KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「ドクター・ホフマンのサナトリウム」神奈川芸術劇場ホール
<2019年11月10日(土)夜>
軍に入隊した婚約者と列車で旅行中の女性はうたた寝で見た夢の内容を話しているが、途中駅で止まって食事を買いに降りた婚約者を残して列車が出発してしまい、周囲の乗客が自分の見た夢の続きを話し出す・・・という出だしで始まるカフカの未発表遺稿を見つけた男。祖母はなくなった人形のことを慰めるためにカフカから手紙をもらっていたという。借金で首が回らない男は出版社と交渉しているが、道に迷って遅刻する。なぜか道に迷いやすくなってしまったらしい。
カフカは試しに手にとっても受付けないので全然読んだことがない。なので「カフカズ・ディック」とか「世田谷カフカ」とか、KERAの芝居で観た印象しかない。という前提で、訳のわからないことが起きてはそのまま話が進む、カフカっぽい芝居。大雑把には、渡辺いっけいと大倉孝二がメインの未発表遺稿発見からの話と、多部未華子がメインの遺稿内の話とに分かれて、どちらも不条理な展開が満載。比べると遺稿内の話のほうがより不気味で、それはラスト場面でより鮮明となる。
役者は誰を見ても外れなし。多部未華子もよかったけど、誇張してやっているはずなのに普通に見える渡辺いっけいの演技の謎。そして他の誰よりも格が違うと思わせた麻美れいは、「炎」のときよりさらに思いっきり上下に広い年齢の役をこなして、しかも奥様役の貫禄の圧巻。スタッフワークはもう素晴らしいの一言で、役者がまずいと逆に損するくらいだけど、役者もきっちりそろえてスタッフワークと相乗効果を出せる役者ばかり。
観てそれなりに面白かった。ただ長い。いろいろ不気味さが加速していく後半と比べて前半は間延びした感あり。前半といっても2時間弱とほぼ1本の芝居の長さで、それでまだ前振り段階の感触だったらそれは間延びも感じる。あとラスト。最近のKERAのインタビューや作風からはわからないでもないけど、あのPAはメッセージが強すぎて、この展開には入れてほしくなかった。
あと製作陣の問題ではないけど、この劇場はなんかスカスカして密度が高まりにくい。改装前の東京芸術劇場中劇場(現プレイハウス)を思い出させる。舞台と客席の距離はそんなに遠くないはずだけど、天井が高すぎるのか、客席の椅子が広すぎるのか、舞台のプロセニアムアーチがなくて上が広すぎるのか。
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