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2020年7月19日 (日)

アニメの話と演技の話をつなげる片桐はいりのインタビュー

アニメの話と演技の話をつなげる片桐はいりのインタビュー

【片桐はいり x 森下圭子 x おおすみ正秋】昭和のアニメ 対談 スタート!」という全5回の対談を見つけました。ところどころに入る片桐はいりの演技の話が面白いので、関係個所を引用して紹介です。

第3回。

おおすみ
歌舞伎はね、歌右衛門さんから直接聞いたんだけど、ガラガラ声で怒鳴っても、色気に見えるのが歌舞伎。そういう芸が蓄積されているからこそ、色気に見える。一つの例として教えてくれた歌舞伎の色気の中に、「肘が胴から離れたがらない」という言葉がある。

片桐
え?なんだろう??・・・・あ、わかった。これですね!

おおすみ
手を伸ばすとこうやって肘が離れてしまう。それを離さずちゃんと身体につけてやるとお酌しているときの色気が出るんだって。歌舞伎の演技は、手。胴、腰、全部動きが決まっている。アニメのタイムシートに書き込むがごとく、手だけ、足だけ、今は口だけという風に動いている。他は動かさず、余計なことはやらない。

片桐
そうですね。

おおすみ
普通の芝居はとっさにしゃがんだ時、よろけて足を踏みなおすなんて当たり前じゃない。でも歌舞伎でそんなことしたら首になっちゃう。しゃがむという形を作る場合は、しゃがんだ時それが型になってなくちゃならない。スタンスをとりなおすなんてありえない。

片桐
だからそれは、どの場面をストップモーションで切り取っても静止画として成立するように、切り取っても型になっているところが、歌舞伎や文楽、浄瑠璃の世界で、まさにリミテッドアニメに応用できるんですね。

おおすみ
その通り!日本舞踊は基本的にそうなんですよ。型から型へと繋いで行く。でもダンスはそうじゃない。

片桐
そうなんですよね。ダンスは違う。

おおすみ
バレエのアラベスクなんかは、プロセスが大事。でも日本の芸能はプロセスがあっちゃいけない。  AからBへすぐ行かなくちゃ。演技を日本人はそう捉えてる。日常生活もそういうものとしてやっているから、だから歌舞伎は日本人の動きの原点。すぐにリミテッドアニメーションと結びついちゃう。

片桐
劇的なストップモーションのシーンの集合体だと考えたら、歌舞伎もそうだし、私なんて大衆演劇にかっこいいってしびれちゃうし、どこの動きを見ても決まってる!ってなるんですよ。宝塚もそうかもしれないし、日本人の好きなものってつながっているのかもしれませんね。

おおすみ
日本人と話してる感じしますよ(笑)

片桐
フィンランド代表の日本人である森下さんはどうですか?日本人ですけど(笑)

森下
私、むかし暗黒舞踏というか、舞踏を勉強していたことがあるんです。
ヘルシンキの大学で教えたこともあったりして。

片桐
そうだった(笑)

森下
だから動きに関しては観察して見てる方だと思うんですけど、フィンランド人は自分の「行く先」しか見てない。フィンランドのダンサーは「途中」がないがしろになっていて、次の点のことしか考えてない。だからポーズとポーズはきちんと決まるんだけど、その中間点で写真をとったらカタチになってないんですよね。

第4回より。

おおすみ
片桐さんの前で言うのもなんだけど、日本の俳優はこの10年うまくなったと思う。昔の東映時代の役者と比べたら嘘みたいに違うよ(笑)

片桐
若い人がってことですよね?本当にそうです。

おおすみ
で、何が違ったかというと

片桐
わ、それ聞きたい!

おおすみ
アメリカのメッソド演技(注:モスクワの芸術座リーダー、スタニスラフスキーが提唱している演技理論)のお手本とされる”スタニスラフスキー”っているでしょ。彼が提唱している演技法その①は「自分の感情に忠実に」なんです。今はそれを自然に、役を踏まえた上でリアルにやる役者が出てきている。日本は役者が自然な感情表現をしているにも関わらず、プロデューサーや演出がとにかく役者に泣く芝居をしろと言う。

森下
わはは(笑)

片桐
そうなんです。本当その理由を聞いてみたい。

おおすみ
スタニスラフスキーは、感情を意図的に演じる時はただ一つ、自分の感情を見せつけて人を動かそうとするときだけ、と言っている。

片桐
それは“本当には思ってない”という時ですね。

おおすみ
そう。 自分の感情で動いてるんじゃなくて、「俺は今怒ってるぞ」と相手にみせる。子供に対する親なんてしょっちゅうそうするもんだけど。それもスタニスラフスキーが書いてる。このメソッド演技が定着しているのは、ロシアの次にアメリカなんですよ。だからアメリカの演技はそんなにメソメソしてない。演出意図があればそりゃ、やってみせますけど、ジェームス・ディーンにもマーロン・ブランドにも湿気の芝居はないんです。

片桐
日本における湿気はなんでしょうね?特に最近です。それこそ小津先生の映画でも、女優さんに目薬さしてる写真がいっぱいあるんですよ。ということは、本当に泣け、なんて言ってないんです。それは4Kの映像になって改めてみてみると、そんなにタラーッと涙は流れてなくて、目元でウルッってなってるだけ。

おおすみ
目薬で泣いたことあります?

片桐
ありますあります(笑)

おおすみ
それでね、目薬でもじわっと目頭に涙がたまると、そう言う感情になってくるんです。

片桐
わかります。本当にそう。体が先で感情が後。ごくリアルな実感としてあります。体がある状態になると、自然とそれにふさわしい感情がわいてくるんです。 形ということで言うと、わたしは子供の頃からアニメや人形劇を見て育ってきているから、ある種の表現をする時に、アニメや人形みたいな動きが普通に自分の動きとして入ってきている気がするんです。

おおすみ
あなたそれで、嘘芝居にならないのがすごい(笑)

片桐
まあ実際はアイディアとして、アニメの動きや表現を思い出して使ってみたりするという程度かもしれないですけど。体に染み付いたりしていて。

森下
イメージとしては私もありますよ。自分の気持ちの中だけで髪の毛がブワーってなってるとか。

片桐
そう、そういうアニメの表現をみんな真似していたんですよ。その中で育ってきていると言うのがあるなと。

おおすみ
片桐さんは、監督がそういう方向に持っていったらなんでもできちゃいそうだね。

片桐
こないだのお芝居で、ある台詞だけ全く動かずにやってみたんです。体は動かさず口だけを動かす。あとのシーンはほとんど動いているから、ここぞと思うところだけ絶対動かないというのを、自分だけの楽しみとしてやってみたんですけど、自分にもお客さんにも緊張感が生まれておもしろかった。今思えば、まさにリミテッドアニメですね(笑)

おおすみ
動かないでいると、観る側は次の動きを期待しながら見るからね(笑)子供は亀でもなんでも、急に動かずに止まってしまうとずっと飽きずに延々と見てるでしょ。演技も同じで止まったら気になる。それを見ている人も、その間じっと止まっている。まさに静止画なんだよね。

型の目的や目標のある一面について「どの場面をストップモーションで切り取っても静止画として成立するように、切り取っても型になっている」ってこんなはっきりした説明は初めて読みました。それに「それこそ小津先生の映画でも、女優さんに目薬さしてる写真がいっぱいあるんですよ。ということは、本当に泣け、なんて言ってないんです」も演技のとても大切な部分を説明する名探偵感があります。片桐はいりの言語化能力の高さはすばらしい。

片桐はいりのそういう、メタな視点を感じたのでしょう。第2回でこんなことを言われています。

片桐
私はみんなが頭をひねって、知恵と工夫で出来上がってきたものに、なぜか胸が踊り、よりワクワクするんです。おおすみ監督のアニメに魅せられて、子供心にそういうものが焼きついちゃったから、こういう人間になったのかもしれないですね(笑)。

おおすみ
へえ。

片桐
生まれて初めて観た映画はディズニーの「101匹わんちゃん」なんですけど、やっぱり日常的に観ていたのは夕方の再放送枠のアニメですから。今そういうものが好きで追いかけているのは、この原体験があったからなんじゃないか(笑)、なんて今日の授業を聞いていて思いました。

おおすみ
片桐さんは、映画の監督したことあったっけ?

片桐
いやいやないです。

おおすみ
俳優としての発言というより、非常に監督っぽいよね。

片桐
っぽくないです(笑)監督志向ゼロです(笑)

おおすみ
口説いて一度アニメの監督やらせてみたいよね。

片桐
いやいや無理無理(笑)でもやっぱり、ピクサーやハリウッド映画も面白いんだけど、お金あってなんでもありっていうのが透けて見えると、途端に興味がなくなる(笑)

芝居をこれまで観てきてわかったことのひとつに、役者への評価があります。「いつも安心して観ていられる」のもう何段か上に「どんな芝居でも気になる何かを毎回必ず見せてくれる」という段階があって、片桐はいりはその数少ない一人です。この監督的な視点(芝居なら演出家の視点)と、自分の演技プランと、表現技術と、3つのバランスを調整できて、さらにひそやかな楽しみを見つけ出してこっそり混ぜられる、のが秘訣なんでしょう。

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