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2018年2月18日 (日)

JASRAC税より生演奏のほうが安く済む可能性について

作詞作曲する人たちはJASRACに負うところ大かもしれませんが、還元ルールが不明瞭なのと、取立て範囲で物議を醸すことが増えてきたのともあって、私は好きではありません。なのでタイトルはJASRAC「税」となっています。

去年観た芝居に生演奏の芝居が目立っていました。何でこんなに多いのだろうと考えた結果、ひょっとしてJASRACに支払う金額が高すぎて生演奏のほうが安いケースがあるのではという仮説を思いついたので調べてみました。JASRACのサイトで支払方法を調べたのですが、これが実に分かりづらい。結果、挫折しました。以下の調べた内容はエントリー執筆時点のものであり今後変更される可能性があり、かつややこしすぎてそもそも間違えている可能性もあるので、実際の支払金額を計算したい人は「使用料計算シミュレーション」のページで確かめてください。ただしこのページの使い方にも知識がいるので難儀します。

まず、曲単位ではなく利用目的で額が大幅に変動するというのが前提です。利用目的はここに記載されています。今回は芝居目的なので「(7)演劇、漫才など」を選ぶと、その目的向けの情報がまとまったページに飛びます。そこに「使用料規定(演劇、漫才、奇術、演芸その他の芸能の催物における演奏)」と書かれたPDFファイルへのリンクがあるのですが、これがわかりづらい。そもそも記載がわかりづらいのと、大元の「使用料規定全文」が載ったPDFの抜粋になっているのと、両方の理由でとにかく面倒。他に「使用料計算シミュレーション」のページなども参考にして読み解きます。

それでわかったことは以下になります。なお、利用目的によって細かいところが異なるのであくまでも演劇目的の場合です。あと、事前に申請した場合の費用であり、公演後に申請するケースについては不明です。

算出方法は(1)「1曲いくら」に曲を演奏した回数で掛けて計算、(2)「何曲使っても1ステージあたりいくら」で計算、の2通りのうち、安いほうに消費税を掛けた金額がJASRAC税になります。ただし利用目的によって「1曲」または「1ステージ」あたりの単価が変わります。以下、芝居の場合のみ確認しています。

(1)「1曲いくら」の計算方法は以下です。
・「1曲」あたりの単価は「会場の定員」と「入場料」に応じて決まる。ただしそれぞれの用語に注意が必要。
・「1曲」とは流した時間が5分以内に収まる場合を指す。5分超10分以内は2曲分扱い、以降10分までを越えるごとに2曲分の扱いが追加される(例:13分の曲なら4曲扱いになる)。また同じ曲を何度も流す場合は流すごとに別々にカウントする(例:7分の曲Aを、最初はイントロで1分だけ、最後にフルで7分流した場合、3曲扱いになる)。
・「会場の定員」は以下の方法で算出する。1人掛けの椅子席については設備されている数。2人掛け以上の長椅子式の椅子席については、当該椅子席の正面巾を0.5mで除して得た数。椅子席以外の座席については、当該部分の面積を1.5㎡で除して得た数。立見席や野外会場等、座席が設備されていない客席については、主催者があらかじめ設定した数。これにより難い場合は、官公署等に届け出た数。
・「入場料」は全席種別の平均となる。これは席数に関係なく、単純に各席種の金額を足して割ればよい(例:S席10000円、A席8000円、B席5000円、C席3000円の場合、10000+8000+5000+3000を種類数の4で割って、6500円が入場料となる)
・そこまでわかったら、「1曲」の単価早見表が「使用料規定(演劇、漫才、奇術、演芸その他の芸能の催物における演奏)」に載っているので、単価を特定する。

ここでのポイントは入場料の計算方法です。席数を使っての全体平均ではなく、席種を使っての単純平均になります。何でこんな方法を採用したのかと思うのですが、(a)席数を使うと満席の入場に対する課金になり、入りの悪い興行も珍しくない演劇の世界だと課金率を下げるような圧力がかかる(b)立見で詰めこんだ場合の定員数の勘定の面倒くささ(c)「セット決定につき見切れ席解放」に代表される空席を作らない興行上の制作努力との相性の悪さ(d)制定当時はひとつの興行で大幅に価格の違うチケットを販売することがあまりなかった(e)公演開始前に支払金額を確定できるような方法を探った結果、などいくつか思いつきますが、決め手はありません。なので新国立劇場の主催公演のように2階最後列端席をZ席として1500円で提供しているのは、お金のない人にはありがたいことであるとともに、入場料の平均を下げる効果もあります。

なお前売と当日とで金額が違う場合の対応は不明です。最近だと学生半額のような思い切った金額設定をして将来の観客獲得を目指す公演もありますが、その場合も不明です。取るほうからすれば高いほうに合わせろよとなるのではと推測します。

(2)「何曲使っても1ステージあたりいくら」の計算方法は以下です。
・1ステージあたりの単価は「会場の定員」と「入場料」と「上演時間」とに応じて決まる。「会場の定員」と「入場料」は「1曲いくら」の場合と同じ。ここでは「上演時間」について説明する。
・「上演時間」は「会場の定員」と「入場料」から、1時間以上2時間までの上演時間が決まる。これを基準額として、1時間未満の上演の場合はその半額、2時間超の上演の場合は、30分までを越えるごとに基準額の25%ずつ加算する。

調べてもらうと分かりますが、「1曲いくら」の12曲分が、「何曲使っても1ステージあたりいくら」の1ステージの基準金額と一致します。これは(このルールを定めた当時は)たいていの曲は5分以内だし、1ステージあたりの基準金額の短いほう(1時間)目一杯曲を流された場合に同じ金額になるようにしよう、という判断だったと推測します。あとキャラメルボックスが劇中で利用した曲のリストを配っていましたが、だいたい10曲強だったと記憶しています。

このため、ありものの曲を流すスタイルの公演では、こちらの金額にステージ数を掛けた費用をJASRAC税として見込んでおくのが公演時の予算管理にはよいと思われます。ところで実務上は誰が支払作業を行なっているのでしょうか。制作業務なのか、音響パートに委託されているのか。素直に考えれば制作業務ですが、そこは詳しくないので知っている人がいたら教えてください。

あと、調べ切れていない情報を補足として書いておきます。まずアメリカは売上の何%を支払うという方式になっているらしいです。このほうがすっきりしていいのではないかと思いますが、取る側にとっては後払いになってしまうのと、契約社会でごまかす余地が少ない(ごまかした場合のペナルティが恐ろしい)アメリカに比べてごまかされてなあなあになってしまいそうな日本との違いがあると思われます。あともうひとつ、JASRACは事実上の唯一の音楽信託会社になってしまっていますが、JASRACへの信託は義務ではありません。日本だとNexToneという会社があって、元々別々だった音楽信託会社が、エイベックスによって合併して出来た会社で、エイベックスが3分の1の株主です。エイベックスの楽曲はここが管理しているそうです。こちらが管理している楽曲を使う場合の対応は不明です。あとそもそも信託されていない曲は対象外です。このため、買取って信託しないという方法は可能なようです。

ここまでの話で演劇上演についてなら、使用料規定の一覧で「何曲使っても1ステージあたりいくら」の表を見てもらえば利用料はすぐに分かります。会場の定員が少人数の場合や入場料が安い場合はともかく、だいたい1%から2%の間で取ろうとしています。お客さん一人当たりに直すと数十円になるあたりで調整しているようです。たとえば200名まで4000円超5000円までだと15000円で1.5%。消費税がかかるので8%なら実際には16200円。これが安いと勘違いしてはいけない。さらにステージ数が掛かってくるから、2週末12ステージ(金土土日月火水木金土土日)やったら18万円+消費税になる。この金額を出せば美術が照明が役者が何が出来たかを考えると結構な額だと考えます。打上がタダになると考えてもよいです。もっといえば世の中は売上の1.5%というのは純利益相当という会社もざらにあるので、馬鹿にはできない金額です。ただし、作曲を依頼するにはどうかというと、相場を知りませんが、ちょっと足りない気がします。

次に映像化の話があります。最初に書いておくとテレビは包括契約を結んでいるので気にしないでいいです。NHKの衛星放送でたまに芝居を放送していますけど、ああいうものですね。それは「使用料規定全文」の第2節に載っていて、NHKやテレビ局は放送事業収入の1.5%を払うことで使いたい放題になっているからです。演劇の「何曲使っても1ステージあたりいくら」を1年当たりいくら、に拡大したものですね。使う数が桁違いでいちいち調べたり申告したりしていられないテレビ局と、額が大きいし事業収入をごまかすこともないだろうしとりっぱぐれもしないだろうというJASRACとの利害が一致した契約と思われます。

いわゆる物販されているDVDのようなものの扱いが気になるところですが、これがまたややこしい。私の理解では以下になります。
・通常のDVDやBDなどは「使用料規定全文」第7節ビデオグラム録音の(3)ドラマ・アニメのビデオグラムに該当する(根拠は同節の用語の定義の(オ)に明記されているから、ちなみにオペラやミュージカルは(ウ)より音楽のビデオグラム扱いになる)。
・それを映画館で上映「ゲキ×シネ」のようなものは「使用料規定全文」第3節映画のイベント上映に該当する(根拠は同節の用語の定義の(3)に含まれるから、この場合はオペラやミュージカルもここに含まれる)。
・それをネットで流す場合は「使用料規定全文」第11節インタラクティブ配信の(3)商用配信(音楽以外の著作物を利用することを主たる目的として配信する場合((1)、(2)の規定が適用にならない場合))に該当する。これもダウンロードの場合、ストリーミングの場合、から始まって細かい規定がある。

もう面倒くさいから細かく書きませんが、
・DVDやBDの場合は1曲1分(5分ではないのに注意)あたり800円の基本利用料、加えて1曲1分ごとに、総再生時間中に曲が利用されている時間(分)の4.5%を税抜価格に掛けた金額と1円80銭の多い額を掛けたものをパッケージ1本ごとに払う。切上の適用タイミングに注意。超適当な計算で、120分中12曲流れていたら基本料金が9600円、加えてパッケージ1本あたり税抜価格3000円なら21.6円(税抜価格から計算した金額より1曲あたり1円80銭のほうが高い)を払う。
・映画の場合は1曲5分以内あたり5万円の基本利用料、加えて1回の上演あたり数百円から1000円強が必要。
・ネットで流す場合。ダウンロード販売なら1本あたり1曲4円40銭、12曲使っていたら52.8円。ストリーミングなら月間収入の2%、ただし月間最低利用金額が5000円。

本当は実際の上演例を当てはめてシミュレーションまでしてみる予定でしたが、いいかげん調べるのも書くのも嫌になったので止めます。わざと分かりにくくしているとしか思えない。結論は、よほど大規模な公演およびパッケージ販売を見込むのでない限り、支払う金額だけを真面目に計算するなら、作曲や演奏までしてもらうよりはJASRAC税を払ったほうが安くなりそうです。ただ、金額もさることながら、これらをいちいち計算して書類を書いて支払ってそのために作業時間を割いたり人を雇ったり・・・という負担が高い。作曲がいくらくらいするものなのかはわかりませんが、録音してもらうか生演奏してもらうかはさておき、作曲してもらって買上げて映像化の利用権も込みで上演段階で契約してしまったほうがよっぽどすっきりします。特に今は撮影した映像をインターネットで流す可能性があるので、それらの権利をすっきりさせるほうが重要なケースが増えてくると想像します。シェイクスピア・カンパニーの上演撮影を日本の映画館で上演するようなケースもありますし。

疲れ果てましたが以上です。

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