パルコプロデュース「アンチゴーヌ」新国立劇場小劇場
<2018年1月13日(土)夜>
2人の息子と2人の娘を残したオイディプス王の亡き後、息子たちが王位を交代で務めて治めてきた古代ギリシャの都市国家テーバイ。だが2人の息子が王位を巡る争いで戦争を起こし、刺し違えて亡くなる。代わりに王位についたオイディプス王の義弟クレオンは、甥である兄弟のうち、弟を反逆罪として遺体を野ざらしにした。遺体を弔うものには死刑を命ずる法を発行したが、オイディプス王の末娘であるアンチゴーヌが埋葬の儀式として土をかけて、見張りの兵士に見つかってしまう。アンチゴーヌを救いたい王クレオンは今回の処置の意義を言葉を尽くして説明するが、兄を弔うことに咎めるところのないアンチゴーヌは真っ向から反論する。
ジャン・アヌイ作の古代ギリシャを舞台にした翻訳劇。新年早々パルコの割に地味な演目と思ったらとんでもない。個人が自分の信ずるところを行なう信念と、国の平和を願って個人の意見を飲みこんで汚い仕事を推し進める信念とがぶつかり合う言論劇。対立する両者に肩入れしたくなる大人の芝居。現代風の衣装と音楽に、荘厳さを思わせる照明と十字舞台を切って、大昔の設定なのに現代にも通じる、なかなか観られない出来。
蒼井優演じるアンチゴーヌが小さい身体からほとばしる感情を全力で訴える姿と、生瀬勝久演じるクレオンが大きい身体に秘めた繊細な心を除かせながら脅したり宥めたりして説得に努める姿との対比でキャスティング大成功。持っているカードを最初から切っていくアンチゴーヌと切札を使わないで済ませたいクレオンとの勝負とも言える。中盤はほぼ蒼井優と生瀬勝久の一騎打ちで、蒼井優も相当頑張ったけど生瀬勝久が圧倒的によい。他の役者も設定背景を膨らませるのに貢献。ここまで役者の力を引張りだした栗山民也の演出手腕はさすが。
当日券が2階席しか売っていなかったけど1列しかないので距離も近く俯瞰もできるので十分楽しめる良席。十字に切った舞台の、いつもの使い方の手前から奥に伸びる通路がメイン舞台。十字の見切れの範囲は意識してある程度外してくれるしネットでぎりぎりまで見えるよう、最初から座席下にタオルケットを用意する配慮ぶり。1階席は客席通路まで乱入してくれていたので臨場感抜群。
値段は高いけど奮発した芝居も観ておくものだと言いたくなる芝居。
<2018年1月26日(金)>
速報を清書。
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コメント
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2015年1月に新国立劇場演劇研修所修了公演で、栗山民也さん演出の「アンチゴーヌ」を観た。劇場ではなくリハーサル室に同じ十字型の舞台をしつらえての無料公演だった。今回、栗山さんは「いつか舞台にしてみたい」などとコメントしていたが、実際は3年前すでに手がけていたわけだ。当時から十字型舞台での公演実現を考えていて、研修所修了生による目立たない公演で試したのだろう。マンガ雑誌でまず読み切り短篇を掲載し、読者の反応が良ければ連載化するのと同じやり方か。当時は若い俳優たちが必死に演じる姿は微笑ましかったが、当然ながら各人の個性がにじみ出る演技はなかった。今回は生瀬さんや蒼井さんのような強烈な個性が舞台を支配して、実に見ごたえがあった。
投稿: パトラッシュ | 2018年1月21日 (日) 11時04分
パトラッシュさん:
情報ありがとうございます。見ごたえありましたよね。
演劇研修所の公演情報はそれなりに気にしているのですがその話は見落としていました。栗山民也クラスの演出家だと3年先まで仕事が埋まっていそうなので、時期を考えると、ひょっとしたらその公演を観た関係者が今回の公演を持ちかけたのかもしれません。
投稿: 六角形(管理人) | 2018年1月22日 (月) 23時26分