東京成人演劇部「命ギガ長ス」ザ・スズナリ
<2019年7月20日(土)夜>
親の年金で引きこもりの息子を養う、すこし認知症の始まった母。息子は酒を飲み母はパチンコに通う。それをドキュメンタリーとして取材に来た大学生の女性。きちんと映像は撮ったが収まりが良すぎると指導教授に指摘される。そこでわかったことは・・・。
「生きちゃってどうすんだ」以来のスズナリで今回は二人芝居。ボケの始まった親という点で「父」を想像させるけど、こちらは松尾スズキ流の、そんな収まりのいい話ではないという切取り方。扱う話題のタイムリーさ、ネタの混ぜ方、ころがす方向の意外性、あれだけ笑わせて最後にもう1回転がして元に戻るラスト。切れのある表現の台詞も多数。単純に観て笑えるし、よく考えると笑えない、でもたくましいという仕上がり。
相手役で2役を演じた安藤玉恵がまたはまっている。「男女逆転版・痴人の愛」のはじけっぷりを、今回は上手にコントロールして母親役と大学生役をきっちり演じ分け、さらにネタもこなす万能ぶり。楽しんでやっています感に、余裕に見えて結構シビアにがんばっています感が混ざって、「もっとも演劇部のイメージに近い女優」とはこれかと納得した。少し前なら片桐はいりくらいしかできる人が思いつかないような自由感の体現。
ちなみに吹越満が効果音担当で、「不倫探偵」でも試みていた漫画っぽい雰囲気を出すための試行錯誤の結果だと思うけど、贅沢かついかにもな役どころ。パチンコ屋のアナウンスとか面白いけど、効果音がだんだん人の声だということが気にならなくなってくるのが不思議。
狭い劇場で観た分の密度の高さもあるけど、その劇場選択も実力のうちと捉えられる。KERAは「わが闇」を「晩年第一作」と称していたけど、松尾スズキならこの芝居が該当すると言いたい。後期全盛期到来という印象。当日券が厳しそうだから見送ろうと思っていたけど、当日券でも案外いけると書いていてくれていた人に感謝。東京公演が終わってこれからツアーなので上演地域の人たちにはぜひお勧めしたい。こういう芝居が海外公演になるのは喜ばしい。
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