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2019年7月23日 (火)

世田谷パブリックシアター企画制作「チック」シアタートラム(若干ネタばれあり)

<2019年7月20日(土)昼>

父は仕事が上手くいかず浮気、母がアルコール中毒で両親の諍いが絶えないマイクは、学校でも目立たず目だった友達もいない。14歳のとき、同じ学年にチックという男子が転入してきた。特に絡むこともなかったが、夏休み前の最終日にクラスメートの女子の誕生日パーティーに誘われず一緒に帰ることに。その日は母がアルコール中毒のリハビリ施設に出かけ、父が浮気相手と旅行し、2週間は一人ですごすことに。そこへチックが「借りた」車でやってきて出かけようと誘う。なぜか車に乗ってしまったマイクだが、そこからどんどん遠くへ出かけることになるひと夏の物語。

2年前の初演の評判がよくて早くも再演された一本。ドイツの元は児童文学らしいけど、日本語の児童文学という言葉よりはもう少し上の年齢層、小学校高学年から高校生くらいがストライクとみたけど、それより上下の年齢でも十分楽しめる。旅先の出会いと友情、と片付けるにはもったいない物語。面白いだけでなく厳しい要素も入っているのが特徴で、マイクの両親に厳しい設定を当てたり、旅だけで終わらずその後始末まで描くところが今っぽい。

成功の理由はたぶん3つあって、ひとつは役者に恵まれたこと。チック役に柄本時生を当てて、ここに見た目から入れたのは大きい(笑)。終盤、裁判の説明から裁判官の説教に感じ入る場面、あれはよかった。土井ケイトのイザ役もスピンアウトするのがわかる魅力的な役づくり(リーディングまでは手が回らなかったのが残念)。ただ初演組を差置いて一番はまっていたのは今回唯一の初参加となる那須佐代子。今回マイクとチックは専任で、5人のうち他の3人が複数役を演じた中で、アル中の母親の場面は暴れる中にもいろいろな暴れ方を入れて、他の役では遊べるだけ遊んで、最後に何でも放り込む場面がいい。これまで何度か観ているけど、この人はやっぱり只者ではない。

二つ目はおそらく美術。天井のパネルがいろいろ活躍して最後もいいのはわかるけど、下は中央に四角い回転舞台、あとはシアタートラムの素舞台壁沿いにいろんなものを置いていただけ。そもそも多少の傾斜と階段があるだけの舞台を回転させるのは人力。それを回転させて何が変わるのかわからないけどいい感じになるのが不思議。美術がいいのか照明がいいのか迷うことが多いけど、今回は美術の要素が強かったと思う。劇場自体が持つ雰囲気を最大限使い切った引算の美術というべきか。最近よく名前を見かける乘峯雅寛の好調な仕事。

最後に翻訳。後で思い返して翻訳っぽくなかったことに気がついた。演出家本人の翻訳とのこと。元の話がしっかりしていたとはいえ、あれは役者と翻訳とどちらの功績が大きいのかわからない。たぶん翻訳のほうが強いはず。

あと直接関係ないけど、ロビーのポスターがスタンド・バイ・ミーとかハックルベリー・フィンの冒険とか夏の思い出とか、狙っていることに休憩時間に気がついてニヤリとしてしまった。たしか世田谷パブリックシアターはずっとポスターハリスカンパニーがポスター展示をやっていたはず。タイトルだけ知っていて中身のわからないポスターもあったので、誰か有志が解説してくれると嬉しい。

休憩を挟んで2時間45分という長さを感じさせなかった中で残念だったのは、もう少し若いときに観たかったなというのがひとつ。あと年齢層の高い客層でストライク世代が全然いなかったのがもうひとつ。中学生高校生だと部活で夏の大会の直前または真っ最中かもしれないけど、見切れのない舞台で当日券はまだいけたし、U24でチケットほぼ半額になるのでぜひ。もちろん大人でもぜひ。

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