事で疲れた身体を引きずって何でわざわざ疲れる芝居を観に行くのかといえば、疲れる以上のある種の感動を味わいたいからです。黒柳徹子が(20)のアフタートークで言っていた「毎年喜劇を上演しているけど、笑えば観終わった人が元気になるから。最近ますます欝になっている世の中で、せめて観ている間だけでも笑ってほしいと願っているから」と言っていたのがどれだけ偉大なことなのか、改めて感じ入っています。
それを避けつつ、でもよい作品を味わったときの感動は体験したいという要求が、積極的にネタバレされたい人のことではないかというのが仮説です。金や時間の無駄遣いを避けるためにネタばれを求める人もいるでしょうけど、ここでは少ない体力や詳しくない分野でも適切に体験できるよう事前に予習してから臨むというポジティブな意味の仮説です。それに関連して、物語それ自体にはそこまで感動をもたらす力はないのではないか、物語を味わうためには一定以上の体力が必要なのではないか、あるいは物語以上に感動をもたらす要素が(少なくとも芝居には)あるのではないか、などの仮説が立てられます。これはまた改めてエントリーを書きたいです。
50本越えを達成して満足したので、2018年はさすがにペースを落としたいと考えています。引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。