KERA・MAP「修道女たち」下北沢本多劇場
<2018年10月25日(木)夜>
とある国の、主と聖女を崇める宗教の修道院。冬には毎年、この宗教の聖地とされる山荘のある村まで出かけて過ごす習慣に従って、出発の準備をしている。が、半年前のある「事件」のため、47人いた修道女たちの大半が亡くなり4人まで減って、新たに加わった2人を加えた6人しかいない。この宗教を快く思っていない国王に交代してから信者への迫害が続き、出発前から波乱含みだったが、果たして山荘に着くまでも着いてからも相手にされない事態が続く。生き残った修道女の一人と仲のいい村の娘と、その娘を気遣う村の男との世話でかろうじて山荘の生活を開始するが、そこからさらに数々の事件が起こる。
うっかり調べなかったら平日夜には厳しい3時間15分の大作。長い時間をフルに使った表の物語は信仰と罪と宗教と赦しを扱って生きるとは何なのかを描く壮大な一本。裏の物語は声を上げるべきときに上げられない時代の末路を予言的に、「ちょっと、まってください」よりは現実の直接的な連想を抑えるよう狙って描いた一本。張った伏線はきっちり回収するし、悲劇的な背景の中にも少し前のナイロン100℃を思い起こさせるノリで適宜笑いがあって飽きないし、ここ一番ではきっちり締めて、緊張感とクオリティのコントロールは折紙つき。
KERAが下手な役者を連れてくるわけはないし全員いいのは言うまでもないけど、鈴木杏がおいしくもややこしい役を見事にこなして、完全にベテラン女優の域。あとこの中では相対的にそこまで目立たない伊勢志摩の、出すぎず引きすぎずちょうどよいポジションを維持する技量は改めて見直した。今回スタッフワークもいつも以上に方向が揃った印象だったけど、雰囲気にあった音響と、普段の場面にも見栄えよく最後にそう見立てて使うかという美術と、単純ながら効果的な使い方を提供した映像を挙げておく。
今日見た時点では当日引換券をまだ売っているし、後ろや端の席なら当日券でもいけそうなので、ここはひとつ試してみてほしい。ただし繰返すけど3時間15分なので、その都合のつく人に限る。
<2018年10月28日(土)追記>
ひとつ書き忘れていた。今回、公演チラシがA4のものとA3のものと2種類あって、たぶんA3が正式版だと思われるけど、A4のチラシが表面に引用したエドガー・エンデの絵と裏面の修道女の絵、あれは線画というのか何というのか。どちらもものすごいはまっていて、観終わった後になったらなおさらA4チラシのほうがよくできていたと感じる。あれは何でA3のチラシまで作ったんだろう。A4チラシの取っておきたくなる素晴らしさは記録しておきたい。
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