野田地図「フェイクスピア」東京芸術劇場プレイハウス
<2021年5月30日(日)昼>
恐山でイタコ見習いを続けて50年、明日の試験で見習いから卒業することを目指すイタコ見習のもとに、珍しく指名が入ったと思ったらダブルブッキング。しかも憑依してほしい死者が客に勝手に憑依する始末。よく見たら片方は高校の同級生。恐山に来た理由を尋ねるうちにもう一人の客が逃げてしまう。
国や自治体の要請と、出演者の体調不良と、両方による公演中止の可能性を考えていたのでスケジュール初期で観劇。休憩なしで2時間5分。言葉遊びで展開を飛ばしていく、いかにも野田秀樹な新作だった。何も考えないで芝居単体に集中すると最後にきれいに締まった芝居で、4回目のカーテンコールでスタンディングオベーション。ただ個人的には、開幕1週間でまだ仕上がっていないというか、熱量不足というか。加えてメタな話を想像すると、うーん、という感想。
先にスタッフワークに触れておくと、ど安定。コロスも含めて衣装が好き。ただ、舞台上を横切る幕を使って早替えするのだけど、間に合っていなくて舞台中央で幕がスローダウンする。あれは幕の長さを倍にしてでも同じ速度で横切ってほしい。幕がワイヤーを伝う音と姿は一定速度を保ってほしい。それと効果音が重なって川平慈英の台詞が聞こえないところはタイミングを打合せてほしい。
で、ネタバレしない範囲で分析。分析というのもおこがましいですね。妄想です。こじらせた客の感想なのであまり気にしないでください。
野田秀樹にしては珍しく、はっきりとしたメッセージを台詞で伝えていました。観れば誰でもわかるし、物語単体としては単純だけど最高の台詞です。ではそのメッセージは、劇中では橋爪功演じる役に向けられていたけど、芝居のメッセージとしては誰に向けられていたか。客ではない、世間でもない、同業者に向けたメッセージだと私は受取りました。不要不急と言われて委縮した同業者に対する、野田秀樹からのメッセージです。そのメッセージのために「あの話」を持ってきて、芝居としてつなげてしまうのが野田秀樹の才能です。
ただ、この1年間、散々「業界」批判をしてきた身としては、先に芝居ではなく素の言葉によるメッセージを野田秀樹に期待したかったです。それを飛ばして芝居によるメッセージを選んだんだ、というのがひとつ。
そしてキャスティング。メッセージを受ける役に橋爪功を置いたのですが、おそらく今回の出演者の中で一番ふてぶてしい、メッセージなんかなくてもどうってことはないという人だと想像します。白石加代子も、ふてぶてしいとはいいませんが、世間の風には追い風も向かい風もあらあなと知っている人だと想像します。
翻ってメッセージを伝える側の高橋一生。丁寧すぎて線が細くなってしまいました。とりあえずもっと声を張ってほしい。そしてメッセージを補強する立場に前田敦子を置いたのは、アイドルとして活躍した経験に加えて「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」と言ってのけた舞台度胸を買ってのことだと想像します。が、これがいまいち効いていませんでした。不慣れな野田芝居のさらに新作でポジションをまだ見つけられていないのか、私生活のごたごたが続いているのか、理由は不明です。
ただこの2名が頑張ったとして、それだけで良くなる感じがしません。全体に絵が共有されていない印象があって、その場合は仕上がり不足。あるいは、出演者たちがそもそもメッセージを信じられていないから弱く見えるのであれば、その場合は熱量不足。いつもだともう少し野田秀樹の出番が多くて、それで台詞のスピードや声量がノってくるのですけど、今回は最初の登場場面までが結構長くて、出番も限られています。それで全体の展開が遅くなったのも一因かと考えます。
こんなこと書きましたけど、よくできた芝居ですよ。繰返しますが、こじらせた客のこじらせた感想なので、あまり信用しないでください。白石加代子と村岡希美はとてもよかったです。
新型コロナウィルス対策メモ。驚くほど簡素。入場口は4列用意。手首検温だけ済ませたら、チケットを見せて自分でもぎり。アルコール消毒は入った後に置いてあるので自分で任意で行なう形。普段は閉めている、入って右側の屋外テラス部分を飲食場所として開放。来場者登録は入って右側にあるも任意。スタッフはマスクとフェイスガード。アナウンスに加えて会話しないでくださいのメッセージボードを持って注意喚起(ただそれでも客席はざわついていた)。最後はエリアを区切っての整列退場。
あと最後に、今回センターブロックは2階席最後方までS席という話を見かけたのですけど、A席がどこだかわかる人がいたら教えてください。観やすいし見切れもないだろうからS席と言われればそんなもんかとも思いますが、それにしたってねえ、ということで。
<2021年5月31日(月)追記>
2日前の公演で白石加代子の台詞がすっぽ抜けていたらしい(ネタバレありブログより)。そういえばカーテンコールではける時に川平慈英がエスコートしていました。今回もっと公演後半で観たほうがいいのかな。
« とりあえず緊急事態宣言期間延長のメモ | トップページ | 学生演劇の危機が起きているかどうか »
コメント