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2020年10月11日 (日)

三密を回避する稽古場の最大人数と最低換気条件を試算してみた

人数に対して稽古場が狭すぎた、というエントリーを書きながら、以下を考えました。

・稽古場で消毒や検温をするだけでは不十分で、三密を回避しないといけない
・稽古場で密集、密接を避けるための計算式が作れるはずである
・稽古場の密閉をなくすための換気の計算式が作れるはずである

で、調べました。調べたところ、厚生労働省が「商業施設等における『換気の悪い密閉空間』を改善するための換気について」をまとめていました。今後更新されるかわかりませんが、私がリンクを張って読んだのは2020年3月30日付のものです。このPDF自体は、読んだ印象では、「今の商業施設の換気基準に従っていればある程度は大丈夫」ということを言いたいための資料です。なのでいろいろ苦しいところもありますが、注目は以下です。

2 建築物内の換気による感染症予防の効果に関する文献
(中略)
(2) 国際保健機関(WHO (2009))は、換気基準の根拠として、「結核とはしかの拡散」と「換気回数(部屋の空気がすべて外気と入れ替わる回数。以下同じ。)が毎時2回未満の診察室」の間に関連が見られたとしている(Menzies et al. (2000), Bloch et al.(1985))。
(3) 国内の文献では、豊田(2003)が中学校での結核集団感染において、教室の換気回数が毎時1.6~1.8回と少なかったことを指摘している。また、渡瀬(2010)は、結核の感染リスクと気積の関係を調べ、接触時間が1時間の場合、気積が20m3を下回ると感染のリスクが高まることを示した。国外の文献と矛盾はないが、換気回数に関する定量的な研究は十分でない。
(中略)

7 まとめ
(1) ビル管理法における空気環境の調整に関する基準に適合していれば、必要換気量(一人あたり毎時30m3)を満たすことになり、「換気が悪い空間」には当てはまらないと考えられる。このため、以下のいずれかの措置を講ずることを商業施設等の事業者に推奨すべきである。
なお、「換気の悪い密閉空間」はリスク要因の一つに過ぎず、一人あたりの必要換気量を満たすだけで、感染を確実に予防できるということまで文献等で明らかになっているわけではないことに留意する必要がある。
ア 機械換気(空気調和設備、機械換気設備)による方法
① ビル管理法における特定建築物(※)に該当する商業施設等については、ビル管理法に基づく空気環境の調整に関する基準が満たされていることを確認し、満たされていない場合、換気設備の清掃、整備等の維持管理を適切に行うこと。
② 特定建築物に該当しない商業施設等においても、ビル管理法の考え方に基づく必要換気量(一人あたり毎時30m3)が確保できていることを確認すること。必要換気量が足りない場合は、一部屋あたりの在室人数を減らすことで、一人あたりの必要換気量を確保することも可能であること。
イ 窓の開放による方法
①換気回数を毎時2回以上(30分に一回以上、数分間程度、窓を全開する。)とすること。
②空気の流れを作るため、複数の窓がある場合、二方向の壁の窓を開放すること。窓が一つしかない場合は、ドアを開けること。
※ 特定建築物とは、興行場、百貨店、集会場、遊技場、店舗等の用途に供される延べ床面積が3,000m2以上の建築物等であって、多数の者が使用・利用するものをいう。

十分でないと言われても他に情報はないので、この情報をもとに、試算してみます。

(1)稽古場の人数について

「接触時間が1時間の場合、気積が20m3を下回ると感染のリスクが高まることを示した」の「気積」とは聞きなれませんが、「床面積 x 高さ」のこと、ただし高さ4mを超えたら無視、という計算です(こちらのサイト参考)。

なので、気積が20[m^3]とは
・天井高が4[m]以上ある場所では、床面積5[m^2]
・天井高が4[m]未満の場所では、その分広い床面積
を指します。天井高が十分あれば広い畳で1人当たりだいたい3畳分、天井高が低い場合は空気が籠るからもっと広い場所が必要、ということです。

だから、天井高が4[m]以上の十分な稽古場で、たとえば床面積が80[m^2]だとしたら、80[m^2]÷5[m^2・人]で16人が最大です。もし同じ床面積で天井高が3[m]しかなかったら、4分の3にして12人が最大です。これは役者だけでなく演出家その他も含めての人数です。

これより多い人数の場合は、時間をずらすなどして重ならないようにする必要があります。人数によっては通し稽古はできません。スタッフ総見もできないでしょう。劇場に入ってからになります。

本当はおかれている備品の体積も除いて計算するようですが、話を単純化するために無視します。

(2)稽古場の換気について

これは厚生労働省の資料に「換気回数」と「換気量」とで以下の2種類の記述があります。

・「換気回数(部屋の空気がすべて外気と入れ替わる回数。以下同じ。)が毎時2回未満の診察室」の間に関連が見られたとしている
・中学校での結核集団感染において、教室の換気回数が毎時1.6~1.8回と少なかったことを指摘している

・ビル管理法における空気環境の調整に関する基準に適合していれば、必要換気量(一人あたり毎時30m3)を満たすことになり、「換気が悪い空間」には当てはまらないと考えられる。

調べた結論は、換気回数は感染症対策のための数字、ビル管理法の換気量は人間の二酸化炭素排出量からの数字、という理解です。今回は三密を防ぐことが目的なので、前者を採用します。つまり、換気回数が2回未満では(1.8回でも)少ない、2回転はさせないといけない、外気を1時間に稽古場のサイズの2倍以上入れないといけないものとします。

もし稽古場の床面積が80[m^2]で天井高4[m]なら稽古場のサイズは320[m^3]、天井高3[m]なら240[m^3]、天井高5[m]なら400[m^3]です。気積の考え方では天井高4[m]以上は全部同じ扱いでしたが、あちらは密集と密接を避けるための計算、こちらは密閉を避けるための計算なので、天井高はそのまま反映させます。

この計算だと、ビル管理法よりも必要な換気量が多くなります。ただ芝居の稽古では、商業施設を通常利用する人よりは、平均で運動量も呼吸も多く、大声で話すでしょうから、不当だとも思えません。

もし稽古場が閉鎖空間で、全部空調装置に頼っているのであれば、1時間当たりの換気量(外気導入量であり循環換気分は除く)が稽古場のサイズの2倍、天井高4[m]なら640[m^3]の能力が必要になります。これを満たしているなら稽古中は動かし続ければよし、満たしていないならその稽古場は不適切なので利用不可です。

難しいのが窓を使った換気です。自然換気は「空気の流れを作るため、複数の窓がある場合、二方向の壁の窓を開放すること。窓が一つしかない場合は、ドアを開けること。」とあります。風の量でも変わりますから業務用の扇風機などを置いて風の流れを作ることは必須とします。それでも、窓の換気量をどのように見積もるかが悩みます。

調べたところ「換気計算の1/20」という法規があり、床面積に対して換気口を1/20以上のサイズで設ける必要がある、窓がある場合は窓の面積によって換気口の面積を引けるそうです(こちらのサイト参照)。これによると

必要換気量(m3/h)={居室の床面積(m2) - 20×窓の面積(m2)}×20÷1人あたりの占有面積(m2/人)

という計算式があるそうです。係数の単位がいまいちわからないのですが、窓は面積の20 x 20の400倍が1時間あたりの換気能力として見積もられているように読めます。そうすると、全部自然換気で賄おうとした場合、1[m^2]の窓が2つあってそれを排気に使う(入口は吸気に使うので含めない)とすると、2[m^2] x 400で800[m^3]の換気能力があり、640[m^3]の能力が求められる稽古場に対して、入口と窓を開けっ放しにして扇風機を回し続ければ、条件を満たします。別の表現だと、1時間のうち2割、12分間だけは窓と入口を閉めて稽古できます。

もうひとつ条件があって、「換気回数を毎時2回以上(30分に一回以上、数分間程度、窓を全開する。)とすること」があります。これはもっと換気能力が劣る場合に考慮が必要になって、換気量が1時間に2回転ではなく30分に1回転が求められます。そうなると、先ほどの窓と入口なら、30分のうち6分は閉めて稽古できます。

これは天井高が低いほうが有利になります。同じ窓の面積でも、稽古場のサイズが480[m^3]なら30分のうち12分は閉めて稽古できます。逆に稽古場のサイズが400[m^3]なら閉めておける時間はありません。

ちなみに参照したサイトで説明がありますが、窓の面積はガラス部分ではなく開けられる部分で計算、扉式の場合は角度45度以上なら全開扱い、45度未満の角度なら応分で計算、です。

(3)実現性

稽古場に参加できる人数は、稽古場の広さから自動的に決まります。私が今まで読んだ中で一番大きい稽古場の話は、三谷幸喜の歌舞伎のときに、舟の舞台を実寸で組んで稽古しようとしたら通常の稽古場には入らないから東宝の映画スタジオを借りた、というものです(出所失念)。

換気については、夏に上演していた「赤鬼」は水天宮ピットで稽古したものですが、たしか窓を開けっぱなしにして声や音が外に漏れるけど勘弁してほしいことを近所にお願いしてまわったという話がありました(これも出所失念)。

金と人手があれば、やれます。

(4)劇場への応用

換気能力は十分だと劇場は説明します。結構なことです。では人数はどうか。稽古場の考えを敷衍すればこういう計算もできるという、観客側が気にするときの参考数値です。

・ザ・スズナリの舞台は、間口6.92[m] x 奥行6.25[m] x 高さは一番高いところを取って4.47[m]。気積計算は高さ4[m]超えなので床面積だけで計算できて、8.65人。頑張って9人、10人以上の芝居は密集密接で役者同士でのクラスター発生の可能性が高まる。

・こまばアゴラ劇場の舞台は、通常時で柱を考えないとして、間口7.79[m] x 奥行5.33[m] x 高さ4.6[m]。同様の気積計算で、8.3人。こちらもザ・スズナリと同様。

・紀伊国屋ホールの舞台は、間口9[m] x 奥行6[m] x 高さ6[m]。同様の気積計算で、10.8人。頑張って11人、12人以上の芝居はクラスター発生の可能性が高まる。

客席側にスペースがありますが、それは密閉(換気)に関する余力であって、役者同士の密集、密接とは別です。もちろん、広がったり台詞が少なかったりする芝居なら余力は増えるでしょうし、至近距離で会話する芝居なら2人でも危ないでしょう。役者同士で感染が広がったときに、客席側の感染リスクにどのくらい影響するのかはまだわかっていませんので、こういう計算もしてみます。

楽屋も同様ですが、割愛します。それは上演側が出演人数に対して十分かを判断するところです。

(5)まとめ

これが正しい計算なのかはわかりません。そもそも大もとの情報も正確性が担保されたものではありません。それでも、ピンポイントで絞って調べたら参考になりそうな情報が見つかりました。逆に言うと、私が検索して見つかる情報なのに、なぜ業界関係者がこれまで計算してガイドラインになっていなかったのか。

いいことがないからですね。上演側にとっては制限する方向にしか働きません。公演中のガイドラインは一生懸命作成しないと上演が許可されませんでしたが、稽古場については条件がありません。

自前で稽古場を持って製作もする新国立劇場でも最低限のガイドラインにとどめています。もちろん内部ではそれなりの対策を取っていると期待していますが、わざわざ数値を出して自分たちを追いこむようなことをする動機がありませんし、稽古場が数もサイズもそれなりに確保されているから他の心配をしたほうが対策の実効性があるとも言えます。

それが経済的に厳しい民間の芝居だったら、そんなことを言われても困る。昔からやってきた稽古場のサイズだし、広いところを借りるお金もない。となったら、制限されていない人数や換気を持ち出す理由がありません。

こんな長文をここまで読んでくれた物好きな人は、おそらく業界関係者か超が付く観劇マニアが多いでしょう。なので、そんな制限をされたら費用がかかって公演ができない、大規模な公演が事実上できない、大手だけが生き残って小劇場は死ぬ、それでは文化芸術が、という意見を持つ人が一定数いると想像します。でも、そんな話は後にしましょう。

無観客公演のための稽古なら構いません。でも劇場に足を運ぶ観客として私が知りたいのは、出かけて新型コロナウィルスに感染しないかどうか、それが100%安全である証明はできないとしても相応の対策が取られたものなのか、です。これは表現であり、上演する側も鑑賞する側も命をかけるべきだというなら、そう表明してもらえれば観る側も選択ができて助かります。エンターテインメントであり商売であるなら、観客に対する安全性アナウンスのアピールはもっと積極的に行なってほしいです。

これだけクラスターが出てきたのなら、稽古と稽古場の条件もガイドラインに追加してもいいのではないでしょうか。

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