世田谷パブリックシアター企画制作「岸」シアタートラム(若干ネタばれあり)
<2018年2月28日(水)昼>
生まれてすぐ母を亡くし、父は旅行に出かけたまま帰ってこないため、母の親族に育てられた青年は前衛映画の俳優もやっている。ある晩、父の遺体が見つかったため引取りに来てほしいと連絡が入る。父の遺体を母と同じ墓地に埋葬しようとしたところ、母の親族から大反対される。父の遺品のスーツケースから自分宛に書かれて出されなかった大量の手紙を見つけた青年は、他の人には聞こえない父の声が聞こえるようになる。母と同じ墓地への埋葬を諦めた青年は、亡命してきた父と母の祖国に埋葬しようと遺体と一緒に旅に出る。
「炎」と同じ作者による、レバノンと思しき祖国での旅。不思議な脚本で、死んだ父親や、小さい頃に読んだ物語の主人公が、青年とだけ話せる形で登場するのはまあ演劇っぽい。それが祖国への旅以降、内戦で苦しんだ若者たちが、遺体の埋葬場所を探すのに賛成してだんだん集まって、その途中で親との悲劇を吐露して共有していく過程が、具体的なのに寓話っぽくて、カウンセリングのような展開を辿る。どうやら仲間内で案を出して作者がまとめるスタイルを取っているらしいけど、さすが「炎」と同じ作者による脚本で、その重い現実感とたどり着く果ての感じがさすがで見所多数。合流する若者の一人がアンチゴーヌと呼ばれる場面、国に対抗して個人の筋を全うしたと言いたいのだなというのはこの前観たばかりなのでわかった。
ただちょっと今回は「炎」ほど感心はしなかった。まず演出でいうと、1幕目の冒頭から3分の1くらい、えっ、と思うくらい誰一人として仕上がっていなかった。一人二役以上やっているのだけど、祖国の場面になってから見違えるようになって、ああこっちに注力するために捨てたなというのが透けて見えた。たぶん時間が足りない中での最善の判断を下したのだろうけど、結果だけ観る側としてはいただけない。あと脚本が、長いのはいいけど、ラストの場面はそれまで言えなかった残り全部を詰込んで明らかに長すぎて、さすがにダレた。勝手に切るわけにもいかないだろうけど、ここで終わってしまえという場面が3回くらいあったのは、観ていてつらいものがある。「約束の血4部作」の第1作らしいので、これが洗練されて「炎」につながるんだなという印象。あとスタッフワークはおおむねよかったのだけど、最後に結ぶあの小道具(ネタばれにつき内緒)が突然増えるあたり、こなれていない。全体に時間が足りない状態で洗練させる余裕がなかったんだろうと推測する。
脚本はどうしようもないけど、演出は千秋楽までに育つことを期待。
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