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2019年6月10日 (月)

KERA・MAP「キネマと恋人」世田谷パブリックシアター

<2019年6月8日(土)夜>

昭和初期。勤め先の工場が倒産して失業し酒とギャンブルと浮気におぼれて暴力を振るう夫を持つ女は勤め先に内職を掛け持ちして家計を支える。そんな女の唯一の趣味は映画鑑賞。東京から遠く離れた離島の町に1件しかない映画館では東京から6ヶ月遅れの映画が上映されるが、それも毎日観に来る。ある日、上演中の時代劇を観ていると、映像の中から登場人物に話しかけられる。やがて映像から飛び出してきて映画館が混乱すると、その隙に登場人物は女を連れて脱走する。折りしも、その時代劇の続編を撮影するために、役者陣がその島にロケに来ている。

初演の感想のずれを探るべく初日観劇。覚えている限りでは脚本はほとんど変わっていない。映像も同じ。日時を特定するような台詞はあったっけというのと、教会の場面で少し足されていたかもしれないのと、ウクレレは屋外でなく屋内で弾いていたかな、くらい。あと戻ってこない登場人物を待つ場面の一部が映像から演技に変わっていたけど、見切れを気にしたか。

主役のハル子を演じる緒川たまきが不幸からの多幸感全開できらきらのキレッキレ。妹役のともさかりえが行動力の高い役で絶好調。飛出す登場人物とそれを演じていた役者で二役の妻夫木聡は登場人物側でもうちょっと派手なほうがいいと思うけど、劇中映画では脇役だし、この芝居はハル子が主役なのでそこを食ってもいけなくて、バランスが難しい。どの役者もいいけど、声で役者を選んだ模様。スタッフだといつもながらプロジェクションマッピングも凄いけど、振付も頑張っていた。それを、複数役とダンサーと場転スタッフを兼ねたメンバーの負荷が相当高そうなのに余裕でこなしていたのに気がついたのは今回の発見。

初演より今回のほうが絶対楽しかったのは間違いない。主役の多幸感がある水準を超えられるかがたぶんこの芝居の鍵で、初演をいまいちと感じたのはそこに不足を感じたのだと思う。不足の原因は、主要メンバーがインフルエンザ明けだったからかな。評論家は初日に近い日程で観るはずなので、だとすれば感想のずれも説明がつく。ラストが今回納得できたのは、初演のときはやっぱりこちらが疲れていたからだ。不景気の話が出てくるところだけ、最近の不穏な世情に近くてつらい。

ただ、いくら楽しくても3時間25分が長い。ないほうがいい場面はないけど、だからこそ長く感じる密度の高さ。前半が終わった時点で1本観終わった感があった。初日のためか関係者大勢で、ロビーでも客席でもどうもどうもの会話の合間に「オレステイアよりは短いですからね」って言葉が聞こえたけど、あれは公式4時間20分なので比較対象が間違っている(ちなみに昼にオレステイアに挑戦しようと思ったけど調べたらこちらの初日変則開演時間に間に合わないので諦めた)。たぶん再々演はないから都合がついたらもう1回観てみようかなという気持ちが少しは芽生えたけど、それをためらわせる密度がある。

映像幕を下手寄りに配置する関係か2階下手は最初から売り止めだった模様だけど、1階前方下手端席にも見切れが見つかって別座席への振替が行なわれているので、前売で買った人は世田谷パブリックシアターの公式サイトで確認を。

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