新型コロナウィルスに対応した東京芸術劇場のインタビュー
私のネット経由の観測範囲だと、東京芸術劇場は数ある国公立劇場の中でも、当時考えられていた対策を取入れながら一番ぎりぎりまで粘って上演を続けていました。人手をかけられたとか、劇場だから劇場機構や導線を把握していたとか、いろいろ理由はあるにしてもです。おそらくあの時点で上演していた公演の中で最大限の対策を取っていた(ことを説明していた)のが2020年3月に東京芸術劇場上演していた玉田企画です。
だから東京芸術劇場は気になっていて、誰か中の人の話を聞いてくれないか思っていたら、ステージナタリーがインタビューを掲載していたのでご紹介です。
肩書は高萩宏が副館長、内藤美奈子が制作担当課長・プロデューサーとありますので、組織図を調べてみます。館長の下に芸術監督の野田秀樹と同格並んでいますので、副館長は劇場実務最高責任者です。制作担当課長は制作者のトップでしょうが、舞台を1本創るときにおそらく事業企画課の下の課と係を通して業務が割振られる形だと想像します。そうすると、制作担当課長は事業企画課のナンバー2くらい、制作実務担当者の中ではトップではないかと想像します。つまり話を聞くに不足はない、ということです。余談ですが、組織上に部がないので課の権限が大きそうですね。そこは役所っぽい。
インタビューに戻りますが、読んだ感想は「えーっ」です。劇場閉館前はもっと情報を集めて有事に備えていた印象でしたが、全然そうではない。逆に言うと、そんな調子でやっていてあの時期にあれだけの対策を用意したスピード感が信じられない。嘘をついているとは言いませんけど、立場上何か言えないことがあるんじゃないかと疑われます。本当にそうなら、組織図上の別の課や係の人たちが事前に動いていたのではないですか。
他に載っている話だと、横のつながりが薄い業界であることを再確認したとか、再開後の「赤鬼」のビニールシートはよかったとは中の人も考えていたんだとか、まあいろいろ載っていますのでご覧ください。
休演前の経緯のところだけ、記録のため引用しておきます。
──「エブリ・ブリリアント・シング」東京公演の後、eyes plusシリーズのてがみ座「燦燦」(2月7日~16日)と烏丸ストロークロック「まほろばの景 2020」(2月16日~23日)が上演されました。
内藤 コロナのことを当然意識はしていたと思いますが、当時はそこまではまだ……。
高萩 その頃はSARS、MERSのときとちょっと似ているなっていうか、「海外は今、SARSみたいなもので相当大変なことになっているけれど、日本国内ではインフルエンザのほうが大変だ」という認識でした。ただ2月26日に催し物の自粛要請が出たときは、かなりびっくりしましたね。そのとき、芸術監督の野田(秀樹)さんはちょうど「One Green Bottle」の海外ツアー中だったんですけど、野田さんは「劇場の灯を消してはいけない」という思いが強い方なので、その時点で野田さんに「もしかすると劇場を止めなきゃいけない事態が起こるかもしれません」と連絡していました。
内藤 芸劇としては、直近で3月2日に「カノン 」の初日を控えていました。貸館公演(編集注:劇場の主催公演ではなく外部主催者に会場として貸している公演)の場合は、主催者それぞれの事情があるので一方的にシャットダウンできませんが、劇場の自主事業はこの状況下で積極的にはやれないだろうという判断になり、「カノン」は全公演中止となりました。
高萩 政府の判断に続き、東京都の意向がはっきり示されたので。
内藤 ただ野田さんは「一度閉じてしまった劇場を開けるのは本当に大変だから、なんとか続けられないか」ということはずっと言っていました。
──「カノン」が中止になったときは非常に衝撃的でしたが、その後どんどん中止公演が増えていきました。
内藤 あの時点で、秋になってもダメージが続くなんて全然思っていませんでしたし、世界中がこんなことになるとも思ってなかったですね。「One Green Bottle」は台湾公演後にニューヨークで上演したのですが、千秋楽の3日後にニューヨークがロックダウンになりました。直前までニューヨークではインフルエンザのほうが騒がれていて、「日本はコロナで大変そうだなあ」と思っていたくらいだったんです。ものすごい勢いで急に世界が閉じていった感じでしたね。
高萩 そんなふうに見通しが立たないまま、目の前のことに対応していたのが2・3月。3月19日からは芸劇eyesで玉田企画が公演予定だったので、玉田企画の稽古場へ行って、「こういう状況なので、劇場を閉じなきゃいけないかもしれない。その場合、劇場として劇場費は返せるけれどそれ以上の補償はできないので、どうしますか」と主宰の玉田(真也)さんに説明して。玉田さん、すごく悩んでいましたね。だから公演を全部やり切ったあとの千秋楽の日のすごくうれしそうな顔は、今でも忘れられないです。そのあと4月1日から公演予定だった温泉ドラゴンの稽古場にも説明に行って、温泉ドラゴンは結局、映像だけ録って公演は中止になりました。
内藤 2・3月はそういった感じで、玉田企画のようにやり抜けた公演もあるし、温泉ドラゴンのように中止になったり、二兎社「立ち止まる人たち」のように公演は中止になったけれど収録映像をYouTubeで無料公開した公演もありました。
高萩 その中で、4月7日に緊急事態宣言が発令されて、「こういうものが出てしまうんだ」とまたびっくりして。
内藤 それまでは政府や東京都から公演自粛を“お願い”されていた状態だったので最終的な決定権はこちらにありましたが、緊急事態宣言が出て以降は強制力が増して、なのにこのまま経済的な補償がない状態が続いていくことにもさすがに疑問を感じ始めたんですよね。
──緊急事態宣言が出たタイミングでは、どのくらい先の公演まで中止・延期の可能性を考えていらっしゃいましたか?
内藤 4月の公演は無理だろうと思っていましたが、4月7日の時点では緊急事態宣言の期間が5月6日までということだったので、5月30日が初日予定の木ノ下歌舞伎「三人吉三」は、なんとかなればやるつもりだったと思います。
高萩 その頃はいろいろと微妙で、3月に中止になった公演を5月にずらしたりっていう調整を続けていましたね。
内藤 そうでしたね。当時、キャンセルになる公演も多く、劇場が空いていたので。
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