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2019年9月15日 (日)

犬飼勝哉「ノーマル」三鷹市芸術文化センター星のホール

<2019年9月14日(土)昼>

美大に入ったばかりの佐藤ナオ。同姓同名のアイドルは世間をにぎわしている。一緒に展覧会を計画している同級生は親戚に芸術家がいて本人も取材を受けている。自分は普通で面白くないと年の近い叔母にこぼすのが口癖。やがて叔母の紹介で喫茶店でアルバイトを始めるが、やってきた客と展覧会の話をしたら挙動がおかしい。普通ではない。

主人公も自分で言うほど「普通」じゃなさそう、というさわりから始めて、芸能人や茶化されている評論家(モデルいるそうです)のような有名人の話から、近所の景色や他人のスマホを覗くような身近なところまで、人によって意見のわかれそうな「普通」を大小集めた世界。そこにどう見ても普通でない設定を混ぜられるのは小劇場の醍醐味。そうやって、何が普通で何が普通でないか、その境はなにか、じりじり積重ねていった先に急な転結がやってきて、普通であること普通でないことと価値や幸せとの関係はどうなのかを問う見事な展開。

後で振返って何がすごいって、5人の役者で6役、しかもそのうちの1役は前述のネタ要素の多い評論家なので実質5人5役だけのものすごい狭い世界で、2時間を切っている芝居なのに、日常の場所や時間の広さを想像させるように描けていること。実際にあった出来事を含めて、選んでいるネタや設定が、量や提供する順番も含めてものすごく厳選されている証拠。狭い世界を濃く深く描いた芝居はよくあるけど、広く描ける芝居は珍しい。それを具体化した5人の役者もはまっている。改めて公式サイトを見たら青年団に縁のある人が多いけど、演出家の役者を見る目の確かさ。ただ演出部に脚本家を含めて4人クレジットされているけど、いわゆる演出助手か、共同演出か、場面ごとに演出を分担したのか、ドラマターグで入ったのか、演技指導か、ネタ出しか、役割がわからない。

スタッフでは、まあまあ広い劇場を、吊ったテーブルやベンチや小道具を入替えることでアクティングエリアを狭く取って場面転換していく美術が、妙に劇場の雰囲気に似合っていたのもメモしておく。他でもありそうでなかなか見かけない仕上がりが光る、小劇場らしからぬスケールを秘めた、現代会話劇の潮流につながった、モダンな、「ノーマル」の題名にふさわしい1本だった。

ただ見終わって思ったのは、これを発掘してきたMITAKA "Next" Selectionのセンス。これまでそんなに数は観ていないけど、その中ではかなり異色の1本。もちろんここに見事な新作を提供した脚本演出家は第一に褒められるべきだけど、仮に自分が関係者だとして、今回の芝居1本だけを観てオファーできるかというとできない。大胆な展開もあるけど、どちらかといえば「神は細部に宿り給う」類の芝居で、これと同じクオリティが次回も担保されるとは信じきれない。ずっと以前からこの脚本演出家の芝居を何本も観ていたならその守備範囲の広い発掘活動に感服するし、1年前の前作1本だけを観てオファーしたならその度胸に感服する。気になったからこちらを参考に検索したらぴあに連載している企画運営担当者のコメントが見つかった。いつ消えるかわからないので引用しておく。

この企画を始める時から、その段階での集客数や、劇団としての継続年数などは一切気にせず、脚本や演出力に優れ、独自のオリジナリティを持っていて今後が楽しみだなと思える劇団を招致することだけを考えて実施してきました。あと「今年のテーマは」というようなことも全く考えてないので(同一年度の)招聘劇団に共通項を持たそうと思ったことも無いですし、会話劇主体の劇団からコンテンポラリーダンスまで、ジャンルにも全く拘っていません。そして、招聘する以上、どの劇団にも同じ敬意を持ってと思っているので、「今年の3劇団の中から、一等賞には100万円」というようなコンテスト形式にはしたくなかったですし、レセプションやパーティなども実施せず、とにかく作品で勝負してもらって、良い舞台を作り上げてもらえたらと思ってきました。先にも書きましたが、その時点での集客数を全く気にしていないので、招聘する際に「今、何人くらいの集客数ですか?」という質問に「150人くらいです」とお答えいただいた劇団もありました。けれども近年は、全ての劇団に「2週間公演しましょう」と言って交渉を進めます。三鷹市芸術文化センター星のホールは、割と簡単に客席が真っ平らになりますので、空間の使い方の自由度が高いという利点を生かして、「1ステージ30人でも寂しくないし、もしお客さんが増えて100人来てくださっても対応できる」ような舞台と客席作りになればと、相談したりしています。そして、舞台が評判となって、後半にお客様が増えるということを強く願っての「2週間公演しましょう」となります。木曜日や金曜日が初日で、日曜日が千穐楽だったりすると「面白いらしいね」と評判になっている頃には舞台が終わっているということが多くて、もったいないなと。だから、2週間公演すれば、評判になって、後半お客様がたくさん来てくださるという可能性があるかなと、それを願いつつ、とにかく良い舞台を作ってもらえたらとご相談しています。今から10年前の2009年、丁度“Next”Selection 10回目の年に公演していただいた、劇団ままごと『わが星』がまさにそんな感じで、初日二日目までは空席があったのに、千穐楽は当日券が長蛇の列となりまして、後に岸田國士戯曲賞を受賞したほか、再演・再々演においても、お客様に大きなご支持をいただける作品となりました。その「ままごと」のほかにも、その後大きく羽ばたかれた劇団が数多くあり、本当に微力ながら、演劇界の裾野の広がりに少しでも貢献できたなら嬉しくと思いますし、これからも、一歩一歩、丁寧に、実施できたらなと思っています。

公立劇場として民間劇場よりは予算や制作に自由度があるとしても、それを確保して活用するには相応の能力は必要とされるもの。それを維持して20年は並みの業績ではない。思い返せば客入れにも立っていた人で、以前「接待」とか書いてしまった人だった。申し訳ないと今さら謝っておく。

<2019年9月17日(火)追記>

全面修正。

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