青年団「走りながら眠れ」こまばアゴラ劇場(ネタばれあり)
<2019年2月22日(金)昼>
アナキストとして名を上げていた大杉栄と、婦人解放運動や奔放な恋愛で有名だった伊藤野枝。四男を出産する直前から関東大震災直前までの数ヶ月に、その活動からはあまり想像できない、自宅で交わされる繊細な会話の数々。
夫婦のじゃれあう場面のそこはかとないエロに初期っぽさを感じると思ったら、初演が1992年という超初期の作品。日常の夫婦の会話がただただ続く2人芝居だけど、死にまつわる話や憲兵の尾行の様子などは、間もなく憲兵に殺される史実を知っている現代の観客向けのダミーというか背景を補強する話。それらの間に、少年時代に犬や猫を殺して、長じてアナキストにまでなった男が、子供の将来を気にするいい父親に「堕落」していく様子を、翻訳中のファーブル昆虫記のオサムシの話(メスがオスを共食いする)で代弁させて、当時すでに完成された脚本の腕前を見せてくれる。
青年団歴の長い能島瑞穂と古屋隆太による会話は、実在の人物を題材に取っていることもあってか、台詞以上の密度や年月を感じさせる。あとこの2人は声が聞いていて気持ちいい。今が観ごろの完成形で、たぶん台詞を2回トチっていたけどそれも台詞かもと思わせる安定感。いかにも青年団という芝居で、日程を曲げて観ておいてよかったと満足感で一杯の1本。
<2019年3月3日(日)追記>
感想を書いた後で思いついたけど、これ、結婚して子供が出来たら演劇を止めていく演劇人への当てつけで書いたんじゃないのか。
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