新国立劇場主催「1984」新国立劇場小劇場
<2018年4月30日(日)昼>
世界が3つの国に分かれた世界。主人公の属する国では「ビッグブラザー」による管理が行き届いており、国民の行動と思想を監視してから数十年が経過している。公務員の主人公は「ビッグブラザー」から合わないと判断された人間を過去の記録や写真から抹消していなかったことにするのが仕事である。それが行き過ぎていったい今がいつなのかもわからなくなった主人公は、監視カメラから隠れて禁止された日記をつけ始める。ある日、食堂で職場の女性から偶然を装って手紙を渡される。国に忠実を誓っているように見えた女性が実はそうではないと知り、2人は愛し合うようになる。それが犯罪とされていることを知りながら、監視カメラのない民間人の部屋を借りて2人は逢瀬を重ねていたが・・・。
原作の小説は読んでいて、あの長いディストピア物語のどこを芝居にまとめるのかと思ったら後半重視。若干の希望は足しているけど、観て楽しくなる芝居ではなく、現実が小説を追越したかどうかという今の社会を見つめたい人向けであり、洗練された舞台が好きな人向け。
いろいろなインタビューで「あの長い小説をよくここまでまとめた」ってコメントが多かったけど、小説を読んだ身としてはまとめきれていないという感想。2時間に収めるにはしょうがないけど、今がどんな監視社会なのかを説明する前半がものすごい駆足。職場の女性から手紙をもらうまでや、上層部のオブライエンから声を掛けられるまでや、古道具屋の主人との会話など、対人関係に警戒する様子や警戒せざるを得ない背景を小説では丁寧に語っているところ、そこはだいぶ端折っているので展開が唐突。その代り後半のきつい場面がきっちり入っている。
このきつい芝居がきつい内容に集中して観られるのは洗練された演出とスタッフワークの賜物。映像とライブカメラを組合せた展開や、スムーズに切替わる舞台美術、芝居によって差が出がちな衣装をきっちり押さえている。照明が珍しい印象だったのは客席側からの明かりをほとんどつかわないせいで、あれが舞台側の箱をきっちり形どってシャープな印象を与えるだけでなく、きつい場面で客席を巻込むための布石にもなっている。音響だけ、悲鳴の効果音が嫌だったのだけど、効果を考えると狙い通りか。このくらい丁寧にやらないと成立しないラインを軽々とクリアしているのはさすが新国立劇場の主催公演。
主人公の井上芳雄は熱演。上層部のオブライエン役を大杉漣の代役となった神農直隆が好演していて、M.O.P.で観たことあったかと調べなおす始末。個人的にはともさかりえに一番期待していたのだけど、演出の希望か洗練が行き過ぎていて、もうひと踏張り野性味がほしかった。
いちおうラストで希望が見えるような枠組みに収めていた脚本だけど、人間は非力なものだと観客に思い知らせるところは小説と同じなので、体調を整えてから観に行きましょう。
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