オフィスコットーネプロデュース「夜、ナク、鳥」吉祥寺シアター(若干ネタばれあり
<2018年2月21日(水)昼>
看護学校の同期で同じ病院に勤める看護婦4人。彼女らが保険金目当てに共謀してその夫を殺すまでのいろいろについて。
すでに亡くなった大竹野正典の再発掘の一環による上演。2002年に福岡県久留米市で実際に起こった事件を元にした、穏やかな台詞と激しい台詞で交互に揺さぶってくる荒々しい脚本。夫を殺す場面も描いて、2003年の初演初日に拍手ゼロだったというのもうなずける。一般人が芝居に求める内容からすると極北の脚本だけどこういうのも芝居の醍醐味。ただ、よい感じだったけど脚本に呑まれて届ききれなかった印象。
松永玲子演じる看護婦が、友情といいつつ同期の夫に貸した借金を、貸した額以上にでっち上げて同期に保険金での返済を迫っていく。友達思いと患者に献身的な看護婦という職業、夫殺しへの追込みと保険金巻上げ、これらが並存して疑わないという濃い役で、世の中の不公平を自分の欲の正当化に転化する関西弁の台詞でまくし立てるど迫力。この面子なら松永玲子が一番悪い役だろうなと想像していたら、その上を行く悪い役だった。悪い役を悪いまま演じて観る側をそらさない演技はなかなかできるものではなくて、たぶんまっさきにキャスティングしたんだと思われる。
でも不公平を認められないでそんな論理に飛びついてしまうあたり、この看護婦が一番お嬢様育ちの世間知らずで弱い人間だったんじゃないか。そこがラストで松本紀保演じる同期の看護婦に抱きしめてあげたくなると言わせる要素だったんじゃないか。そこを出さずに恐ろしい面やずるい面を強調しすぎるのは片手落ちというか、せめて他のメンバーでもう少し弱い面を、ほんの一歩踏外したせいで悪い面に落ちていったというあたりを補えなかったものか。あとは出てきた男たちが、借金と浮気がひどかったにしろ、殺すのにふんぎるには愛嬌よすぎではなかったか。
松本紀保演じる看護婦が、重病の患者が歩こうとするのを見守って、転んだときに支えられるように腰を落として身構える場面の美しさ。「献身」を絵で表せと言われたらあの場面を撮影して額に入れる。看護婦4人の職業の日常はああいうものだったはずなので、あそこと夫殺しまでの間を結ぶ何かが、歪んだ「友情」というキーワード以外にもほしかった。脚本と演出、どちらに求めるべきものだったんだろう。
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