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2019年10月31日 (木)

ジョーク集を添削する別役実

デイリーポータルZという老舗ネタサイトの中でも更新されていたらつい見てしまうのはべつやくれいの記事だけど、別役実の娘だと知ったのは内田洋一による「風の評伝」という別役実評伝を読んだから。別役実が満州生まれなのも驚いたけど、よく考えたらまだ今ならぎりぎりそういう人がいる時代なのですよね。この本の中にべつやくれいもちらりと登場するけど、面白い。

その観察眼は「父はたぶん自分のこと、天才だと思ってるよね」と言わしめる。五十歳になったとき「まだ死なないなあ」とすごく残念そうだったのは、天才なら早死にするはずだという気持ちがあったからではないか。家の中では、いつも上の空、クロスワードパズルかなにかをしている。資料のたぐいはあまり買わず、推理小説のようなものばかり読んでいる。家のなかでは面倒くさくない父親なのに、頭のなかでは面倒くさいことばかり考えている・・・。

そのあとに続く「ネット上のサイトでイラストやエッセイを発表している」というのがデイリーポータルZと思われますが、そこに最近掲載されたのが「引っ越しと両親の話」。引っ越しで別役実が取っておきたかった蔵書が売られてしまって、買戻せるものは慌てて買戻した顛末が載っています。そこにジョーク集が混ざっている。

「あのジョーク集はさ、添削してあるんだ」
知っている。父は載っているジョークに赤ペンで添削していたのだ。
大きく書き換えられているものもあれば、「この修正いる?」って思うくらい細かい部分の添削もあった。子どものころは疑問に思ってなかったが、物心ついてからは自分の本じゃないのになんで添削してるの・・・、と思っていた。

「だから、よりおもしろいんだ」
完全にいいことをしたと思ってる発言だった。
父はこういう、常識と違う世界に生きているときがある。

たとえそのジョーク集がより面白くなっていたとしても、古本屋で売るものとしては迷惑だと思うので引き取れてよかった。

たしかに、よいと思った文章を写して勉強をするのは思いつくけど、添削するというのは思いつかない。そこに写真で載っている実例が「銃殺」というジョーク。添削前はこう。

土砂降りのなかを、イアネインとシェイマスは捕らえた地主を銃殺しようと連れだした。
「こんな日に銃殺するなんて、ひどいとは思わんか」と犠牲者は泣き声をあげた。
「おれたちの身にもなってみろ」とシェイマスは憤然と怒鳴った。
「お前は、この土砂降りのなかを帰っていく必要はないんだからいいさ」

これが添削されると最後の台詞がこうなる。

土砂降りのなかを、イアネインとシェイマスは捕らえた地主を銃殺しようと連れだした。
「こんな日に銃殺するなんて、ひどいとは思わんか」と犠牲者は泣き声をあげた。
「おれたちの身にもなってみろ」とシェイマスは憤然と怒鳴った。
「お前はともかく、おれたちはこの土砂降りのなかをもう一度帰ってこなければいけないんだからな」

読むより演じられたほうが面白いジョークだけど、それはさておき添削後のほうが、視点も口調も統一されて笑いどころがつかみやすい。「完全にいいことをしたと思ってる発言」と言っているけど、想像するに、ちょっと手を入れれば面白くなる文章を直さずにはいられなかったのではないか。

そして「風の評伝」はKERAを別役実の継承者とも書いている。「ちょっと、まってください」は別役実の芝居を多分に取り入れた芝居だったそうな。観る人が観るとわかるようなのだけど、私は観てもわからなかった。なぜわからなかったかというと、一度も別役実芝居を観たことがないから。

だから一度くらい別役実を観なければと、先日の「この道はいつか来た道」を候補に入れていたのに、台風で飛んでしまった(正確には、観に行くチャンスはあったけど野田地図を優先させた、です)。あちこちで上演されているけど、うかつな座組で観ると悪い印象を持ちそうで観るチャンスをひそかにうかがって、長年経つ。難しい。観られるのはいつになることやら。

それにしても、べつやくれいの記事は文章も手書きで、この文字が非常に見やすく親しみやすい。私にとっては近藤聡乃と並ぶ二大「フォント希望」作家です。

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コメント

初めまして、ROMとして平日昼休みに訪れている者です。去年か一昨年の別役実のスタンプラリー上演を観に行くくらい好きです。
青山円形でKERA演出『夕空はれて』が最高でした。

叡さん

コメントありがとうございます。「夕空はれて」は青山円形劇場の見納めで観に行こうかと考えて何らかの理由で見損ねたので取上げませんでしたが、「風の評伝」でも「これがなんとも素晴らしい舞台だった」と触れられていました。

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