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2018年9月21日 (金)

グループる・ばる「蜜柑とユウウツ」東京芸術劇場シアターイースト

<2018年9月15日(土)夜>

独り暮らしの自宅で頭を打って亡くなった茨木のり子。その自宅に、のり子の甥と編集者がやってくる。亡くなる前に出版を頼みたいと伝えられたが原稿をもらっていない編集者が、相続して私物の整理をしている甥に頼んで調べさせてほしいという。甥も協力的ではあるが自分では見つけられなかったという。ところでのり子は、心残りがあって幽霊として自宅に残っているが、何が心残りだったかを思い出せない。自宅の管理人と称する幽霊が、通りがかりの幽霊を呼込んで、心残りを思い出す手伝いをしている。

初演を見逃したら評判がよかったので観劇。戦争や結婚や同人誌の活動など、茨木のり子の人生のイベントをある程度はなぞっているけど自伝というわけでもなく、と言って詩をたくさん引用して構成するわけでもなく、きちんと生活しつつ詩人としても活動したその心構えを得たり揺らいだりした転機やバックボーンを調べて追いかけて想像してみました、という一本。すごく地味だし、最近の流行りのように反戦の話が挟まったりして、お勧めする場面がほとんど思いつかないのだけど、その割にはあれ、結構よい芝居だったかも? という不思議な舞台。

よい芝居に思えた理由のひとつは、何と言っても主催を差置いての木野花。親友役で出てくるのだけど、これが抜群に格好いい。格好よくない場面がひとつもない。茨木のり子との初対面の場面で芸術家の生き方をやり取りする場面は「お勧めする場面がほとんど思いつかない」この芝居の中で数少ない見せ場のひとつ。あともうひとつの理由は、おそらくマキノノゾミの演出。どこがどうとは言えないけど、舞台全体にある種の統一された雰囲気が満ちていて、これでおそらく2段階くらい質が上がっていた。たまにはこんな芝居もいい。

他の芝居との兼合いでこの回を選んだらアフタートーク付き。制作を司会進行に、マキノノゾミと松金よね子と岡本麗と田岡美也子が登場。思い返してのメモだけど間違っていたらご容赦。

<アフタートークここから>

司会:3人は着替えてから登場なので先にマキノノゾミさん登場です。一度ご一緒したくて、私や3人も含めてライブに押しかけて演出を依頼しました。る・ばるでは依頼したい人に大勢で押しかけてお願いする、ということをよくやっています。
マキノ:親父バンドをやっているのだけど、その宣伝のために「俺の弱みを握りたいやつはライブに来い」と言いふらしているので、そこに押しかけられたら断れない(笑)。
司会:茨木のり子さんのことはどの程度ご存知でしたか。
マキノ:全然知らなかった。演出を依頼されたときはまだ脚本がなかったので、詩集を読んだり、評伝を読んだり、自宅の写真を眺めたり。まだ自宅が残っていて、今回の舞台は実際の自宅を元に作っています。小さいのだけど小奇麗で住みやすそうで、本人がしのばれるような家です。

司会:3人登場です。る・ばるを実際に演出してみた感想はいかがですか。
マキノ:何と言うか、部活みたいな感じで(笑)。基本的なところからいろいろと。
田岡:お菓子を食べていたら「台詞を覚えてから菓子を食え」とか(笑)。
松金:「休憩時間が終わってからトイレに行くな」とか(笑)。
司会:いろいろご迷惑をおかけしました(笑)。る・ばるに初参加していただく方にはどのくらい寄り添っていただけるかがいつも心配なのですが。
マキノ:それはもう寄り添って奉仕しました(笑)。
松金:介護体験のような(笑)。

司会:茨木のり子を取上げた経緯を。
松金:「倚りかからず」という詩集を読んで、そこから他の詩集も読んで、これは芝居にできないかと軽い気持ちで提案しました。ただ主催の3人を全員茨木のり子にするのは難しく。
マキノ:脚本の長田さんがどういう話にすればいいかすごく悩んでいたら、永井さんが「お化けはどう」と提案してくれて、そこから脚本が始まりました。
司会:永井愛さんには度々お世話になっています。
松金:そのときも一緒にお茶を飲んでいたのですが、「お化けにしちゃえばいいじゃん」と言ってくれました。
マキノ:「前世がヤモリ」って(岡本の)台詞は本人が信じている「実話」だから迫真の演技でしたね(笑)。
岡本:私、前世がヤモリなんです(笑)。
マキノ:それを聞いた長田さんは目が点になっていましたけど(笑)、あそこから一気に脚本が進みました。
司会:この脚本を演出してみていかがだったでしょうか。
マキノ:演出するときは「自分が一番この芝居が好きだ」という気構えで演出しますから。いや結構大事なことですよ。

司会:初演と比べて今回の出来はいかがでしょうか。
マキノ:初演より今回のほうが出来はいいです。
司会:初演を観た人はどれくらいいますか(会場半分くらい挙手)。
マキノ:結構いますね。
司会:やはり「今回再演を観て、初演では気がつかなかったよさに気がついた」と言ってくれたお客様がいたのですが、脚本は何も変えていないんですよね。
マキノ:同じです。
司会:出演していた立場からは。
田岡:初演のときは(台詞を)入れて出しただけで終わりました。今回脚本を読んで初めて気がついたことが多いです。
松金:今回は再演の心構えも教わりながら進めました。
マキノ:再演だから前回できたところまではすぐに到達する、そこからどれだけ伸ばせるかが再演の勝負です。若い劇団だと初演のほうが勢いがあって面白かった、となることが多いけど、今回は再演のほうがよかった。
司会:あまりそう言われると初演を観た方に申し訳がないので・・・。
マキノ:初演もよかったけど今回はもっとよかった(笑)。
司会:あまりSNSで拡散しないでくださいね。

司会:最終公演とした経緯を。
松金:フランス映画で「母の身終い」というのを観たら、内容はまったく関係ないのですけど「身終い」という言葉が気に掛かるようになって。今のうちに身終いしたほうがいいと考えて最終公演としました。
岡本:私はこれから終活で(笑)。もうこの芝居が終わったら私生活も身終いで(笑)。
田岡:私は実はまだ続けたかったし、続けられると考えていました。ただそのまま続けて、飽きられて忘れ去られて「まだやっていたの」と言われるくらいなら、この作品で終わりにするのはありだと考え直しました。
司会:期せずしてマキノさんに解散公演の演出を依頼することになってしまいましたが、これで責任感など感じられてしまうと・・・。
マキノ:ない、微塵もない(笑)。みなさん止めることを深刻に考えすぎですね。私は止めることに結構縁があって、自分の劇団も解散していますけど、別に明日から死ぬわけでなし(笑)。る・ばるが解散しても皆さんは役者として続けていかれるのですし。劇団なんてやっていると何年先の公演予定が入って、そこまで病気もできないとか、いろいろ不自由なこともあるでしょう。そもそもきれいに止められる集団なんてほとんどないのだから、こんなに上手に止められるなんてむしろめでたいことですよ(笑)。

司会:この後、年内はツアーを行ないますが、来年になったら何をしますか。
松金:木野花さんを加えて4人でユニットを立上げる?(笑と拍手)
司会:そのときはぜひ私も。
マキノ:木野花さんもねえ。ご自分が演出なさるときは知的でチャーミングな方なんだけど、役者のときはどうして・・・(笑)。
松金:る・ばる化していましたね(笑)。
マキノ:最初にこの仕事を引受けたときは木野花さんがいると聞いて頼みにしていたんだけどねえ(笑)。
司会:る・ばるに参加する方はる・ばる化する傾向にありますね。
マキノ:そういう自分も森に迷って稽古に遅刻しましたけどね(笑)。森で迷うって旅行か(笑)。

<アフタートークここまで>

あんまり書かないでとは言っていたものの、別にそこまで悪い話でなし、こんな弱小ブログでは気にしない。木野花の話で拍手まで起きたのは、やっぱりあの仕上がりのよさを認めた観客が多かったのだと確認。その裏ではいったい何があった。

マキノノゾミは想像していたよりも大きい図体がくねくね動いて、何か近藤良平のように、身体に不思議な色気のあるおっさんだった。ちょっと正確な言葉を失念しましたが「自分が一番この芝居が好きだという気構えで演出する」の下りはいいですね。このアフタートーク一番の収穫です。

<2018年9月24日(月)追記>

東京千秋楽で千秋楽で岡本麗が舞台から転落したとのこと。本家サイトより。

本日、東京芸術劇場シアターイーストにて14時開演の千穐楽におきまして、芝居中盤で出演者の岡本麗が舞台から転落致しました。しばらく様子を見ましたが、早々の再開続行は不可能と判断し、残念ながら公演中止とさせていただきました。
ご来場くださったお客様には、事情をご説明してお詫び申し上げ、その場で可能な限りご返金の対応をさせていただいております。尚、一部プレイガイドにてご購入くださったお客様のみ、後日の手続きということでご連絡先を伺っております。
大方のお客様には対応が完了したかと存じますが、もしもまだお手続きがお済みでない方がいらっしゃいましたら、プリエール 03-5942-9025(土日祝日を除く11時~18時)までお問い合わせください。
※尚ご返金の対象は、本日のご来場が確認できているお客様に限らせていただきます。

岡本は検査の結果鎖骨骨折とのことで、幸いそれ以外に異常はなく、若干の不自由はあるものの今後の地方公演は予定通り上演させていただきます。
さよなら身終い公演の東京公演千穐楽という日に、このような事態になってしまい誠に申し訳ございません。またご来場くださったお客様に振替公演のご提案もできず申し訳ありません。
今回の事態を踏まえ、スタッフ・キャスト一同、改めて作品と向き合って参りたいと存じます。
何卒ご理解賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

舞台手前はもちろん段差があるけど、激しいアクションのある芝居でもなし。舞台中央の階段はあるけど場転で出はけに使わないといけない舞台構造でもなし。そもそも岡本麗は階段を使う場面もほとんどなかったと記憶しているけど、どの場面でどこに落ちたんだろう。

1年前にはシアターウエストで病死からの転落があったし、不謹慎ながらまさかひょっとして茨木のり子の亡くなり方をなぞって身終いかと想像したので、こういっては何だけど骨折止まりで何より。

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